2016 再開祭 | 嘉禎・12

 

 

横の小さな体が平衡を失い、大きく揺れる。
体を反転し、地面へ叩きつけられる前に抱き寄せて庇う。
抱いて膝をついた地の上、胸の中の白い顔が上がる。

「・・・帰れるって、信じてたけど」

半ば茫然と呟くこの方の腕を牽き、固い地の上に立つ。
やはり天門の中でも、風は吹いているのか。
乱れた亜麻色の髪を指先で整え、初めて考える。

「膝、大丈夫だった?アスファルトじゃ痛いでしょ」
腕を牽かれ立ちあがったこの方が髪を整えるこの指を受けながら、俺の膝を覗き込む。
「大事なく」
「じゃあ、後で診るわ。悪いけど急いで行こう」

見上げた夕空の色すら、高麗とは全く違う。
天界の夕空はどこか儚く、薄ぼんやりとしている。

弥勒仏に手を合わせ頭を垂れる俺を強引に引張ると、この方は薄闇の境内を足早に歩き出す。
「何処へ」
「すぐ近く」
この道は天の医官、この方を探す為初めて進んだ道の気がする。
一度しか通ってはいないが、周囲の立木の景色に見覚えがある。
「イムジャ」
「大丈夫よ。大丈夫」
「この先は」

馬の無い馬車の行き交う、まして見た事も無い光る目の鉄の馬の走る、あの道ではないか。

その時正面から来る気配にこの掌を握る小さな手を強く引き、真横の木影へ滑り込んで身を躱す。
その木の真横を騒がしい声を上げ、人々が数人固まって過ぎる。

鎧の背を向け、腕の中見られぬよう掌で押さえた柔らかな髪が振られる。
「ヨンア、急がないと」

この方は小さな頭を押さえていたこの掌を、もう一度汗ばんだ小さな手で確り握る。
「・・・はい」
「ついて来て、お願い」

 

通りを挟んですぐ目の前のCOEX。
薄暗くなってく空に、無機質で近代的なビルがライトに照らされて鮮やかに浮かび上がる。

でも、懐かしさにひたるヒマなんてない。
もしもまだあの日からそんなに経ってないなら。
警備員がまだあなたの顔を覚えてたら。
現場検証やら何やらで、まだ警察官がうろうろしてたら。

目立つ格好だもの、絶対ばれる。警備のビデオだってあるはず。
あなたが見つかったらなんて想像しただけでぞっとする。
こんな時に限って、周囲に時間が分かるものは何もない。
考えるほど混乱する。

私たちが天門を入ったのと同じ月、ただ年代だけがずれるの?それとも季節も?
ダイアリーには日付が書いてあった。だけど開いた年月日だけ。

私がこの人と会ったのは2012年の夏。もし今がまた2012年なら?
この世界のどこかに、この人と会う前の私がいるの?
もしもそうなら家には帰れない。自分とはちあわせなんて最低。

電光掲示板の大きな画面は、知らない歌を最新ヒット曲って流してる。
若い歌手だから私が知らないだけ?
それとも本当に私がここを離れた後に発売された曲なの?

ダメよウンス。こんな処でぼーっとしてたらダメ。何も解決しない。
人目について仕方ない。どうにかしなきゃ。

強く頭を振って、思いっきり両手でほっぺたを引っぱたく。
「イムジャ!」
こんな時でも小さく叱るように言って、あなたが慌ててその手を止めるけど。
しっかりしなきゃ。家には帰らない。じゃあどうする?
ホテル。一番近いのはCOEXの中。
高層階からなら大通りを挟んで、仏像の様子も見えるかもしれない。
ビジネスセンターだってあるはず。PCだって使えるはず。
もしもダメでも、旅行者用のレンタルPCがあるはずよ。

今の一番の問題。この人が鎧姿でうろつくわけにはいかない。
「ヨンア」
「はい」
「なるべく門の近くまで行きたいの」
「・・・判りました」

こんな時なのに、あなたに頼る私。そして泣けるくらい頼りになるあなた。
力強い大きな手が私の手を掴み直して、夕焼けの中をしっかりした足取りで
どんどん進み始めた。

 

 

 

 

5 件のコメント

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    ソウルには戻れたようですね。でも、それが「いつ」にあたるのか、それによってこれからの行動が変わるはず。
    二人が無事に目的を果たし、無事に高麗へもどれますように・・!

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    凄く緊張する場面なんだけど‥
    ドラマのヨンが、ソウルに降り立った時を思い出して、何故だか笑いが込み上げてます(^-^;
    こんな時でも落ち着いてるヨン!
    ウンスじゃないけど、
    ほんと頼りになる良い男です❤

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    さらんさん、こんばんは。無事に二人離れず天界に着いたようですね!
    よかった❤️
    さぁ此処からいかに目立たず目的地まで行くか…
    何時に降り立ったのか日付が分からないから、こちらのウンスと鉢合わせする可能性もあるのね。
    ウンス若干パニックだけど、どんな時も頼れるできる男ヨン❤️
    慎重かつ迅速に。お二人さんファイティン!!

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    ヨンの手が握ってるのは、ウンスさんの手と、鬼剣?!
    ソレで天界へ行っていいんですかぁ?
    と、朝のお話の時に思ったんです(汗)
    やっぱり、そのうえに、鎧姿のままでしたか。。。

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