2014-15 リクエスト | 我も亦<われも また>1

 

 

【 我も亦 <われも また> 】

 

 

下心のない恋など、存在するのだろうか。
どうにか寄りたい、その目に映りたい、知ってほしい、そしてもっと知りたい。

あの方に想いを寄せたことを辛くないと無理して言えば、この口より漏れる端から全て空しい嘘になる。
けれど本当のことだけは口が裂けても言う事はない。己の心と共に墓場まで抱いていく。
そして心は墓場まで持って行くから、残ったのは亦だけだ。

我も亦 心からあの方を乞うた。恋うて慕った。黙ったままに。

戀は言の葉を二つの糸で結ぶ。その心に糸を渡して。
あの二人が無言の内に交わす瞳の声を糸で渡すよう。

俺には無縁だ。俺は心を隠して持って行く。墓の底まで。
それでも悔いる事だけは、決してないから。

 

******

 

あの方と隊長の鼻が触れ合うほどに近寄っていた。
その部屋に踏み入った瞬間、俺は死ぬ程後悔した。

見なければ良かった。見なければ知らずにいられた。
知らずにいれば亦苦しむことも、眠れぬ夜を重ねる事もない。
尊敬し、男として心より認めるあの人に、妙な敵愾心を持つこともなかったものを。

間の悪さとはこうしたものだ。
見なければ良いものほど目に入る。聞かねば良いものほどよく聞こえる。

あの人とあの方が言い争いをしたと聞いたのはそのすぐ後のことだった。

微かな期待を抱く己を、心から穢いと思う。
しかし正直だとも思ってしまうのだ、別のどこかで。
心とは、何と厄介なものだろう。

そんな風に思いながら俺はその晩、夜の歩哨に立っていた。

夜更けの皇宮を歩きながら、黒い空を見上げる。
深まる秋を知らせるように空は日増しに澄んで行く。己の心が濁っていくのと丁度反対だ。

澄んでいく空に向かって溜息を吐く。
そろそろ引きかえすかと思いながら 最後に坤成殿を回る為、そちらへ足を向けた。
そしてその回廊で身を隠す様にして先を見遣っている新入りを見掛け、小さく鋭く問うた。
「何だ」
見張りも立たず、何をしているのだ。
その声に仰天して顔を上げた新入りは、あの、そのと言い淀みながら頭を下げて走り去る。

おかしな奴らだ。
そう思い、奴らの視線の先を眺め、俺はその場に縫止められた。
そこに医仙、あの方がいる。
黄色い野菊を指先に持ち、黒い夜の闇の中白い横顔で、ぼんやりした瞳を宙に遊ばせながら。

あの瞳が誰を見ているか、横顔で誰を想っているか、問わなくとも嫌と言うほど知っている。
知っているのに、問わずにはいられない。
打ち消したいのだ。そして夢でも良いから、違うと言って欲しいのだ。

恋がこれ程己を浅ましくさせるなら、二度としたくない。
これが終わった後には、この心だけ墓場まで抱えていく。
二度ともう誰にも心を渡したくはない。これが終われば。

「夜も更けました」
気付けばあの方まであと数歩の距離に近寄り、そう声をかけていた。
「兵舎までお送りします」
「大丈夫、もう少ししたら自分で帰ります」

その言葉に期待する己自身が見苦しい。
この方の言葉に、目線に、期待してしまう自分が厭わしい。
それでも止められない。
俺はここにいる、気付いてほしい。せめて終わる前に。
報われたいわけでも、お二人を裂きたいわけでもない。
ただ気付かれずに散っていくのが寂しくて、僅かな光を探して目を凝らすのだ。

「隊長は気持ちを伝えるのが苦手ですが、意地の悪い方ではないです」
分かっているのだ、無口なあの眸で。この方をどれだけ慕っているかも。
慕っているから医仙を天界へ返す返さぬと、どれだけ苦しんでいるかも。
部下として誰より一緒にいた俺だから、この方にお伝えできる言葉がある事も。

「もし一緒の部屋がお嫌なら、他に部屋のご用意を致します」
この言葉が俺の本音なのだ。
共にいらっしゃることは分かっている。同じ部屋で夜を過ごしている事も。
けれどこの方は知らない。
俺が寝台の上で一晩中、窓外が明るくなるまで苦しい息を続けている事を。
それでも黙ったままこの心は、墓場まで持って行く。

