2014-15 リクエスト | 龍の咆哮・3

 

 

典医寺に戻って診察棟に飛び込むと、キム先生は約束通りそこで私を待っていてくれた。
診察棟で、他の医官や薬員に聞かせるわけにはいかない。少なくとも今はまだ。
何しろ王様がまだご存じないんだもの。
そう思って、キム先生に
「ちょぉっと、静かなところで話したいなー。私の部屋でもいい?」
提案に頷いたキム先生と、部屋に戻る。

 

「・・・どういう事ですか、何故内密になど」
媽媽のご懐妊を告げると、キム先生は開口一番そう言った。

「せめてチェ尚宮様とチェ・ヨン殿にはお伝えせねば」
「キム先生の言う事はよく判る。でもこれね、媽媽のご希望なの」
キム先生は首を振って、大きな溜息をつく。
「残して頂いている拝診記録は拝読しております。前回御子様が流れたのが、今回内密にしている理由ですか」
その言葉に私は頷いた。
「うん、精神的にとてもお辛い思いをされたの。流産の直接の理由は、強い睡眠導入系の薬物なんだけど。
慎重になるお気持ちは理解できるし、8週を超えるまでは待ちたいってご希望に対してお答えしただけよ。
ずっと王様に黙っておくなんて、もちろん考えもしてない」
「お待ちください、ウンス殿」

キム先生は、私に向かって手を上げて言葉を制した後
「すいみんどうにゅう、やら、はっしゅう、やら、申し訳ないのですが、所々分からない言葉が」
そう言って息を吐くと、私をじっと正面から見つめた。
「媽媽のご懐妊に当たっては、まずは今後の典医寺にて医員、そして薬員全員の意思疎通が必須です」
「その通りよね」
私は深く頷いた。これからご出産までは媽媽へのご対応はいつも以上に慎重にならなきゃいけない。
バラバラな治療をするのは、絶対に許されない。
「この先、どのような計画をお持ちですか」
キム先生の問いに、私は先生をまっすぐ見た。

「まずは王様に、そしてヨ・・・大護軍と迂達赤隊長、あとチェ尚宮さまにお伝えするわ。
それから食事。水刺房の尚宮様にもお伝えしなきゃ。そしてお伝えしたら、典医寺全員で会議。
ゆくゆくは媽媽のお産専用の、えっと、特別な、お産を護る医員と薬員の人たちを準備することになるだろうし。
で、まずはこれを見てほしいの」

そう言って、私は机のひきだしから紙を出した。
順々に10枚、媽媽の最終月経初日を出だしとして番号が振ってある。
先週、媽媽のご懐妊が分かって作ったお手製の出産カレンダー。
媽媽のご懐妊についてお話した日に書き込みがしてある。
“ご懐妊 ? 神門に滑脈、 要経過観察。王様へのお話は来週”

私はそれを、キム先生に見せた。
「これを人数分、書き写して作るつもりなの。典医寺にも大きく作ったのを貼るわ。
何かあればみんなそれぞれ自分の紙に書き込んでほしいの。そうすればそれぞれ見せ合えるし忘れずに済むし。
あとは過ぎるごとに×を付けてってほしいの、こんな風に。
そうすれば日もずれないで済むから」

昨日の日付まで×で消したところを、私は指差す。
キム先生はそれを見て頷いた。10枚の紙を順に指で繰りながら
「最後の日が、媽媽のご出産日という事ですか」
私に確認するようにそう尋ねる。
「そう、予定通りならね。でも人間だもの。多少のズレはある。病気じゃないし、女性ならみんなそれぞれ違うお産を迎えるわ。
私たちが考えるのはただ1つ」

そう言って1本立てた私の指に、キム先生の視線が注がれる。
じっと見た後、キム先生は私の顔に目を移した。
「なんでしょうか」
「媽媽とお子様がどちらもご無事な状態で、ご出産を終える事。それしかない。他の事は起きるたびに対処しよう。
この先何が起きるか、誰にも分かんないもの」
キム先生は、私を見つめたまま頷いた。

 

