「セイル殿」
「大護軍、お久しぶりです」
互いに手を握り合い、確りと眸を合わせる。
宴の人波のなかでもこの丈の高い男を探し出すのに苦はなかった。
おまけに横に付く門番は、今日は大斧こそ構えていないとはいえ、コムの向こうを張れるほどにでかい。
「おお大護軍、久し振りだな!」
差し出すその手に掌を合わせ、肩をぶつけ合う。
「呑んでるか」
「たっぷり馳走に預かってるよ」
「やってくれ」
声を交わす俺達に、横の村長が丁寧に頭を下げる。
「大護軍」
「長」
「お元気そうで何よりです」
「皆もな、先日は世話になった」
「とんでもないことです。次の御来訪が楽しみです」
「ああ、すぐ行く」
「お待ちしております。必ず」
長の声には、不思議な響きがある。
長は俺が行くのを待っているのではなく、知っているのではないか。
俺はただこの長が知る先、その定めに従って訪れるのではないか。
そんな気分にさせられる。
庭の中、立ち話を交わしながらあの方を探す。
今は媽媽の横、何かの皿を囲み、大きく笑いながら声を交わしている。
横には媽媽の護りの叔母上もいらっしゃる。そして迂達赤も禁軍も。
最も安心な場所だと息を吐き眸を戻すと、長の深い眼差しが正面からまともにぶつかった。
「そうして、見ていらっしゃる」
「・・・ああ」
気まずい思いで眸を避けると、長は小さく笑う。
「あの方もです」
「長」
「大護軍がお気づきにならぬだけで、いつでも」
「・・・そうか」
「はい」
だから長の声は不思議なのだ。
知らぬのに、そうなのかと思わされる。
あの方も見ていて下さるのか。
俺の与り知らぬ処で、こうして人波を縫って、鳶色の瞳で探して下さっているのか。
ただそれなら、いつでも気付いてやりたい。
一人で探させるのではなく、受け止めてやりたい。
そして走って抱き締めて、声で伝えてやりたい。
此処におります、一人にしませんと。二度と独りにしませんと。
「大護軍、どうしたですかよ、呆として」
「いや」
長の横から掛かる鍛冶の声に首を振り、改めて巴巽村の面々へと眸を戻す。
「頼みがある。付いて来てくれ」
若い領主へそして守りへ、次に長へ鍛冶へと駆けた声に、それぞれの顔が頷いた。
*****
「度々申し訳ありません」
玉座の前、一同と共に頭を下げると、王様の微かに呆れたられたような細い息が耳へと届く。
「大護軍」
「は」
「そなたの、自身の婚儀なのだぞ」
「は」
「そうして走り回って如何するのだ」
「王様」
「ああああ、鍛冶さん!!」
王様の御声を途中で遮り、王妃媽媽の隣からこの方が手を振った。
「媽媽、王様!鍛冶さん、この方がこの指輪を作って下さったんです!お久しぶりです、お元気でしたか?夏以来ですよね」
「医仙」
鍛冶へと駆け寄るこの方を眺め、媽媽と王様が俺の脇に立つ巴巽村の面々へと御目を移す。
「では、ここの皆が巴巽村の」
「は」
一歩脇へと寄り、王様の御前に面々が見えるようにして
「関彌領主、シン・セイル」
その声に丈高い領主が静かに一歩進み、御前で頭を下げる。
「そして巴巽村主と、村の民です。この者共が鍛冶場と村門を死守しております」
続いて長と皆が一歩進み出で、王様へと深く一礼した。
「そうか、そうであったか。村と鍛冶の力は大護軍より聞いている。いつも苦労を掛けるな」
王様の労いの御声に、皆が嬉し気に顔を綻ばせる。
「開京へ工房を移す事は、難しいと」
「はい」
王様に向け、セイルが穏やかに頷いた。
「領主、あの辺りではそれ程良い石炭が取れるのだな」
「我が領の誇りです」
「そうか、何よりだ」
「必要な分のみ掘っております」
「そうだったのだな。そうしてくれ。掘り過ぎれば山土も弱くなろう。風雨で崩れて、村や領に何かあってはならぬ」
「はい、王様」
俺を目の前に、村人を謀れば許さぬと堂々と言い放った領主だ。
何かあれば王様であれ、どう出るか分からん。
しかし領主は静かにそれだけ伝え、口を噤んで王様へ頭を下げる。
「村主」
「はい、王様」
「此度も大護軍が無理を申したろう」
「いえ、王様のご聖恩にて鍛冶場も拡げて頂きました。村の民も皆、王様と大護軍のご希望に沿えるよう勤しんでおります」
「そうか。よろしく頼む」
「はい、王様」
「鍛冶」
「は、はい」
駆け寄ったこの方と久方ぶりの邂逅を愉しんでいた笑顔の鍛冶が、続いた王様の御声に驚いたように玉座を仰ぐ。
「素晴らしき武器防具や指輪、医術道具まで作るそうな」
「は、はい王様」
「その腕は国の宝だ。どうか大切に」
「畏まりましたです」
「すごいですよ。細部まで本当に正確に作れるんですから。作れないものなんてないんじゃないかしら」
王様の御声に畏まった女鍛冶の横、この方がご自身が褒められたよう胸を張り誇らし気に告げる。
これ以上はもう良い。
この方へと大きく一歩寄り、続く声を塞ぐようその紅い唇に掌で蓋をし、小さく首を振る。
この方の瞳が俺を見上げ、塞いだ口から不満げな息がこの掌へ当たる。
興奮したこの方の声に微笑みながら、王様が深く頷いた。
「実際にお使いの医仙がそうおっしゃるなら、これに勝る確かさもない。みなこれからも、くれぐれもよろしく頼む」
「お任せください、精一杯尽くしますですだよ」
さすがに年の甲か。それ以上余分な事は言わん鍛冶に息をつくと。
「大護軍の頼みなら、いつだって」
鍛冶は最後に涼しい顔で、そう言って笑った。
後に控えた領主セイルが、長が、門番が頷く。
頼む。余計な事は言わんでくれ。お前らは皆、王様の民だ。
王様に忠義を立て、王様にお仕えするのが筋というものだ。
口を突きそうになるこの苛りの声を咽喉元で堪える。
王様のおっしゃる通りだ。何故己の婚儀で、これ程疲れねばならんのだ。

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ヨン忙しすぎ!
ヨンも ウンスも ものスゴ~く
意識してるんだけど…
そばに居たいはずなのに~
ウンスたまらず 来ちゃったかな?
一緒に居なきゃ~
綺麗なウンス 見てあげなきゃ~ (〃∇〃)
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ヨンとウンスが紡いだ信義の輪❤
素敵な人々ですね(*^^*)
さらんさん~
まだまだ宴は続きますよね♪
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さらんさん♥
今夜も素敵なお話をありがとうございます。
大好きな人の姿を目で追っている時の
ときめく思いを、ヨンとウンスはいつも
感じているんですね( ´艸`)。
う~ぅ、うらやましい~(´・ω・`)。
明日のことなど考えてもいなかった自分に
いつしか多くの味方が生まれていたことに、
ヨンは自身の婚儀の今日、しかと思い知って
いるのですね♥ ふふふ…
さらんさん♥
今夜もじっくりほんわりと寿ぎながら、
ベッドに入りますね。
おやすみなさい(#^^#)
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いつか、叔母様が言われてたように、ウンスだけでなく、ヨンも誰も彼も味方にしてるんですね~
読んでいて思わず顔がほころんでしまいました!