2016 再開祭 | 嘉禎・33

 

 

こんな逃避行じゃなきゃ、カロスキルだって好きよ。
町全体がショッピングの活気に溢れてる。可愛いお店がたくさんある。
有名なカフェのチェーン店からハンドメイドの小物を置いてる個人店まで、1日見てても飽きない。

表通りも裏通りも。メインストリームもアンダーグラウンドも。
高級ではないけど、流行を生みだしてる町って感じがする。
だけどヨンア。今日ここを選んだのは、絶対失敗だった気がするの。

「オッパ!!」

気軽く呼ぶんじゃないわよ!
明らかに私より年下の女の子たちの集団からさり気なく顔をそむけて、お腹の中で毒を吐く。
「奉恩寺オッパでしょ?」
「うそー!本物?!」
「ちょっと、かっこよすぎ!」

あちこちから上がる、そんな黄色い声。
カロスキルの表通りを歩き始めてすぐ挫折して、あなたと2人で急いで裏通りにすべり込む。

「モデルさんですか?」
「そこでファッション誌の撮影してるんですけど」
「さっきSNSでアップされてませんでしたか?」
裏通りでもそんな声が飛んできて、この人は固く唇を噛んだまま鋭い視線で辺りを見回す。

「イムジャ」
「うん」
息が切れた私の手を握って、道の端っこで止まって、心配そうな瞳でこっちを見つめて。
「きりがない」
「確かに」
「何故奴らは追って来るのです」
「あなたが有名人になったからよ」
「有名なのは、父上の金言ではないのですか」
「お父様の言葉も有名なんだけど、それはあなたが有名だからで」
「将軍にはなっておりません」
「そうじゃなくて、あなたがカッコ良くて、写真が拡散しちゃったの。
今回は将軍の偉業じゃなくて、あなたの外見というか、何というか。
つまりえーっと、今の天界ってそういうところなのよ。
何か起きると、目立つことがあると、すぐに知れ渡っちゃうような。分かる?」
「判りません」

あなたはあっさりバッサリ切り捨てる。そうよね。実際私にだって分かんないわよ。
確かにあなたはステキだと思う。自慢の旦那様だわ。
だけど自分の夫が、まさかこんなスピードでネット有名人になるなんて。

SNSの力って怖い。曝される側にはまさに暴力って感じよ。抵抗できずに晒されて。
ネットオルチャンって可愛いけど、実は精神的にものすごいタフじゃなきゃ無理ね。
ましてこの人みたいに、自分の意思とは無関係にネットに引っ張り出されたら最悪。
騒がれて、私生活も吹き飛ぶくらい追い駆けられたら、精神的にどうにかなりそう。

明らかにイラついた私に気が付いたんだろう。
あなたが息を吐くと手をつなぎ直してくれる。
そして唇のはしっこをきゅっとあげて、さっきよりずっとゆっくり歩き出した。

 

逃げるから追うと言うなら、逃げる必要はない。
この方の歩幅に合わせ歩く見知らぬ町。
並ぶ家々も飾られた品々も、全く見慣れぬものばかりだ。

誰より近くで知る筈なのに、横を歩くあなたが違う女人に見えるのは天界の鎧の所為か。
それとも高麗とは違う色の空の下、違う色の陽の許で見つめる所為か。
「イムジャ」
「え?」
「夜まで、宿には戻らぬのですね」
「出来ればね。それともすぐに戻って、もう外には出ないか」

久々の天界だ。行きたい処は多かろう。
「・・・ご両親に、ご連絡は」
訊くべきか、訊かざるべきか。
最後まで迷っていた問いを、静かに舌に乗せてみる。
訊く資格など無いのかもしれん。
俺こそがこの方と御両親を無理矢理引き離した張本人だ。

それでもこの方は、どこまでも明るく笑って首を振る。
「考えたんだけどね。でも、やめとく。会えば淋しくさせるわ。 だって、残るつもりないんだもの」
「せめて文なり」
「うーん。私ねえ」

あなたはそう言って、優しい瞳で俺を見る。
「ここを出る時ね。天界に戻る時、全部もういいって思ったの。
私があなたのところに戻って、あなたと2人で幸せになることが一番の親孝行だなって。
未練がましく迷ったら、帰れない気がするの。だから」

その声は淋しそうでも、悲しそうでも無い。
だからこそ心で泣いている気がするのだ。
見える涙ならこの指で拭ってやれる。
けれど心の涙は見えぬ分、拭うのが難しい。
眸を凝らし、耳を澄ませ、その僅かな気配を感じ取れば抱き締める。そうする事しか出来ん。

「悔いは」
「ないわよ、当然じゃない!」
「・・・判りました」

即座に返るあなたの声に、小さな手を強く握り締める。
この手を二度と一つきりにせぬ事。誰より傍にと何万回でも誓う事。
俺にはそれしかしてやれん。

 

 

 

 

6 件のコメント

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    さらんさん、おはヨンございます❤️
    本当こんなにネットの世界に晒されたらプライベートもあったもんじゃない。
    一般人なのにね。
    いつも誰に見られてて歩いてる人みんながパパラッチですね。
    当たり前だけど、ご両親の事ヨンもずっと引っかかってたんですよね。
    ウンスの気持ちもわかります。
    合ったら後ろ髪引かれちゃうかも
    ヨンを選んだ時点でウンスの中の答えは出てたんでしょうね。
    両親の分もヨンが愛してあげれば大丈夫❤️

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    なんだか 泣いちゃった。
    ヨンの潔さ
    ウンスの決心
    なんか 考えると 切なくなっちゃうわ、
    でも、 二人でいる。この先も…
    それが一番だいじね。
    (。•́ωก̀。)グスン
    旦那さまが 騒がれるほど かっこいいって
    羨ましいけど 奥さんは きがきじゃないねー

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    美丈夫のヨンは、現代でもちょーイケメン(//∇//)
    ここでも自覚ないヨンは、やっぱステキ(//∇//)
    これからのウンスの頑張りが楽しみ(^^)です。
    これが、現代での事件(>.<)恐いわ(>.<)

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    やはり、ヨンは既に有名人に。
    私だって(歳を考えていない)、街でヨンを見かければ、きっと目で追いかける!側に寄り、写真を撮りたくなる!でも、ヨンを囲む女性たちに混じって、撮れそうもないなぁ。周りの女性群より、きっと歳が上なのは間違いなく、ヨンに申し訳なく思いそう(シュン)。横浜では、大丈夫そうだったけれど・・
    ヨンがウンスにかけた言葉「ご両親への、連絡は」。ヨンは、ずっと気にかけてくれているのですね。ウンスの想いも、分かります・・。確かに、余計寂しくなるかも。でも・・。
    確かにヨンは、一生、ウンスの手を離しません。
    次に、どうするのかな。

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    鋭い視線!
    ヨン~それが余計に女心を擽るんですよ~
    ホント罪な男ですねぇ(^-^;
    ウンスの両親の事を聞こうか迷ってたヨン。
    ウンスの気持ちを知って、ますます
    絆が深まりましたね。
    ヨン幸せです❤
    天界でーとをもっと楽しんでくださいね❤

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    嘘も方便・・・。ヨンの足を蹴るシーンを思い出しました。私の好きな場面の一つだったので(^^♪
    そして、ヨンのモテモテぶり、それを理解してないところ・・。本当にわくわくハラハラで、楽しくて続きが待ち遠しです。ここはウンス、頑張れ!!って、応援しちゃいます!(^^)!

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