2016 再開祭 | 寝ても 醒めても ~ 내 꿈 꿔 ~・序章

 

 

【 寝ても 醒めても ~ 내 꿈 꿔 ~ 】

 

 

明けたと思えばまた曇る。上がったと思えばまた降り始める。
夏前のこの梅雨時、曇天の鍛錬場を窓から見下ろし息を吐く。
次に晴れ間が続いた時は、流れて減った土を盛らねばならん。

「大護軍」

私室の扉外から掛かる声に振り向く。
押し開けた隙間からチュンソクが一礼して部屋へ入って来た。

「珍しい御客人が」
「誰だ」
「それが・・・」

今日の梅雨空と同じ程曇った顔で、チュンソクは首を傾げた。

 

「・・・ヒド」

迂達赤兵舎の大門脇、今にも泣き出しそうな空を見上げて佇む姿。
碌に面識もないチュンソクが口籠るのも当然だ。

「何故」
「俺が訊きたい」
心底不機嫌そうに戻った声に眸を眇めると、ヒドと俺に挟まれたテマンが何方にともなく遠慮がちに言った。

「大護軍。じ、侍医が」
「侍医が何だ」
「ヒドヒョンと、大護軍と、連れて典医寺に来てほしいって」
「いつ」
「今、です。医仙が、頼んだらしくて」

続いた梅雨で鍛錬場が使えんのは吉か凶か。
使えるならば言下に断り、迂達赤の奴らを鍛錬するものを。
「テマナ」
「はい!」
「チュンソクに伝えて来い。今日の鍛錬は室内でやれと」
「判りました!」
「先に行く」

既に兵舎へ向かって駆け出した背に告げるとテマンは律儀に足を止め、振り返り頭を下げた。
「隊長に伝えたら、俺もすぐ行きます!」

その声に上げた手で応え、視線でヒドを促して、俺は曇り空の大門前をふらりと歩き出した。

 

*****

 

まさかこの道をヒドと二人、肩並べて歩くなど。
想像もしない風景に、どんな顔をして良いかすら判らない。
こうして並べば、もう戻れない昔に帰ったような気になる。
ヒド、ヒドと背を追い、ふざけてじゃれついては鬱陶しがられた赤月隊のあの頃に。

典医寺への道を歩くヒドが嵌めた黒鉄の手甲を逆手の指先で弄びつつゆっくり問う。
「理由は何だ」
「全く判らん」
「・・・ふん」

鼻先で息を吐くヒドにとっては忌まわしい思いしか無かろう。
唯でさえ陽の許に出る事を厭う男が。

最後に皇宮に居たのは。
ふと思い出し眸を閉じる。
無実の罪で隊長が忠恵に刺殺され、赤月隊の皆が一斉に捕縛され、地下の獄にぶち込まれていた時。

「ヒド」
「何だ」
「あの方は知らん。だから平気で呼ぶ」
「知らんとは」
「俺達が昔捕らえられたのも。獄を抜け逃げた事も。隊長の事も俺の口から伝えてはいない」
その告白に、ヒドの横顔の口許に苦い笑みが浮かぶ。

「言う必要はない」
「ヒド、でも」

言わねば幾度でも呼び出されるかもしれん。
訪れたくも無い皇宮に呼び出され、見たくも無い景色を眼に、思い出したくも無い光景を思い出す。
俺があの七年間、宣任殿に立つ度に腸が煮え返ったように。

「言わなかったなら、お主が乗り越えたという事だ。
それで良い。隊長もきっと喜んでいる」
「ヒドは」
「俺にはそもそも無縁の処だからな」

ヒドは低く呟く。聞き慣れた俺ですら逃しそうな程、掠れた声で。
「二度と来る事など無い。此度はテマンに拝み倒されただけだ」
「・・・判った」
「しかし、相も変わらず読めん女人だな」

思わず深く頷くとヒドは何が可笑しいか黒手甲の拳で口許を抑え、その中に小さな笑い声を閉じ込めた。
「お主が同意して良いのか」
「俺にも全く読めん」
「それは難儀だな。離縁でもするか」
「・・・・・・」

