信義【三乃巻】~壱~ 迫られた選択・3

 

 

林の中。
追撃者との斬り合いは続く。

天界より持ち帰った盾を振り、正面の相手の刃を除ける。
同時に背後より斬り掛かる敵の胴を、振り向きざまに薙ぎ払う。

医仙と慶昌君媽媽を追わせる訳には行かぬ。
僅かでも敵を足止めし、距離を稼いでもらわねば。

頼む。雨よ、降ってくれ。
天候が悪くなれば、追撃者らも諦める。

今にも降り始めるほど重苦しい空気のくせに降らない雨を待ちながら、刀を振り相手を斬り続ける。

その瞬間。
破裂した煙幕玉に紛れ気配を殺し、足音を忍ばせてその場から一足飛びに林の中へ駆け込んだ。

ようやく鳴り始めた雷鳴が夜の林の中、駆け抜ける俺の下草を踏む足音を消してくれる。
林の中、空で光る雷光が追跡者らの顔を蒼白く照らしては、また闇に沈ませる。

走れ、急げ、見つけろ。医仙と慶昌君媽媽を。
必ず見つけると約束した。見つけてやらねば。

 

降りだした。こんな時に限って、ろくな屋根じゃない。

屋根の隙間のあちこちから垂れる滴を、床に置いた 大きなお椀で受けながら溜息をつく。

患者だけは濡らすわけには行かない。体が冷えて、痛みが悪化する。

そう思って小さな体に、ようやく用意した薄い上掛けを掛ける。

その寝息が静まったのを見計らって、私は外に出た。
馬にもご飯をあげなきゃね。

チェ・ヨン・・・チェ・ヨン大将軍?
違うわよね、まだ将軍にはなってない。
じゃあ、チェ・ヨンさん?

天下のチェ・ヨン将軍をチェ・ヨンさんって呼ぶなんて、何だかすっごく偉くなった気分だわ。

そう、楽しいことを見つけなきゃ。
あの小さな体で頑張ってる患者のためにも。
笑えれば大丈夫、歌えれば、もっと大丈夫。

私は、鼻歌を歌ってみる。

その時激しい雨音と雷の中でもはっきり感じた何かの音。
私は馬の背に括りつけられた荷物の中からチェ・ヨンさんの小さなナイフを抜いて、あたりをきょろきょろと見渡した。

馬を繋いだ壁の脇からそっと顔を覗かせると同時に、すごい雷の音がして、思わず首をすくめる。

「か、雷・・・」
これはかなり、近いんじゃない?
怖い。おまけにさっき確かに聞こえたはずの物音も、もうしなくなってる。

こんな危ないものは、しまうべきよね。

手にした小さなナイフを馬の背の荷物にしまおうとした瞬間。
今回は後ろではっきり聞こえた物音に向けて、私は、そのナイフを両手で突きだした。

だけどその両手首は呆気ない程に、大きな片手で捕まれて。
体重をかけて踏み出したはずの体は、あっさりその片手で反転させられて。

次の瞬間、私の顔の真ん前にチェ・ヨンさんの顔があった。
そして大きな片手で捕まれたうえ、握ったナイフをよりによって自分自身の喉元に当てた、私の両手首が。

「確かめてからにして下さい」
手首を痛いほど握ったままそう呟く声に
「あなたなら避けてくれると思って!」
そう反論してみるけど。

「むやみに振り回してはいけません。敵か味方か見分けて下さい」
諭すようなその声に頷きたいけど、喉元のナイフのせいで満足に声も出ない。

それでも必死で頷くとやっと大きな片手が緩んで、私の両手首が自由になる。

降り続ける雨音。
私の手首を掴んでいた彼の片手も、濡れて冷たくなってる。

私が溜息をつくのを無視して、チェ・ヨンさんは無言で大股に私の横を通り過ぎる。
そして患者の横になっている室内へと入っていった。

私は急いで、その背中を追いかけた。

 

 

 

 

前半名場面、目白押しの7話
エピソードの切れ目も悩みます・・・
今回は短めになってしまいました。

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14 件のコメント

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    こんばんは!さらん様。
    あの林の中での戦い、ヨンはまるで瞬間移動をしているかのようでした。
    この後の小屋でのシーン、好きな場面目白押しです♪
    さらん様がどのように描かれるのかとっても楽しみです(●^o^●)

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    ヨンとウンス 二人の心が また一歩
    近づくところ
    「隠れて 待っててくれるかな?」
    「探し出して 来てくれるかな?」
    ドキドキ 信じてた! ( ´艸`)
    「あなたなら避けてくれると~」って
    あなたのこと信じてる の始まり
    状況が状況だから ヨンしか頼れないけどね…
    (;^_^A
    そーだ 体の具合も気になるね。
    医者だもの・・・
    稲光に照らされる ウンスに 見とれちゃうヨン
    ここも好き。

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    質問です。この時ヨンは声もかけず、いきなりナイフをウンスに向けたままでしたね。ここの所のヨンの気持ちとかは、どうだったんでしょう?二人が絡むシーンは、両方の気持ちとかわかるといいんですが…。無理でなければ、よろしくお願いします。

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    ウンスは逆境に強いポジティブな女性ですね。心細い物をしまいこんで、自分を振い立たせてる。
    この頃のヨンは、手加減ないですね。条件反射、ここでのあり方を教えるためとは言え、いきなりウンスの首に刃物を喉元に当てるとは・・・。
    お互いに心配し合っているのに、今はまだ、ぎこちない距離感のふたりですね。

