足許の土を踏む。護るべきはこの方。
次の一歩で考える。遂行すべきは王命。
同じ歩幅、同じ速さ、頭の中で繰り返す。
必ず共に戻る。
王様と王妃媽媽にご報告を。
俺達を待つ奴らに安堵を。
繰り返すうち行くべき場所が見える。
やるべき事は纏まり、雑念は消える。
この方は横に居る。王様は皇宮で待っておられる。
あとは奴らだ。
山道の影に消える背に向かい、ひたすら頭を下げ続けているだろうあいつら。
顔も見せずにいきなり姿を消した俺に兵舎で驚き、気を揉んでいるあいつら。
慌てて駆け込み部屋の抽斗をひっくり返し、金入れを懐へ突込むこの方を茫然と見ていたあいつら。
恐らく今頃武閣氏の兵から仔細を聞き出し、兵舎に乗り込み口を滑らせた奴を叱責しておろうあの人。
あの人から事の仔細を聞き及び、馬鹿だ、犬だと罵りながら苛立っているかもしれんあいつら。
朝のまま宅に戻らん俺達に、あの人から理由を知らされるまで門と宅を守って待つだろうあいつら。
残すわけにはいかん。誰一人。
顔も見ず、声も交わさず、後の事を丸投げで道すら示さず、身勝手に消えるなど許されん。
足許に芽吹いた春草を出来る限り避けながら、山道を辿る。
面倒だと呟きながら起きて来た。目覚める度に腹を立てていた。
一生醒めぬ眠りにつきたかった。それだけを数えて待っていた。
そんな俺を無理矢理に叩き起こした方。俺に生きろと言った方。
泣きながら約束を守れと怒鳴った、そんな方が諦める訳が無い。
面倒だとこの方を見る度思った。選りによって何故この方だと。
この煩い女人を何故選んだ。この方以外なら誰でも良かったと。
正にその通りだった。この方以外なら本当に誰でも良かった。
そうすれば何の感情も無く王命に従って迎え、そして帰し、その後は勝手に生きて行けたろう。
この心に何一つ残さずに。俺を簡単に捨てられるものは、俺もいつか忘れる事が出来る。
真に捨てられぬもの、諦められぬかけがえないものは面倒だ。
心を煩わせ、頭を痛ませ、手を焼かせるものばかり。
大声で叫びそうになる。苛立ちに壁を殴りつける。
それでも心を掴んで離さず、この足を勝手に走らせるものは。
「・・・面倒だ」
「え?」
並んで山道を歩くこの方が、驚いたように顔を上げる。
「面倒です」
「ヨンア」
「何故諦めないのですか」
「だって、あなたなら諦める?諦められる?私には」
「諦めません」
「・・・じゃあ何で、面倒だなんて言うのよ?」
上り切った山道が、次に緩やかに草の中を下り始める。
全てこの方が教えてくれた。思い出させてくれた。
決して振り切る事も、見捨てる事も出来ないもの。
大切だから腹が立ち、喪いたくない余りに怒りを覚えるもの。
決して変わらず裏切らず、その為にだけ生きると思わせるもの。
「今でもですか」
「え?」
懐かしい欅は枝に新たな緑の若葉を抱いて、天へ伸びている。
下草は柔らかく風に揺れ、最後の時のような淋しさは無い。
この地に横たわり、離れていくあなたを眸だけで追った。
振り返りながら連れ去られるあなたに、ただ心で誓った。
必ず待つ、俺は此処にいる。気付くのが遅かったとしても。
「あの時から、何も変わらん」
「ヨンア」
「情けなく横たわって、これが最後になる筈が無いと。
こんな姿を最後に見せたままで、死ぬ訳にはいかんと」
「・・・信じてたもの」
あなたもきっと同じ光景を見ている。
春の色に溢れた光の中、あの時離れた秋の丘を。
冷たくなり始めた風に揺れた、黄色い花の影を。
「あなたが死ぬわけない。私が戻れないわけない。あんな風に離れたまま、別々の場所で生きて行けるわけない。
そう思った。だから驚いたのは江南からここに戻ろうとして、別の世界に行っちゃったときよ。
絶対まっすぐ戻って来れると思ってた。言われたの。切実な願いと思い出が二人を巡り逢わせるって。
じゃあ私にはあの時、何が足りなかったんだろうって」
思い出したのだろう。
この方は大きく見開いた鳶色の瞳に涙を浮かべた。
「何度も考えた。あなたの所に戻るには何が足りなかったのか。
想う気持ちか、それとも信じる気持ちか。ただ1つだけ気付いた」
「はい」
幾度も天門をくぐり、あらゆる世を行き来した方。
俺を探し、呼び続け、諦めず戻って来てくれた方。
「キチョルもそうだった。そして多分私も。自分の欲が少しでもあったら、駄目なんじゃないかな。
誰かのために出来る事をする、そう思った時だけその人に辿り着けるんじゃないかなって」
「・・・イムジャ」
