「隊長」
「黙れ」
トクマンの呼びかけを言下に退け、無言のまま歩を進める。
「まだ何も」
「言いたいことは分かっている」
そう言いながら大路を歩く横で、背に矢筒を担いだシウルが両の手で顔をぶるりと拭い、ちらりとこちらを見た。
「なあ、髭の旦那さぁ」
「なんだ」
「もう今日は止めねえか。俺、何だかすっげえ疲れたよ」
シウルの声に、横のチホも深く頷く。
「全くだよ、で、本当なのかよ」
チホの言葉に、その場の三人の目がこちらを見つめる。
「考えてくれ。本当なら俺を副隊長と呼ぶか」
「・・・そりゃそうだ」
チホが頷く。
「じゃあなぜ隊長を夫君などと」
トクマンが首を捻る。
「こちらが聞きたい」
本当だ。それが本心だ。誰よりも俺が問いたい。
「第一、あのお姫様はまだえらく若いだろ」
シウルの言葉に、
「全くだ」
俺は唸った。
王様の御姉君である、翁主の娘御である姫。
四年前に会った時が十四だとすれば、今は十八。
俺の齢から考えれば、妹どころか下手をすれば娘ほど年齢が離れているではないか。
そんな幼い姫君が、一体何を勘違いしていらっしゃるのか。
トクマンや手裏房の若衆のお相手としてでも、まだ若すぎるほどだ。
いくら押し付けられた婿取りが嫌と言っても、四年前に一度会ったきりの俺にどうこうなど、あまりに突飛すぎる。
それよりもと、歩みながら首を振る。
まずは贋金調べだ。大護軍のおっしゃる通り能うなら現物を確保し、流通経路を調べ、開京への流入を、出来れば国境越えを防がねばならん。
そんな重い任務を任されながら初端がこれでは縁起が悪い。
天を仰いで息を吐く。
見上げた明るい太陽は、中天に差し掛かろうとしていた。
「で」
帰りついた迂達赤兵舎の中。
私室の卓で向かい合い腰掛けた大護軍は、懐手で愉快そうに俺を眺めた。
「大層面白い姫君だそうだな」
「・・・は?」
「庭の木から落ちて来て、お前を婿に取ると往来で大騒ぎした」
「・・・は、いえ、しかしそれは」
「王様の姪御の姫君といえばあの方か、四年前に俺とお前が御前にて一度お会いした」
俺はすっかり忘れていたのに。さすがの大護軍の記憶力に内心で舌を巻く。
「おっしゃる通りです。よく覚えていますね」
その声に大護軍は眉を顰めた。
「チュンソク」
「は」
「姫君の御母上を知っているな」
「ええ、王様の姉君の翁主でいらっしゃいます」
「そうだ」
突然の大護軍の問いに、俺は首を捻った。
「それが何か」
「翁主と縁づかれれば儀賓大監だ」
「ですね」
「政に係る力を持つ」
「しかし実権はないでしょう」
暢気なこの声に、大護軍は片頬で笑った。
「本気で信じるか」
「いや、それは」
確かに過去、政権転覆を狙う儀賓大監はいた。
それどころか当時の王の姉妹である翁主、公主が直々にそれを指揮する例とて、無かったわけではない。
「それが理由で、覚えていたのですか」
「敵は早く潰すに限る」
大護軍は低い声で呟いた。
「キョンヒ様の御母上に、そうした気配があるのですか」
俺の問いに首が振られる。
「いや、翁主も儀賓大監も穏やかな方。野心はなさそうだ。
但し目を離す気もない。
判るか。今の処、王様にはお世継ぎがいらっしゃらぬ。
兄の忠恵王は死んだ。その御子息の忠穆王も、そして」
大護軍は小さく息を継いだ。
「・・・忠定王であった慶昌君媽媽も、早逝されている」
「ええ」
大護軍の声に俺は頷いた。
「つまり、今残っている王様の血筋で王位を狙えるのはあの徳興君のみ。そして敬姫様は皇家唯一の姫だ。
その方に、野心を持つ男が近づかぬとは言えん」
「故に翁主御一家より目は離さぬと」
「ああ」
俺は大護軍の声に黙って頷いた。
「まあ、お前は災難だな」
「はい」
渡りに船の援軍の声に力強く頷くと、
「良い、好都合だ」
大護軍の僅かに嬉し気な声にぎょっとする。
「好都合・・・ですか」
「ああ」
にやりと笑んだその顔に、嫌な予感が過る。
「お前が婿になる為に姫君のお屋敷周りや城下におっても、誰も不審に思うまい」
「大護軍、それは!」
俺に城下をうろつかせるために、まさか。
厭な予感に包まれじっと大護軍を見つめると、
「トクマニが盛んに触れ回っておる。お前が婿入りすると」
可笑しそうに言う大護軍の声に、俺は首を振った。
「あいつ」
舌を打ち椅子から腰を浮かせた俺に、大護軍が首を振る。
「言わせておけ。名分が立った。堂々と外をうろつける」
「王様のお耳に入れば」
「俺から既にお伝えしてある」
「大護軍、それは」
最悪だ。これでは贋金探しどころか人身御供ではないか。
項垂れた俺を愉快そうに見ながら、
「程々で止める。それまで耐えろ」
大護軍は平然とした顔で言い放った。

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なんだか すでに 外堀埋められてる…
ぽっぽ ∑ヾ( ̄0 ̄;ノ
でも、でも 初ロマンス!
