走る。
宿屋のあのえれべーたの扉が開いた瞬間に飛び出す。
人が集い始めた大広間。
昨夜小さな体を腕に足早に通り過ぎた広間の、人波を掻い潜り。
何故これ程に行き交う者が多いのだ。
まるで秋夕の開京のようだ。いや、もっと多くの者が溢れている。
走る。
丁度先客の手で開いた、宿屋の扉を擦り抜けて。
大きく道を回りあの馬車の通りに出ようとした時。
植込の影から走って来た女人と勢い良くぶつかる。
ぶつかったその勢いに、女人が弾き飛ばされる。
転ばぬよう咄嗟に差し出した腕に、長い爪が深く喰い込んだ。
「済まぬ」
剥き出しの腕に喰い込んだ爪ごと、静かに払って顎を下げる。
女人は口を開けたまま、謝罪に幾度も頷いた。
「怪我は」
問いに女人は今度は烈しく首を振る。
・・・どうやらトギのよう、声の出ぬ女人にぶつかったらしい。
怪我がないならそれで良い。
呆気に取られたような女人に振り返る事も無く、川のように行き交う通りを駆け抜ける。
周囲の馬車が嫌な軋みを立てながら止まる。
耳を劈くような大きな音が鳴る。
その窓を開け、罵声を飛ばす者も居る。
知った事か。
音も罵声もそのままに、俺は再び走り出す。
あの時和尚様に授けられた言葉の通り。
このまま真直ぐ行けば良い。
仏の御言葉を伝えて下さる貴い教えは、いつでも正しい。
*****
大門より境内に飛び込み、そのまま真直ぐ走り抜ける。
広場に突き当たれば観世音菩薩の左へ回り込み、道なりに。
程無く見えてくる、白石の弥勒菩薩。
天に届く程に大きく見える石像の足許の台座。
門は強い風の中、朝陽の中にもまだ煌々と大きく口を開けている。
天門をこの眸で確かめ、ようやく安堵の息を吐く。
己一人で戻るわけには行かん。
必要以上に近付かぬよう、充分に距離を取る。
そうして見つめる間にも、周囲を人々が通り過ぎる。
誰一人、これ程眩い天門の光に眼をくれる事も無く。
「最悪」
「こんなに風が強いなんて」
「迷惑」
「わざわざ出掛けて来たのに」
「髪が乱れちゃう」
「こんな日を選ぶから」
風の中、切れ切れの愚痴声だけを残しながら。
其処から背後を振り返る。
あの方の待っていて下さる、眩暈がする程高い家。
その整然と並ぶ黒い窓の何処かに、あの方が居る。
必ず戻らねばならん。往路も帰路も必ず共に。
護れ。それが王命だ。
もう一度天門へ眸を戻す。あの方が高麗で言った。
─── 自分の事を考える人ばっかりで、門が開いてるのが見えてないんじゃないかな。
もしかしたら目の前で開いてるのに気が付かないくらい、心も目も曇ってるんじゃないかな。
だから最初から見つける資格、入る資格もないんじゃないかなって。
俺のあの方の声は、こうしていつでも正しい。
時に漠然とした禅問答よりも余程明確だ。
行く道を教えて下さる。そのまま行けと言って下さる。
小さな手、細い指で優しく強くこの手を握って導く。
そしてその道は常に明るく、いつでも武士の本道だ。
だから俺もその手を引いてやる。あなたが迷わぬように。
いつでも医官として明るく、そして本道を歩めるように。
他の事は何も畏れず、真直ぐに道を走って行けるように。
魂の片割れ。運命の女人。その手を二度と離さない。
何処へ行こうと戻ろうと、一人で呼ばせる事は無い。
そこにいる?
呼ばれた気がして走り出す。
此処に居ります。
胸の中、一言だけ呟いて。
人は溢れかえっていた。
聞いた事のない音が、自分勝手な声が出鱈目に彼方此方から響いていた。
そして眩い門の光で気付かなかった。
天門前に佇む俺に向け、幾度も鋭い音と閃光が浴びせられていた事など。

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さらんさん、こんばんは❤️
まだ天門は開いてたのね。 良かった。
俺のあの方❤️久々聞いたけどやっぱりいいですね(//∇//)
ぶつかった女の人の爪食い込んじゃってウンスに後で怒られそう… 何これ!?ってな。
そして最後はなんだか怪しい方向へ?
閃光と鋭い音 またもやスマホ? それともカメラ?
急いで帰るのはいいけど事故らないでよー!!
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な、なんと もしかして
パシャっと 撮られちゃった?
カッコいいから、目を引いちゃうから~
ヤバい ヤバいですよ~
(((( ;°Д°))))
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さらんさん♥
天門に変化が無くて、ホッとしました…。
が、ただでは済まないのですね(-_-;)。
どこでも目立ってしまうヨン、
不躾かつ無遠慮な“写メ”に
狙われてしまったのでしょうか。
写メられたら、次はInstagram?
SNS?
ひゃあ!
あっという間に広まっちゃいます!
広まったら、面倒なことになっちゃいます!
ハラハラのソウルです(;´Д`)。
あああああ~一刻も早くホテルへ
ウンスの元に帰らないと!!
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ヨン。
また信号無視してしまったんですね(^^;
天門前での人だかり?
面倒な事にならなければ良いけど‥
ウンスさん助けに来てあげて――(^-^;
さらんさん❤
明日ヨン時間が待ち遠しいです❤
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ますます、ドキドキが止まらない(>.<)
ヨン、大丈夫かなぁ(>.<)
って、さらんさん、心臓に悪いです~。
ウンス、頑張れo(^o^)oですよね♡
早く、続きが読みたい~♡
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今、めちゃめちゃ心配です。音と閃光・・。
ヨンが初めてソウルに辿り着いたとき、警察や機動隊と闘ってウンスを連れてきてしまったから、もしや・・と、不安です。
スマホで写真を撮るシャッター音や、そのときのフラッシュだったのなら、何とか逃げられますが、警察等が動くと大変なことになりますからね。
どうか、どうか上手く切り抜け、早くウンスの元に帰れますように。