2014-15 リクエスト | 我も亦<われも また>2

 

 

「副隊長」

迂達赤兵舎で正面から大股で悠々と寄るあの人に声を掛けられ、足を止めた。

真直ぐな目を見るたび視線を逸らす様になったのはいつからだろうと、ふと思う。

共に幾つもの戦場を抜けてきた。
この人が俺たちを率いてくれる限り負けはないと思えた。
その背を追ってさえいれば、絶対に間違いはないと思えた。

保身も嘘もなく、考える事と言えばいかに俺達が 死なずに戦場を抜けるかくらいだった。
自身の命は余り惜しいようには見えなかった。
惜しくないからいつでも策を弄さぬ人だった。
正面突破といえば聞こえは良いが、結局は何処で何が理由で命を落とそうと構わぬ様子。
ご自身に斟酌しているようには見えなかった。

余りに杜撰な投げ遣りさに、補佐役としてきりきり舞いさせられながら。
それでもこの人と共に居られる事が、迂達赤としてただ誇らしかった。
俺だけではない、迂達赤全員がこの人を慕っていた。
慕って信じて、ひたすら無言でここまでついて来た。
その目だけを見、碌に聞こえぬその声だけを聴いた。

王命を受け天界へと行かれたこの人が、あの方を連れ天門から戻った後。
あの方の、王様やこの人への傍若無人な振舞いに、何と厄介な方をお連れしたかと心配になった。
あの方には正直、早く天界に帰って頂きたかった。この人をこれ以上、面倒に巻き込まぬために。
許されるならばあの方の襟首を掴み、天門まで引き摺って、あの穴に投げ込みたいとすら思った。

その気持ちはこの人が俺たちの目の前で、あの方の構えた刃に貫かれた時、頂点に達した。

それでも黙ってあの方を守ったのは、他ならぬ俺達のこの人が決めたからだった。
この人に守れと言われれば相手が誰であろうと、命の続く限り何処までも守る。
それが俺達の骨の髄まで沁み込んだ迂達赤としての誇り、忠誠であり無言の掟だった。

それほどに信頼し従うこの人の目を見られない。
まさかそんな日が来るなどと誰が予想しただろう。誰より俺自身が最も信じられんのだ。

「・・・副隊長」
不審げに俺を呼ぶこの人の声に我に返る。
「は」
いつものよう返答し頭を下げる俺を見ながら、この人は僅かに顎を傾ける。
気配を読むのに長けた人だ。一瞬も緩めることはできない。
改めて思いながら俺は平静を装う。

「気分でも悪いか」
「いえ」
「医仙の護りを頼む」
「・・・は?」
突然言われた驚きで俺は目を瞠り、目の前のこの人をまじまじと見た。
「王様へのご拝謁がある。トクマンには頼みたくない。トルベには尚更な」

成程、と俺は頷く。
医仙医仙とたびたび騒ぎ、隙あらば傍へ寄ろうとするトクマンと、女と見れば見境なしのトルベ。
確かにそれではこの人も気が気でないのかもしれん。俺ならば安心と言うわけだと、苦く笑う。

「医仙が城下に出掛けたがっている。何やら必要なものがあるらしい」
「必要なものですか。皇宮では手に入らんのですか」
俺の問いかけに、この人は首を振る。
「何れ気分を変えたいのだろう。 出したくはないが」
そう言いつつ額に手をやり息を太く吐くと、この人はもう一度俺に目を戻した。

「お前が護れ」
その真直ぐな目から己の目を逸らさぬようにだけ注意を払いながら、俺は頷いた。

「は」

 

******

 

