並んだたくさんのお皿を前に、タウンさんとコムさんが頭を下げた。
「ウンス様。俺達は、今日は」
「えーー!!せっかくだもの、今日くらい一緒に」
「また次に」
それでも引き留めようとする私に、タウンさんが静かに首を振る。
「ウンスさま」
あの人とヒドさんの並んで腰掛ける縁側の背中にさっと視線を向けて
「今日はこれで」
これ以上有無を言わせないように、しっかり目を見つめられてしまう。
この時代、ホームパーティって難しいのかしら。
この家はせっかくこんなに広いし、みんなでワイワイ飲んで騒いで楽しみたいけど・・・なかなかうまくいかないわ。
それとも私に、パーティのホステスとして致命的な欠陥があるとか?
ヒドさんが表に出て来てくれるなんて滅多にないから、みんなと仲良くしてほしいんだけど。
だってここにいるみんなが、あの人の家族みたいなものでしょ?
タウンさんは叔母様を心から慕って、武閣氏を辞めた今だって絶対の忠誠を尽くしてくれる。
その旦那さんのコムさんはもちろん、叔母様にもあの人にもいつも誠心誠意で接してくれる。
一つ屋根の下、2人だって家族みたいなものよ。
そもそも根っから庶民の私には、使用人対雇い主みたいな関係が全然理解が出来ないし。
ましてヒドさん。
詳しくはあの人も教えてくれないけど、すごく大切な存在だっていうのだけはよく分かる。
あの人が手放しで子供みたいに拗ねたり笑ったりするなんて、ヒドさんの前以外じゃ滅多に見られないもの。
大切にしてるテマンをヒドさんの所に出入りさせてるだけでも、あの人がどれだけ信頼してるのかが分かる。
だからみんなで仲良くしたいんだけど・・・
未練がましくタウンさんを見るけど、きっぱり首を振られてしまう。
仕方ないわ。
「今日はあきらめる。でもこの次は、絶対一緒にね!」
力を込めて言うと、タウンさんは優しいオンニの顔で頷いた。
「大護軍、ヒド様。失礼します」
「何かあれば声を」
縁側のあの人たちに声をかけて、タウンさんとコムさんが離れに帰って行く。
夏の夕方。気持ちいい乾いた風が大きく開けっ放しの扉から居間を抜けて、お台所に吹いていく。
その風が揺らす自慢の我が家の庭の木の枝。
静かな葉擦れの音が、庭中に降るように響くヒグラシの声を引き立てる。
心地良さに少しだけ口を閉じて、庭先の大きな2つの背中を眺める。
ああ、あの2人、似てるんだわ。
ヒドさんの方がお兄さんのせいか少しだけがっちりしてるけど。
背格好もほぼ一緒。ってことはヒドさんも、相当背が高いのね。
でもそういう外見だけじゃなく・・・何だろう、顔というよりも、全体の雰囲気が似てる。本物の兄弟ですよって言われても信じそう。
どっちも無口だしね。ぶっきら棒で、すぐ怒るところも。
でも本当はすごく相手を見てるところも。考えてるところも。
お嫁に来た私からすれば、すごく頼れるお義兄さんだわ。
「何だ」
振り返りもしないヒドさんが、庭を向いたままぼそっと呟く。
最初はあの人に言ってるのかと思って黙っていたら。
「何を見てる」
「え?」
「背に穴が開く」
そこでようやく振り向いて、ヒドさんの目が私を見る。
「あ、ああ、あの」
2人がそっくりだから面白くて見てました、とは言えなくて
「ご飯ですよ?食べましょう」
私が言って笑うと、そっくりな背中が同時に縁側から腰を上げた。
*****
「上手にできたと思うんです。参鶏湯。インサム、ナツメにセンガン。マヌルにパム、テパにチャプサル。
私の世界では夏に1度は食べるんですよ、体を温めて熱を出すって。
高麗でも医学を勉強して、以熱治熱っていう同じ考え方だったから驚いたんです」
「そうか」
「こっちも食べて下さいね?ムルキムチ。ヨンアもちゃんと食べてね、上手に漬かってると思う。
大根は消化を助けるのよ、ジアスターゼがたっぷりだから」
「はい」
「でね、こっちはね」
こっちはね?こっちは・・・
「・・・だからちゃんと食べてってば!!」
我慢できなくて居間の食卓に、ぱちんと音を立てて行儀悪く箸を置く。
男性2人が驚いたように、その手に握った盃から唇を離して私を見た。
「今日くらい黙ってようと思ったけど、もう無理!ヨンア!」
「・・・はい」
「ヒドさん!」
「何だ」
「お酒は水分補給にはならないって、2人とも何度言ったら分かってくれるの?