「江南からモンゴ・・・100年前に出る前、天門をくぐる前に考えた。
私が治療をしたいから、私があなたの側にいたいからって。
あなたがケガした、1人で残した、きっと悲しがってるって考える前に、確かにそう考えた気がするの。
自分の事を最初に」
「それは当然でしょう」
「そうかな」
この方はもう一度、俺の眸をじっと見上げて首を傾げた。

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「‥自分の欲が少しでも あったら、
駄目なんじゃないかな。誰かのために出来る事をする、 そう思った時だけ
その人に辿り着けるんじゃないかなって」
ウンスの言葉。そのとおりだと思います(^^)
二人が話し合って、心をひとつにして天門を通ってくれそうで、一息ついてます(笑)
さらんさん❤
リクエスト〆切まで数時間になりました。とっても素敵なリクばかりで楽しみな反面、こんなに多くのリクで、さらんさんが疲れないかと?
ちょっと心配でもあります(^^;
でも‥でも
さらんさんのお話が読めるのかと思うと毎日が本当に幸せです(*^^*)
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私欲はダメなのね~
私欲の塊 キチョルがそうだもの
天穴に入れなかったのは それが 理由ね~
ってことは 今回は…
目的が 王様と 王妃様のことだから…
可能かしら…
ドキドキドキドキ
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さらんさん、こんにちは。
何も言わずに王宮を出て周りはテンパっている事でしょう…
気は急いてるし、噂が回らないうちに出てきたから致し方ない…
迂達赤にしろ、典医寺にしろ、屋敷を守ってくれているコム夫妻にしろ、二人の周りの人達は2人が居なくても上手く回してくれるはず。
ウンスはヨンの事に対しは決して諦めないでしょうね
それはヨンにも言える事だと思う
自分より相手の事を護ろうとする。
お互いにそうだから。
お互い諦めが悪い似た者夫婦と思って諦めるしかないですねo(*´ヮ`*)o
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ヨンもウンスも互いを何があっても護ること
どんな時も諦めない人だと知ってるけど
無茶をしてはダメだからね
二人には待っている家族が たくさんいるのよ
だから必ず二人揃って 早く帰ってきて
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>hinamiさん
おはようございます、コメントありがとうございます❤
前の話になってしまったので今更のコメ返で申し訳ないです(つд⊂)
二人の心はいつでも一つ、なのですが・・・それゆえに互いに
突っ走るのかもですねw
リクは、着々と進むはずが長ーい天界でーとになっています。
この後ももう少しだけ、ヨンで頂ければ嬉しいです❤
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>くるくるしなもんさん
おはようございます、コメントありがとうございます❤
これはもう、くぐれなかったら笑えないとこでした(*´∇`*)
今は天界で頑張ってるヨンですww
もう少し続きますが、ヨンで頂ければ嬉しいです
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>majuさん
おはようございます、コメントありがとうございます❤
確かに二人とも、お互いに対してだけは諦めが悪い!
ヨンは自分で言うくらい執念深い質(たち)だし、
ウンスも徳興君にあなたがあの人を殺そうとした事だけは
何かに付けて思い出す、と恨み節を言ってましたしw
そんな執念深い二人、もう少しヨンで頂ければ嬉しいです
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>yon0716さん
おはようございます、コメントありがとうございます❤
これは、どっちが欠けても行き来できない気がします。
先の世界に対しては、叶えたい強い願い。
元の世界に対しては、待ってる人への想い。
どっちが欠けても、ちゃんと行き来できないんじゃないかなーと。
そんな感じですが、今は先の世界。もう少しヨンで頂ければ嬉しいです