2016 再開祭 | 逢瀬・壱

 

 

【 逢瀬 】

 

 

ついこの間までの窓外の風景は、見渡す限りの白銀だった。
木々は細枝までびっしり凍り、遅い朝陽が照らし出す輝きに温かさなど欠片も無かった。
地に積もった根雪は歩くたびに硬く沓裏を打ち、受け止める柔らかさは微塵も無かった。

そんな窓外の景色が、気付けば変わっていく。

ある朝、寝台の上で目覚めて気付く。
射し込む朝陽の眩しさに眸を細め、この掌で避けながら。

最初に変わる風の匂い。
頬を刺す風がある時温む。その中に確かに花の香がある。

次に変わるのは空の色。
凍てついた蒼天の端が、見上げれば柔らかく滲み始める。

そして陽の光が変わる。
研ぎたての鬼剣の刃のような白い陽射しに淡黄が混じる。

その温んだ風、滲んだ空、淡黄の陽射しが全てを溶かす。
凍る枝も大地の根雪も、音を立て雫を滴らせ溶けていく。

待ち続けた春が訪れる。
長い冬を超え、待ち望んで来た春の勢いは止められない。

朝目にした筈の蕾は、昼には既に大きく花を開いている。
朝芽吹いた若葉は、夕には影の形を変える勢いで伸びる。

ずっと抑えつけ、堪えていたものを全て解き放つように。
長かった暗さも寒さも、まるで全て嘘だったかのように。

私室の窓外、日毎に彩りと温みを増す景色に眸を投げる。
其処に見つけた人影に息を止め、立て掛けた鬼剣を掴み、私室の扉を蹴り開け飛び出した。

 

*****

 

何と言っても、典医寺から遠いのよね。
春になって雪もすっかり溶けたから良いけど。

息を弾ませながら、緑の草を踏んで迂達赤の兵舎へ急ぐ。
真上からの太陽はあったかいし、吹いてる風は気持ちがいい。
見渡す限りの歴史建造物の皇宮は、本当に素晴らしくきれい。

まあ、広すぎて移動が大変っていう弱点は相変わらずだけど。
おまけにあの人、毎日この道を何往復もしてるわけでしょ?
王様との会議や面会、それに出来る限り典医寺に来てくれてるし。
そりゃあ足腰も丈夫になるわよね。いいエクササイズでもある。

私もマネして、なるべく歩くようにしなきゃ。
この時代の服は体のラインを気にしなくても良いけど、だからって太ってOKなわけじゃないもの。

見えてきた迂達赤の大きな門。
入ろうとしたところで、その門の柱の影から急に伸びた手に腕をつかまれて、あっという間に引っ張り込まれる。

表からの視線を遮るみたいに、私を胸に抱きしめたままの黒い着物の襟が目の前にある。
縦に並んだ銀色のスタッズが鼻の頭に触れるくらい近くに。
ああ、だいじょうぶ。この着物の人はよく知ってる。
私の大好きなこの着物。いつだって守ってくれる人。

「武閣氏は何処です」
怒ったみたいなその声だって、今はすっかり聞き慣れてるわ。
怒ってるんじゃなくて、心配してくれてるんだって知ってる。
「驚かせないでよ!」
抗議の声は、そのまま唇ごとふさいだ大きな手の平で遮られる。
「キチョルの一味かと思ったじゃない!」

口を押さえられたままで、どうにか抗議を続けるけど。
私の頭のすぐ真上から、呆れたみたいな溜息と一緒に声がする。
「そう思うなら、何故一人で」
「だって!」
「静かに」
張り上げた声は、その一言で黙殺される。
理由も聞いてくれないわけ?わざわざ典医寺から来たのに?

唇を噛んで黙ると、ふさいでた大きな手の平が外れる。
ようやく息が楽になって、小声で呼びかける。
「ねえ」

こんな近くで見たことなかった。今初めて気が付いたわ。
やっとおとなしくなった私に向けて、あなたの視線が降ってくる。
「何です」
「あのね?」

私が指を伸ばして触ったのに驚いたみたいに、ぴったりくっついたあなたの胸が、ぱっと一歩分離れる。
それでもあきらめずにその着物の襟を追いかけて、逃げないようにぎゅっと握る。
「何ですか!」

叱るみたいにそう言うけど、小声だからいつもの迫力も半減よ。
「あのね、この襟。何でそんなにハトメが並んでるの?飾りなの?
普通ならそれって、ヒモを通す時の生地の補強だと思うんだけど。
ヒモは通さないの?わざわざアクセントのためにつけてるの?
かなりぜいたくじゃない?お金持ちなの?」

この女、いきなり何だ。

まくしたてる私をじっと見つめて、言葉よりよっぽど雄弁なあなたの黒い瞳が言ってる。

 

 

 

 

リクエスト、新話開始です。

 

ヨンとウンスが現代バージョンデイトをお願いいたします❤
(hinamiさま)

 

 

5 件のコメント

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    さらんさん、こんばんは❤️
    新リクのお話始まりましたね♪
    ウンスの気配に目敏いヨン❤️
    扉蹴り当て必死に走る姿が目に浮かぶ♪
    あのハトメの着物好きです\(//∇//)\
    口塞いだり密着したり結構ボディータッチ多いけど、なんだこの女呼ばわりの雄弁な目を見ると、今回のお話はまだ二人が思いを意識する前なのかしら?( ´艸`)

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    ご機嫌 ウンスさん
    いつものように ヨンの元へ~
    一目散
    いつみても 自分を守ってくれる
    いい男だわ~うっとり
    ( ´艸`)
    さてさて どうなりますのやら~
    楽しみです。

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    わ~い、新しいシリーズありがとうございます\(^o^)/
    ウンスさんがヨンさんに服の質問しているところ、「あの服だな」って思っちゃいました(≧∀≦)

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    さらんさん
    リクエストをした後で、くるくるしなもん様のお題と被ってしまったかなぁ?と
    ヒヤヒヤしました(^-^;
    でも、さらんさんからの承諾を頂き嬉しかったです!
    ありがとうございますm(__)m
    お互い意地っ張りで、素直になれない頃の、ヨンとウンスの現代バージョンデートですね❤
    どんなデートが待っているのでしょうか?楽しみです~~(*^^*)

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    「逢瀬・・」
    言葉にすると、優しく温かい響きです。
    早速、ヨンとウンスの甘い様子が伝わってきました。
    ドラマで着ていたヨンのいろいろな着物、どれもヨンに似合っていました。と、言うより、麒麟鎧とは別に、とても素敵でした。
    確かに、あのハトメが並んだ着物、印象深いです。ウンスの目の付けどころがいいですね。
    ヨンと言うと、麒麟鎧と藍色の着物です。
    この後、どんなお話になるのか楽しみにしています。

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