信義【三乃巻】~壱~ 迫られた選択・12

 

 

ようやく慶昌君媽媽のおわす建物へ戻れば、離れた処からも判るその周囲の気配の異常さに、足が早まる。

何だ。

建物を取り囲む、この兵の多さは何だ。

室内に踏み込もうと足を速めれば建物より出た江華郡守が駆け寄り
「眠っておられる」
俺に早口でそう囁く。

眠っておられるだと。
慶昌君媽媽がまこと眠っておられるならば、この兵の多さの理由は何だ。
ただ媽媽を御守りするだけの為か。
本当に、それを信じていいのか。

あの時一歩の距離にいなかったことが、目の前のこれを引き起こしたのではないか。

俺はその郡守の言葉を無視し、室内へ入ろうと、階に足を掛ける。

「私の部下たちだ。迂達赤ほどではないが、それなりに腕は立つ」

江華郡守がそう俺に告げる。
それをなおも無視し階を上がろうとすれば、俺の前を己の腕で塞ぐ始末。

何故室内へ入ることを、この郡守はこれほど拒む。
媽媽に静かにお寝み頂くためか。それを信じても良いのか。

そう思い、今一度建物の周辺を見渡す。

俺のそんな様子を見ながら郡守は次に、医仙へとその触手を伸ばす。

「医仙、朝食は召し上がりましたか」
「実は夕べから何にも。私の護衛係は、食には全然配慮がなくて」
この方も食い物に釣られるか、今この時に。

しかし郡守が医仙のみ連れて行けば、薬を盛られようと気づかぬに決まっている。

眠るはずの慶昌君媽媽か、目の前の医仙か。

少なくとも媽媽には今、これだけの数の護衛が付いている。

俺は肚を決め、医仙と郡守に従った。

一歩ずつ建物を離れるたび、黒い不安が雨雲のように胸に広がる。

畜生。
早く飯を、そして一刻も早く媽媽の元へ戻って来なければ。

 

******

 

「大声を出せば、表のチェ・ヨンが気づきましょう」

目の前で布団より身を起こし 体を固くする幼い先王に向かい、諭すようそう伝えれば
「ヨンが来たら、どうなる」
先王、慶昌君がそう尋ねる。

「分かりませんか」
金の座布団に生まれついたこの先王をいたぶるように、そう答える。
「あの者は慶昌君様を誑かし、連れだしました」
「誤解だ!」

この奇轍を前にした恐怖か、もしくはチェ・ヨンを護る為か、先王は涙を流し歯向かう。

ああ、愉快よの。
力のあった者の 落ちて行く様を見るのは。
ましてそれが己の手で成せれば、これほど愉快なことはない。

「あの者は慶昌君様を擁立し、再び王にと、望んでおります」
「違う、違う!そんなはずはない!」

必死で庇うのだな、あのチェ・ヨンを。

「迂達赤の兵たちは、開京にて 取り押さえました。
慶昌君様の叔父、現王の指示です。
あとはチェ・ヨンを捕え、王に差し出し極刑を科すだけにございます」
「罠に嵌められたのだ! 私には分かる、ヨンはただ・・・」

ふむ、思ったよりも賢いようだ。

「そうでございます」
にこりと微笑み、そう教えてやる。
「すべて私が仕組んだ罠でございます」
「・・・何だと」
「私の性が、策士なのでございます」

そうなのだ。
面白いことが好きで、退屈と惰性が何よりも怖いのだ。

「どうして、何故なのだ」
その問いに、俺はわざと驚いた顔をして見せる。
「目的はいくつか。まずはチェ・ヨンを手に入れます。さすれば医仙もおのずと私の物に。
加えて、私は新王がどうにも気に入りませぬ。少し訓育して差し上げねばなりませぬ。
いっそ、慶昌君様が復権なさるのは如何ですか。ご希望ならば私が尽力いたしますぞ」

目の前でただ涙を流す先王に、 面白さと、嗜虐心が沸く。

 

 

 

 

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14 件のコメント

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    朝から怒濤の更新!
    もちろん!さらん嬢の世界を堪能させて頂いております。
    言わずと知れた名場面…前半の見せ場がさらんちゃんのお陰様でパワーアッブ!
    ちょっと忙しくて、DVDが見れないこの頃(>_<)
    さらんちゃんのお話で私も妄想(笑)パワーアップでストレス解消よ!

