2014-15 リクエスト | 龍の咆哮・6

 

 

「積極的にお散歩に出て頂くのは、とってもいい事です。
気分転換にもなるし、適度な運動は体重の増加も防ぐし。
体重が増えすぎると、お産の時心配ですから」

医仙がうんうんと頷いて、目の前の椅子に腰掛ける王様と媽媽ににっこりと目を当てた。

「ただこの暑さです。水分補給はこまめに、時間帯も気をつけて下さい。
朝のうち・・・うーんと、辰の刻から巳の頃、それか申から酉の刻くらいが丁度いいかなと思います。
暑すぎたり、暗くなって足元が見えにくくても危ないので」
その医仙の声に、御二人が頷く。

「お散歩の時は、必ずどなたかとご一緒にお願いします。皆さん忙しければ、私が付き添います」
申し出た医仙に、王様が御首を振る。
「いや、その心配はない、医仙。寡人が付き添う故」

そうおっしゃり、媽媽へとお目を当てられる。
そんな王様のご様子を拝するたび嬉しさの余り胸が詰まる思いで、笑みそうな口元を引き締める。
このように穏やかにお笑いになる王様を拝するのは本当に、どれ程久々の事であろうか。

窓の外には、夏の太陽が照らす皇庭が広がる。蝉の大きな声が木々から降る。
また今日も暑い一日になりそうだ。
皇庭の花が枯れぬよう、明日はまた早朝から水撒きをするよう命を出しておかねばならぬ。
康安殿の王様のお部屋。
大きく開いた窓から吹き込む風は、まだ朝も早い頃というのに熱気を孕んで生暖かい。

「夏のこの時期に8か月というのは辛いと思います」
医仙の言葉に、媽媽が静かにお首を振った。
「大丈夫です」
「そうですか?良かった。その代わり、冬の間は御子様は媽媽があげた免疫力で頑張れます。
だいたい生後5、6か月は。そして来年の冬は、少しずつ体力もついている頃ですから」
その時媽媽が、だいぶ目立ち始めた御腹に手をやり息を吐く。
「媽媽」
そのご様子に思わず声をお掛けすると、媽媽は私を振り向かれ
「大事ない、チェ尚宮。ただ、少々元気に蹴るだけだ」

そうおっしゃると本当に嬉し気に微笑まれた。王様が媽媽の大きな御腹に手を当てられて、
「これ。少しはおとなしくせねば、母媽媽がお辛いぞ」
そうおっしゃりながら優しく撫でられ、次に驚いたように御目を瞠られる。
媽媽にはその意味がお分かりになるのか、ふふとお声をたてられた。
「父媽媽の御手を蹴るとは、けしからぬ御子です」

その御二人の夢のような御姿に、深く頭を下げる。
媽媽のご懐妊が発覚して以来、こうして毎日何かに感謝している。
御二人に御子を授けて下さった天か、そして神仏のご加護か。
ふと見れば医仙も、本当に嬉し気に目の前の御二人を見つめている。

「腰や膝が痛かったり、背中や足が攣ったりされませんか?」
「いえ、そう言ったことはなく」
「良かった。違和感があれば、すぐに鍼か灸で対処します。
もう少しすると、体がお産に向けて変わって来ます。
足の付け根が外れるみたいにカクンとしたりしますから、歩くときは十分気をつけてください」
「はい」
媽媽が、医仙を見つめて頷かれる。
王様がご一緒でないときは、武閣氏の距離をもう一歩づつ媽媽へお詰めするか。
医仙の言葉を聞きながら媽媽の横で頭を垂れつつ、私は肚の内で配置を案じる。

 

「トギ」
私を呼びながら、テマンが薬園に勢いよく駆け込んでくる。
どうした、手でそう問えば
「いや、ただ顔を見に来た」
そんな不思議なことを言って、額にかいた汗を掌で拭いながら笑う。
その笑顔に、私もつられて笑う。そして慌てて言う。
こんなに暑いんだから、無駄に走り回るな。
その私の文句に、テマンは素直に頷いて
「医仙は、まだ忙しいのか」
私に向かって心配そうに尋ねる。

うん、忙しそうだよ。キム先生と一緒に薬を作ってる。
生まれ日までに必要なものを、順に用意してるみたいだ。
残りの時間は、康安殿か坤成殿に詰めきりだよ。
指でそう教えると、テマンはふうんと息を吐く。
「俺、すごく簡単に考えてた」

汗を心配して渡した水の茶碗を受け取って、ありがとう、と笑った後にテマンが言う。
何を?そう聞く指を見ながら、
「簡単じゃないんだな。王様と王妃媽媽だからなのかな」

そう言って、少し考えるみたいに庭の忘憂草の群れを眺めて。

「子が出来る事。子を産む事。自然に誰かを・・・」
そう言って首を捻ってからしばらく空に目を投げて、何となく言葉を探してる風に指で顎を掻いて。
それでも思いつかないのか、頭を振って。
見てるこっちに気付いたのか、その目がここに戻る。
そして目と目があった途端、テマンの顔が赤くなる。
赤くなって慌てたように、さっき渡した水をがぶりとその茶碗から飲み込んで。
「簡単じゃないんだな」

簡単なもんか、人が一人生まれてくるのが簡単なわけがない。
私がそう言うと、テマンは頷いた。
「すごいんだな」
そうだよ、すごいんだよ。
産むほうも、生まれるほうも待ってるから。
産むほうも、生まれるほうも命懸けだから。
そう言う私の指をじっと見る。

