2014-15 リクエスト | 龍の咆哮・5

 

 

すっかり花びらの落ちた大きな桜の木が見える窓の外。
花の季節が終わった枝には、きれいな新緑が茂ってる。
日増しに温かくなって来る春の日差し。
季節もすっかり変わって、媽媽がお風邪をひく心配も少なくなってきた。

その春の日差しがいっぱいに差し込む窓際。
壁に貼られた手作りカレンダーを指先でなぞりながら、あなたが振り向いてふと笑う。

カレンダーは5枚目。

「忙しかろう。辛くないですか」
カレンダーの貼られた壁の前から離れて、私の向かいの椅子を引いて。
そこに腰掛けながらあなたが聞く。

「もう安定期だから。これからは必要なら薬湯もお飲みになれるし、様子を見ながらゆっくりやってく。
皆もいるし大丈夫よ」
答えながら息を吐いて、凝った肩を回した。
確かに安定期に入るまで、久々に典医寺に宿直したりしたものね。
「もう宿直は減るから、あなたもちゃんと家に帰って寝てね?」
そう伝えると、この人は珍しくまっすぐな目を少しだけ泳がせる。

坤成殿に媽媽の診察に伺う時、康安殿での王様の護衛の交代をしたチュンソク隊長に行き合ったりすると
「医仙が典医寺に宿直の時には大護軍もご自宅に戻らず、お屋敷に歩哨の兵だけが立っています」
苦笑いしながら、そう教えてくれたっけ。
だからと言って、ここに顔を出すわけでもない。
ただ何かあった時の為にって、すぐそばにいてくれるだけ。
いつもみたいに黙って、秘密のまんまで。

「無駄口を叩くのは、トクマニかチュンソクか」
腕を組んで、少し怒ったみたいな八つ当たりっぽい声に笑って首を振る。
「ううん、ただの勘。女の勘は鋭いって言うでしょ、昔から」
「あなたがそれ程鋭いとは思えません」
「失礼ね、鋭いわよ。何か悪いこと考えたらすぐ分かるんだから」
私のその声に、面白そうにあなたの目が光る。
「ほう」
そう言って、卓の向こうで組んでた腕を解く。
「そうですか」
その迫力に、前のめりになっていた体を引く。
「な、なによ」
「いえ、特に」
そう言ってにっこり笑う顔が、よけい怖いわ。
「悪い事ですか。何を指しておっしゃるやら」
「悪い事は悪い事よ、例えば私がいない間に羽根伸ばそうかなーとか、こう、そういう悪い事」
「・・・・・・そちらか」
「え?」
「イムジャの悪い事とは、そちらですか」
「そうよ、他に悪い事って」

ああもう良いと、卓の向こうであなたが手を振る。
「期待した俺が悪い」
やはり鈍いのだ、とふて腐れるようにボソッと呟くあなたの声に私は首を傾げた。
「で、媽媽のご様子はお変わりないのですね」

突然変わった会話に、私は慌てて頷いた。
「今のところは万事順調。お腹も少しずつ大きくなって、チマって便利だなーって再確認しているとこよ」
そうなのよね。巻きスカート型だから調整も楽だし、ウエストも伸縮自在。
「もうそこまで御子様がお育ちですか」
驚いたようなその声に、笑いながら頷く。

「ほんとに目立つのは7か月終わり頃から・・・うーんと」
私は立ち上がって壁のカレンダーを捲りに行く。
3枚捲って
「この辺りかな」
そう言うとあなたも席を立ってカレンダーを覗きに来る。
「じきですね」
「うん、きっとすごく早いわ。1日1日は長いのに」
「王様にお知らせしておきます。繍房に手配もあるでしょう」
「そうね、王様もきっと楽しみだろうし」
「ええ」

そう頷いたと思ったらあなたの手がするりと伸びて、壁のカレンダーをめくってた私の手首を軽く握る。
そのままくるりと体を回され、背中がとん、と壁にぶつかった。
何が起きたか分からないままで、気付いたら私はカレンダーを貼った壁を背に、目の前のあなたにじいっと顔を覗き込まれてた。

「誰が勘が鋭いと」
「・・・え?」
「悪い事を考えればすぐ判ると」
「だって」
「どれだけ逢えなかったか覚えているか」
「でもね?それは、宿直で」
「責める訳ではない」
「・・・ちょっと、ヨンア」

目を逸らさないまま、あなたが片頬で笑う。
「これだけお預けを喰らえば犬でも咆える」
「あなたは犬じゃないってば」
「ああ言えばこう言うのは変わらぬ」
黒い目が距離を詰める。この鼻先まであなたの鼻が寄る。
腕が上がる。両掌を私の耳の両脇につく小さな音がする。

