「・・・天穴が、開きそうだと」
玉座の王様と卓を挟み向き合った康安殿の中。
内官長以外は全て人払いした室内。
ようやく全員が退出してから飛文に御目を通し、王様は息を吐かれる。
康安殿の窓が切り取る、皇庭の春景色。
其処から射す光の中で俺は頷いた。
「は」
「医仙がお戻りになって以来か」
「は」
「と言う事は、二年振りだな」
「は」
「此度もどなたかいらっしゃるのか」
「・・・どうなる事か」
「どう思う、大護軍」
「どうとは」
王様は文を追われた御目を上げ、俺を御覧になると静かに問われる。
「もしも開いたとして、これ以上、天穴を利用して良いのか。
天界の力をお借りして、国を治めるのは正しいのだろうか」
「某には判り兼ねます」
「・・・そうだな」
判らん。それは本当だ。
少なくともあの頃、あの方は幾度も命を狙われた。
下界へ、この高麗へ遣わされた天からの神医として。
この先の世を知る、この世で唯一人の方として。
先を知りたい者、他人を出し抜きたい者、都合が悪ければそれを変えたい者。
そう願う者は、死んだ奇轍だけではあるまい。
高麗が、この方の知る天の書の記録簿通りに進んでいるかどうかは判らない。
俺は訊かず、あの方も言わず。
それで良いと思う。世を変えるのは、そこに生きる者だけだ。
変えるのに先の世の知恵は必要か。
先を知り、其処へ辿り着くよう隙間を埋めて行くような生き方が最善か。
そうは思えん。
先の世は、今ここで俺たちが精一杯生きた、その最後の答であれば良い。
王様とて、今は心よりそう思っておられるのだろう。
あの頃まだ弱かった御立場を固める為、参理に王妃媽媽や医仙の力を借りるよう強要され、情けなく思われた筈だ。
心を得んとあの方を挟んで奇轍と睨みあい、苦しまれた筈だ。
出来れば誰も開いたと知らぬまま、天門には閉じて欲しい。
もう要らぬのではないかと思う。天界の智慧も先の預言も。
但し、それでも其処から誰かがいらっしゃれば話は別だ。
何か意味があり、遣わされたという事もあるだろう。
「王様」
王様と互いに黙したその時、扉脇から遠慮がちな声が掛かる。
王様は御目を上げ声の主、内官長のアン・ドチ殿を見る。
「王妃媽媽と医仙が」
その声の方へ、僅かに瞠られた王様の御目が移る。
内官長をじっと見、そして俺へ向き直られた眉が曇る。
「報せたか、チェ・ヨン」
「いえ」
「そうだな、そんな筈は無い」
そんな時間もつもりも無い。
天門は高麗の聖域、無闇に立ち入り踏み荒らす場所ではない。
そんな事をすれば必ず報いを受ける。あの奇轍のように。
だからこそ今まで兵を置き、守って来た。
だからこそ開く気配有りとの報せを受け、王様にだけ報告に来た。
「如何いたしましょうか」
扉の外、衣擦れの音と共にあの方の気配が濃くなる。
「・・・通せ」
「畏まりました、王様」
その御声を受け内官長が頷くと、扉外へ声を掛けた。
「お通しせよ」
*****
この方が入った途端、康安殿にいきなり色が差すのは何故だろう。
いつでもそうだ。無彩色の墨絵の中に一滴落とした紅。
この方はいつまでも、景色の中に溶け込まない。
いつでも鮮やかに、其処にいるだけで耳目を集めてしまう。
誰より生きている。輝いて。しかし逆もまた然り。
即ち誰よりも標的になりやすい。
目立たず静かに息をひそめて生きるのが最善のこの皇宮で。
今もそうだ。
亜麻色の髪を靡かせ、特別な化粧を施さぬままで美しい顔を輝かせ、
「王様!」
部屋外に控えていた内官によって開かれた扉。
畏れ多くも王妃媽媽と肩を並べるよう、大声で呼びながら踏み込む。
その瞳が椅子を立ち卓脇へ避け、頭を下げ王妃媽媽をお迎えする俺に気付く。
「ヨンアもいたの?じゃあやっぱりほんとなの?」