「これが二週前の事です、チェ・ヨン殿」
「予想外だったのは、この時召した王様の寒症が、予想よりちょっと長引いたことよ」
そう言った私の声にあなたと叔母様、チュンソク隊長とキム先生がそれぞれ頷く。
「確かに此処の処、王様のご体調はなかなか優れず」
あなたがそう言って、キム先生を見る。
「それで坤成殿へのお渡りがなかったか」
「そういう事です。王様も媽媽が寒症を召されるのは避けたいと」

その先生の言葉に、あなたはふむ、と黙る。
黙ってしばらく顎を撫でた後、ふと目を上げて私をじっと見た。
「・・・医仙」
「なあに?」
「王様は、媽媽のご懐妊をご存じないのですね」
「うん。だって8週目から今日まで10日以上、寒症の件で会っていらっしゃらないし」
断言する私の声に、あなたは僅かに首を傾げる。
「どうして?」
「・・・いえ」

そう言って首を振った後で部屋中をぐるりと見渡して、最後にキム先生に目を当てる。
「俺たちが先に伺うなど本来許されん。いつお伝えする」
「寒症は完治されましたので、本日お渡りになるかと」
「そうか」
そう言って頷くと、あなたは次に叔母様に目を向ける。
「チェ尚宮」
「なんだ」
叔母様がその視線に微かに眉を上げる。
「まずは大まかな動きのみ決め、急ぎお戻りを。俺も終われば康安殿に拝謁に伺う。
恐らく王様は王妃媽媽にお会いするのに気も漫ろかと。予想より早い刻にお渡りになるやも知れぬ」
「ああ、そうだな」

次に叔母様とあなたは2人、私にぴたっと目を当てた。
こっちがちょっと困るくらいの眼力で。
「王妃媽媽の御体に関して、我らはお役に立てません。
とにかく王様を、そして王妃媽媽を御守りいたします。
二度と敵の手には落とさぬ。それに関し、一切のご心配は無用」
頼れるそのあなたの声に、こくこく頷く。
「走らず転ばず冷やさず。横になる、立ち過ぎず座りすぎない。
それ以外、武閣氏が知っておくべきことは有りますか、医仙」
次の叔母様の声には、ぶんぶん首を振る。

「では」
あなたと叔母様は同時に椅子を立つ。それに一瞬遅れて、チュンソク隊長が。
「テマナ、お前は連絡役が増える。漏らさずやれ」
「はい!」
テマンがあなたの声にしっかり頷く。
「チュンソク、まずはこのまま康安殿だ」
「は」
チュンソク隊長が深く頭を下げる。
「失礼」
そう言って私に軽く頭を下げて、あなたはくるりと背を向ける。
その背にテマンとチュンソク隊長がついて、3つの鎧の背中はあっという間に扉から出て行った。

「素早いな」
そう言って叔母様は、少し厳しい目で私を見た。
「医仙、今まで黙っていらしたお気持ちは分かります。王妃媽媽のご性格からしても。
しかし何分にも王妃媽媽のお体に、そしてお世継ぎの御子に係る事」
その厳しい目で一歩私に寄る。
「時に間違った主君をお諌めするのも、忠臣の務め」
「はい・・・」

叔母様の言う通りなのよね。何事もなかったから良かったけど。
内密にしてる間に何かあれば、私だけの責任でどうこうできる問題じゃなかったもの。
「今後は、全部ご相談します」
「お約束頂けますか」
「はい」

ついクセで小指を立てて叔母様に差し出すと、叔母様はそれを眺めて
「・・・その指、詳しくはまた後ほど伺います。今は戻らせて頂きます」
そして私たちに頭を下げ、チマの裾を翻すとほとんど走るように部屋の扉を出て行った。

 

 

 

 

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16 件のコメント

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    チェ尚宮さま 大喜び~!
    ってところでしょうか
    すぐに知らせてもらえなかったのは
    残念だけど 御子が一番ですものね~
    こればかりは…
    すでに 出産までスケジュールが
    作られている~
    すごいぞ ウンス先生!