アルコールは利尿作用を高める上に、アルコール分解時に体内の水分を大量に使うんです。
二日酔いの時すっごく咽喉が乾いてる事ない?それはね、アルコール分解時に体内の水分を使ってる証拠なの。
飲むならまずしっかり食べる!だからまずこれ、チャンマの梅酢和えとチヂミ!」
そう言ってビシリとお皿を指さすと、2人がそれを見て頷いた。
「ご飯は参鶏湯、もちろん鶏肉。良質な蛋白質がたっぷりだし!それにチャプチェ、この時代は珍しいはずよ。
でも我が家のチャプチェは野菜もキノコもたっぷりで、繊維質もがっつり豊富なんだからっ!!」
勢いに押されるように、2人が指さしたお皿から次に私を見た。
「最後にデザートのチャメ、カリウムは説明したけど、瓜科は水分が多いの。
体が必要なものを補給できるように、そこまで考えてメニュー組み立てたのに!
さっきから2人とも飲んでばっかり!!」
「イムジャ、それは」
「心配なの。悪い?あなたはまだ良いわ、私がうるさく言って、嫌がられてもしつこくあれこれ口出しできる。
あなたも我慢してウンウンって聞いてくれてる。だけどヒドさん!」
「・・・ああ」
「心配なの!この人のお兄さんだから、私のお義兄さんだから、家族だから元気でいてくれなきゃ困る!!
うるさいだろうけど、面倒だと思うけど、お願いだからちゃんと聞いて!
家族なんていつ、どこでもうるさいもんだから!大切だから口うるさいんだってあきらめて!
嫌いなら、どうでもいいなら放っておきます!」
そこまで言い切って肩で息をすると、目の前のこの人が困ったように笑った。
「・・・だそうだ」
ヒドさんも苦笑いで頷くと、黙ったまま私が指差したチャンマの梅酢和えに箸を伸ばした。
「順まであるのか」
「え?」
「喰う順が」
「あ、あります。ありますけど」
「結局喰えばいいのか」
「食べないよりは、もちろん、良いですけど・・・」
ヒドさんは短冊のチャンマを口にぽいと放り込むと、しゃくしゃく音を立てて噛んで見せる。
「順は、次迄に覚える」
「はい・・・」
「懲り懲りだ」
「す、すみません」
そうよね。家に来てくれてお礼を言うべきなのに、怒鳴るなんてもっての外。
大切なあなたの体面を潰して、お兄さん相手に恥をかかせて。
「口煩い義妹に怒鳴られるのは」
「ヒドさん?」
「弟はすっかり女房の味方だしな」
「当然だ」
「お前らに迷惑がられる程長生きしてやる。精々後悔しろ」
「・・・その頃はきっとヒドさんにもきれいな奥さんがいて、意地でも長生きしてやるって思いますよ?
そうしたら、私が奥さんに長生き料理の秘訣を教えます」
「女房か」
ヒドさんは困ったみたいに眼を逸らして、横に並んだあなたをじっと見つめた。
「御免だ」
「・・・何だよ」
「こ奴のようになるのはな」
「大丈夫ですよ、私が保証します。きっとすてきな奥さんを見つけられますよ?
