信義【三乃巻】~壱~ 迫られた選択・4

 

 

「今まで何してたの?遅いわよ。よくここが分かったわね。
馬も中に入れたの、見つかると困るから」

よくここが分かったわね、か。
医仙の大きな声を追いかければ、俺でなくとも簡単に見つけられる。

しきりに話し続ける 医仙の声を無視し、手にした天界の盾を、そして鬼剣を柱に立て掛ける。

この庵の造り、襲撃されるとすれば出入口、そして寝台横の窓の二か所。
動きを考え、そして媽媽を守るためには、媽媽の寝台横に剣を、そして 盾を置くのが最適だ。

慶昌君媽媽の横たわるお姿を見、俺は寝台の足元の地面に膝をつく。

「お手柄でしょ、でもフンをしたら・・・」

騒がしい医仙の声の途中、その声を遮るほどの雷音が轟く。
庵の中が雷光に、一瞬蒼白く浮かびあがる。

 

「び、っくりした。大きな雷」
あまりにも大きな音に驚いて、体が竦んだ。
でも次の稲光で蒼白く浮かんだチェ・ヨンさんの頬にべっとりとついた血痕で、他の全ての驚きはどこかに飛んでいった。

どこからそんな出血が?
「すごい血!見せて」
そう叫ぶと、彼は伸ばそうとした私の手を拒むみたいに、顔をはっきりと逸らした。
「俺の血ではありません」

そうなの、触られるのも嫌ってわけね。そんなに嫌われてるならもう結構。
平和的な話し合いや雑談なんて期待しない。そして心配なんてもうしない。

私は患者の横に置いていた布を取り、チェ・ヨンさんの前に乱暴に置いた。
「拭いて」

 

今までの騒々しい声音とは明らかに変わった、医仙の固い声。
俺から顔を背けたまま、横たわる媽媽のお顔のみ見つめている。
俺は投げ出されるように置かれた布を手に立ちあがった。

途端に医仙が媽媽の枕元に腰掛けたまま、俺の鎧の胸を突き飛ばした。

「あっちで。この子が寝てる」
まるで近寄るな、来るなと言うように。
「この子とは無礼な」
先王 慶昌君媽媽への物言いに声を上げたが、医仙は固い横顔のまま何も言わぬ。
存在自体を拒まれているようで、俺はその場を大股で離れた。

部屋の隅まで移動して壁際に腰を下ろす。
渡された布で、体中に飛んだ 追撃者らの返り血を拭う。

庵の高い窓より外の雷鳴と雷光がしきりに響き、室内を蒼白く染める。

横臥された慶昌君媽媽の幼い御体。
鬼剣と天界の盾。それを立て掛けた柱。
そして媽媽の枕元に腰掛ける医仙の小さな横顔。

その目が一瞬の雷鳴に俯き、次の瞬間に虚空を見上げ
その次に媽媽へ視線を投げる。
その横顔が薄闇の庵の中、蒼白く浮かぶ。

ただそこに目が行った。

騒々しい医仙がひと時静かだ。
窓外の雷光に照らされて。

髪の流れる様、鼻の稜線。
そしてこちらを見ない目が雷鳴の烈しさの中、蒼白く浮かぶ。

ただ目を離さず見た。

休め。目を閉じろ。次の襲撃に備えろ。
己にそう唱えることすら忘れたままで。

 

 

 

 

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15 件のコメント

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    昨日、フライングコメントしちゃった
    ごめんなさい。
    きつい言い方、態度は
    気持の裏返し・・・?
    相手には 本心は伝わらないね~
    じゃ いいもん 勝手にしなさい。
    フン(  ̄っ ̄)
    思いが伝わらない ジレジレ始まる・・・
    ウンスの顏
    やっぱり 見とれちゃうのよね
    これで何度目かしら・・・
    学会の時と対照的な表情で・・・
    どんどんウンスの魅力に落ちてゆく~
    運命の人なのね~

