2014-15 リクエスト ｜ 空の鏡・1

【 空の鏡 】

一雨ごとに、空気が温んでゆく。
すっかり暗い皇宮の回廊を渡りながら、しっとりと沈む周囲の闇を縫い、何処からか届く香りに俺は足を止めた。

「あ」

斜め前を歩むその小さな背が止まる。
白い横顔が何かを探す様に辺りを見回す。
赤い髪が温む空気の中、ふわりと揺れて動く。
あの瞳が俺を振り向き、三日月の形に笑みながら
「沈丁花」

あの声が俺に向かって、その花の香りよりも甘く耳に響く。

******

「いい香り」
夜の中だから良い。熱くなった耳は、きっとあなたの目には映らぬ。
「･･･ええ」

宵闇の中であなたを見詰める眸は、警戒しているのだと誤魔化せる。
空の鏡だけが真実を映している。
誰の目にも見せぬ心の裡を。誰の耳にも届かぬ心の声を。

あなたはその歩を止めたまま、俺を見上げて少し不機嫌そうだ。
「･･････何ですか」
そう尋ねると紅い髪を肩に流し、その顔が空を見上げる。
「ねえ、連れてって」

その視線を追って、空へと眸を投げる。
見ていらっしゃるのは、その遙か上にある天界か。
「今暫し。落ち着けば必ず天門へお連れ致します」

そうだ。必ずお連れする。
だから今だけはそんな風に離れようとしないでほしい。
温かくなったこの夜の中で、また凍えるようなことを考えたくはない。
あなたが帰った後には、二度と溶けそうもない雪の季節がやってくる。
その前の、今だけで良いから。

「違うってば」
あなたの不満げな声が、宵闇の中で高くなる。
相手の肚を読むには慣れたと思うていたが、どうもこの方にだけは読みが当たった例がない。

「では、何処に」
その声にあなたが腕を、夜の空へと伸ばす。
闇の中でその腕は柔らかく白く輝いている。
その細い指先が、浮かんだ空の鏡を指した。

「あそこ」

そう言うあなたに首を傾げ、じっとその先を見る。
俺の見えぬ何かを、何処かを指しているのか。
「･･････俺には、月しか見えません」
ようやく満足したようにあなたが笑って頷いた。
「うん、そうよ」
「月に連れて行けとお望みですか」
「そう、私を」

そう言って腕を下ろし、その悪戯な瞳でこの眸を覗き込み、あなたは笑って囁いた。

「私を月に連れてって」

眩暈がするほど抱き締めたいと思うのは、宵闇の中から春風と共に届く沈丁花の香りの仕業に違いない。

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新リク話【 空の鏡 】開始です。

224. 無題
くるくるしなもん＆mamachanさんの　Wリクエスト

‘私を月まで　連れてって！‘
ヨンとウンスで
とびきり　あまあまなお話を・・・
ジャズですが
‘Fly me to the moon‘
の歌詞のイメージで
お話できないでしょうか？

（くるくるしなもんさま）

先にお伝えを･･･今話、短いです。
調べたのですが、Fly Me To The Moon
基本のlyricsは

Fly me to the moon
Let me play among the stars
Let me see what spring is like
On Jupiter and Mars
（私を月へ連れて行って、星々の間で遊ばせて、
木星や火星の春を見せて）

In other words, hold my hand
In other words, baby , kiss me
（つまり、手を繋いでってこと。それは、キスしてって意味）

Fill my heart with song
and let me sing forever more
You are all I long for
All I worship and adore
（私の心を歌で満たして、そして永遠に歌わせて
あなたは私が探し求め、心から望み愛する唯一の人）

In other words, please be true
In other words, I love you
（つまり、そのままでいてって意味。それは、愛してるって事）

Read more: Frank Sinatra – Fly Me To The Moon Lyrics | MetroLyrics

これだけ、なのです。
宇多田ヒカル/Nat King Cole ver.は、もう少し長いですが。
これはだらだら書くよりと思い、いっそSSS(Super Short Story）にしました。
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