「あれ?副隊長が一緒に行ってくれるの?」

兵舎のあの人の部屋を叩いたうえで、そこへ立ったまま中よりの返答を待つ。
嬉しげな笑顔で出て来たあの方が俺の顔を見、そう言って視線を彷徨わせた。

探していらっしゃるんだな、あの背の高い姿を。
何処か心の柔らかい部分が鋭く痛む。尖った爪で抓られるように。

「ええ。隊長は王様との拝謁があり、俺が代わりをするようにと」
目の前のこの方は、ふうん、と鼻を鳴らすような声を出し、次の瞬間にっこりと笑った。

不思議なのだ、この笑顔を見ると。
まるで夏の朝早く、大きな花が 聞こえないはずの音と共に咲くのを見るような気持ちになる。
この笑顔を見れば、全てがうまく行くように思う。
そして、いつも笑っていて頂きたいと思うのだ。
あの人も同じように思うのなら、この方を天界へお返しするなど到底無理な相談だろう。

堂々巡りの想いに蓋をするよう、俺は目の前に立つ この方へと目を当てる。
「で、手に入れたいものとは」
「・・・うーんとね」
逡巡するその瞳を見つつ、これはあの人の予想が当たったなと心で頷く。
欲しいのもがあるとは言い訳で、気分を変える為城下に出たいとお思いなのだろう。
さすがに良く見ていらっしゃる。 そしてこの方のことをよく知っている。

こんな風に心を隠したままの俺などとは比べられるわけもない深い想い。
分かっていながらも、男として負けたと、そんな気持ちが拭い切れない。

「まずは参りましょうか。
道々、医仙も思い出すやも知れません。何が欲しかったか」
俺は僅かに微笑んでそうお伝えする。
この方は嬉しそうにうん、と頷いた。

 

 

 

 

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8 件のコメント

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    チュンソク、確かにしっかりしないと戀心をヨンに悟られそうですね。もしかするとバレてるかもしれないけどチュンソクならウンスの、そしてヨンを裏切ることなどないって信頼されているからとか?勝手な憶測です。
    チュンソク一緒に出かけてどんな気持ちになるかな。
    次回を楽しみにお待ちしています。

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    自分が忠誠と信頼を寄せるヨンを刺し、その手をわずらわせるウンスは、まさに目の上のたんこぶだったんですね。
    それなのにいつの間にか違う目線で追い掛けてた。
    憧れに近い恋心なのかな。その変わり目って気がつくといつの間にか・・・なんですよね。
    ウンスの笑顔はヨンだけでなく、周りの人も魅了する力がありますね。

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    ヨンの大事な人を
    任せられる 名誉でもあるけれど…
    秘かに魅力を感じる人だから
    ちょっと複雑
    でも 近くで感じられるうれしさ…
    あ~ 益々 複雑
    それでも しあわせと感じられるのでしょうね

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    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    私の中では、ヨンとチュンソクの関係も亦迂達赤の中でも
    一際特殊と言うか。
    ヨンはヨンなりにチュンソクの事をとても信頼し
    背を預けていると思うので・・・
    どうなるかですね。いろんなバージョンを考えています( ´艸`)

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    英語で恋に落ちる=Fallingと、正に「落ちる」ですが
    チュンソクの場合は笑顔落ちw
    単純に落ちる恋を書いて上げたいけど、どうなりますかσ(^_^;)
    でも単純にしてあげないと、これ以上の苦労は可哀想で・・・

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    チュンソクは、2015年我が家の【信義】にて
    かなり活躍予定w
    ガンバレーγ(▽´ )ツヾ( `▽)ゞガンバルー
    年末年始のチャン侍医からバトンを渡され、ここらから
    ちょっとエンジンかけて、行ってほしいものですw

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    >さらんさん
    何かと 間の悪い男イメージの
    チュンソクに 光を!
    はばたけ! ぽっぽ~
    活躍予定ときき 今から かなりの
    期待 ( ´艸`)
    あら? 私 こんなに チュンソク
    好きだったのね…(/ω\)

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    >くるくるしなもんさん
    こんにちは❤コメありがとうございます
    何しろ【紅蓮】事象は、チュンソクの漢気。
    テマンの忠誠。トクマニの成長。
    この三本柱で、ヨンを支えて頂かないと。
    そしてアン・ジェのおとぼけも(w)
    それにしても自身の二次から離れているので、
    一旦は停まった【三乃巻】で勘を戻しつつ、
    ああ、でもまずはバレンタインもあるし、
    リク話ももうしばし続くし、ひゃーです。

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