思わず足を止めても横のヒドは緩やかな歩を止めず、互いの距離が離れる。
二歩。三歩。四歩まで離れ、ようやくその足が止まる。

其処から棒立ちの俺を振り返り、冷たい程の視線が俺を捉える。
「考える事も判らんのだろう。読めんのだろう。
そんな女人と共に一生居られるのか。居られぬなら離縁でも」
「・・・絶対にせん」

睨み返し吐き捨てた俺を認め、手甲の拳で口元を隠す事すら忘れ、ヒドは不器用な笑みを浮かべる。
「ならば言うな」
「何をだ」
「判らぬ、読めぬと言うな。周囲の全員が言っても絶対に言うな。
お主だけはとことん考えてやれ、ヨンア」

そう言うと何も無かったように背を向け、知らぬ筈の道を俺を置き去りに歩き始める。
慌ててその背に駆け寄る。
内功遣いだ。他者のように軽功で簡単に距離は縮まらない。
涼しい顔をしながらも、どうやら内気は開いている。

その脇に追い付いて、俺とほぼ同じ高さの横顔に声を掛ける。
「なあ、ヒド」
「何だ」
「何でこんなに振り回されてるんだろう、俺達」

問いが可笑しくて堪らんというように、ヒドは横を歩くこの頭に手甲の掌を置いた。
「お主が判らん事を、他人の俺が判る訳が無かろう」

 

 

 

 

ヒドヒョンにヤキモチを焼き、子どものように拗ねるヨンのお話が読みたいです。
(さとっちさま)

 

 

8 件のコメント

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    やいてもらいましょう。
    フフフ
    ヒョンは 何でも お見通し?
    ポーカーフェイスで ニャリとされると
    さすがの ヨンも 焦るのかしら?
    ウンスはまったく 気にしないと思うけどね。

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    ヒドヒョン登場!!
    なぜか、これだけでもワクワクして嬉しい♪♪
    ヒドヒョンも、頼れる男って感じなので、この後ウンスとヨンにどうからみ、ヨンがどんな悋気をするのか…、楽しみです♪♪♪

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    ヒドのイメ画を見て、今まで横顔だとピンと来なかったのですが、チャン・ヒョク樣かしら?それともホゲことカン・テヨン樣かしら?(//∇//)
    どちらにしろ、二人とも大人の色気満載で(///ω///)♪
    楽しみ❤❤❤

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    さらんさん、こんにちは!
    新章ありがとうございます。
    ヒドだって忌々しい気持ちが無いわけではないと思うけど、ウンスに弱いのはこの人も同じかな*(\´∀`\)*:
    弟同然のヨンが愛する妻だもね。
    どんな事があっても離縁はしないでしょう( ´艸`)
    簡単にそれが出来る相手ならこれ程追い求めなかっただろうし♪
    しかし王宮に呼び立てるとは!!
    何が始まるのか~!
    ヤキモチヨン楽しみ~!

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    嬉しいなぁ~~
    大好きなヒドのお話ですね(^^)
    ヨンとヒドの絡みが好きです❤
    素敵な殿方ふたりを
    振り回すウンスさん。
    ウンスは、振り回してるって自覚が無いのが、また難儀な女人ですわ(^^;
    此度のお話は、ヨンが拗ねるんですよね(笑)
    楽しみです~~❤

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    さらん様
    ヒドヒョンとヨンのお話、とても楽しみにしてました♪
    手のケガもまだよくはなってないですよね。
    それなのに毎日お話を書いて下さって感謝の言葉しかないです。ありがとうございます。
    ヒドヒョンとヨン、ウンスのお話ががどんな展開になるのか、
    とても楽しみです。
    さらんさんのお話が読めて本当に幸せです♡♡♡

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    幾つになっても…
    歳の離れた兄弟が頼ると( -_・)?
    やる事、なす事に仕方がないとに振り替えられずには居れず…
    かといって全てを背負って遣っては為に成らず…苦言を落とす。(–;)
    それでも困っておれば、宥めてしまう。
    幾つになっても、ほおって措けない。者。(・_・;

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    いつも楽しく読まさせていただいてます。
    お話の中で特にヒドヒョンが大好きで、リクエストであった時から楽しみに待ってました。今回はどんな感じになるのかすごく楽しみです。

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