2014-15 リクエスト | 邂逅・10

 

 

初めてのこの地に、初めての夜が来る。

木の幹を殴りつけた拳に血が滲む。それを舐め取り、俺は空を仰いだ。

月だ。
あの時のような月が出ている。

ソンジン、月がきれい。

そんな声が聞こえる気がする。
俺の横に立ち空を見上げる、白い小さな横顔が見えそうな気がする。

ウンス。

空を見上げて心で呼ぶ。恋しいと、これ程思う。
この腕の中に囲ってしまいたいと、これ程望む。
あの男になど、いやどの男にも渡したくないと。

それが許されない事を、誰より知っていた俺が。

お前が扉のこちらで幸せだと信じていた。
ああそうだ。幸せにするため帰したのだ。
あんな姿を見る為ではない、絶対に。それなら俺が護りたかった。

何故俺はあの時、ウンスが心に想う男が一人と知ってあれ程に安心したのだろう。
何故あの時、俺では駄目かと、もっともっと強く、悔いが残らぬほどに強く真直ぐお前に乞わなかったのか。

それでお前の心が動けば、俺は狂喜したろうか。
それとも、裏切られた思いになったのだろうか。
一つだけ分かるのは二度と譲らぬ、それだけだ。
チェ・ヨン。何があろうとお前には絶対譲らぬ。

何故だ。何故あいつを傍に置き、深手を負わせる失態を仕出かした。
俺ならば絶対に、そんな目には遭わせなかった。

何故だ、何故あいつを部屋に残し平然と部屋を出て行く事が出来る。
俺ならば絶対に、あいつを一人にはせぬものを。

お前の声が俺を呼ぶ響きを聴くだけで、心から幸せだった。
ソンジン。
あの明るい声を聞く為に、何度お前の庵へ足を運んだろう。

お前の笑みを見ているだけで嬉しく、何でもすると思った。
そしてお前の嫌がることは決してせぬと。
宿を抜け出で、庵に立ち入らずとも、離れたままで静かな息を感じていた。

お前に助けられた河原で。共に過ごす仮暮らしの庵で。
お前の泣き顔を見た、夏星夜の庭で。
初めてお前の告白を聞いた宿で、何故思い切り抱き締め心を伝えなかった。
何故あれほど傷つけるのが怖かったのだ。
俺は何を己に課し、何を堪えていたのだ。

その結果が無言で寝台に横たわるお前の姿なら、俺は二度と遠慮などせぬ。

今の俺はその背を押したことすら、悔いしかない。
あの細い背は押すべきではなく、抱くべきだった。
ここに居ろ、俺を選べと、無理にでも。

木の幹に背を持たれたまま、幹沿いに地に滑り落ち、俺は大きな息を吐く。

チェ・ヨン。お前には、絶対に渡さぬ。
俺は二度と、あの背を押すことはない。
次にそこに触れる時は、迷わず抱き締める。何処へも行かせぬ。

 

******

 

ソンジン。

ねえ、ソンジン。

白く明るい光の中で、お前の声に目を開ける。
綺麗だ。何もかも透き通るように白く明るい。
寝台の上に横たわるお前の、白い顔のように。

どうしてここにいるの。あなたは逢えたの?

誰に逢えたと訊ねておるのだ。
お前に逢う為、約束どおり俺は門をくぐった。
他の誰に逢うためでもない。

違う、そうじゃないの。
あなたは、あなたの運命の人と逢わなくちゃ駄目。

俺の運命があるとすれば、それはお前だ、ウンス。

そうじゃないの、ソンジン。
「私」は「あなた」の運命の人じゃない、お願い、分かって。
分かってくれなきゃ、幸せになってくれなきゃ。

そう言って、お前の温かい指が、俺の眉に触れる。
お前の縫い合わせたあの傷に触れる。何度も優しく。

分かって、気付いて、ソンジン。
「あなた」の運命の人がどこかに必ずいるの。
見つけて。その人は今きっと静かに呼んでる。
きっとあなたを想って苦しいくらい探してる。

