信義【三乃巻】~弐~ 篝火花・3

 

 

荷車を牽いたトギが、迂達赤兵舎にやって来る。
その荷車の中には典医寺で使う馬糞の肥が、 たっぷりと積まれている。

兵舎の入り口を閉じ、警戒に当たっているあの赤い鎧。
府院君の兵たちがその匂いに顔を歪めて、トギを止める。

「何をしている!」
「これは何だ、酷い匂いだ」
「早く帰れ、何故こんなものを」
そう口々に、トギを責めたてる。

ごめんな、トギ。

トギは一生懸命に、扉を開けろ、中に入れろとその手で語り、兵たちの目をごまかしてくれる。

その兵たちの目がそこを向いてる間に俺は門の横の柱を上り、屋根を伝って兵舎の中へ潜り込む。

 

吹抜けの上、明り取りの窓より柱を伝って兵舎の吹抜けに降り立った テマンの姿。
吹抜けにいた迂達赤全員が、 わらわらとそこに集まる。
「テマナ!!」
「どうだった、話を聞かせろ」

そう言いながら集まった兵の真中、言葉に詰まるテマンの前に俺は立つ。
「テマナ、お前だけか。チュソクは」
そうだ。どうにも心配で、 チュソクが皇宮に入ればすぐに援護せよと、 俺はテマンに伝えていた。

テマンが此処に戻ったということは、 まずはチュソクが皇宮に戻れたということだろう。
俺の問いかけに、閊える声の代りのようにテマンがその手を動かす。

「え、ち、王様に会うと言って、かか康安殿の方に」
「王様に会うとは、何のつもりだ」
チュソクもあの王様の決断の際、俺たちと共に御前にて聞いたはずだ。 あの王様の決断を。

─── 隊長は医仙の元へ行った。 何故か。
何故なら、典医寺で伏していた隊長は 誰とも会っておらぬ、故に王命を知らぬからだ。
その代わり万一隊長が王命を知っていたと露見すれば、隊長にもお主らにも厳罰が下る。
良いか、絶対に忘れるな。

その意味を誰より知るはずのチュソクが、隊長のところから戻り、王様に会いに。
俺の眉間の皺は、どんどんと深くなっていく。

「そそそれ、は隊長が、ちょ・・・王様に」
テマンが手を動かしながら何か語ろうとするのを、横からトクマンが
「何だ、確りと話せよ!」
そうどやしつけ、テマンの頭を小突く。

「隊長から、ちょ、王様が、王様に伝言があるとか」
「隊長は、元気か」
その俺の問いに即答をせず、テマンは暫し考えている。

「何だ」
言葉なく俺の目をまっすぐ見るテマンに焦りは強くなる。

「どういう事だ!」
大きくなった俺の声に、堪らずトルベが
「もったいぶらずに言え!」
横から飛び出しそう怒鳴って、テマンの胸座を掴む。
「は、離してください」
テマンは鎧の肩を直すと
「ちょ王様は今、禁軍とキチョルの私兵に囲まれて何重にも警備されて、入る隙間もないしそ、それに隊長は…」
そう言って尻すぼみになった声に
「隊長がどうした、なんだ!」
たまらずトクマンが大声を上げる。

「お、お俺達の隊長は・・・捕まったって・・・」

そのテマンの声に大きく踏み出し、テマンの胸座を片手で掴み上げる。

「何故隊長が捕まる」
「か、江華島で捕まって、連行されたって」
「でたらめだ!」
「みみんな、そうい言ってます。すごい騒ぎです」

俺はテマンの胸座を掴んでいた手を離す。
同時に吹抜けの中に、激しい動揺が広がった。

「迂達赤はどうなります」
トクマンが不安そうに問いかける。
「あんな門、蹴り破って出ましょう!
蹴破って飛び出して、隊長を助けに行きましょう!!」
トルベが悔しそうに俺に訴える。
「そうだ、そうしましょう」
トクマンがトルベに呼応する。

「隊長を助けたあとは」
俺は奴らにそう問いかける。
「こんな国、捨てます。逆賊になって死ぬくらいならパーッと暴れて、大盗賊になって」

そう叫ぶトルベの足を
「馬鹿野郎!」
俺は下段から蹴り上げた。
「鎧も武器も持って行かれた。 どう戦う気だ」

お前らの命を今預かるのは俺だ。隊長が無事に戻るまでは、全て俺の責任だ。

こんな時隊長ならどうする。あの奇轍の弟の火をつけるという脅しも、 あながち出任せではない。
そんな絶好の口実を与える訳にはいかん。
そうなれば最後、お前らはどうなる。

俺は隊長がいつも腰掛ける生木の階に腰を下ろした。

どうする、この絶体絶命の状況。
隊長ならばどう判じ、どう動く。

 

 

 

 

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4 件のコメント

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    プジャンが、ウダルチのみんなが、苛立っています。
    テマンの話は、要領を得ない。
    とりあえずみんなの動揺を鎮めて、プジャン、良く考えろ。

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    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    チュンソクなりに考えてはいるのでしょう、そんな顔をしています。
    ただ、隊長と比べたらそれは、修羅場を潜った数も違い
    センスも違うでしょうから、なんともですね・・・
    しかしチュンソクとて漢、きっとどうにかしてくれるはずです!
    信じてる!(今回じゃないかもしれないけど!)

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    さらん様、こんばんは❤︎
    チュンソク悩んでますねぇ。
    何時もの事では有りますが、ヨンの抜けた迂達赤は、暫し機能停止です。
    テマナの話ももどかしく、こんなところから飛び出して、隊長を助けに行きたいと騒ぎ出す隊員たち…。
    チュンソクって、困っているか、トボけている印象が強いです。
    イイ男なのですが、ヨンとは全く違うタイプ(*^_^*)

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうなのです!
    チュンソクは、あの八の字の下がり眉が
    鉄板の良い人オーラと共に、そこがいかんのだ!と
    思わず喝を入れたくなるムードを醸し出している…と
    毎回思います、本当に。
    整った見目良い男なのに、良い人で終わるタイプ?w

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