だいじにね~
( ´艸`)
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さらん 様
こんばんは。
やっぱり期待を裏切らないよね。
トクマンくん(^w^)
迂達赤の末っ子のはずが、今は副隊長になる日も近いなんて。
お母さんは感無量ヨン
さらん殿
更新ペースはこれくらいがよろしくてよ♪
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こんばんは、さらんさん有難うございます。
チュンソクさん、好きだわ~。真面目なだけに被る災難、一際目立つ間の悪さ、堅物を絵に描いた様なそれでいて憎めない不器用なまでの優しさ。
お転婆姫に振り回されるこれからが楽しみです。
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おもしろうなってきましたな。
大護軍も人が悪うございますな…(笑)
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さらんさん。
チュンソク話の更新、ありがとうございます❤
いつも大事な任務をコツコツと確実にこなしているのに、いじられ、面白がられていますねえ、チュンソク…(?_?)
私の職場でも、彼のような同僚がいますヽ(^o^)丿
つい、ちょっかいを出したくなるんですよね。
それに、またまたお喋りでオマヌケなトクマンが、なにやら知らぬ処で活躍してますね。
彼の場合、活躍しようというのではなく、まるっきりの天然なのでしょうけれど…。
恋話が大好物のウンス、この後に絡んでくるのでしょうか❤
楽しみです!
さらんさん、今夜はだいぶ気温が下がっています。お風邪を召さぬよう、ご自愛くださいね。
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>くるくるしなもんさん
おはようございます❤コメありがとうございます
はい、もうガッツリw
チュンソクの初ロマンスは【戀】だったのですが
もうあれは弄ばれて終わった体の…( ´艸`)プ
正直、全然違うお話を考えていたのですが、
今回いろいろスイッチが入ったのか
どえらくシリアスな方面へと話が流れており。
でも、もう暫しお付き合い頂けると嬉しいです❤
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>mamachanさん
おはようございます❤コメありがとうございます
鉄板安定2:トクマンくん
悪気はなく素直で賢い設定なんですよ?
【或日、迂達赤】ではすごく頑張ってるんです。
(兄さんたちには負けるものの)
だけどなーんかなー。なのですσ(^_^;)
そのうちトクマンが主人公の、えらくカッコいいお話も…書けたらなー…頑張ります!
更新ペースも、応援ありがとうございます❤
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>nao_moさん
おはようございます❤コメありがとうございます
そうですね、こういう星の下に生まれついたチュンソク隊長、
諦めろ・・・:*:・( ̄∀ ̄)・:*:
しかし思わぬ方向(シリアス路線)へなぜか走りだしてしまった我が家。
どうしても面倒なことになるのは何故ーということで、
リハビリがてらお付き合い頂けると嬉しいです❤
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>パイナップルセージさん
おはようございます❤コメありがとうございます
ふふふ・・・お主も悪よのぅ( ̄▽+ ̄*)
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>muuさん
おはようございます❤コメありがとうございます
オンニ、来ます。しかし来るためにはいったんシリアスへと
どーしても、転化させる必要があり、
転化させたら、あららららーと言う方向へw
駄目じゃん・・・こんなシリアス・・・とか思いつつ。
もうしばらくお付き合い頂ければ嬉しいです❤