2014-15 リクエスト | 邂逅・6

 

 

その目を見、囁く声を聞いてすぐに判る。
この男、本気で心底お前に懸想している。

何処まで知る、俺のあの方のことを。
ただ天の方、天界の医員というそれだけか。
それとも、より深く知っているのか。

しかしそんなことは今はどうでも良い。
あれこれ斟酌することではない。
こ奴を殴り問い詰めたとて真実は判らぬ。
余計な揉め事に気を散らしたくない。

今俺が欲しいのは此処に眠り、弱く小さな息を繰り返すウンス、お前だけだ。
お前にもう一度、この腕の中に戻ってほしい。

帰って来い、俺は此処にいる。
一人昏い夢の中で、俺の名を呼んだりするな。

そこに、いる?

あの声でそんな風に、闇に向け訊いたりするな。
お前は知っているはずだ、俺が此処にいる事を。
いつであれいつまでであれ、お前の帰りを待つ。
待ちきれず走って行き、お前を抱き締めてしまう。
戻って来い、どうにか正気を保っているうちに。

帰途が判らぬなら探しに行く。
だから今、其処から俺を呼べ。
お前の声は闇を縫い時を駆け、必ず届く。
呼べ、それだけで良い。一言で良いから。

もう一度だけあの声で、俺を呼んでくれ。

 

******

 

華侘というこの方に医仙の状態を伝えつつ、横の不穏な気配に少なからず戸惑う。
気にするなという方が無理だ。
大護軍の心配は、充分に判る。
医仙が負傷して以来正気を失い、目の焦点すら合わぬほど動揺していた。

ただ問題は華侘と共にいらした、この若い男。

恐ろしい程に、大護軍と同じ気を持つこの男。
しかし私まで気を乱す事は、絶対にできない。

この掌に預かっているのは他ならぬ医仙の命。
風前の灯火、強い風が一陣吹けば立ち消える儚い命。

護ると約束した以上、必ず。

己を鼓舞するよう大きく息を吐き、そして吸い、私は華侘を見た。
「如何でしょうか。腹を開けるのは」
華侘は小さく、しかし確りと頷いた。
「やりましょう。腹腔内の出血が少ないうちに。出血で他臓器を圧迫すれば、機能に影響が出る」

・・・・・・何だ。

違和感に目を瞠り、華侘というこの方をじっと見つめる。
今の言葉は、一体どうしたことなのだろう。
天界から迎えた頃の医仙が、よくそうした話し方をされていた。
おっしゃる意味は分かる。
腹の中の傷から血が漏れて、他の臓腑の動きを侵さぬうちにと。
だが明らかに高麗の語彙でなく、私の知る他国の語彙でもなく。
元の訛りが強いからと、そういった類の話ではない。
「華侘・・・」

まさかあなたは、本物の華侘なのですか。
時を超え、天門を超え、自由に時代を行き来し、権力に屈せず、曹操の主治医を固辞し。
天門をくぐってその手から逃れ、以降数百年に一度、門から弟子を現世に送るという伝説の医官。

その言葉を呑み込み、じっと見つめる。華侘が静かな目で此方を見る。
視線に気付くと華侘は
「何ですか、チャン先生」
と、穏やかな声で尋ねる。

気を乱すわけには行かない。私は深い呼吸を繰り返す。
「では、手術を引き受けて下さいますか」
「もちろんです、チャン先生。やりましょう」
言いながら、華侘は持ってきた荷を開く。
薬瓶、薬草、鍼、そして皮膚を縫い止める針と糸。

持っていらっしゃる医術道具は、私の物とそう違わない。
医仙の時のような、明らかにこの世のものと違う、目立った道具を持っていらっしゃるわけではない。

しかし並んだ針を見て、私の目が大きく開く。
その針は医仙のものと同じ光り方をしていた。

己の身が総毛立つ。
なかなか消えないその感覚に唾を飲み込み、改めて華侘の医術道具を、穴の開くほど見つめた。

華侘とお連れの身に着ける衣服の色形は、高麗より古いものに見える。
大護軍とて、華侘を天界にお迎えに行ったとはおっしゃっていない。
ならば華侘は何故、医仙と同じ針を持っているのだ。