「お願い」
その呟きをどのように理解すれば良い。
本気で離れたいのか、それともこちらに気を使っているのか。
離れるのなら、今すぐに俺の部屋を空けると伝えたい。
俺は兵舎の吹抜けに筵で眠ろうと、生木の段でごろ寝しようと 構わないからと。

こちらに気を使っているのなら、そんな必要はないと伝えたい。
あなたはあなたのままで、そこに居て下されば良い。
それだけで俺は、天に上るほど嬉しいのだからと。

「やはり・・・皆、案じておりました。あの隊長が寝床を譲るはずもなく。
隊員の話では毎晩、椅子二つでお休みのようだと。
布団だけでもお譲り頂けばいいものを・・・と、部下が・・・」

そうお伝えしながら、心の中で舌打ちをする。
部下とはどの部下のことだ、俺自身のことではないか。
何故俺が心配なのだ、あなたの事が心配だと、真直ぐに伝えられないのだ。

そんな事だから俺は鈴をつけると決めたのだ。
猫の首に鈴を結ぶように。この方がそこにいると判るように。
これ以上、不用意に近づいてしまわぬように。
俺自身への、戒めの為に。

 

 

 

 

新リク話 【 我も亦<我もまた> 】

114. 無題
実はチュンソクもウンスに片思いだった。
気付かれることも実ることもなかった彼の想いと
たった一つヨンも知らないウンスとのエピソードを
一生の思い出として大切にする様子、
なんていうお話を読んでみたいです。
&nbs
p;(あみいさま)

これももう、リク話でしかあり得ぬお話ですが。
楽しんで頂けると嬉しいです。

皆さまのぽちっとが励みです。ご協力頂けると嬉しいです❤

今日もクリックありがとうございます。
にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村

19 件のコメント

  • SECRET: 0
    PASS:
    ありがとうございます!
    アメンバー承認で大変ですよね。それに会社勤めならば月末はお忙しいのではないですか?
    それなのにリクエスト話の更新をしてくださってありがとうございます!!
    嬉しいです。本編の中のシーンを入れてくださることですごくリアル感味わっております♪
    そうなんです。あの菊を見つめていて話しかけた時にはもしかしたらチュンソクも!?って思ってしまったんです。だからリクエストしてしまいました。
    次回も楽しみにお待ちしています。

  • SECRET: 0
    PASS:
    勿論、本編ではそんな欠片も見受けられませんでしたが‥(えぇたぶん)
    実際の所、どぉ~だったのでしょうか?
    チュンソクの心の奥の奥にもしかしたら‥
    お話の続き、楽しみです!
    チュンソクのその気持ち、くれぐれもヨンに気付かれませんように‥
    例え気付いても知らん顔してくれるかな

  • SECRET: 0
    PASS:
    チュンソク♡
    嬉しいです♡リクエストを出された方にも感謝ですね♪
    彼の心の内を見せて戴き有難う御座います♡
    また、覗きに参ります| 壁 |д・)

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらんさんこんにちは。
    先のお話、
    リディア皇女は私の大好きなキャラです。
    長くなるのかな?と思ってたら
    読者想像に…あら残念これからって時に
    (* ̄∇ ̄*)
    アメンバも沢山の承認
    予想されてたかしら?
    私がさらんさんのアメンバになれたのは
    偶然今からまた再開します!(#^.^#)
    とて出ましてラッキーだったのです。
    今回も皆様待ってらしたから
    1日まで怒濤のごとくかな?
    チュンソクのお話も本家と絡めて
    くださってるのでますます
    さらんさんワールドに
    のめりこみそうです。(*^^*)
    お話はゆっくりで大丈夫です。
    無理なさらずご自愛しつつ
    書いていただければ読者は
    嬉しいです。(///∇///)
    毎回、素敵なお話ありがとうございます!

