比翼連理 | 47

 

 

「チュンソク」
「は」
扉外に控えていたチュンソクが康安殿を辞したヨンに軽く頭を下げ、その背に従って歩き始める。
先に立ち、回廊を歩き始めたヨンの肩越しから声が飛ぶ。
「チェ尚宮を迂達赤兵舎へ」
「は」
チュンソクの視線を当てられた兵が頷くと、ヨンを先頭にした隊列から離れ、坤成殿への回廊を駆けて行く。
ヨンは回廊の先頭を歩む歩を止めぬまま声を続ける。
「医仙を、典医寺から呼べ」
「・・・は?」
「呼んで来い」
「・・・は」

チュンソクの不審げな眼を受けた隊員が首を捻り、それでも頷くと、典医寺に向かう皇庭へ向かい回廊を抜けて行く。

 

*****

 

ようやく中天を通り過ぎた夏の陽は、それでも涼しい風を呼ぶには程遠い。
踏み入った室内の蒸し風呂のような暑さに顔を顰めチェ・ヨンは兵舎の上階、己の私室の窓という窓を開け放っていく。
窓の木枠は外からの陽に熱せられ、ヨンの掌へじわりとした熱を伝える。

部屋の上がり框の柱に背を預けたチェ尚宮は息を吐き、ヨンへと声を掛けた。
「さて」
チェ尚宮へと伏せ気味の目を当てたチュンソクは、ヨンに続きながら私室の窓を逆から開けていく。
椅子へ腰掛けたウンスは、身の置き所に困ったように、小さな手を卓上でもじもじと動かしている。
「さて!」

反応の戻らぬ甥に苛立ったか、今一度呟くチェ尚宮の語気が強まる。
ヨンはチェ尚宮の様子を気にする事もな、軋む窓枠の私室の窓を全て開け終え、最後に隣の窓を開け終えたチュンソクへ向かう。

「外には兵はおらんな」
小さく確認する声にチュンソクが頷き、ようやく男二人は窓際から振り向くと窓枠から離れて卓へ寄る。
ヨンはそのままウンスの向かいへ腰を掛け、チュンソクはチェ尚宮の凭れた柱から少し離れた処へ立った。

「何のために、我らを集めた」
ヨンが卓前の椅子へ腰を下ろすと、待ち兼ねたチェ尚宮は口火を切る。
その声にふと笑んでヨンはチェ尚宮を見返した。
「知りたがっておるのだろう」
「なにを」
「俺の、いや、俺達の婚儀を」
「そんなものはどうでも良い」

チェ尚宮の声にヨンは咽喉で笑う。
「本当か、叔母上」
「挙げるとだけ判れば良い。挙げぬのでは兄上にも、ムン・チフ殿にも顔向けできぬからな」
ふむ、と鼻先で声を上げ、続いてヨンはチュンソクへ眸を投げる。
「お前はどうだ、チュンソク」
「正直言って俺もですが、兵たちが気も漫ろです。いつかいつかと」
「そうか」
「は」

ヨンは椅子へと大きく凭れ、そのまま顎を上げて天井の木目を見詰めた。
ヨンの沈黙にチュンソクは不安げに、柱に背を預けたチェ尚宮へ目を流す。
チェ尚宮は首を振ると、腕を組み直しヨンの様子をじっと見る。

ウンスはそんな3人を交互に眺めながら、胸の中で怒鳴る。

何でそんなにもったいつけてるの?第一、私だって答えもらってないわ。
あなた言ったわよね?あの夜、私に言った。
あなたの、崔家の菩提寺で式を挙げたいって言った時。
言ったわよね?聞いたもの。答は暫しお待ちください。

あなたが約束破るとは思わない。信じてる。蒸し返したりはしない。
だけどどうするかも知らないし、おまけにいつ挙げるつもりなのかも全然教えてくれないし。
ここにいる誰より、当事者の花嫁の私が一番知りたい。

準備があるのよ。ブライダルエステのないこの時代、準備にはすっごく時間がかかるんだから。
絶対嫌よ、人生に一度の晴れの日の前日に万一夜通しのオペでも入って、目の下真っ黒い隈のまんま結婚式挙げたりするのは。
写真がないのは、ある意味ラッキーだわ。そんな顔が残んないで済むもの。
だから教えてよ。どうするつもりなのか。

「・・・言うつもりは、なかった」

あなたは大きく息を吐いて、椅子にぐったり背中を預けて、顎を上げて天井を睨んだまんまで、ようやくボソッと言った。

ヨンの呟き声にチェ尚宮が柱に預けた背を起こす。
チュンソクがチェ尚宮に当てていた視線をヨンへと戻す。
ウンスは卓上にもじもじ動かしていた指先を思わず握り込む。
「たかだか俺達の婚儀、この方と二人が知っていればそれで良い。
誰にも知られず夫婦の契りを交わし、俺達だけが知っていれば良い」

ヨンはようやく上げていた顎を引き、己に視線を当てる三人を順に見て言った。
「そう思っている。今でもな」
「ヨンア、お主」
掛かるチェ尚宮の声を上げた右手で制し、ヨンは声を続ける。
「そうもいかぬと此度よくよく身に滲みた。王様には王命まで頂いた」
うんざりした声音に、チュンソクが笑いを噛み殺す。

「故に、陣を敷き直す」

肚の中の全く読めぬ眸で見詰めつつ、全く読めぬ声音で、ヨンは告げた。

 

 

 

 

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1 個のコメント

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    さらんさん、こんばんは❤︎
    勤務時間を除き、さらんさんのサイトに釘付けになっておりました\(//∇//)\。
    好きな友達の家に、朝から遊びに来て、居心地の良さに、オヤツやランチどころか、お風呂まで入れて貰ってる悪ガキのようです、私…(・_・;。
    さて、ヨンが敷き直しを図ろうとしている陣とは⁈
    ひっそり契りを交わして、いつの間にか夫婦になるおつもりだったのですか?
    それを大々的な婚儀に変更とか…?
    ああ、長髪じゃないから、掻き毟るとテマンみたいになっちゃうけど、髪をクシャクシャにして頭をふるふるしちゃいます´д` ;
    さらんさん、楽しみの時間をありがとうございます❤︎
    いい気になって、たくさんリクエストしちゃうかも…です(#^.^#)

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