2014-15 リクエスト | 龍の咆哮・2

 

 

1週間後。
媽媽の検診を終え、私は頷いて媽媽の韓服のお袖を静かに下げながら、にっこりと頷いた。
診察のたび外へ出される叔母様の目にも、そろそろ不審げな色がちらちらと浮かんでいる。

「問題ないです。不正出血もないし、脈も安定しているし。これで一旦王様にお伝えしましょう。お・・・チェ尚宮さまにも」
「医仙」
媽媽にお伝えした後聴診器を片付ける私に向かって、媽媽は静かに呼んだ。
「はい?」
私が顔を上げると
「王様には、どのようにお伝えすれば・・・」
媽媽は真っ赤になって目線を下げた。
「そうですね、私からお伝えしましょうか」
「いえ、それは」
「じゃあ王様をこちらのお部屋にお呼びしましょう。それで媽媽からお伝えすれば良いと思います」
「・・・はい」
はにかんで微笑む媽媽を見ながら私まで嬉しくなる。
笑いながら頷くと、媽媽は柔らかい御手でご自分の両頬を押さえた。

媽媽のお部屋を出た後、回廊を歩きながら考える。
今日媽媽は王様にお話するだろう。私もそろそろ根回しの時期。
そう判断して、流れを確認する。まずはあの人とキム先生、そして叔母様に。
3人ともそれぞれすごく忙しい人たちだから、いっぺんに話すのは無理かな。
まずは典医寺に戻るんだから、キム先生よね。
そう考えながら、まっすぐ典医寺へ戻る。
これでやっとみんなで媽媽のおめでたいニュースを喜べると思うと、なんだか嬉しくてわくわくする。
悲しいことなんて起こさない。これからしばらくは媽媽に付ききりで、あの人にも不便をかけるけど。
そうだ、薬房にもいろいろお願いする生薬があるんだわ。

「キム先生」
そう呼んで診療棟に入って行くと、薬員が振り返って
「ウンスさま」
そう言って首を振る。
「ん?キム先生はいないの?」
「すれ違いかと。つい先程お呼びがあり、康安殿へ」
「あらやだ、タイミング悪い。じゃあ行ってみるわ。
もし先生が戻ったら、私が話があるから待っててって伝えてくれる?」
「分かりました、お気をつけて」

うん、と頷き、私は診療棟を出た。
一目散に康安殿を目指して、今さっき来た道を戻る。
康安殿の入り口で、キム先生と薬員の歩く姿を離れたところに見つけ
「キムせんせーい」
大声で呼びながらそこに走り寄って行く。
「ウンス殿」
先生は答えながら、横の薬員に何かを告げる。
頷いた薬員がキム先生から離れるのを見ながら先生の横につくと、キム先生は少し困った笑顔で私を待ってた。
「あのね、大事な話が」
「丁度良かった、私も王様の事で大事なお話が」
歩きましょうと言ってゆっくり回廊を進み始めたキム先生を横から仰ぎ見ながら
「王様?どうなさったの?」
そう尋ねると、キム先生は少し眉を顰めて言った。

「少し質の悪い寒症のご様子です。お咳と発熱がある。念のため、媽媽には暫くお会い頂かない方が良いかと」
「そうなの・・・?」
これはタイミングが悪いわ。私は溜息をついて頷いた。
寒症じゃあ仕方ない。確かに今媽媽が感染するのは良くないものね。
「分かった。媽媽にお知らせして典医寺に戻るから。その後大切な話があるの。少し時間いいかな?」
「勿論です。では先に戻りお待ちしています」
そう頷くキム先生に手を振って、私は坤成殿へ走り始めた。

 

「媽媽、医仙がいらっしゃいました」
「・・・お入り頂け」
入り口の武閣氏のお姉さんが掛けた声に、中からすぐに媽媽のお声が戻る。
お姉さんが私に目礼し開けてくれた扉から足早に中に入ると、媽媽は少し驚いたように私に目を当てた。
「医仙、どうかされましたか」
そうよね、さっき出てったばっかりだものね。
私は曖昧に頷いて、媽媽の近くに寄る。