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    こんにちは!さらん様。
    あの雷鳴の光がウンスの横顔を照らして、
    少し離れた所から血を拭く手を止めて
    まるで雷に打たれたようにハッとした
    ヨンがウンスを見つめますよね?
    あの時のヨンの心の中が覗いてみたかった
    のです。さらん様お願い致します(//∇//)

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    ヨンはウンスが「あっちに行って」
    と言ったのは、血だらけの自分が嫌だったからと思っていました。私もそうかなと思いつつも、ちょっとすっきりしなかったんです。
    ウンスは心配していたヨンに、差し伸べた手を払われた事に怒っていたのですね。その方がとてもしっくりきました。
    雷のかなウンスを見つめるヨンは何を考えながらみつめていたのかな。

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    1~4をやっとゆっくり見れました♡
    ヨン、目がウンスに釘付けですね~♪
    きっと最初から目はロックオンの筈ですけど( ´艸`)
    ちょっと贅沢気分でした☆
    風邪が流行り出しましたよ、さらんさんもお気を付けて。
    家は今二人風邪っぴきでまた伺えないかもです(TωT)
    また覗きにきます~

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    この言葉とウンスの表情が、なぜと、納得できずにいました。なんでそこまで、ムッとした表情をしたのか。
    自分の血ではないと、だから大丈夫。気にするな。それを、また頭から診られるのを拒否されたと思ったからということですね
    チェヨンは、必要最低限、いえ、それ以下の言葉しか言わないので。また、ウンスは、自分の気持ちを抑えて、やたらとはしゃいでしまうので。観る側に豊かなイマジネーション能力がないと。
    さらんさん、ありがとうございました。

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    >くるくるしなもんさん
    こんにちは♡コメありがとうございます
    いえいえ、フライングも大歓迎です❤
    私もいつもフライング(;^_^A
    今回も、三巻形態で書き始めました。
    でも7話を全話分書いてみて、私が信義で書きたいのは
    あらすじ小説ではないと、しみじみ実感しました。
    でも、消化不良部分やキーワード、キーパーソンは
    やはり残さず、整理しておきたい。
    なのでこの後は、三巻形態を取りながら
    スピンオフ色が、強くなっていくと思います。それでも楽しんで頂ければ嬉しいです❤

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    >わいやーさん
    こんにちは♡コメありがとうございます
    何度もDVD観ました。耳を傾けてもみました。
    私のヨン、何にも言ってないんですヽ(*'0'*)ツ
    なので、今回のお話でも、声は何も書けませんでした。
    ただ、目が行く。そして離せない。
    自分がやるべき事も出来ない。
    スピンオフなら、それを言う事でしょう。
    「ただ、その横顔から、この目が離れぬ。
    己のすべきことが山ほどあるものを、
    それらが全く手に着かぬ。
    今このような事になるわけには行かぬ。
    媽媽と医仙を守り抜き、追跡者より逃げ果せる、
    それが目下の使命だというのに。
    ・・どうしたというのだ、俺は」
    でも、あのDVDの中のヨンは、それが聞こえなかった。
    ただただ、無言で見つめていた。
    これが舞台裏でした・・・(;´▽`A“
    なので、この後、三巻形態を取りながら
    恐らく内容は、今後のキーワードやキーパーソンを中心に
    消化不良部分を整理するための、スピンオフ色が
    強くなっていくと思います。
    全話分あらすじ小説として書くのは、これが最後かなと。
    それでも、楽しんで頂ければ嬉しいです❤

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    >ままちゃんさん
    こんにちは♡コメありがとうございます
    もうここまで手を入れてしまうと、
    既に三巻形態を取りながらも、スピンオフかな、
    とも思ってしまうのですが・・・
    これから先は、もっとスピンオフ色が強くなっていくと思います。
    キーワードやキーパーソンを中心に、消化不良部分を整理して。
    実は7話は全話分上げてあるので、この後一気に
    UPが続くと思います。
    ものすごい量なので、読み手様には申し訳ないのですが・・・
    今しばし、楽しんで頂けると嬉しいです❤