そしてあなたのその頭が、私の肩にこつんと乗る。
「許されぬ」
「・・・ヨンア?」
肩に乗せた顔は伏せられて、表情が見えない。
ただそこにつけた額が、上衣越しでも温かい。

「臣である俺がこのように。たとえ夢でも許されぬ」
その声に肩に乗ったあなたの頭を撫でる。指で髪をそっと梳く。
心地良さげに咽喉で笑って、顔を伏せたままであなたは言った。

「愛する方と御子をなした王様が、心から」

羨ましいのですと小声で呟いて、あなたは静かに息を吐いた。

 

 

 

 

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30 件のコメント

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    さらんさんおはようございます。ゆかこうでございます。
    なぜだか自分自身のアメーバさんの設定が変わってしまい( TДT)名前が変わってしまいました。私のさらんさんへの感謝の気持ちをと愛情が、変わらずに伝わっているといいなぁと思いつつ…
    今日も素敵なお話をありがとうございます‼
    ヨンの思う悪いことって、やっぱあれっすかね(//∇//)

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    ヨンの悪いことってやはりウンスに◯◯したいとか××したいとかあちら方面かしら?
    実はけっこう普通の男と変わらぬことを抱えているのを悟られたくないとか?
    まぁ、それが普通なんですけどね。
    ヨンも早くウンスとの間に子どもが欲しいよね。それが一番の願いですよね。叶えてあげて欲しいのだけど…

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    あ~ なんだか
    クラクラしちゃう
    そんなセリフ ささやかれちゃったら
    (/ω\)
    ぁ・・・ くるくる 倒れそう。
    ヨンの本音なのね…
    ウンスは 今それどころじゃないけど・・・
    うれしいよね・・・でも戸惑う?
    ウンスだって いつかはって 思ってるでしょうね~

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    今日も朝から素敵なお話、ありがとうございます!
    この場面、とっても好きです♥またベストシーンが増えました。
    大人な『壁ドン』せつない『虎の咆哮』、朝から参りました、キュン死寸前です!! まさに義の男、本当にいい男です。また惚れ直しました♥ それと、チュンソク氏いい仕事してますね~♪ これだからさらん家シンイはやめられないのですよ(*´∀`)♪

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    さらんさん、今朝もドキドキするような素敵なお話をありがとうございます❤︎
    ウンスが宿直の日は、自分も家に帰らず、そっと見守っているなんて…。
    相変わらず、ヨンは優しいし、ウンス想いなんですね~。
    というか、ウンスの居ない部屋に一人でいるのが寂しいから…というのも、理由の一つでしょうか。
    さらんさんがヨンに喋らせる言葉は少なくて短いけれど、だからこそ、その一言一言にはドキッとしてしまいます。
    はああ~、さらんさん。貴女が男性なら、世の女性は皆、間違いなくあなたの“虜(とりこ)”ですね。
    ♪───O(≧∇≦)O────♪
    さらんさん、今週はいつにも増してお忙しい様子…(。-_-。)
    今日を乗り切れば明日は花の?金曜日です。
    お体に気をつけて頑張ってくださいね。

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    いつも陰から、ウンスを守るヨン。そんな健気なヨンが、報われますように。さらんさん、ヨンはウンスからご褒美もらえるのでしょうか?

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    自分のただ一人の愛する人に、自分の子を
    宿したいと、思うヨンの想い
    本当に王様が、羨ましいのでしょうね
    ヨン想いが叶いますように(*∩ω∩)

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    >taiyukakouさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    勿論伝えて頂いていますとも♡
    本当に嬉しいですヨン(●´ω`●)ゞ
    悪い事・・・アレだったり、コレだったり?ww

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    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    それはもう、ヨンの場合「英雄色を好む」を見事に裏切る純情ですので(爆
    でも、考えないわけではないのですよー、という・・・
    むしろ考えない方が、不気味ですし心配ですから(;^_^A
    欲しいでしょうね、本当に。自分の家族。
    テマンがいて、コモがいて、迂達赤がいて手裏房がいても。
    赤月隊にあそこまでこだわったのはやはり自身が
    家族と思ったからだと思うのです@さらん設定(出た!)

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ウンスももちろん、いつかはと思っています
    @さらん設定(゚ー゚;
    ただうちヨンの場合、婚儀まで手出しはしないので
    まあ、まだしばらく後かとw頑張れヨン!!