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    キッチョルったら、子供をいたぶって、たのしいなんて。最低!(*`へ´*)
    あいつの顔なんてUPしなくて、OKです。
    チェヨンくん、おかしいと感じて、もう一歩踏み出す前に、ウンスちゃんが食欲に負けてしまいました。
    守らねばならない人は二人。身は一つ。
    チェヨンくん、しぶしぶウンスちゃんと食事にいくことに。
    う~ 憎っくきキッチョルめ。どうしてくれよう。(T ^ T)

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    この場面の 徳成府院君 ホントに
    憎たらしい・・・
    テレビ(私、テレビの番人です。)でやっていた
    サイコパシーの特徴が
    よく出ている シーンですよね~
    怖い怖い。

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    こんにちは!さらん様。
    とうとうこの場面がやってきました。
    早送り必至の場面です。(・_・;)
    慶昌君さまが健気で、健気で…
    「迫られた選択」もしあの時、
    江華郡主の手を振り払って、戻っていたなら…どうなっていたのでしょう?
    どこかの時点で慶昌君さまはお亡くなりにはなったでしょうが、ヨンがこれほど苦しまずに済んだような‥
    もしかしたら、もっともっと苦しい道のりになってしまっていたような‥
    考えても仕方ないですが…もう決まっていることなのですから。でも慶昌君さまの悲惨さ、ヨンの苦しみを思うと…とにかくあやつ、あやつめ~です

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    ヨンはここで一番難しい選択を迫られたんですね。どちらも疎かに出来ない。忠誠と愛。もちろんヨンにこんな感情の差別なんて意識は無かったんでしょうけど、結果ウンスを選んでしまったこの事が、ヨンを深く傷つける事になるのですね。
    慶昌君は幼くても立派な王であると、登場するたびに思わせられます。
    そんな人を陥れる姑息なキチョルが本当に嫌です。

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    >まあもさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    わぁい、嬉しいです❤
    しかし既に浮気虫がムズムズする私、
    週末にはウンス帰還後のとんでもない一服処
    投下準備、完了でございます❤
    あ、でも練っているので、厳密には一服処では
    ないかもしれないですが(;´▽`A“
    久々、我が家のヨンに逢いに、週末以降お時間があればぜひ❤
    それまではもうそうパワーで乗り切って下さいませ(〃∇〃)

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    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    もうここの画像、本当にせめて少しはムカつかぬものを、と
    探しに探したのですが、やはりなく。
    奇轍は権力にもの言わせ、この後徳興君登場まで
    本当に傍若無人でしたから・・・
    8話で復活したヨンに、縦横無尽に頑張って頂かねば!

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    私は、心理学を学んだはずのウンスが、ヨンを
    サイコ扱いした時に
    「いやいや・・・ほんとに学んだならそれはないよね?」
    と、実は思っていました。
    PLCチェック、勉強しなかったんか?と。
    どう考えたって、あれに当てはまるのは・・・ねえ。と思ったものです。
    多分にそれを意識して端々に乗せている感、あります。
    さすがTVの番人しなもん様、鋭い!(o^-')b

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    >わいやーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    もう、最後は凍るくらいでなく、個人的には
    ヨンに叩きのめされてから死んでほしかった・・・!!
    しかし良いのです。
    ヨンの真実の恐ろしさ、徳興君との次回の直接対面時に。
    もうそれも、ああ!というくらいの復讐劇で。
    あやつめ、あやつめ~~!!のシーン、
    やはり本編通り、そのまま参ります(ノ_-。)
    でも良いのです!
    週末は、その分まとめてどばーっと、
    艶やかなそして甘やかな、そして激しい一服処参ります!!

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    さらん様、こんばんは❤︎
    キチョルが出て来てしまいました。
    あんな幼い媽媽に、なんてむごい事を。
    さらん様が、書いてくださるはずですが、この時の、キチョルと媽媽のシーンを見ていて、思いました。
    世が世なら、きっと媽媽は名君になったはずだと。
    賢く洞察力も大したものです。
    ヨンの本質をズバリと言い当てていますもの。
    ヨンが、悔やんでも悔やみ切れない時間はすぐ近くに……( ; ; )

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね。危ないと分かっている、けれどこの時
    既にヨンの心のベクトルは、明らかにウンスオンニへと
    傾きかけているのだなーと
    今回書いて、しみじみ思いました。
    あの時突然「この国への忠誠など、分かりません」ではなく、
    もう始まっている、気づかぬうちに。
    こういう細かい描写を積み重ねていけるだけでも、
    書いた意味があったな、と思って自己満足です。

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    >さらんさん
    X-MENで合ってたのに。セリフにすると言いにくい?
    番人から もう一つ
    人間女子と鳩との恋愛シュミレーションゲームが
    あるらしい・・・ 
    ( ゚-゚)( ゚ロ゚)(( ロ゚)゚((( ロ)~゚ ゚
    時代は 鳩!!
    大変失礼しました いつもいつもごめんなさい。

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    >夢夢さん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    もう、媽媽については多くを語ることはないのですが。
    ヨンが朴訥とした口調で、ぽつぽつと。
    追いかけ小説も、ここまで。
    弐よりは少し雰囲気が変わるやもです・・・
    筋は勿論、DVDなのですが。
    壱(7話)いろいろ勉強になりました。
    やはり広げるには限界があることも。
    でも自分のルーツはここで、動かしがたいことも。
    夢夢さまや皆様を巻き込んだこのお話書きもあと1話
    週末の一服処と、弐の並走、どうなることかです( ´艸`)

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    >くるくるしなもんさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    この辺りは小説単語の為、やはりそこに準じ❤
    何と!鳩と人間女子( ̄□ ̄;)!!時代は鳩ですね!!
    先取りましたね、しなもんさま(o^-')b❤

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