2016 再開祭 | 嘉禎・18

 

 

あの方を小部屋に残し飛び出した、その部屋内を改めて眺める。
先刻は窓外の景色に肝を冷やし、確りと見る事も出来なかった。

部屋の隅、壁に沿って据えられているのは寝台か。
高麗で見て来たどの寝台よりも分厚い布団を敷いた、その寝台に指先で触れる。

寝台を覆う白布は、皺ひとつなく張ってある。
そして頼りない程に薄い掛布団らしきものが掛かっている。

先刻の空が見える、固く透き通った壁。
横には先刻あの方が深々と埋まっていた、体が沈む程柔らかな長椅子が一つ。その前に卓が一つ。

その卓の向こう、壁に四角い真黒の絵が掛かっている。
もう良い。考えても天界の則は判らん。
此処には彩が溢れすぎて、時にこうして黒い絵を愉しむのだろう。

その体が埋まる長椅子へ体を投げ出し、そして弾んだ己に驚く。
ただ柔らかいだけだと信じ込んでいたのに弾む。
掌で座面を押してみる。次に背凭れを、肘掛を。

「ふふー、ヨンア!」
聞こえた声に振り向いた瞬間。
身構えた俺の肩を、何故かこの方の投げつけた白く柔らかな物が掠めた。
長椅子から飛び起き、そして考える。
「・・・何かしましたか」
「え?」
「怒らせる事を」

あの湯気の立ち込めた小部屋から飛び出したからか。
共に湯を使おうとの誘いに何も答えなかったからか。

あのままあそこにいたら、もしも共に湯を使ったら抑えがきかん。
だから飛び出して来ただけだ。
この方は天界で成すべき事がある。そして俺はこの方を護る。
二人で甘い刻を過ごす為、わざわざ天界まで来た訳では無い。

それでも怒ってこの白いものを投げているのか。
其処までこの方を怒らせたのか。
肩を掠めて長椅子へと落ちたその白いものを拾い上げる。

俺なら誰かを痛めつけるのに、この塊は決して使わん。
軽く柔らかく、当たろうと全く痛くない。投げつける意味がない。
「怒ったから投げたんじゃないわよ?」
「は」
「枕投げっていうの。お互いふざけ合うだけよ。親睦を深めるのに。
あなたに当たって痛いものを、ぶつける訳ないじゃない!」

この方は何故か自慢げに言うと寝台の上によじ登り、其処で跳ね始めた。
あれ程跳ねるのは、この方が軽く小さいからなのか。
「ぶつけてごらーん」

飛び跳ねながら言うこの方の、長い髪もふわふわと跳ねる。
「良いわよ、その枕。投げてみて?」
短いこの方の天界の鎧から覗く小さな膝、細い両足から眸を逸らす。
「出来ません」
「構わないってば、枕投げ好きなんだもん」
「出来ません」

例え悪戯でも、どれ程柔らかくとも、この方に何かを投げつけるなど絶対に有り得ん。
頑なに首を振り続ける俺に、この方が寝台の上、新しい白い塊をその手で掴む。
「じゃあ、私が投げるわよ?」
「・・・どうぞ」

避けるなり受け止めるなりは許されよう。
おふざけだと、仕掛ける当人がおっしゃっている。
「行くよー!」

高い声と共に一つ目の白い塊が飛んでくる。
それを軽く半身で避け、寝台へ一歩近づく。
まさか本当に投げてくるとは。
「あらやだ、当たらないわね」

悔し気に呟くと、この方が跳ねるのを止め二つ目の塊を投げてくる。
掌で軽く叩き落とし、寝台へもう一歩。

「此処まで寄れば、幾らあなたでも当てられるでしょう」
挑発するような物言いに、この方の眉がぴくりと上がる。
「いくらあなたでも、ですって?」

先に白い塊を投げて来たのは其方だ。
良いと答えたからとて、まさか本当に投げるとは。
この方は本気になった顔で、その両手に一つずつ白い塊を握る。
「えーい!」

一歩左に踏み出し、飛んできた塊を避けた瞬間。
目測を誤った俺は、既に床に落ちていた白い柔らかい塊の端を踏み付けた。

床の上で滑った柔らかい塊に足を取られ、そのまま無様に横滑る。
受け身を取ろうと体を立て直し着地したのはこの方の真横、白い寝台の箱の上だった。

 

 

 

 

7 件のコメント

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    ( ´艸`)
    キャハハハ 避けてたのに
    どんどん 近づいて…
    いや 何も我慢することないんだもん
    いいじゃない いいじゃな~い
    ウンスのホームでも 頑張らなきゃね(〃∇〃)

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    さらんさん、こんばんは❤️
    抑えがきかないからバスルーム飛び出したのにね。甘い時間過ごしたっていいのになぁ~ でもそんな真面目な所がヨンですねo(*´ヮ`*)o
    明日の朝まで行く所もないと思うけど….
    それともこれからビジネスセンター行くのかしら。枕投げではしゃいじゃって修学旅行みたい( ´艸`)
    おっと着地した所から何が見えたのかな?w
    ま、まさか!? ウンスのスカート中!?(灬º Д º灬)
    我慢した意味なーい(*´罒`*)ニヒヒ♡

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    夫婦になっても、鎧から覗く膝小僧を見るのが恥ずかしい初なヨン❤
    可愛いです~(*^^*)
    暫し王命は忘れて
    ウンスとの甘い刻を
    過ごしても良いですよね❤

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    普段は冷静で男前のヨンさんが慌てて…照れて…もう素晴らし過ぎる~!!
    ウンスとお風呂に入ったりしたらそりゃもぉ抑えも効かなくなるよね(//∇//)
    枕投げの相手もしてくれちゃってさぁ~!!
    あらっ?
    よろめいたけどヨンさん大丈夫?!笑っ
    ベットに倒れて急接近!!
    どうなっちゃう?また慌てて逃げちゃだめヨン♪

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