「ねえねえ」
「はい」
典医寺から人目につかぬ裏庭を回り、敢えて皇宮の正門を避け、厩の横門へ向かう。
この方は跳ねるように俺の横を歩みつつ、周囲の春景色を見渡した。
「こんなとこ、初めて歩くわ」
「はい」
「どこ行くの?」
「来れば判ります」
近寄って行く俺に気付き、禁軍の門衛たちが頭を下げる。
「護軍」
「馬を牽きますか」
「いや、徒で出る」
「判りました!」
構えて門への途を塞いでいた門衛の二本の大槍が、重い音を立て左右へ上がる。
「すごーい。顔パス?開けゴマって感じね!」
開かれた門をくぐり、この方は暢気に言って上機嫌で歩き出す。
此方の気も知らずに。
続いて門を抜ける背に、門衛の視線が貼り付いている。
ああ、さぞ珍しかろう。とくと見るが良い。
禁軍は俺の管轄ではない。アン・ジェの部下に手出しは出来ん。
そして恐らくあの禁軍の兵から、アン・ジェに報が飛ぶだろう。
お前の部下には手出しはせんが、知り合いであるお前は別だ。
万一次に面を合わせ、下らぬからかい言葉でも口にしてみろ。
二度と軽口など叩けぬようにしてやる。
*****
「うわあ!」
開京の城下、市の並ぶ真直ぐな大路の入口でこの方の瞳が輝く。
陽の許で行き来する人波に視線を泳がせ、愉し気に頬を緩ませて。
嬉しいならばそれで良い。
侍医の言う通りだ。気分を変えねば腐ってしまう。
ましてやこれだけ気儘な方が、大人しく典医寺の部屋に籠っていて下さった事が驚きだ。
声には出さずとも、俺を思っての事だろう。
二度捕縛された事も、それが理由で仲間を喪った事も、此方には黙ったまま心を痛めていたに違いない。
俺の為に笑い、俺の為に泣く方だから。
そんなご自分を誰にも見せる事すらせず、巧く隠してしまうから。
「ここがメインストリートね?買い物できるとこでしょ?」
「はい」
途端にいつもの調子を取り戻し、天界の言葉で捲し立てる声に頷く。
「私、初めてだわ。高麗でショッピングに出かけるの」
「しょ」
「ああ、買い物の事よ」
そんな明るい笑い声が届くだけで良い。
それだけでこうして外に出た甲斐もある。
「そうでしたか」
「そうよ、だって今までそんな暇もなかったし」
歩を止め、俺を睨むように見上げても良い。
その瞳が怒っていない事は誰より判っている。
「何しろ誰かさんが、全然融通が利かないんだもの。いっつもあれはダメ、これは危ないって。
そう言う自分の方こそ、危ない事ばっかりしてるのに」
そう言われて息を吐く。ならばご自身のして来た事も考えて頂きたい。
皇宮について早々奇轍に啖呵を切るは、俺が動けぬ時に邸へ囚われるは、江華島で奴の手に落ちるは。
徳興君に毒を盛られるは、生死の境を彷徨うは、侍医に助けられ九死に一生を得たと思えば懲りもせず再び奴の処へ乗り込むは。
此方が厳しくなるのも当然だろう。
俺の為に命を懸けて、勝ち目の薄い大博打まで打つ方だ。
何を言おうと判ってくれぬのだから、先回りして眸を光らせ、時には無理に手を掴んで止めるしかなかろうに。
「ねえねえ、一通り見て回ってもいい?」
「はい」
その声に通りを走り出す小さな背の真後ろに付き、続いて人波に紛れこむ。

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さらんさん、おはヨンございます❤️
顔パスww 確かに護軍ですもんね~
まぁ迂達赤隊長だった頃から王宮内は顔パスだろうけど*(\´∀`\)*:
ウンスには新鮮でしょうね!
共に連れ立って王宮外に出た事なんて無かっただろうし!
存分楽しんでください❤️
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どちらも こわいもの知らずさん。
気分転換大事よね~
ヨンには ウィンドウショッピングが
なんで楽しいかなんて わからないだろうけど
いいの それでも。
目を離さないでね。 危ないから
いやいや 好きだから釘付けね。
(๑ơ ₃ ơ)♥
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連れ出した甲斐があったというもの
ウンスはもう 上機嫌
ショッピングに お茶しながらのお饅頭
何より大好きなヨンとのデート
楽しまなくっちゃ!
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ウンス、やっと、皇宮の外に出かけられますね。
ヨンが付き添っているなら、どこへ出かけても安心。と、言うより、ウンスが出かけるときは、たとえ迂達赤や武閣氏がついていても、ヨンは心配で心配でたまらないはず。ウンスを独り占めしたい・・?のですよね。
ヨンにたくさん甘え、楽しい逢瀬をしてきてくださいね。私も、二人の行動が心配(強いヨンがいるのに、どんな?)なので、そっと後ろから(さらんさんが教えてくれるので♪♪)ついていきますよ・・タノシミ♪
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ヨンったら、
敢えて人目を避けて行動してるけど、
相手がウンスですからねぇ‥
さて、どうなることやら?(^-^;
「此方の気も知らずに」
ウンスも同じように思ってるでしょうね(笑)
さらんさん❤
此度も素敵なお話を、
ありがとうございます❤
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このページへのコメ、2回目です。「逢瀬」で書く内容ではないので、さらんさんが先にお読みになり、お気になさったら削除してください。
多分昨日、アメリカのあるオーディションで、シカゴの13歳の少女が、オペラを歌い上げ、会場全ての人がスタンディングオベーションをしました。合格したのでしょうか。金色の紙吹雪の中彼女を祝したバックミュージックは・・
さらんさんの本編「紅蓮・勢」のプロローグで使ってくださった「A Thousand Years」でした。
その少女の歌声に感動し、会場内に流れた曲に感動し、めちゃくちゃ「紅蓮・勢」が思い出されました。
今、ヨンとウンスの「逢瀬」ですが、「紅蓮・勢」のときのメロディーが頭に流れ、「逢瀬」を情熱的に感じてしまいました。イメージは違うのですが、愛し合う(お話では、今はまだ初々しい二人ですね)二人を、めいっぱいに愛しみながら更新されるお話を読んでいこうと思います。
このようなことで、再度のコメ、すみませんでした。