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    >ユーちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ベストシーン認定、ありがとうございます(●´ω`●)ゞ
    チュンソクは、何気に爆弾も落とすし地雷も踏むし、
    逆に何気に良い仕事もする天然さんの立ち位置になりつつありますww
    頑張れチュンソク隊長!!あじゃあじゃ♡

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    >muuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    虜ですか!いやあ嬉しいです♡
    女性の心、鷲掴みが目標です(かなり本気で)
    ヨンの場合、だらだら喋らせるよりあの本編のイメージのまま
    短く簡潔にさっぱりと潔く深く。これを目指して
    心情を決めたら、バッサバッサ余計なとこを切り落とします。
    そうするとどえらく短くなり、幻の【或日、迂達赤】の【瞋恚 】になるという(爆
    どれだけ喋ったか、確認して頂けると嬉しいです・・・
    最近はウンスとLOVE LOVEで、だいぶお話するようになりました(^▽^;)

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    >pivoine22さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね、きっと婚儀の後には♡
    そしてそれはそれはもう、LOVE溢れる家庭になるかと・・・❤❤

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    >8211127さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    きっといつか、叶うと思います。
    いえ、叶えてあげたいです・・・せめて本編二次で・・・(*v.v)。

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    今日は外出していて,さっき読む事が出来ました^^
    コメント出遅れてしまいスミマセンm(_ _ )m
    今日のお話はこの「龍の咆哮シリーズ」の中で一番好きです(≡^∇^≡)
    ヨンとウンスの考える「悪い事」の違いに(笑)
    壁ドンで,もしかしてヨン何か悪い事しちゃう?(〃∇〃)
    ・・・なんて思えば,まさかの「肩にこつん」
    ウンスにだけ伝えるヨンの本音に胸キュンしました^^
    ウンスは幸せ者ですね~

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    王妃様と王様、今幸せの中に浸っていますよね。そんな二人を目の当たりにしていたら、やっぱり自分も好きなおなごとの間に欲しくなるのは当たり前。
    それをぽそっと呟くヨンにキュンキュンしてしまいました。
    近しい未来にそんな自分たちの姿を重ねたヨンなのかな?

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    ヨンは純真で正直で、かわいそうなくらいですね…
    堪えているのねヨン…
    そういうところもいいわー
    さらんさん、今日も素敵なヨンをありがとう(^-^)

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    さらんさん。
    いつも心あたたまるご返信をありがとうございます。
    【瞋恚】、さっそく改めて読み返させて頂きました。
    ひゃあ、ヨンのセリフ、少なっ!(-_-;)
    でも、だからこそヨンらしく、彼の表情やしぐさまで、まったく違和感なくイメージできるのですよね。
    それに、ひと言ひと言が、まぎれもなくヨンも言葉です!
    私、「信義」のDVD、ヘビロテで観ていますが、同じくらさらんさんのお話も繰り返し、拝読しています。
    そんなわけで、今夜もスマホの落下から顔面を守れるかどうか自信がなく…@_@;)
    さらんさん、明日も一日、お仕事頑張りましょうね!

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    いつも楽しみに読ませていただいています。今回は特に実際の歴史を踏まえての上のスト-リ-展開。久しぶりにドキドキしています。バラレルとしてハッピーエンドな結末になりますように。

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    たまらないですよ~♡
    手作りカレンダーを手でなぞって振り向いての笑顔でドキっ
    「…そっちか」で萌え、壁ドンにいたっては腰砕け♡
    さらんさまのいちいち男前なヨンにいちいち萌えさせられております(//∇//)
    もうホントに何をしても言ってもカッコいいんだから~( ´艸`)
    「…そっちか」←たまらないですよ(繰り返したいほどに)

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    >すんすんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    基本的に怒らないヨンはウンスに何かしたりしないので・・・w
    今回はウンスに頑張ってもらうためにも、ヨンは一歩引いた見守り系です(*v.v)。

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね、一気に来るか、ベビーブームw
    このパラでは、幸せになってほしいと祈ります・・・❤

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    >tari0315さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    耐えてますねwもう、我が家のヨンの場合、修行僧の域まで
    高めてほしいものです(何を?

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    >muuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    もうあのお話は、如何に少ない言葉で
    ああ、ヨンだ!と思って頂くかに挑戦した
    無謀なお話だったのでした・・・w
    ヨンで頂けて嬉しいです❤

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    >atutatさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね、実は本編の方でも同じエピに対して
    本編バージョンがあるので・・・
    先にこのパラレルで楽しんで頂けたことは
    とてもいい思い出になると思います。
    ヨンで頂き、ありがとうございました(*v.v)。

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    >わいやーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    あひゃひゃヾ(@°▽°@)ノ腰砕けですか!
    これはヨンも、男冥利に尽きますね❤
    我が家のヨンの最近のコンセプトは「細胞単位で男前」
    DNAレベルでの男前ヨンを目指して、書いていこうかと(爆

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    >じゅりママさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    今回は壁"ドン"ではなく、壁"とん”がポイントですw
    え~そこか~、ですが( ´艸`)

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