華侘。あなたは、誰だ。

 

 

 

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17 件のコメント

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    華佗さん…だれ?
    気になります
    二人のバチバチに 挟まれる 侍医・・・
    たいへん。
    それどころじゃないでしょ~
    はやく ウンスを助けて (T_T)
    ヨンがかわいそうです。

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    チャン侍医はヨンとソンジンの気が同じだと気付いてるみたいで凄い!
    そして、劉先生はまだまだ謎がありそうで此方も目が離せません。
    そしてヨン、切実すぎてなんとも言えないT^T

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    チャン先生混乱してますね。ありえない、目で見ると違うのに感じる気が同じ。ウンスのことが最優先なのにどうしてもあの二人に気持ちが持っていかれてしまう。わかるのは先生だけでしょうか?
    ヨンジンの気持ちがわかりましたがウンスが目覚めてヨンしか見なかったら?ヨンジンのほうがストレートだから堪えられないかも…。ヨンジンが傷ついて欲しくないと思いつつ仕方がないのかと悩んでいます。

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    ヨンの悲痛なまでにウンスを呼ぶ声が心に痛いです。ウンスはヨンの全て。そんな強い絆でふたりは結ばれているのだと感じます。
    色んな事に疑問を持ちながらもウンスと向き合うチャン先生の洞察力も凄いです。また、それを押さえ、冷静であろうとする心の強さも感じます。

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    はぁ~ソンジンとヨンの攻防。
    謎大き、劉先生。行き詰まる展開に息を詰めて読みました。
    凄いです、凄すぎます。
    早く、次が読みたいので、明日が待ち遠しいです。
    素晴らしい物語をありがとうございます❗

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    さらんさん、こんばんは!
    今夜も素敵なお話をありがとうございます。
    いよいよ…、そして再び時代を超えたオペが始まるのですね?
    そして、ヨンの手強いライバルとの攻防もとても気になるところです。
    あああああ、ドキドキだわ…。
    今夜も寒いです。
    さらんさん、温かくしてお過ごしくださいね。

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    まずはチャン侍医とのカンファレンスですね。
    これが終わらぬうちは、手術への方向性も決まりません。
    侍医も華侘・劉先生へ容態説明しつついろいろ気になるようです・・・

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    >3茶さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    チャン先生の場合、ウンスの陽の気に一早く気づき
    ヨンの雷功を借りて手術するだけあって、
    気の察知能力は誰よりずば抜けているようです
    @さらん設定w
    ヨンにはひたすら慚悔の念ばかり・・・(´・ω・`)

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    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    こればかりは、何ともですね・・・
    少なくとも高麗にはウンス1人しかおらず、かつ
    ヨンが、その運命の相手と言うのは決まっている事なので・・・
    いろいろ考えつつ。もう暫しお付き合い頂けると嬉しいです。

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    >海月さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    正面衝突となるか、ヨンが覇気が戻らぬままか。
    現在も、いろいろと練り込み中です(え

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    此度はチャン先生、全てに抑え役。
    この方の場合、往々にしてそんな状況に陥りやすいです(ノ_・。)
    尚更、別のパラレルでは幸せになって頂きたいものです・・・。

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    >チビママさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    息を詰めて読んで頂いたとのお言葉、光栄です❤
    此度はイメ画もUPしてみたので、イメージ湧きやすくなれば
    なおさら嬉しいです・・・(*v.v)。

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    >あいちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    更新をお待ちいただき嬉しいです❤
    平日は07:45頃と21:45頃、
    休日はもう、完全に気分&出来高次第です・・・σ(^_^;)
    楽しんで頂けますように♪

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    >muuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうです、正しく、またしても時代を超えた手術が。
    そこに毎回立ち会うチャン先生も数奇な運命の方です・・・
    そしてお心遣いありがとうございます。
    muuさまも、お風邪など召されませんように(*v.v)。

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