お前以外の運命など要らぬ。俺にはお前しか見えぬ。

ソンジン、そんな事言わないで。
お願いだから幸せになって。 そうじゃなきゃ。

そうじゃなきゃ、そうでなければなんだと言う。
お前以外の女は要らぬ、俺にはお前しか見えぬ。
二度と手を離す気も、その背を押す気もない。
覚えておけウンス、お前を奪うために俺は来た。
あの男、横のお前を護ることすら出来ぬ腑抜けに、お前を譲り渡す気など金輪際ない。

ソンジン、駄目。
そんな事言わないで。 お願いだから、幸せになって。
そうじゃなきゃ「私」の「あの人」が苦しんでしまう。

「あなた」が「あの人」を苦しめないで、お願い。

だって「あなた」は「あの人」の

 

 

 

 

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10 件のコメント

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    さらんさんこんばんは。
    さらんさんの返信コメをよむ前に
    コメをしているので
    コメがちくはぐですみません。
    ソナと会う前のヨンより少し若い
    ソンジン。
    たしかに若さが出ています。
    怒り具合が…(°▽°)
    夢ではウンスはソンジンがヨンの
    前世と解っていますね。
    さて起きたウンスはどうするのか?
    続きが気になります!
    そしてあの謎の華柁
    もしかしてチャン侍医の前世?
    なわけないか…(*_*;

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    今夜はソンジンとウンスなのですね。
    なんだかソンジンが哀れになってまいりました。可能性は無いのです。わかっているのに怒りが勝っている為に考えないようにしているのでしょうか。
    ソンジンはこれからどうすればいいのでしょう…

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    あ~ん せつないです
    ソンジン
    ウンスの気持ちは 通じるのかしら
    そうじゃないと 困るのだけどね
    なんて 泣けるお話なんでしょう
    ウンスさん! はやく 治って

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    さらんさん、こんばんは。
    出張先の台湾のホテルで、さらんさんの素敵なお話にハラハラしています。
    ソンジンの若くて青くて一途な愛は、もう誰にも止められないんですね…。
    ウンスの傷が癒えても、ヨンとソンジンは互いに心に深い傷をつけあっていくのかな

    さらんさん、毎朝晩、お話の更新をありがとうございます。
    寒い夜、温かいお茶とお菓子でも差し入れさせて頂きたいくらいです。
    どうか、お風邪など召しませんようにね。

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    >愛知のひとみさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    そうですね、もう時間軸として、これはウンスが
    100年前から帰って来て、かつ皇宮から二人で出ているので
    帰京後の初めての夜にヨンの告白を聞いた【曼珠沙華】以降ということで、
    完全に知っている事になり。
    もうこの辺りは、過去作品の時空軸を読み進めて頂くしか・・・ですが(;^_^A
    侍医の過去世ではないです。種明かしはお話内にて❤

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    >あみいさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    ソンジンはもう、自己昇華しかないです。
    納得し、理解するレベルではなく、運命とはそもそも
    道理や力の通用するものではないと、骨の髄まで思い知るしかないと・・・
    それが辛ければ、そもそも運命を語るべきではなく。
    ええ、書き手はキャラを千尋の谷へ突き落すのです!(´Д`;)

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    >くるくるしなもんさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    もうそもそもソンジン×ヨン×ウンスとなった時点で
    組み合わせは決まっており、ソンジンは辛い想い決定だったのですが
    それが短いと突発的すぎ、ソンジンは全く理解できぬまま
    置いてきぼり状態ですし・・・と考えれば考える程
    話は長期化していき・・・の無限ループです。
    キャラなんて関係ない、書きたいとこだけぱっと書いて
    ご都合で終わらせちゃえ~との誘惑と、毎回どれ程戦うか(^_^;)
    そして書きたいとこだけぱっと書いたのが、
    一服処ですw
    ウンス、ぼちぼち目覚めの刻です。

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    >muuさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    台湾よりのコメント嬉しいです❤
    週末出張、お忙しいと思います。
    どうぞ無理されずのんびりと、そしてお仕事頑張って下さいませ❤
    あじゃあじゃo(〃^▽^〃)o

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