【 蓮華 】
「な・・・」
篝火に照らし出される薄明かりの中。
目の前でお互いの顔をじっと見合わせる。
ぽっかり空いたその口が、ああ、今にも叫び出しそう。
慌てて唇の前に指を立てたのに、その前に口が開いてそこから大きな声が漏れて出た。
「にをしておられるのですか医仙、ここで!!」
チュンソク隊長の叫んだ口を両手で急いで塞いで、私は懸命に頭を振る。
焚かれた篝火の揺れる灯の中、目の前に突然現れた信じられぬお姿に愕然として立ち尽くす。
狐に抓まれるとは正にこういう事か。
いや、おかしいとはどこかで思っていたのだ。
思っていたからこそ、薄暗い陣内を注意深く虱潰しに探していた。
昨日、矢で射られた兵が。
一昨日、浅い刀傷を受けた兵が。
一昨々日、槍で掠り突かれた兵が。
翌日には止血され、確りと手当てを受け戦場に出てきた。
それも怖がりもせず、士気を高めたままで。
大護軍がその兵たちを呼び止めたのは、そんな事が三日も続いた夕刻だった。
「どの医官に手当てを受けた」
そしてその問いに、兵は揃えて首を振ったのだ。
医官は顔を布で隠しておりました、医官帽を深く被っておりました。
人相は分かりません。ただとてつもなく腕の良い女人の医官でした、と。
夕方の戦場の陣内は、もう一つの戦場だ。
彼方此方に焚かれた篝火の中、鎧姿の兵らが薄闇の中を歩き回る影。
その軍沓が、乾いた地を踏みしめる足音。
昼の戦に興奮した馬たちは嘶き、夜襲に備える歩哨たちが立つ。
使った武器を手入れし翌日の戦に備える姿やら、飯を掻き込み、その日の疲れを取る奴らの姿が交叉する。
そんな中を俺も歩きまわっていた。
陣内の逆の端を恐らく大護軍も歩いて探しておられる。
そして中央は、鷹揚隊のアン・ジェ隊長が。
覆面の女医官。一体誰だ、そう思いつつ。
「戦場の陣内、女人であれば厭でも目立つ」
その日の戦が引けた後。急拵えの天幕に大股で踏み入りながら、大護軍は鋭く言った。
「は」
俺はその後に従いながら返答した。
「厄介なのは」
大護軍は設えた卓の椅子に腰掛け、横の椅子を顎で示した。
俺はそこへ腰掛けながら、大護軍をじっと見た。
「ええ。万一何らかの目的で、間者でも紛れていれば」
俺の声に大護軍は頷いた。
「以前のような迂達赤だけの作戦ではない。これ程人数が増えていれば、全て顔見知りと言う訳にもいかん」
「しかしそんな者が、わざわざ傷を負った兵の手当てをしますか」
「だから判らん」
大護軍は考え込むよう、鎧の胸元で腕を組み黙り込んだ。
「チェ・ヨン」
大声で呼びながら天幕の入口から、アン・ジェ隊長が滑り込む。
「何か判ったか」
「分かったどころではない。鷹揚隊でもごろごろいた。謎の覆面の女医官に手当てを受けた兵どもが」
そう言いながら卓まで進むと、アン・ジェ隊長はどかりと音高く俺の対面の椅子へ腰を下ろした。
「覆面。医官帽。女人」
大護軍はアン・ジェ隊長の報告を聞くと、独り言のよう呟いた。
「まさか、な」
その声に俺は首を振った。
今大護軍がどなたを想像しているか、肚裡は聞かずとも分かる。
「ま、さかでしょう」
そしてアン・ジェ隊長はその声に、俺たちを見比べ首を傾げた。
「何がまさかだ、二人して」
「いや」
大護軍は短く息をつくと、席を立った。
「探せ。覆面の女医官。鎧を着て擬装している可能性もある」
そう言って、腰掛けたままの俺たち二人を見下ろした。
「チュンソク」
「は!」
「陣の南から西を。アン・ジェ」
「おう」
「目ざとい奴を二人ほど連れ、この天幕周りからぐるりと中央を。特に今日傷を負った兵たちに詳しく聞け」
そこまで言うと大護軍は踵を返し、天幕の入口に降ろされた布簾を鬱陶しそうに手で煽り、隙間から薄闇の外へ飛び出した。
残された俺たちは一瞬顔を見合わせると、慌てて椅子を蹴り立ってその背を追った。
「テマナ」
駆け寄った奴の影に、俺は振り向かず声を掛けた。
「はい、大護軍!」
「万一だ。しかし、あの方を探せ」
突然の声にテマンが背後で息を呑む。
「う、医仙ですか」
俺は黙って頷いた。
「鎧を着ておるかもしれん。見逃すな、良いか」
「わ、分かりました」
そう言うとテマンの気配が背から離れた。
奴であれば姿形でなくあの方の気配で判る。
俺は息を吐き、星の出た空を仰ぐ。
まだ疑問の域、それでも確信に近い。
真冬でなかったのが幸いだ。それでも冷える。春まだ浅い。
早く見つけてやらねばならん。

新リク話【 蓮華 】 始まりました。
214. 無題
212. 無題
再度挑戦します。
なんか、ものすごい数のお話になってしまって
申し訳ないのですが…。
ヨンが戦場に向かって、来てはいけないと言われていたウンスが
やっぱり心配だからこっそり来ていて、手当てや治療をするうち
ウダルチや兵士に憧れの的となるお話。