「俺も、お前も、そんな風に生まれたんだな」
渡した水に今度はゆっくり口をつけながら、テマンは嬉しそうにそう言って大きく笑った。
「お前の役目はそんなみんなを助ける事なんだな。すごいな」
あんただってすごい。そう言う指にテマンが首を傾げる。
「そうなのか」

そうだよ、そうやって生まれた皆を守ってる。
皆の為に、そうやって生まれたひとつしかない体を、ひとつしか持ってない命を差し出してる。
あんたも、あんたの大護軍も、迂達赤のみんなも。
だから感謝するんだよ。そして心配するんだよ。
無駄にしちゃ駄目だよ。無事に帰って来なきゃ。
そう言う私に頷いて、テマンは指を差し出した。

「うん。分かった」

その指を見る。これは、医仙のあの天の約束だ。
私はさっきまで薬草を摘んでいた掌の小指を立てて、そこに絡ませた。
テマンの大きな手。私の小さな手。
小指どおしが絡むとテマンの小指は力を込めて、私の小指をぎゅっと捕まえた。

 

 

 

 

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12 件のコメント

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    8か月、もうすぐですね(*^^*)
    御子も無事にスクスク育ってくれているようだし
    ご誕生が楽しみです♪♪♪
    テマンとトギの生命についての会話がジンときました。純粋なあの2人が生命の大切さを語り合って天界流の約束で小指を絡ませる場面を想像するとジンとしました(^.^)

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    久しぶりの お二人さん
    付かず離れず 良い距離で…
    いい関係ですね~
    御さまも お腹の中で
    元気に御育ちのようで
    なによりです。
    さ~ これからですね 
    ウンスさん

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    テマンとトギに涙腺崩壊です…>_<…
    王様と王妃の微笑ましい姿に、自然と周りが笑顔になりますね
    無事に生まれます様に♡

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    さらんさん!今夜もさらんさんの素敵なお話をありがとうございます❤
    昨夜はネットがとんだアクシデントでしたね。
    きっと、さらんさんもごヤキモキされているのでは…と思い馳せていました。
    さて、媽媽のお腹もだいぶ大きくなったようですね(#^.^#)。
    みんなが大事に大事に見守っているのですから、王子様でも王女様でもどちらでも良いので、元気いっぱいに誕生して頂きたいものです❤
    あ、そうそう、誰よりも待ちかねていらっしゃる王様のこと。
    媽媽に内緒で、信じられないくらいたくさんの玩具や服などを準備されているような気がします。
    それに、愛する媽媽にも、何かお礼の品を用意されているのでは?
    (*^_^*)うらやましい~!
    頑張ったウンスも、ヨンから何かご褒美を頂けるといいですね❤
    あ、そうそう! もう一人、大事な人を忘れておりました。
    日々お仕事に、そして私たちのためにお話創りに頑張って下さっているさらんさんにも、素敵なご褒美を差し上げたい~ヽ(^o^)丿

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    さらんちゃんの言葉のひとつひとつが
    心に留まります。
    王様のお気持ちは天にも昇る?(笑)
    でも世の一般男性と同じ・・・・
    だって同じ心ある人間ですものね?
    産むほうも、生まれるほうも命懸けだから♡
    私も思い出します(何年前なん!)エヘヘ^^;
    心音停止したので緊急手術か?って言われて
    47時間水だけで頑張った(頑張らされた)
    そこまでして自然分娩にこだわる先生を
    一瞬恨めしく思った私はアホですTT
    でも産まれてくれた時は本気で「宝」って
    つけようと思いましたもんね。。。却下でしたが。
    個人の想いでまで引き出すさらんちゃんに
    やっぱり感謝と拍手を贈ります・・・・
    ありがとう(〃∇〃)

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    >まろんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ウンスがチェ尚宮コモにスルーされた分、ここで二人が指切りをw
    あの二人は、もうなんかまた、二人の独自の世界がありそうです・・・
    イムジャカポーや、王様媽媽とは別の意味で♡

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    これからですね・・・
    いえ、もう終了しましたが(;^_^A
    最近コメ返が遅く、本当に申し訳ないばかりですm(_ _ )m

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    >ユッチさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    トギとテマンの二人は、また二人の世界がありそうです。
    二人とも、より本能に近い感じなのかなー・・・
    我が家の良心カポーです。いつも良い子たち♡

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    >muuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    きっと、すごくたくさんのものを用意していると思います。
    最後に、動揺しまくってヨンにまでおかしなことを聞いていましたし
    常軌を逸しているとしか(;^_^A
    いつもシニカルさが先に立つ王様、たまには狼狽えるも善しです❤
    今日はまた寒いです・・・muuさまもお体ご自愛くださいませ(*v.v)。

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    >victoryさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうなのです、もう想像力と、周囲からの経験談が全て・・・
    やはり出産は人生の一大事業だと思いますし、
    経験のない人間が書くには限界がありますが。
    思い出して頂けることがあれば、とても嬉しいです(●´ω`●)ゞ

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    トギとテマンの二人も、また二人独自の時間枠が・・・
    さらん家の良心カップルです❤
    リクでは、だーいぶ書いたような気がするなあ、と(●´ω`●)ゞ

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