紅蓮・勢 | 45

 

 

その足で回廊を大股で抜け、東門前のあの方へと戻る。
「ウ・・・軍医殿!」
大声で呼びながら足早に寄るこの姿に、地にしゃがむ小さな白い顔が弾かれるように上がる。

「終わった?」
駆け寄った俺を嬉しそうに下から見上げ、 この方がにこりと微笑んだ。
「ええ。今から手伝います」
「うん、でももうほとんど終わったから大丈夫」
そう首を振る姿をじっと上から見つめると、
「あのね、今縛られてる人の左手首」
そう言ってこの方が手近な兵の左手首を目で示す。そこには黄色の糸が結ばれている。

「トリ・・・ああ、それはいいんだけど、とにかくあの糸の色が、目印なのよ。
今回は、黄色なら水を飲ませて、横向きに寝かせて。
赤ならすぐに病室に運ばなきゃいけないし、黒ならもう助けてあげられないけど、幸いまだいないわ。
緑ならそのまま寝かせておいても、座る方が楽なら座ってもらってもいいわ。その目印。
今回飲んだのは睡・・・眠り薬だし、重篤患者はいないし、今後の訓練にもなる」

矢継ぎ早のこの方の声に俺は頷いた。
糸さえ結んでもらえれば、あとは周囲の兵が協力できる。
水を飲ませたり、立ち上がらせるだけならば。その分この方も少しは楽になろう。
俺が横に付く中、確かめるようこの方は、次の兵の脈を診る。
そしてその耳に口を近づけ、そこへ向かって言う。

「聞こえる?聞こえたら目を開けてみて」
兵が目を開けて頷くと、
「立てる?歩けそう?」
兵が茫とした顔で首を振ると手首には黄色い糸が結ばれ、体が横向きにされた。
「このまま横になっててね。仰向けにはならないで。すぐに水を持ってくるから」
兵はゆっくり頷き目を閉じた。
すぐに迂達赤の奴が抱えた木桶から柄杓に水を汲み、その黄色い糸を結んだ兵の口に含ませる。

「これも、天界の医術ですか」
この方は次の兵へと移りながら俺を見上げ
「医術なのかなあ。賛否両論あるのよ、先の世界でも。患者を選ぶってことだから。
全ての患者を救う原則から外れてるんじゃないかって」
そう言って首を振った。

「野戦病院や大事故、災害とか、圧倒的に器具も薬も医者もナ・・・薬員も、足りない状況でだけやるべきなの。
診る人間によって、判断にも違いが出てくるしね。
今回はさすがに患者が多すぎてこうしてるけど、普段ならやりたくないなあ」
よく判らぬが、つまりは兵の判別をしているのだな。
直ぐに治療が必要か、さもなくば後にして問題ないかと。
それのどこが悪いのだろう。
こうして一人一人に声を掛け、十分 必要な手を差し伸べて居る。

先刻のイ・ソンゲの声が蘇る。味方でも斬り捨てると言ったあ奴とは違う。
そんなあなたが心を痛める必要が、何処にあるのだ。
周囲を見渡せば縄で繋ぎ並べた兵の列の彼方此方で、鷹揚隊の隊医たちも同じことをしている。
その顔にはこの方のような痛みも悩みもなさげに見える。

「手伝います。何が出来ますか」
この方の横に膝をつき訊くと、この方が顔を上げ此方をじっと見る。
「ありがとう」
頷いてその瞳が笑んだ。

この方が兵に声をかけ、血脈に指を当てる。次にその口鼻に手を当て息を確かめる。
全て反応がなくば黒糸を結ぶが、今のところそれを結んだ兵はおらぬとの事だった。

意識の有る無し、声に答えるか答えぬか。無しなら赤糸を結ぶのだという。
見る限り今の処、赤を結ばれた兵は見当たらん。
答えたならば、動けるか否か。動けるならば緑、歩けねば黄の糸を結ぶ。
緑ならば起こし、黄色なら横にし水を含ませる。

こうして次々に、目の前に兵に声を掛けて行くこの方の横。
緑の糸の兵を拘束する紐の結び目を少し緩め、体を起こす。
黄の糸の兵の体を横へ向け、迂達赤が水をやるのを確かめ、次の兵へと移るこの方を追う。
その合間に牢車へと目を遣れば、その周囲は確りと鷹揚隊に護られている。

問題はなさそうだと息を吐く。
こうしているだけで刻が過ぎて行く。
早く片付け、この方を休ませねば。

 

 

 

 

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2 件のコメント

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    さらんさん、仕事に追い立てられた今日でしたが、先ほど帰宅し、ぜいたくなことに2話続けてお話を拝読させて頂きました。
    ありがとうございます!
    ウンスのトリアージ、お見事ですね。
    彼女の別け隔てなく配意する優しさが、例え敵であっても、通じるものだと思います。
    さらんさん、おやすみなさい

  • SECRET: 0
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    トリアージに賛否両論あるとは知りませんでした。勉強になります。
    ウンスのプロ意識に改めてうならされました。
    ヨンもウンスも仕事に信念があるから眩しくみえるのかなと考えてしまいました。深いです。
    また、楽しみにしています。

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