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    私は、そこまで深く感じていませんでした。ウンスへの気持ちをまだはっきり自覚していないヨンが、ただただ目を離せななくなった。ヨンの気持ちが真っ直ぐウンスに向かい始めたことを表しているとまで。でもヨンです。護ることを忘れてはいない。にもかかわらず、目が離せなくなっている自分自身に気づいていたのですね。
    さらんさん、ふたたび感謝です。

  • SECRET: 0
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    さらん様、こんばんは❤︎
    長いお話、望むところです(*^_^*)
    私は、長~く読みたい人なので、願ったり叶ったりでございます❤︎
    以前、コメ内で書いたように思いますが、雷光に浮かびあがったウンスの美しい横顔に、返り血を拭う手も止まり、ただジッと見惚れて釘付けになっていた、あの場面のヨンが大好きなのです。
    何人もの敵を斬り捨て、やっと戻って来たヨンに、
    「あっちへ行って‼︎ この子が起きるでしょ‼︎」
    そう突き放したウンスに、キッツイなぁと感じつつ、その後、しばし、ヨンが肩を借りて眠りに墜ちるシーンへの流れは忘れられません。
    女の肩を借りるなど出来ぬと言いながら、それを受け容れたヨン。
    薄目を開けていたので、不覚にも眠ってしまった訳では無いはず。
    何を思って眠りに墜ちていったのか、私の中では知りたいけど描かれなかった場面でした。
    続きが待ち遠しいです❤︎

  • SECRET: 0
    PASS:
    >さらんさん
    あの・・・その・・・
    さらんさん 私の気になるあの人・・・
    あの人も書いてくれる??
    あの人じゃ わからない・・・
    そのうち 出てくるね~ 待ってます。
    ( ´艸`)
    楽しいね~ うんうん。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ののさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    大変!どうかお大事にしてくださいね。
    全然大丈夫です!私はコソーリ| 壁 |д・)ヨ!伺います❤
    あとだしじゃんけん的に目次を作りました❤
    何となく、これでイメージを掴んで頂けるかと・・・
    個人的に「ヤバい!素敵!」と思ってしまった俺。
    はい、ただのバカ、自画自賛です。
    贅沢一気読み、と思って頂ければ嬉しいです❤
    ここからは、また例によってさらん解釈爆裂になりそうですが、
    好きなところを中心に♡こつこつとーです。

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    >my starさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    いえいえ、あれはもう、本当に聞こえなかったです。
    二次は書かないと伝わらない(自分の脳内にしかイメージないので)
    ですが、本編に関してはDVDと言う、強い味方が。
    なので、二次の時より、声が聞こえない事、あります。
    ただ心の動きが、目で、指で、喉仏で(w)伝わる時。
    後出しじゃんけんの目次も作ってみました。
    個人的にものすごく気に言ってしまいました・・・
    自画自賛のお馬鹿さんです。
    イメージを掴んで頂けると、嬉しいです❤
    そして例によって、花言葉から当ててね❤シリーズです♪

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    あれで眠っていたら、がっくり寝落ちヨンです・・・トホ。
    敢えて眠った「フリ」がポイントですよね♡
    そして後出しじゃんけん目次。
    自作の表紙画像があまりにも気にいってしまい、
    ヤバい‼と叫んだ、自画自賛の馬鹿者です。
    イメージが掴みやすくなったら、嬉しいな♡
    結構な長丁場になりそうで、うきうきワクワクです。

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ええええ誰でしょう!
    すっごく、気になりますo(・_・= ・_・)o
    華麗にスルーしてしまったら、どうしましょう・・・!!
    後出しじゃんけんの表紙で、今後の流れが
    イメージしやすくなったら、嬉しいな♡
    自作画像があまりに気に入り、ついつい見入ってしまう
    自画自賛の馬鹿者をお許し下さい・・・

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