信義【三乃巻】 ~弐~ 篝火花・1

 

 

篝火花 【 絆 】

 

 

罪人を閉じ込める牢車まで。
手足を鎖で繋がれ、周囲を官軍に囲まれたままで牽き立てられながら、石畳の上を歩く。

あの方が奇轍といる事で、少なくともしばらくは殺されぬ、そう信じるより手がない。

牢車へ乗る直前に、あの笛男が 俺の前を大笒で遮る。
傍の兵に目で命じ、その兵が俺の体を弄り、腰に差していた短刀を見つけ取りあげる。

それを確認し、笛遣いが俺を眇め見る。
ふん、読んでるか。
俺は足を半歩踏み出す。
官軍が俺の足を探り、脛に忍ばせた小刀を見つけた。
間抜けが。鎖をつける時に見つけろ。

俺に向け目で問いかける笛男に
「もうない」
そう言ってやる。嘘など吐くか。面倒くさい。

 

**********

 

絶対におかしい。閉じ込められた部屋の中で、私は右往左往する。

私が知ってる国史の授業で学んだ歴史では、チェ・ヨンさんは有名な将軍になるはずなのよ。
韓国軍にその名前をつけた戦艦があるくらいだもの。
李氏朝鮮を建国する、イ・ソンゲに、最後に威化島回軍で殺されるはずなのに。

なのに今ここで捕えられて、もしあの人が反逆者として万一処刑されてしまったら。
どうなるの、私の世界の歴史は。

・・・ねえ、本当に歴史を心配してるの、私は?歴史学者じゃあるまいし。
でも分からない。本当に分からない。私が何か影響を与えているの?あの人に?

バタフライ・エフェクト。
突然浮かんだその単語。

北京の蝶の羽ばたきが、ニューヨークで嵐を起こす。
カオス理論よね。ああもう、そんなことはいい。
そんなことよりチェ・ヨンさんは。彼はどうなるの。

絶対にキチョルさんと話さなきゃ。彼を殺させるなんて駄目。止めなきゃ駄目。

イライラと爪を噛みながら、私は部屋の中を、ただ右往左往する。

 

**********

 

閉じ込められた牢車の外、江華郡守が姿を見せる。ようやく狸のお出ましか。

「迂達赤チェ・ヨン、恨むなよ」
「罠にかかった自分の責任です。恨むなど」
目を瞑り、牢車の檻枠についた鉄棘を避け、枠に凭れたまま言った。
まともな人間以外とは話さぬ。狸に言葉が通じるとも思えん。

郡守は笑いながら言葉を続ける。
「ところでまだ教えていなかったな。財を子子孫孫に残す方法を」
「それを言いに、わざわざ」
全く人語を介さぬ狸の肚は読めんな。俺は呆れて目を開けた。

「ああ、詫びのつもりで聞いてくれ」
「拝聴します」
狸の腹鼓、最後に聞いてやる。
その間に先程減った、丹田の気を少しばかり整えておくことも出来るだろう。

「一つ。力のあるものを見分けろ。二つ。何としてもその者につけ。
三つ、此処が一番大切だ」
「何です」
「己の信じた道を、信じ抜け」
成程な。お前のその道の結果がこれか。
俺は片頬で笑う。
「子孫とは何とも煩わしいものですね。
やはり某には不要です」

その時建物から、奇轍を先頭に毒使い、火女に囲まれ、あの方が出てきた。
この状況でも確りとした足取り、無事な様子に、心はほんの少しだけ軽くなる。

 

鉄の檻の箱に入れられたあの人が見えた。
黒い瞳で、私をまっすぐに見ている。

大丈夫?傷はどうなの?
あの怪我の後、全く休まず戦い続けて、馬に乗っていたから。
眠ったのなんて、あの夜、私の肩で少しだけでしょ?