ウンスが、医師として活躍するお話をみたいです。
(ヘンセルさま)
こんなお話です。ヨンで頂けると嬉しいです❤
今日もクリックありがとうございます。
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ウンスさん 潜入はできたんだ
でも見つかるのも 時間の問題。
すでに ヨンはウンスの心配が始まった。
留守番と戦場じゃ 心配の度合いが違うしね~
嵐を巻き起こす 女 ウンス…
ヨンが心配だったのかな? ウンスさん
ぽっぽもビックリでしょう!
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さらん 様
こんばんは。
オールスター戦を思わせる登場人物に心拍数が上がっちゃいます(*≧∀≦*)
チュンソク、本編からの間の悪さは継続中ですか(#^.^#)
追伸☆ミ
訂正の早さも神業ですねっ
クリック後、直ってる文字に幻を見たかと(〃∇〃)
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新しいお話、初回からワクワクしています。
ウンスが陣営に密かに紛れ込み変装したとしても治療にあたってしまったらすぐバレちゃうでしょうに^^;
チュンソクさんが先に見つけたようですが、ヨンはこの先どうするのでしょう!
つづき楽しみにしています♪♪♪
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さらんさん❤
新しいお話が始まりました!
土曜の夜に、わくわくするお話を届けて頂き、本当にありがとうございます。
宴席から帰宅し、着替えもそこそこにPCの画面に向かっています(*^_^*)
あああ~、リクエスト内容は事前にお知らせ頂いていましたが、さらんさんの筆の力たるや、ホントに見事です。
「女人の医官はウンスだろう」とわかっていても、え?どうして? どうやって付いてきたの?
で、どうなるの~?と、ぐいぐい引っ張られていきます。
しかも、最後のヨンの言葉が良いじゃありませんか!
早くみつけなければ、ではなくて
早くみつけてやらねば、ですよ!
こういう、一つひとつの言葉のチョイスが、さらんさんの素晴らしいところでもあるのです❤
今回も間違いなく、ハラハラ&ドキドキ、ワクワク感たっぷりの期待度マックス!
さらんさん、土曜の夜なので、私はいつも以上に夜更かしをして、さらんさんの作品を読み返させて頂こうと浮き浮きしています。
さらんさんも幸せ気分の夜をお過ごしになれますように(*^_^*)
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次々出てくるお話、
それも骨格がしっかりしてるので、
読んでいて楽しいです。
もう、キリンの首。待ち遠しく!!
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最初から引き込まれて読みました!
戦場で女人は目立つし,直ぐに見つかりそうですね。
ヨンにお説教されてしまいそうですが( ´艸`)
でも,来てしまったのだから,ウンスの外科医としての腕の見せ所ですよね。
ドラマ本編では,前半しか手術シーンは無かったから,このお話でウンスが活躍する姿を見るのを楽しみにしています♪
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そう聞いて、真っ先に思い浮かぶのは、間者よりウンスちゃんですよね。
ダメと言われたのに、ついて来ちゃったのですか。
チェヨンくんに叱られたくないから、ウンスちゃん隠れているのですね!(^^)
どうなることやら、とっても楽しみです。
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ワクワクするお話始まりましたね~(≧∇≦)
とっても楽しみです‼️
続きをお待ちしています(^^)
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さらんさん、おはようございます。
今回もまたまた面白そうなお話の始まりにワクワクです!
風邪のほうはもうすっかり良いですか?
私もやっとどうにか復活★&花粉症の始まりにウンザリ・・・。。
さらんさんのNEWなお話で花粉症、蹴散らします!(笑)
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きゃ~!始まりました!去年の12月よりずっと待っておりましたが、なんせ214番でしたし、まだまだ先だと思っておりましたが、忙しい毎日を過ごしていると、あっという間にこの日が来た!という感じです!