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    王妃様のご希望は通してあげたいけれど周囲の人たちに黙っていると責任問題になってしまう。だけど王妃様にストレスを与えてはならない。
    ウンスも悩むことでしたがなんとか共有できるようになって良かったです。
    王様、後回しになってご立腹なさらないですよね?

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    さらんさん、おはようございます。
    妊娠や出産の事なども詳しく調べられて、さらんさんには本当に感心します。
    私の予想では、チュナはもしかしたらもう、ご存知なのかなぁー?とか思いました。
    あくまでも私の予想です。(笑)
    このお話の中ではご無事にお産まれになること、それだけが願いです(^^)

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    さらんさん、今朝もスピード感と緊張感あふれる、素敵なお話をありがとうございます❤︎
    ああ…、確かにこの会議まで何事も無かったから良かったですが、王妃の身体に何かあれば、ウンスにも重大な責がかかるわけで…。
    ヨンとしても頭の中は“冷や汗たら~ッ(-_-;)”ですよね。
    それでも、四の五の言わず、きびきびと言うべき事を言い、遣るべきことに向かう大護軍。
    ううっ、相変わらずかっこいい!
    (≧∇≦)
    仕事はこうあるべき、の理想像でもあります。
    コピー機もパソコンも無い時代。
    ウンスお手製のスケジュール表を人数分、書き写して作った共有資料は、誰にとっても大事なものとなるでしょうね。
    今日は私、自分に問いかけ、そしてきっと反省します。
    すぐに破棄しても問題ないような資料を、迷いもせずにガーガーとコピーしちゃってないか?…って。
    さらんさん。今日もお互い、仕事に励みましょうね!

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    いよいよ王様にご報告ですね。私まで緊張してきました^^;
    媽媽との約束を守って内密にしていたけどやはり大護軍やチェ尚宮さんの立場だと王様や媽媽に何かあってからでは遅いのでウンスのことを諌めたのでしょうね。時代が時代だけに色々心配しなくちゃいけないことがたくさんあって大変ですね(>_<)
    でも、本当に無事に元気な御子が誕生してくれるよう祈りたいです(^o^)

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    やっと授かった大切な命。
    だからこそそれぞれがそれぞれの立場で最善の事を考えてる。
    みんなに見守られて今度こそ無事に出産して欲しいです。
    最後にウンス怒られちゃいましたね。これも、なにかあった時のウンスを心配しての親心かな?

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    出産カレンダー、私の友人が手作りしていて
    それも刺繍の布版ですんごくかわいかったのです・・・
    さすがにそれはウンスには無理なので、手書きで❤
    頑張っております、ウンス!

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    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    王様はもう、媽媽さえご無事であれば。
    ただ逆鱗に触れてもおかしくないわけで、
    そう言うとこはヨンも尚宮コモもハラハラのようです(゚_゚i)

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    >★sachi★さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ふふふ、sachiさまさすがです❤ガッツリご存じですσ(^_^;)
    本当に、このお話の中では、御二人の腕に抱いて頂きたいです…

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    >muuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうなのですよね、全てがスローになることで必要なものも判る。
    そして仕事の緩急は、本当に大切だと日夜身を持って
    実感しております・・・くぅぅ!(´Д`;)
    今週も後一日♡明日も頑張りましょうmuuさま❤

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    >まろんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    もう、王様だから良いものの、これは事によっては
    王様を謀ったとして断罪されても仕方ない訳で…
    時代考証等もあるとは思いますが、まあ大逆罪になっても
    おかしくないですから・・・王様の子供の存在を隠すとは…
    此度は腕に抱けるよう、王様と共に祈りつつ。
    またヨンで頂けると嬉しいです❤

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    >kumiさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    あはは、確かに。
    叔母様が走り出た後、ウンスは小指立てたまま
    典医寺のお部屋でぽつんだったかもしれないですσ(^_^;)

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    もうこれは、尚宮コモは親心ですね。
    まして危機感の薄いウンスゆえに。
    様々なタイプの王に、過去接してきたヨンとコモにしてみれば
    生きた心地もせぬ事でしょう・・・苦労かけます・°・(ノД`)・°・

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