「ヨンアってばー」
問い掛ける視線にも反応しないこの人を見て、タウンさんが困ったように言葉を濁して離れに帰った後。
機嫌を取るみたいに呼んだ私にやっとあなたが頷く。
「はい」
「あのね、今日はあったかいから、こんなに着込まなくっても」
そう言って自分の胸を指さして見せる。
それでも足りないかと思って、ブランケットで包まれた両腕をばたばた仰いで、風も起こしてみる。
それでもこの人は平然と言った。
「温めろと」
「うーん、あったかいのと暑いのは違うでしょ?これじゃあ却って汗かいて、それで体が冷えて風邪ひくかも」
「温石があります」
「そりゃ、そうだけど・・・ほらほら」
あなたの大きな手のひらをさり気なく握って、自分の額に触れさせる。
「汗、かいてない?」
「いえ」
「でもいつもより熱くない?」
「いえ」
・・・ただ新陳代謝が活発になってるだけなのね。
さっきから体があったかいのにと、私は渋々頷いた。
「でもあなたのおかげで、もうイライラしないし」
「一月待てと侍医が」
「うん、それはそうだけど私だって医者よ。まして女性だし、自分の身体の事は」
「ならば最初からああはならぬでしょう」
「それ、は、そうだけど・・・」
痛いところを突かれて思わず口ごもる。それはそうよね。
イライラしてたのに、どうしていいか対処法が分からなかった。
感情がコントロール出来ないなんて、ドクターとしても社会人としても意識が低いって言われても仕方ない。
この人に甘えてる。わがままをぶつけてる。受け止めてくれるって安心しきって、身勝手になってる。
だけど正真正銘、男性とこんな風に近くなるのも初めて。
もちろん結婚して、環境がこんなに変わったのも初めて。
まして何回もタイムスリップなんて、当然だけど初めてだし。
肉体的にも精神的にも、一気に疲れたとしか言いようがない。
「分かった。1か月、様子をみる」
あきらめて言った私に、この人が満足そうに目許を緩めた。
「でもこの温石だけは暑すぎるわ」
「温める早道です」
「だって重いし、暑いんだってば」
「堪えて下さい」
湯たんぽやカイロみたいなものなのはわかる。だけど温めた石を帯に挟んでお腹を温めるって、そうとう原始的。
「こんな暑かったら、あなたの膝にも座る気になれないし」
「構いません」
そう正直に言った直後ぴくりと上がった私の眉を見て、この人がしまったって顔をする。
「そうなの、ヨンアは私が邪魔だったのね。今はもう座られなくてせいせいしてるんでしょ」
眉をあげたまま、ちらりとその顔を見る。
「イムジャ」
「でも言えなかったのよね、邪魔だからどけって」
わざと言ってみると、途端にこの人の目が心配そうに曇る。
「そうではなく」
「じゃあ何よ」
「邪魔などでは」
あんまりいじめると可哀想。
いくら暑い思いをさせられてもそれは私の為だって、心配だからだって分かってる。
でもずっと膝にいたのに、結婚してからずっと一緒だったのに、急に腕枕だけってなんだか淋しい。
こんなところがワガママなのに、分かってるのにちょっとだけ。
居間の座布団の上、座ったこの人の膝にごろんと倒れ込む。
いきなり膝を枕をされたこの人が、目を丸くして私を見下ろした。
この人の体はどこも関節が大きい。これほど背が高いんだものね。
頭を預けた膝も、首に当たる踝も、骨が当たって少し痛い。
「嘘よ、ごめんね」
甘えるようにその膝に頭をこすりつけると、この人がおっかなびっくり、大きな手のひらで髪をなでてくれた。
「堪忍して下さい」
「でも暑いのは本当。ちょっと暑すぎる」
「冷えは良くないのでしょう」
「だから何でもほどほどが大切なんだってば!」
今日は居間より縁側の方が、涼しくて気持ちよさそう。
今迄は大きく開いていた縁側への扉も、ここ何日かは風を通す為にほんの少し開けているだけ。
そこから入って来る春風の中で、じゃれ合って夜を過ごす。
甘えて、わがままをぶつけても、それでも受け止めてくれる人。
そんなあなたが横にいてくれることを、心の中で感謝しながら。

にほんブログ村
今日もクリックありがとうございます。

SECRET: 0
PASS:
さらんさん♥
怒涛の年度末に、日々素敵なお話を
更新頂き ありがとうございます(^^♪
過保護すぎるくらいのヨンの心配性は
鬱陶しくもあり、それ以上に嬉しくもあり…。
御母堂を早くに亡くしたことも
ヨンの心配性に拍車をかけているのかも
しれませんね…。
花冷えのする夜は、温石もいいけれど、
それよりも「寒い寒い」と言いながら
ヨンの膝に乗るほうが
気持ち良さそうです♥
さらんさんもお身体、冷やさないように
してくださいね(=゚ω゚)ノ
SECRET: 0
PASS:
ヨンったらどれだけ暖めてくれるのよー
(;^_^A
でもウンスの事となると心配で仕方ないんだろうなー
こんな不器用なヨンが可愛い(≧∇≦)
ウンスのイライラよくわかる…
いつもなら何でもない事なのにね‼︎
SECRET: 0
PASS:
こんなに 奥さんのこと心配してくれる
旦那さん いないわ~ 羨ましい。
でも うん 程々が大事なのよね~
こんなワガママでも かわいい 奥様 離せないし
こんなに 思ってくれる 優しい旦那様
離れられないわ~
日々 感謝するのが 大事なことね
SECRET: 0
PASS:
生真面目ヨンに(爆)
ヨンの辞書には、ほどほどと言う言葉は無いんですよね~
ウンスさんも大変ですね(笑)
まるで夫婦漫才を見ているような
楽しい会話でした❤