2016 再開祭 | 寝ても 醒めても ~ 내 꿈 꿔 ~・中篇

 

 

「ですから、ウンス殿には暫く鍼に集中して頂かねばならぬのです。
しかしお教えしようにも、どうお伝えすれば良いものか」
「お前はどう覚えた」

女人が消えた部屋の中。
暗くなったように思うのは、窓外の空の雲が一段と厚くなったせいか。

ヨンは苛立つ声を抑えようともせず、医官に向けて突き放すように吐き捨てる。
「鍼灸の基本は元で学びました」
「同じように教えてやれ。医の道は俺ではどうにも出来ん」
「チェ・ヨン殿」

医官は首を振ると、諦めたような息を長く吐く。
「鍼は打つ側打たれる側とも、全幅の信頼を置いていないと。慣れるまでは特に大切な事です。
私はそう習いました。ウンス殿が全幅の信頼を置く。チェ・ヨン殿以外居ないでしょう」

ヨンが無言のままで椅子を立つ。
その眸を見れば何を考えたかなど一目瞭然。

しかしこのひと癖ありそうな医官、大きな穴を見落としている。
此方については碌に知らぬようだから詮無いとは云え。

俺は奴の横、未だ椅子に腰掛けたままでヨンではなく、卓向かいの男を見た。
「医官」

顎を下げ半眼のままの俺の呼び掛けに視線を合わせようと、医官が此方を見る。
「はい、ヒド殿」
「此処まで俺達を動かした」
「・・・言い訳は致しません」
「聞く気はない。俺を真昼間に駆り出した代償は高いぞ。一肌脱いでもらう。
何しろ経絡には詳しいが」

椅子から立ちあがると、俺は息を吐き懐手を抜いた。
「今此処で鍼を持っておるのは、医官だけだからな」
それだけ吐き捨て、先刻テマンと女人が抜けた裏扉へ近づく。
ヨンも医官も俺を眼で追いながら立ち尽くしている。

「・・・ヒド」
「案内しろ。女人の部屋など俺は知らん」
「ヒド殿」
「医官、お前が来ねば話にならんだろうが」

俺が動かねば、ヨンはどれ程下手な鍼でも己の体に打たせるだろう。
見逃すわけにはいかん。
俺達の内功。ヨンの雷功と俺の風功ならば、治療に役立つのは雷功。
風など起こした処で、部屋中を荒らすくらいの事しか出来ん。

「早くしろ。さっさと終わらせる」
その声にヨンがようやく俺の脇を抜け、先刻の裏扉を大きく開いた。

 

*****

 

「・・・えーと、ヒドさん」
部屋中央のでかい卓を挟み、この方は目を丸くしてヒドを見た。

「鍼の打てん医官とはな」
「確かに怖いですけど、打てないわけじゃ・・・」
この方の声を一睨みで押さえ、ヒドは卓前に仁王立ちになった。

「郄穴を学んでおるらしいな」
「まずは、経路と点穴を・・・点穴って、要はツボの事ですよね?」
「知るか」

呆れた声で吐き捨てるとヒドは手甲を嵌めた手の指で、己の経絡を辿り始める。
「郄穴が点穴の中で重要視されるのは即効力故。だが寸分違わず捉える必要がある」
「はい。キム先生にも言われてます」
この方はヒドの声に、やけに素直に頷いた。

「郄穴は腕の太陰肺経から足の厥陰肝経までの十二經。
それに奇經八脈の中の四脈にある。合わせて十六」
「え、は、はい」
いきなり始まったヒドの講釈にこの方は目を白黒させる。

「手陰経にあるのが肺経の孔最、心経の陰郄、心包経の郄門。
足陰経には脾経の地機、腎経の水泉、肝経の中都。
手陽経には大腸経の温溜、小腸経の養老、三焦経の会宗。
足陽経には胃経の梁丘、膀胱経の金門、胆経の外丘。
そして陰蹻脈の交信、陰維脈の築賓、陽蹻脈の跗陽、陽維脈の陽交。
どうだ、覚えたか」

郄穴を指し唱えながら、ヒドの眼が最後にこの方を見る。
「・・・ごめんなさい、全く」
「だろうな」

予想していたとばかりに頷き墨染衣の両袖を肩まで捲ると、ヒドはいきなり床に結跏趺坐を組んだ。
「・・・おい、ヒド」
「全く猿回しの猿の気分だ」

そう言って息で笑うと、
「ヨンア、頼んだぞ」
ヒドはそれだけ残し、深く一息吸い込むとその場で調息を始める。
テマンは既に慣れているのだろう。目の前のヒドの調息に合わせ、息を整え始める。
早い。周囲の雑音を全く気にも留めず、ヒドの意識が落ちていく。

だがいつもの運気調息とは違う。
何よりの証に経絡を巡るヒドの気が青白い光になり、墨染衣の下に透け見える。
毒を抑えるでも熱を治めるでも無ければ、これ程に気を放つ必要はない。
まるでこの方に教えるように、最初に強く光ったのは上腕の孔最。

「孔最」
俺が耳元で息だけで囁くと、この方が驚いた様子で頷いた。
「見ていて下さい。深さも、場所も」
「・・・うん」
陰郄、郄門。足へと降りて地機、水泉、中都。
一旦丹田へ戻った気を次に温溜、養老、会宗、そして梁丘、金門。
外丘を通って交信、築賓、跗陽、陽交。

先刻この方に教えた通りに十六の郄穴が順に青白く光る。
最後に息を吐き切ると、ヒドは静かに目を開けた。

「覚えたか」
「え」
「覚えたかと聞いている」
「ええと、1回じゃ無理です。ごめんなさい」
「・・・ヨンア」
ヒドはもうこの方を見もせずに、俺に向けて低く尋ねた。

「何だ」
「これは本当に天の医官なのか。それとも唯の愚かな女か」

 

 

 

 

4 件のコメント

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    ヒドさん~
    格好いいですわ❤
    でも…ウンスに一度で覚えろ?は、
    ちょっと無理ですよね(^_^;)
    さぁ~ヨンはどうするのかなぁ?
    さらんさん❤
    ギプス外せましたか?
    リハビリ頑張ってくださいね❤

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    今日は。HNと言います、毎日お話し待ちわびて楽しく読ませて頂いてます!ギプスははずれましたか?どんな病も傷もその人にとっては大変な事です(私ま目の病気)、お体大切にして下さいね。

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    ヒドヒョ~ン
    そんなこと言っても
    無理よ~ いっぺんに…
    すごいもの見せてもらえたし
    人間蛍??
    気の流れが 一目瞭然ね
    のみ込みが悪いなんて 言わないで~
    真剣だからこそ じっくり 確実に
    覚えなきゃ!

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    さらんさん、おはヨンございます!
    ヒドヒョン、体を使って示してくれてるんですねー!
    すごーい!そんな事にも使える調息!!
    ウンスだからそんな事までしてあげるんだろうけど。
    でも一回見ただけじゃね?
    いくらウンスが頭も良い天の医官と言っても覚えられませんよねw

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