王様への拝謁の礼儀を弁えて下さらぬのも相変わらずだ。
「王妃、医仙。まずは掛けて下さい」
王様は困り顔で、立ったままの御二人に卓を示す。
高い音を立てて椅子を引き、座ったこの方。
その向かい、音も無く滑るよう腰を掛けられた王妃媽媽が、揃って王様をご覧になる。
この方と王様の間を遮らぬよう脇に立ち、俺は黙ったままで気配を探る。
前置き無しのこの方の言葉を補うよう、王妃媽媽が王様へ静かに問い掛ける。
「王様、天門が開く気配有りというのは真にございますか」
「・・・真だが、何故王妃までがそれを」
王様は驚かれたように王妃媽媽へ頷かれる。
「武閣氏の者が迂達赤の騒ぎを聞いたと、チェ尚宮に報告を」
「そうか」
・・・誰だ。俺の面子を潰し、内々の話を流し、武閣氏へ漏らした奴は。
俺の歯軋りに卓向かいの叔母上だけが気付き、小さく首を振る。
その無表情は変えぬまま、唇だけが 後にしろ と動いた。

SECRET: 0
PASS:
誰かしら…
伝書鳩の伝書ばとしてるのは
もう ダメじゃない。
さて… 今回はどうなるのでしょう
どきどきどき…
SECRET: 0
PASS:
天穴が開いたのね
う~ん 王様の言う通り誰か来るのか…
はたまた誰か天穴に入るのか
王妃さまやウンスまで集まり
何か起こるのかしら?
それよりヨンは迂達赤の失態に\(*`∧´)/ですね
きっと死ぬほどの鍛錬が待ってそう
SECRET: 0
PASS:
世を変えるのは、そこに生きるものだけだ。
さらんさんが紡ぐ一語一語が
心に響きます!
ところで、ヨンの面目を潰した
お喋りさんは、またまたトクマン君?
此度は、膝蹴り、拳骨だけでは
すまないかもですね(^_^;)
SECRET: 0
PASS:
あ~らら。鳩男がいるのね(笑)誰かな?ヨンに〆られるのは(笑)
どうやって天界デートするのかと思ったら天門からなんですね。これもある意味正面突破??
SECRET: 0
PASS:
天穴が開いた!!
誰かが向こうから来るのではなく、高麗からヨンとウンスが行ってしまったらどうしよう(不安)。
以前のお話は、二人が同じ夢を見てソウルで過ごしたような・・? 今回は・・?
でも、あのお話、夢のように(夢だった?)うっとりさせられました。デートするカフェでの二人には、笑えました。ヨンがモテすぎて!!現実に、あんな素敵なヨン=ミノが、ウンスを真剣に護ろうと腕に囲えば、周りから黄色い声はとびますよね(納得)。
でも、夢だったから高麗にいてくれたけれど、今回は・・?
SECRET: 0
PASS:
あちゃー
嘉禎2にコメントしたはずが1にいってました。
ごめんちゃいです。
SECRET: 0
PASS:
さらんさん、こんばんは♪
さてこの後、ヨンの華麗な蹴りを貰うのは誰でしょう?(笑)
【貴音】の熱も冷め止まぬなか、天門が開いてしまい、、、
今から何が起こるのかドキドキです(〃∇〃)
ドキドキし過ぎて胸がイタいです‼︎(笑)
SECRET: 0
PASS:
さらんさん♥
ウンスに関することとなると
感情のネジが外れてしまうヨン。
特に、違う世へと続く天門が
開いたとなれば、
心穏やかではないでしょうし
自分より先に ウンスの耳に
入れた奴がいると知れば…|д゚)。
いつだったか、二人の間で
秘密は持たないと約束して
いましたよね(#^^#)。
ヨンもタイミングをみて
ウンスに教えようとは
思っていたかもしれませんね。
さてさて、ヨンはウンスとともに
天門の様子を見に行くのでしょうか。
明日…、さらんさんのご案内で
私たちもこっそりあとをつけて
参りたいと思います♥
SECRET: 0
PASS:
ヨンは今でも天穴を見張らせていたのですね!!