  • SECRET: 0
    PASS:
    あの時のチュンソクですね。
    心の声が聞けて良かったです^^
    私もチュンソクもしかしたら・・・って思っていました。
    この後,ウンスが「毒をもって毒を制す」を行う直前も,心配して部屋の前に駆け付けていましたもんね。
    トクマンはウンスに対しては憧れ,チュンソクの想いは恋(旧字体の漢字が出ない(汗))なんですね。
    それも報われない想い。。。
    次話楽しみにしています^^

  • SECRET: 0
    PASS:
    チュンソクも、、、また、、、。
    堅物なイメージのチュンソク、堅物だからこそ?!彼もまた焦がれるのですね。
    さすが、医術だけでなく容姿もズバ抜けて、尚且つ、屈託のないあの性格、、、ウンスは罪作りですね~(笑)
    二人だけのエピソード楽しみです☆

  • SECRET: 0
    PASS:
    こんにちは、さらんさま
    あのキャラからはなかなか恋心を想像しづらいですが‥本当にリク話ならではですね(^^*)
    戀という字と意味 初めて知りました
    ありがとうございました(*^^*)

  • SECRET: 0
    PASS:
    久々のコメントです。リクエスト話、ものすごい勢いで進んでますねー!私たちは嬉しいですが、無理なさらないで下さいね~p(^-^)q
    あの場面ですよね…(T^T)映像化されながら読んでます。今までは、あの場面をウンス,ヨン目線でしか見たことがなかったので、やっぱり新鮮ですよ~♪楽しみですが、ハッピーエンドではないと分かってるだけに…(T^T)
    辛くなるかもですね(;´д`)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    うーん、リク話でなければチュンソク×ウンスは
    想像もしませんでしたし、
    でもリク話なので、どこに惹かれたかを
    細かく書くときりがなく・・・バランスが難しいです(ノ_-。)
    本当なら、この前の碧河も、今回も、めちゃくちゃ細かく書きたいところは
    山ほどあるのですが・・・(;^_^A

  • SECRET: 0
    PASS:
    ヨンとウンスが大きな岐路に立ったあの時のチュンソクですね。
    心のもどかしさが伝わってきます。
    ヨンを尊敬しているから、ウンスを大切に思っているから。二人とも大切な人だから、自分の気持ちは心の奥底に仕舞っているのですね。
    その姿は切ないけれどチュンソクらしく思います。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    実は、同じシーンを全く違う目線で【百日草】でも
    書いている私wどんだけ好きかと!
    同じセリフを、別の目線で、別の気持ちで口にする
    そこに生じる化学反応を書くのがわくわくします(〃∇〃)
    私もあそこはそうなのかなーと一瞬思ったシーンだったので特に❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    >えみりんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    これも実は、いろんなパターンを考えていますw
    何処に着地するか、楽しんで頂ければ嬉しいです(●´ω`●)ゞ

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ののさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    雪が降ってえらく寒い週末ですが、ののさまもお体には気をつけて❤
    最近チャン侍医が多くて、久々の副隊長。
    リク話がひと段落したら、迂達赤の書き溜め分もどかんと書きたいなー。
    あ、でもチュンソクは、紅蓮でもこの後踏ん張ってくれますがw
    私も覗きに伺います❤| 壁 |д・)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >愛知のひとみさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    もう今となっては、どのリク話も【為虎添翼】の
    恐怖長編の二の舞になる危険性を秘めているのでw
    納得してバスンと決着場所に落とせたのは、
    リク話の中では【猩猩木】くらいですね・・・
    あれは、あれ以外の書き方はなかった・°・(ノД`)・°・と思います。
    ここまで書いて書いて書きまくっても、そう思えるのは
    ほんの数本だけです・・・(´・ω・`)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >すんすんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ふふふ、実際の処チュンソクは私の恐怖さらん設定では
    ウンスへの片恋と言う選択肢は全くなく(;^_^A
    そうなるには、隊長と過ごした時間は余りに長く、
    隊長に背くくらいならば、この程度の気持ちならすっ飛ぶでしょう。
    今回も、それを天秤の両端に乗せ悩むチュンソクですw

  • SECRET: 0
    PASS:
    >milkyさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    硬い人だからこそ、そこまで追ってしまうのか。
    チュンソクなりの恋愛観で頑張ってほしいのですが・・・
    ヨンとの事を思うと手放しで応援も出来ずです(;^_^A

  • SECRET: 0
    PASS:
    >わいやーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    いえ、意味はこれ、さらん解釈です( ´艸`)
    そして絶対に、本来の意味と違っていると思います。
    信じては駄目ですヨン❤
    でも旧漢字は奥深くて、私は好きです( ´艸`)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ヘンセルさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    確かにすごい勢いかもです(爆
    でもこの勢いで飛ばさないと(;^_^A
    4月5月までかかりそうで…
    辛くなるかもですね。もう片恋決定のお話です。
    チュンソクのことなので、それでも穏やかに笑てくれることを祈りつつ。

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です