「ヨンア」
「はい」
寝屋への扉を入った途端に冷たい寝台の端へと頽れるこの方の脇、手を引かれたまま腰を下ろす。
寝屋に射し込む凍った月明り。
並んで腰掛ける寝台の足許、窓桟の作る縞模様。
二人の間に、まだ繋がれたままの両掌。
それだけが暖かく、あとは全てが冷たい。
寝屋の闇も腰掛けた寝台も、この頭も肚の裡も。
暖めてやりたい。
小さな手に息をかけ、細い体を腕に抱き、何も無い、あなたが心を痛める事は無いと言ってやりたい。
けれど先を知らぬのに。何も誓えぬのに何を言えば良い。
シンドン。天の血を享けぬ父媽媽。
もしも己の招いたあの男が、そんな者になったなら。
この命でも償えん。
そんな者を皇宮に入れたとすれば、全ての責は俺にある。
何故気付かなかった。それほど脇が甘かったか。
ただ残り少ない時に追われて、慌てて選んだか。
この方を無理に置いて出て、気が乱れていたか。
読み違えたか。奴の肚裡に気が回らなかったか。
ヒドの仲立ちだから、同じ内功遣いだからと警戒を怠ったか。
考える程に首を振る。そんな事で選ぶ訳が無い。
徳興君。あの忌まわしい鼠の脇に付ける間者を。
何を遣うか分からなかった。万全の気で臨んだ。
だとすれば逆か。
今あの男には全くそんな気はなく、そしてこの後何かが起きるのか。
この方だけが知る先の出来事。
シンドンという男を、天をも怖れぬ大罪に駆り立てる化物に仕立てるのか。
「順番に話す。知ってること全部。まず聞いてくれる?」
凍える寝屋に小さな声が響く。
「はい」
「シンドンがお坊さんだったのは覚えてる。どうやって恭愍王・・・ああ、えっと、今の王様は先の世界ではそう呼ばれるようになるの。
王様とどう知り合ったのかは分からない」
「はい」
この方は寝台の端、横に腰掛けた俺へと正面から向き直る。
「1つ覚えてるのは、シンドンがお坊さんなのに愛人もいて、いろいろ仏教の教えに背いてること。
最終的に王様が重用して、一時期はかなり高い地位まで上がるはずよ。初めの頃は国に尽くしてるし、功績もある。でも・・・」
でも。そこからが本題なのだろう。
黙ったままで眸で促すと、この方は言い辛そうに声を詰まらせる。
「あのね、ヨンア」
「はい」
「私がここに帰って来たのは、あなたと一緒にいたかったから」
繋がれたままの掌だけが暖かい。
「歴史を変えてもあなたを守る。たとえイ・ソンゲと刺し違えても。その気持ちは今も変わらない。たとえあなたがどんなに止めても」
「イムジャ」
俺の事は良い。
今は王様の事が、王妃媽媽の事が、そしてこれからのシンドンという男の事が先決だ。
その真直ぐな瞳に顎を振り
「俺の事より」
続けた俺に小さな顔が頷く。
「もうひとつ、歴史を変えてもやりたいことがある」
「何ですか」
月明りの寝屋、この方の真直ぐな瞳が揺らぐことはない。
「王様と、媽媽を助けたい。どうしても」
此処に繋がるのか。息を吐いた俺にその瞳が初めて曇る。
「御二人は、先の世界ではどうなっているのですか」
「媽媽は、王様のお子様をご懐妊するわ。今から10年くらい先、ううん、もっと近いかもしれない」
「はい」
小さな息が苦し気に詰まる。紅い唇が細かく震える。
誰よりもよく知る先のその出来事を、ご自分が一番信じたくないのだろう。
この方は眉を顰め、辛そうに瞳を閉じて一息で放つ。
「そして、難産で亡くなるの。媽媽もお子様も」
「イムジャ」
「少なくとも、そう勉強した」
「では何故父媽媽になれるのです。王妃媽媽も、御子も」
「シンドンは自分の愛人を、王様の側妃として送るのよ」
「まさか」
「王様が側妃と実際どうなったのかはわからない。ただ少なくとも、その中の1人がお子様を生むの。それが王様の次の王様になる」
「・・・その父親が、実はシンドンという男という事ですか」
頭が痛む。
酸いものが胸から込み上げる。空いた掌で思わず口許を塞ぐ。

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私も‥思っていました。
ヨンが焦る気持ちも分かるけど・・
たとえヒドの知人でも、素性を調べもせずに、あまりにも性急に間者を決めてしまったんじゃ無いかと!
何時ものヨンらしくないと(–;)
さらんさん❤
ウンスが歴史を変えてくれますよね。
それを期待して心落ち着けて
お話の続きをお待ちしてます(^^)
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歴史を変えてもいいから、シンドン嫌いゞ(`')、
王妃さまも死んで欲しくないです!
さらんさん(^-^)変えてください➰\(^o^)/
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ウンスの話しを聞いて
気分も悪くなるわね
そんな男を…でも
そうするしかなかったし
ま、主要人物が揃ってくるのは仕方がないし
ウンスの存在で ヨンと一緒に居ても
史実のレールからはあまり
はみ出ていないと言うことかしら
じゃ まだ ウンスの言うとおり
ヨンも、王様、王妃様も守れるチャンスはある!
あ~ なんだか 鼠の見張りを…だったのに
ヨンまた 重大な仕事が増えちゃった。
鼠の見張りの 化け者? 監視
たいへんだわ
ウンス 支えてあげなくっちゃ
ウンスがそんなんに 慌ててないので
何とかなると 思ってるかな?
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さらんさん♥
悪意や敵意の塊だった奇轍や徳興君が
少しかわいく思えてしまうほど
(決して可愛くはありませんが(-_-;))
恐ろしく感じます…シンドンという奴。
今は牙も爪も無いのかもしれませんが
とんでもないMonsterの卵を
連れて来てしまったのですね。
この先の歴史を知っているウンスに、
そして、歴史を変えてもヨンや王様達を
護りたいと願うウンスに、
Monsterの誕生を阻止することが
できるのでしょうか…。
さらんさん♥
花粉が飛びまくっているようですが
さらんさんは大丈夫ですか(^_^;)?