だって2人、こうして並んでるとそっくりだもの」
「・・・女人」
「はい?」
「それはつまり、自分が”素敵な奥さん”だと言ってるんだぞ」
その声にあなたが我慢できないみたいに吹き出した。
「あ、次はないですよ、ヒドさん」
「イムジャ」
私の声にぎょっとしたように、あなたがせっかくの笑顔を引っ込める。
「だって次は絶対トゥブを出すもの。同じメニューは続けて出さないわよ。つまんないから。
せっかくだから、楽しくいろいろ食べて欲しいしね?次の食べ方の順は、次の時教えてあげます」
自信満々に私が言うと、あなたの目元に優しい笑顔が戻る。
「じゃあ、次は?来週くらいにしましょうか?」
「・・・調子に乗るな」
怒ったみたいな低い声。でも怖くないわ。
だって知ってる、この2人がそっくりなこと。
今ヒドさんは怒ってるんじゃなくて、困ってること。
何回でも口うるさく言う。迷惑がられても家族だから。
あなたの大切な人には絶対元気でいてもらいたいから。
「妹っていうのは、調子に乗るものなんですよ」
「そうらしいな」
「だから次は我が家自慢のトゥブ。絶対早く食べに来て下さいね?来週が駄目なら、再来週くらい?」
ヒドさんはようやく少しだけ笑って、そして本当に小さく小さく、見えないくらい小さく頷いてくれた。
【 2016 再開祭 | 晩餐 ~ Fin ~ 】

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散々しゃべっておいて まだ我慢していたと…
(º ロ º๑)
マシンガンのごとく!
おかげで ヒドヒョンにも
ウンスの気持ちは 伝わったようね。
よかったよかった。
世話焼き 義妹 嫁を探す! だね(๑´ლ`๑)フフ♡
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ヒドさん、口煩い義妹のウンスがいてくれて、うれしいでしょう!?
純粋なウンスは、本気で、ヒドさんを心配してあげているのですよ。
天界語バリバリの栄養談義をして、何とか必死に、栄養バランスの良い食事を摂ってもらいたい…と願っているウンス。
ヨンが、自分の心をさらけ出すことができる男。赤月隊の頃からずっと、自分を可愛がってくれた男。赤月隊は、全員家族…だった。今、残っているのは、ヨンとヒドだけ。
背丈も、雰囲気も、性格も…、似ている二人。
そんなヒドさんを、ウンスが大切に思うのも、ウンスの気性なら当然かな。
内心うれしいヒド…のはず
また近いうちに、ウンスの栄養談義付き食事会に誘われますよ!覚悟して、待っていてくださいね。
義兄さん……
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ヒドヒョン大好きです
ヨンが唯一弟になれる存在の人だから信頼してるんだろうなって感じられて読んでて嬉しいです
以前さらん様が書かれた鎌鼬のお話大好きでした何回も読み返しました
とても暖かいお話なのでいつかアップして下さいね
皆様にも読んで欲しいです
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さらんさんのヒドさん…
(^.^)(-.-)(__)
にいちゃん…です(⌒‐⌒)黙って見て黙って読む
顔…を視て云わせる♪
疑問に思ってもまず云わせる。(゜゜;)
ちゃかし方も、思わず突っ込みを入れちゃうやり方も、にいちゃんです(⌒‐⌒)ねぇ
諦め方も…(・・;)
逃げられない。(;^_^Aよ♪
すがるお手てと…口うるさい妹。
此方の想い等お構い無し!!
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やはり、ヒドさん好き♡
ヨン、ウンスが一番だけど、ヒドさんも限りなく一番にちかい二番かな?
照れ屋でなかなか自分の心の中を見せてはくれないけど、ヨンの兄さん。
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ヒドヒョン 大好き~♪
さらんさま
この度のお話も素敵なお話
ありがとうございました!
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さらんさん❤
ヒドに家族の温もりを
ありがとうございました(*^^*)
此度のお話を読んでいて
以前のリク話しの【蟷螂】を
また読んでみたいなぁ~と
思いました(^^)
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ヒドの性格上人と交わらない生き方をしてきたんだろうなか~
果敢に挑むウンスだからこそ、彼は心を開いた(ウンスてKY だし笑!)かな?
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さらんさん、ヨンさんヒドさん兄弟大好きです(●´ω`●)
ありがとうございます(o^^o)
私、シンイ・ファン歴が短いせいか、ヒドさんて初めてしりました。
ヨンとよく似ているなぁ~と感じましたから、実はウンスみたいな太陽のような女性が好きなのかなって。