「お掛けください」
その媽媽の言葉に頷いて、媽媽の向かいの椅子に腰掛ける。
チェ尚宮の叔母様も媽媽の横に静かに立っている。
「丁度良かった、叔母様もいらしたんですね」
私が笑って言うと媽媽は
「チェ尚宮も同席して構いませんか」
少し声を顰めて聞く。
ずっと秘密にしてきたご懐妊の事をおっしゃっているんだろう。私は頷いた。

「今、キム先生から聞いてきました。王様が寒症を召されたので、少しの間だけ、媽媽とはお会いしない方がいいみたいです」
さっきのキム先生の話をお伝えすると、媽媽のお顔がすうっと曇る。
「大事ないのでしょうか」
「はい。キム先生に後で詳しく聞きますが、それほど大事ではないみたいです。心配しなくていいと思います」

ただ、と私は言葉を繋ぐ。
「王様とのお話は、良くなるまで少しだけ待った方が」
媽媽は少し残念そうに、でも少しほっとしたように頷いた。
「時が経つほど安心、ですね、医仙」
「そうですよ」
私が励ますように卓の上の柔らかい右手を握ると、 媽媽がそっと私の手に左手を重ねた。
「この時間は、きっともう少しだけ待ってね、って事だと思いますよ。のんびり待ちましょうか」

笑顔の私に、媽媽は静かに、はい、と頷いた。
話の内容の分からない叔母様は媽媽の横で控えたまま少し目を上げ、私と媽媽の顔を見比べた後もう一度静かに頭を下げた。

 

 

 

 

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6 件のコメント

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    さらんさん、今夜も目の離せない素敵なお話をありがとうございます。
    このタイミングでの王様の体調の悪さは、これから先、吉と出るのでしょうか。それとも……。
    ところで、仕事モードのウンスはとても生き生きしていて、頼もしいです。
    でも、忙しい時ほど家に帰ってもすぐに頭が休まず、寝ていても突然、仕事のアイディアが降って湧いたりしませんか?
    ハイになっちゃってるんでしょうね。
    有りがたいことに、さらんさんのお話は、そんなクールダウンが必要な時にも、大きな助けになってくださっているのですよ~❤
    ウンスのことが大好きで、彼女の実力もヤル気も認めているヨンは、今回もきっと優しく寄り添い、陰に陽に見守り、力を貸してくれるんだろうなあ~❤
    さらんさん、明日もお互い、お仕事がんばりましょうね!

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    王様がお風邪を召されたので媽媽から王様へご懐妊の報告が少し遅れてしまいましたね。
    王様が凄く喜ぶ姿は、もう少しお預けですね。
    媽媽には、お身体大切にして元気な御子を産んで頂きたいです(*^^*)

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうなのです。
    もうウンスは未来を知っているだけに、必死かと思います・・・
    此度こそ、の気合い故。空回らないことを祈りつつ…(゜д゜;)

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    >muuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ヨンはもう、おっしゃる通り陰に日向に、しかし時折自己主張も混ぜつつw
    お話に関しては、もう皆さまの朝のコーヒーのお供に、
    そしてベッドで寝落ち前に。
    だから昨日のようにスマホ版緊急メンテが入ると
    「チェ!」と思ってしまします・・・ヽ(;´ω`)ノ

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    >まろんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    いやあ、書き始めてから思いました。
    出産も妊娠も経験のない私が書くには、余りに
    無理のある話であったかも・・・と(ノ_-。)
    いえ、書き手が自分の経験した話しか書けぬのでは
    そもそもえらく狭義になってしまうのですが・・・(;^_^A
    楽しんで頂けると嬉しいのですが、何分にも
    大人の女性から支持を集める【信義】
    クソガキが何言ってる!と思われぬよう・・・頑張ります(・Θ・;)

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