不倶戴天 | 弐

 

 

「大護軍」
「は」
「医仙」
「はい、王様」

翌朝の康安殿。
珍しく並んで拝謁に伺った俺達に向かい、冬の冴え冴えとした朝の光の中、王様は笑んで良いのか戸惑うように御首を傾げた。

窓の外、眸に映る白雪に覆われた皇宮の庭。
一点の濁りも穢れも無い雪が、松の緑を際立たせる。
雪が陽射しを受けて輝き、その輝きは窓から部屋内へ射し込み、 俺のこの方の亜麻色の髪を淡く透かす。

今から始めるべき淀んだ話には、似つかわしくない美しい眺め。
その眺めに息を吐き、眸の前の王様へ向かい小さく頭を下げる。
「こうして二人が並んでいるのを見るのは久々だ」
「は」
「佳き話であれば王妃も呼んで、皆で茶でも飲みたいが」

俺の顔色をちらと御目で確かめ、王様は息を吐かれる。
「それは次回に持ち越しのようだな」
「は」
「二人で、というと」
「典医寺の怪我人の件で」

その声に王様が小さく頷かれると、扉脇に控える内官長へ軽く指先を上げられる。
内官長はそれを受けて頷くと、無言のまま部屋内の全ての者を残らず人払いした。

「・・・徳興君か」

内官長を除く全ての者が衣擦れの音と共に御前を辞したのを確かめ、王様は玉座から此方へ玉体を向け直す。
「は」
「傷の具合は問題ないと、侍医から聞いておったが」
「はい王様。それでご相談なんです」

この方が腰掛けた椅子の上、俺の脇から王様へと向き直る。
「傷は完治しています。これからは残った腕の機能を保つ為の、訓練が必要な段階です。
1人で着替えや食事、最低限の身の回りの事が出来るように。訓練は続けないと、すぐに筋力が落ちるので」
「成程」
「訓練のメニュ・・・えーと、必要な事は、典医寺の方で考えます。ただどうしても、1人でそれをやるには限界があるので。
先の世界なら最初は理学療法、次に作業療法となるんですけど。
まずは立ったり座ったり、歩いたり。さすがに寝たきりで数か月経過してるので、筋力が全体的に落ちてますから。
その後残った腕を意識的に使って、日常生活に支障がないように鍛えて行きます」
「分かりました」

王様はこの方の話に真直ぐ頷くと、次に俺へと御顔を向けた。
「大護軍」
「は」
「徳興君を留めるのに最適な場所は」

あの鼠を飼い殺すのに最適な場所。
逃げられず外とも繋ぎが取れず、この眸の、王様の御目の届く場所。
そして典医寺の者が通い、訓練を続けられる場所。
あの鼠が死ぬまで囲い込める永遠の獄。

「・・・いっそ皇宮の中が良いかと」

この声に王様が僅かに目を瞠られる。
それも当然だろう。どう考えても大逆人を皇宮の中に置くなど。
「皇宮の中だと」
「は」
「寡人に弓引き王妃を攫い、吾子を弑した男を」
「王様」

あの出来事を思い出されたか、血相を変えた王様を諌める。
「故にです」
「チェ・ヨン。本来なら王族男子は寡人以外、皇宮内には居られぬ」
「承知の上です。怪我人故の丁重な扱いとして」
「だからと言って、何故皇宮内だ」
「大逆人故、自由を与えてはなりませぬ。元に奪還されぬ為にも、外と繋がせてはなりませぬ。
皇宮外では難しいでしょう。王様と某の目の届く場所に置くのが最も得策かと」
「だからと言って、皇宮の中か」
「王族として遇する必要はございません。居所の周囲は兵のみ置き、一切立ち入りを禁じます」

王様があの男を飼うとお決めになった。
首を刎ねぬとお決めになったのなら、痛みを伴うも仕方無し。
あの男が皇宮の何処かで生き延びている。
そう判ったうえでその価値故に生かすと、覚悟せねばならん。

「康安殿、坤成殿より最も離れた殿内で結構です。
部屋の入口には柵を。出入りは全て制限致します。
それならば謀反人とはいえ、重傷を負った王族としての扱いと名目も立ちます」

俺の声に王様は苦い表情のまま、ようやく頷かれた。
「・・・すぐに用意させる」

 

 

 

 

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2 件のコメント

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    なるほど…
    皇宮内ね。
    同じ王族でも 天と地の扱いね~
    だって それだけのことしちゃったんだもの
    ま~ 飼い殺しだから… 
    王様も渋々だけど仕方ないわね~
    いっそのこと 迂達赤兵舎のそばとか
    想像しちゃいました。 (;´▽`A“

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらんさん|д゚)
    憎い徳興君の姿顔など、見たくも無い二人が
    自分の住まいの近く…、目の届く範囲に
    置かねばならないとは…(-""-;)。
    嫌なもの、苦手な奴は、できるだけ遠ざけ
    思い出す時間が少ないようにしたいのに
    因果なことですね…(iДi)。
    でも、徳興君にとっても屈辱的なことかも
    しれませんね。
    周囲に誰一人として味方の居ない中、
    自由にならぬ身体で、何の希望もなく
    ただ息をしているだけなのですから。
    さらんさん
    此度のシリーズも、日々ドキドキです♥
    ありがとうございます(≧▽≦)

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