ヨンは真っ直ぐですね。
『世を変えるのは生きているものだけだ
先の世は今此処で俺たちが精一杯生きたその最後の答えであれば良い』
例え先の歴史を知っていても全ての穴埋めをするように事を運ぶのは難しいと思う。
今を懸命に生きればウンスが生まれた世に繋がる
ヨンはそう信じているんですよね。
二年ぶりに開く理由気になります!
既にその話を知ってる媽媽とウンスにビックリ!武閣氏に話を流したのは迂達赤は誰かしら?
ヨンにボコられるわよ|ω・ิ)ㄘラッ
さらんさんが綴られるお話 毎日幸せを噛み締めながら読ませてもらってます❤️
SECRET: 0
PASS:
>くるくるしなもんさん
こんばんは、コメありがとうございます❤
ほんとにねーだれなんでしょうねー( ゚∀゚)アハハ(棒読み)
蹴り飛ばされてしまうが良い。
ドキドキしつつこの先もヨンで頂ければ嬉しいです
SECRET: 0
PASS:
>yon0716さん
こんばんは、コメありがとうございます❤
本当に、判った時にはまあ・・・連帯責任も生じるかと。
さすがにリクの為、捻る時間はありませんが。
この後もヨンで頂ければ嬉しいです
SECRET: 0
PASS:
>hinamiさん
こんばんは、コメありがとうございます❤
私の趣味は、一章にいっこヨンに「これ!」という男前な
呟きをかまさせる事なのですが、これがなかなか(;´д`)
誰でしょうか。露見した暁には、騒ぎになりそうです・・・
まずはこの後もヨンで頂ければ嬉しいです
SECRET: 0
PASS:
>asako0105さん
こんばんは、コメントありがとうございます❤
さすがに毎回夢オチではど**もんの最終回になるのでw
我が家本編では二度と開く予定の無い天門、スペシャルでは
開きまくっています。うーん。
それだけ天界のお話をヨンで見たいというリクが多いという事ですが・・・
今回はどうなるのか、ヨンで頂ければ嬉しいです
SECRET: 0
PASS:
>1954624さん
こんばんは、コメントありがとうございます❤
いやあ・・・さすがに天界に行かずに天界デートは・・・無理かと・・・
看板に偽りありになってしまいます(;'∀')
どうなるのか、ヨンで頂ければ嬉しいです
SECRET: 0
PASS:
>ようむさん
こんばんは、コメントありがとうございます❤
いえいえ、こちらこそお気遣いありがとうございます。
内容から察しがつきます。けんちゃなよー
SECRET: 0
PASS:
>蒼月さん
こんばんは、コメントありがとうございます❤
胸が痛い程のドキドキは・・・そこまでは無いかもです(*´∀`*)
かるーくヨンで頂けたら嬉しいです
SECRET: 0
PASS:
>muuさん
こんばんは、コメントありがとうございます❤
ヨンが隠し事をする事は無いと思うのですが、逆にウンスオンニは
ヨンを思うがゆえに、隠そうとする事があるのかもしれません。
人生のスタイルの違い、性格の違い・・・というところでしょうか。
まあ小難しいところはさておき、楽しくヨンで頂けたら嬉しいです
SECRET: 0
PASS:
>majuさん
こんばんは、コメントありがとうございます❤
天門は、どう考えても書き手の都合で開くとしか思えず(;'∀')
実際我が家の本編では、これまでもこれからも開く予定は一切なく・・・
その分リクで開きまくりです。皆さま読まれたいのだなあと、
リク祭をする度にしみじみ思います。自信が興味がないからと、考えない事はいけないなあと。
まあ抹香臭い理屈は抜きで、ヨンで頂ければ嬉しいです
SECRET: 0
PASS:
あー読みた~~い。・゜゜(ノД`)