威風堂々 | 51

 

 

「婚儀はうちで4日後にって、決まりました」

回診に伺ったお部屋の中。
脈診を終えて向かい合い、目の前の媽媽と部屋の隅に控える叔母様にお伝えする。
そうなのよね。4日後なんて思ってもみなかったけど。

「おめでとう御座います、医仙」
媽媽が本当に嬉しそうなお声で言って下さるから、思わずつられてにっこり笑ってしまう。
笑ってしまうけど、でも実感が。
「医仙」
「は、はい」
「実感が湧かぬでしょう」

媽媽はそうおっしゃって、ゆっくり私の顔を覗き込む。
さすがに結婚生活の先輩だけある。こっちの事はお見通しだわ。
そのお声に素直に頷いて
「ずっと待ちました。あの人はもっと。なんだか急に4日後だって言われても困っちゃって・・・」
私の返事に媽媽が頷かれる。
「当然です。妾も同じでした。八年慕った方と婚儀を挙げる、父王にようやく伺った時、嬉しさよりもまず恐ろしかった」
「怖かったんですか?入水までしかけたのに?」
「ええ」

媽媽は困ったように眉を下げて、ぽつんと小さく呟いた。
「こんな筈ではなかったと落胆されたらどうしようと。こんな后は不要と異国で捨て置かれたらどうしようと」
「媽媽・・・」

私は媽媽の手を握ってにっこり笑い返す。
結婚生活は送った事がなくたって、女同士これだけは分かる。
「本当に昔から、王様の事を愛していらっしゃるんですね」
それは質問じゃない。だって分かるんだもの。
好きだから、がっかりさせたくない。
好きだから、嫌われるのが怖い。

みんな同じ。
時代を超えても身分を超えても、こうして同じ気持ちで女性は生きてる。
こんなに愛し合ってるお二人だもの。きっとすぐにまたお子様だって授かれるに違いない。

その時に備えて力をつけたい。媽媽と王様が幸せになれるように。
あの頃勉強した国史とは違う運命が、お二人の許に訪れるように。
お二人が幸せな笑顔でお子様を見守れる、そんな日が来るように。
そしてそのお二人のお幸せと、国の安定を誰より一生懸命に守る私の愛するあの人が、幸せになれるように。

誰よりも誇らしい気持ちで、これから先の未来のいつか、2人でそんな日を迎えられるように。

ヨンア。黙っててごめんね。
きっとあなたに言ったら、反対されるのは分かってる。
誰より身分の上下に厳しいし、面目にこだわるあなただから。

だけどやっぱり私は結婚式に、媽媽と王様に来てほしい。
自分の見栄とかそういう事じゃなくて、おめでとうって祝って欲しい。
私たちが幸せになる事で、媽媽と王様をもっとお幸せにしますって約束したいの。
お二人の安全も健康も必ず私たち2人が守ります、だから私にも愛するこの人の心と体を護る資格を下さいって、お願いしたいの。

ああ、絶対怒るわね。見る前から分かる。

どうして俺達の婚儀ごときで王様を危険に晒すのですか。
何故あなたは何度お伝えしても分かって下さらぬのです。

あの大好きな黒い瞳で私をじっと見て、呆れたみたいな表情で。
周りの人に聞こえないくらいの低い声で、私にそう言うんだわ。
だけど仕方ないじゃない。そんな私を選んだのはあなただもの。
手が焼けるってちゃんと事前通告はしたわ。私のせいじゃない。

ごめんね、ヨンア。 わがままって分かってる。
これからも迷惑ばっかりかける。 がっかりさせちゃうかもしれない。
でも嫌いにならないで。
私が思っているくらい、あなたにも思っていてほしい。
運命だって、この強い想いが私達2人を結び付けるって、前世のあなたが教えてくれたみたいにもう一度教えて。

これから何度だって何度だって逢いに来て。
私は何度だって、こうして戻って来るから。

そしてその最初の一歩だから、私たちの大切な人にいて欲しい。
どんなに怒られたって気にしないわ。だって知ってるもの。
きっと正直に話せば、あなたが分かってくれるって。

一番強くて難しいのは、いつだって正直でいること。
そしていつだって笑うこと。
でもあなたがいれば私はそうして生きて行けるから。
あなたを信じる心だけ握って、あとは全部手放して。

だからずっと愛して。
私が愛してるくらい、あなたにも愛していてほしい。
この世界が終わっても次の世界で、またその次の世界で。

一日でもなく、一年でもなく、一生懸けて。
そう誓ってくれても嫌。その次も、またその次も愛して。
二度と1人にしないから、私の事も1人にしないで。
次の世界では他の人に寄り道したり、眠ったりしないで。
まっすぐ私に駆けて来て。
私もバカみたいな男に出逢ったりしない。大人しくあなたを待ってる。
ちゃんと待ってるから、だから早く来て。
肩にかつがれて荷物みたいに扱われたら、また怒るかもしれないけど。

「・・・医仙」
遠慮がちな媽媽の声に、あわてて顔を上げる。
「はい、媽媽」
「大丈夫ですか」

この目に浮かんだ涙に驚かれたんだろう。一方の手を握ったままだった私の手の上に、媽媽が残る片手を重ねて下さる。
「幸せ過ぎて、涙が出るんです。変でしょ?」
まばたきして涙をはじき飛ばして照れ隠しに笑って言うと、媽媽はそっと首を振った。
「女人はみなそうです」

ああ、きっと媽媽もお幸せで泣いた事があるんだわ。
それなら良かった。
時代も身分も超えて、こうして同じ気持ちで女性は生きてる。

愛する人と一緒に、手のひらの中に信じる心だけ握って。
あとは知らない。いらないって全部投げ出したって惜しくない。

私が握る媽媽の柔らかい手の中には、王様への想い。
媽媽が握って下さるこの手の中には、あの人への想い。
それだけ握って、私たちは生きてく。

小さくて頼りない手だけど、この中に握ってるのは誰にも負けないくらい、私たちを強くするただ1人への想い。

おかしなところで安心しながら私はお部屋の中、紅葉から透ける紅い陽の射し込む窓を背景に、静かに笑う媽媽をじっと見つめた。

 

 

 

 

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2 件のコメント

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    待ちに待った 婚儀なのに
    しあわせと 不安が 一緒になって
    なんとも言えない 気持ち~
    しかも 1つ隠し事 怒られちゃうの覚悟だし…
    王様、王妃さまに 祝ってもらいたい ウンスの気持ちも
    わかる。
    ヨンは きっと びっくりするけど
    怒らないよ 怒れないでしょう。
    ウンスが喜んでるから さわせそうな笑顔を見せるなら
    ヨン怒れないでしょう~。 ( ´艸`)

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    さらんさん❤︎
    きっと、傍に頼もしい相方さんがおられる中、素敵なお話をアップして頂き、ありがとうございます\(//∇//)\。
    媽媽とウンス、生まれ育った環境や立場は違えど、此れ程に分かり合える「同志」は他に居ないでしょうね。
    掛け替えの無い友人であり、姉妹であり、もしやしたらヨンとは別の意味でのソウルメイトであり…。
    多くを語らずとも、互いの心境を思いやれるこの二人も、ある意味、男前です!
    さらんさん❤︎
    相手さんはJapanese Lifeを楽しんでらっしゃいますか?(#^.^#)
    空気が冷たくなってきましたので、お二人ともお風邪など召しませんように…。

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