やっぱり最初にみつけたのは、チュンソクでしたか(笑)
でも噂から始まることとか、話の展開がワクワクします!なんか、私もそこでこっそりのぞいていう感じ・・・。にやにやしております。
ありがとうございます。今後の展開を楽しみにしております。よろしくお願い致します(*^_^*)
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リクエストの話の発想がすごい!
それをお話にできるさらんもっとすごい!
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>くるくるしなもんさん
こんにちは❤コメありがとうございます
此処からまた、波乱の展開です。
此度はヨンも、甘い顔をする気はなさそうです・・・
暫しお付き合い頂けると嬉しいです( ´艸`)
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>mamachanさん
こんにちは❤コメありがとうございます
あはは、確かに久々、オリキャラなしのオールスター戦ですw
このところテウやらヒドやらが頑張っていたので、
チュンソク若干前のめりで頑張っております(爆
暫しお付き合い頂けると嬉しいです❤
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>muuさん
こんにちは❤コメありがとうございます
此度は、ヨンも甘い顔をするわけには行きません。
何しろウンスが来たのは戦場、命の遣り取りが行われる場所です。
書きつつまたも胸塞がる思いですが(またか!
この後、別のリクでただひたすらに、甘い甘い、脳まで痺れる
甘いお話が書けることを祈りつつ・・・
暫しお付き合い頂けると嬉しいです❤
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>yokoさん
こんにちは❤コメありがとうございます
骨格、しっかりしていると思って頂けると嬉しいです❤
実はこの陣営すらも、イメ画があるというw
実は画像フェチだ自分、と最近実感します(;^_^A
暫しお付き合い頂けると嬉しいです❤
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>すんすんさん
こんにちは❤コメありがとうございます
さて、此度はヨンも甘い顔はできなさそうです。
書いていて胸塞がれる言葉の数々(まただ)
暫しお付き合い頂けると嬉しいです❤
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>ポチッとなさん
こんにちは❤コメありがとうございます
はい、付いてきちゃいまいました。
それがどんな結果になるかも知らず。
此度はヨンも、甘い顔を見せる訳には行きません。
書いていて胸塞がることも多く。
暫しお付き合い頂ければ嬉しいです❤
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>のりちゃんさん
こんにちは❤コメありがとうございます
楽しみにして頂けると嬉しいです( ´艸`)
暫しお付き合いくださいませ❤
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>★sachi★さん
こんにちは❤コメありがとうございます
おお、花粉症とは(ノ_-。)
こればかりは、お天気と自然が相手ですから
どうかマスクを、そしてゴーグルを・・・!
私はほぼ回復し、何故か此度の点滴時からド嵌りした
桃天をごきゅごきゅ飲みつつ、楽しいお話書きの休日の午後です❤
花粉症がぶっ飛ぶくらいのお話、頑張りますo(^-^)o
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>ヘンセルさん
こんにちは❤コメありがとうございます
素敵なリク、ありがとうございました❤
そして長らくお待たせいたしました(;´▽`A“
楽しんで頂ければ何よりです❤頑張りますo(^-^)o
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>やすよさん
こんにちは❤コメありがとうございます
このリクを募集させて頂いた時、本当に
いろいろなお話を頂いたのです。
それはもう、驚くほどのバラエティに富んだ
素晴らしきアイディアの数々を。
全てお話に出来れば、とも願ったのですが、何しろ
頂いたその量が、私のキャパシティを軽く超え。
こうしてキリ番だけを書かせて頂いていますが、
あの時のコメは、すべて私の宝です。
私がすごいのではなく、そんな力をいつも下さる皆さまが、本当にすごい(〃∇〃)
感謝するばかりの至らぬ書き手です。
そんなすごいリク話、暫しお付き合い頂ければ嬉しいです❤
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いつもいつも楽しみにしています。
今回の、出だしの
なにを の な がないところにとてもハマってしまいました。まさにそういう反応しそうで、字幕も絶対そうだなと。まとまりませんが、気持ちが溢れすぎてコメントさせて頂きました。いつも書いては消すコメントですが、この気持ち、楽しみにしていることがお伝えできたら嬉しいです。
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>kotomisa884さん
こんばんは❤コメありがとうございます
そんな風に始まりそうと思って頂けると嬉しいです。
kotomisa884さまのお心、確り受け取りました。
楽しんで頂けるお話になるよう、頑張りますo(^-^)o