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    チェヨンくん、火功をバンバンあびながら、敵を片付けてました。ひとりもあの二人を追わせないと思っていたのですね。
    ウンスちゃん、頑張ってます。全然違う世界で、見知らぬ場所で、馬をあやつり病人を守り。でも鼻歌でも歌えればまだ大丈夫って、ひとりで頑張ってきたウンスの今までの生き方がしのばれます。
    ますます目が離せません。p(^_^)q

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    さらん様、こんばんは❤︎
    チェ・ヨンが、ただただ剣を振るっていた場面。
    必ず二人を見つけ出すと分かってはいました。
    でも、「必ずふたりを見つけ出さなければ….。」
    そんな、焦りを感じるヨンの声を聞くと、簡単では無かったのだと、ヨンも不安にかられていたのだと、あの場面に厚みが出た気がします。
    ウンスもそうです。
    ヨンと離れ、たった一人で、媽媽を護り、隠れる場所を見つけなければならなかったのです。
    何の心の葛藤も無く、小刀を振り回せる訳が有りません。
    本編では、余りにアッサリと、迷い無く、ヨンとウンスが行動した様に見えました。
    細かい心の動きを知った後なら、二人が無事に再開出来た事が奇跡なのだと、運命の出会いの布石が、ここにも有ったのだと、私なりに妄想してしまいます。
    これは快感です。
    なんで?…が、ひとつずつ、こうして無くなって行くのですから。
    ヨンと信義に益々傾いて行く私です❤︎

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    >わいやーさん
    こんにちは♡コメありがとうございます
    実は、7話全て書きあがっているので
    もうこの後、半分くらいづつ
    一気にUPしてしまうと思います。
    ものすごい量に成り、読み手様には申し訳ないのですが・・・
    多分この後は、かなりスピンオフ色が濃い感じになっていくと思います。
    自分が悩んだり、消化不良部分が強調されるかもです。
    それでも楽しんで頂けると嬉しいです・・・❤

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    >くるくるしなもんさん
    こんにちは♡コメありがとうございます
    何となく、今回書いて方向が分かって来ました。
    まずはもう上がっている7話を、一気に
    UPしてしまうと思います。
    すごい大量になり、読み手様には申し訳ないのですが・・・
    その後は、三巻形態でも、多分スピンオフ色が
    強くなっていくかもしれません。
    それでも、読んで楽しんで頂ければ嬉しいです(*v.v)。

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    >チェヨン1さん
    こんにちは♡コメありがとうございます
    そうですね、両方の気持ちが分かれば
    ベストなのかもです。
    ドラマをそのまま書くときは、そうなるよう頑張ります♪
    今回7話を書いて、これではあらすじ小説になってしまうと実感しました。
    多分この後は三巻形態を取りながら、
    疑問や消化不良部分をメインに、
    スピンオフ色が、濃くなっていくと思います。
    それでも楽しんで頂けると嬉しいです(*v.v)。

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    >ままちゃんさん
    今回書くために、ものすごく隅々までじっくり
    しっかり確認しました・・・
    今回、これを書いたのは、やはり失敗ではなかったと。
    台詞の隅々が、ちょっとずつ変わっていくのも
    何となく分かり。
    まさに、恋心花開く、的な。
    多分あらすじ小説として、全話分上げるのは
    これで最後だと思います。
    この後は消化不良部分や、今後のキーパーソンを中心に
    スピンオフ色が、強くなっていくかと。
    それでも楽しんで頂ければ嬉しいです(*v.v)。

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    >ポチッとなさん
    こんにちは♡コメありがとうございます
    書いてて、気づきました。
    やはり、あらすじ小説が書きたいのではないのだと。
    あらすじ小説として、全話分書くのは、
    これが最後になりそうです。
    今後は、これからのキーパーソンやキーワードを中心にして
    消化不良部分を書くような、スピンオフ色が濃くなりそうです。
    それでも良い、と思って頂けると、嬉しいのですが・・・(*v.v)。

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    >夢夢さん
    こんにちは♡コメありがとうございます
    今回7話は全話書き済みなので、この後
    凄いペースで、全話分、UPすると思います。
    ものすごい量なので、読んで頂く方には
    申し訳なく思うのですが・・・
    そして自分が書きたいのは、やはりあらすじ小説ではなく
    消化不良部分を整理して、この後のキーワードやキーパーソンを確認して
    あくまでその先なんだな、と、実感しました。
    ただ7話から書けたのは、本当に良かった。
    あまりにDVDを観続け細かいところまで何度も韓国語を聞き、
    少しづつ台詞の隅々まで、変化していくのを確認しました。
    ここからは、三巻形態を取りながら、スピンオフ色が濃くなると思います。
    それでも楽しんでいただけると嬉しいです(*v.v)。

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    >さらんさんへ、 ここの場面のウンスがとった行動は間違いではないと思ったんです。なのに、ヨンくん怒ってるように感じてしまい、疑問だったんです。体調もよくないし、闘い疲れて、まだまだ油断出来ない状況だから、仕方ないか、言葉少ない人だし。と考えてたんだけど、ウンス可哀想だな。と振り返ってみると、ヨンとウンスがパートナーになるまで、私ウンスよりで見てる事が多いです。だから、両方の気持ちが知りたくて。さらんさんが書きたい方向見えてきて、楽しみだし、嬉しいです。

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    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    後出しじゃんけん的に、目次を作ってみました。
    そして小説イメージが好き過ぎ、画像まで。
    イメージが沸くと、嬉しいなと。
    相変わらず花言葉です~♪
    私、実は信義をヨン以外の目線から見たことがなく・・・
    なのでウンスオンニ目線(@吾亦紅とか)で
    書くとき、かなりキツかったりします。
    ナゼダロウ(?_?)ナゼカシラ
    ヨンの声なら、仕事中にも溢れてくるのですが(爆

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