お願いだから無茶しないでよ。あなたはこの後、国史にも戦艦にもその名前が残る人なんだから。

ああ、違う、そんな事言いたいんじゃない。そうじゃなくて。

 

あの方が俺を真直ぐに見る。あの目で。
あの紅い髪が陽に透ける。
もう少し近づけば、あの花の香りがするだろう。

怪我を負わされた気配はない。無事であれば良い。
ただ頼む、無事でいてくれ。
この牢車の柵越しでは守ってやれぬ。

俺とあの方の視線の交わりは、 立ちはだかった奇轍の背で遮られた。
俺はその背から、そして背の向こうのあの方から、静かに視線を外した。

 

目の前に立ったキチョルさんがどいて、もう一度あの人を見た時。
もうあの黒い目はこっちに向いていなかった。

私はキチョルさんに案内されて、馬に乗った。
あの人をもう一度見たけれど、もうその黒い目は私でない、どこか遠くを見ているようだった。

その後もう一度、あの人がこちらを向いているその視線にまでは、気付けなかった。

 

 

 

 

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16 件のコメント

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    どどんと更新、嬉しいです。ヨンとウンスが、話も出来ずに離されてしまった。でも、お互いを心配していたのに、キ・チョルに阻まれ、視線を交わす事が出来ない。このシーン、すごくヨンの表情が良かったですよね。というか、全部のシーン、ヨンのあの瞳にやられてしまった。

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    アジドラよりカットが多そうですよね。
    1話見て、カット多かったら見るの止めよう。
    シンイファンは、それでまた増えてくれるでしょうか?結果が楽しみですね^^
    この部分、ヨンの思いがウンスには理解されず、とても可哀相だったわ。

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    三乃巻、続き始まりましたね~。
    さらんさんの細かい描写で、どの様に書かれるか
    楽しみです。信義のドラマ、BSで始まりますね!
    とっても楽しみです。前に放送された時に録画し損ねたので、今回は必ず録画して永久保存します!
    それに、同じ日から相続者たちも始まりますから
    こちらも録画録画と(笑)年明けが楽しみです!

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    【偽嫁御】お疲れ様でした。
    すごく面白くて毎日読むのが楽しみでした♡カッコイイ迂達赤、芝居上手の王様、かわいいウンス、好きな場面がたくさんあります(*´艸`*)
    そして引き続き、【三乃巻】弍の更新ありがとうございます。こちらも楽しみです♡
    私的にはとっても嬉しいですが、何かと忙しい時期です、無理せずにさらんさんペースで更新して下さいね。

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    ほんの一瞬だけ視線を交わすふたり。お互いの無事を祈って、自分が今措かれている状況をしっかり把握していますね。
    ウンスはヨンを心配し、気になるその心を考えあぐねている様子ですね。
    まだそれが恋心となるという事に気づかないそんな時期ですね。

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    いつも シンイで好きなシーンは?
    って聞かれると 
    徳興君のところから 戻った ウンスのところへ 知らせを聞いた ヨンが走っていくところ。
    と答えてますが 実は ここもツボ・・・
    見つめ合う 2人がね・・・
    せつないね~
    ヨンのデスノート φ(- – ) 江華郡守・・・

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    はい。両手両足を鎖に繋がれたチェヨンくん。片足を平然と出してました。
    そのまま鉄格子の車に。
    そうですか。あの時もウンスちゃんが無事であれば良い、これでは守れないと考えていたのですね。
    騙した郡守にも、静かに受け答えしていました。
    まだまだ傷も心配です。気を整えてください。

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    さらん様、こんばんは❤︎
    本編に引き戻され、懐かしい場面が次々と浮かんで来ます。
    牢車から、ウンスに向けた熱い視線。
    ウンスも辛そうにヨンを見つめる。
    絡み合う視線が外れ、ウンスが背を向けたあと、再び視線を送るヨン。
    胸が痛みます。
    背を向けられても、なじられても、ヨンはウンスを見つめる事をやめられない。
    悔しそうでも無く、怒りを見せるでも無い、諦めた様なヨンが気になったものです。
    牢に入ったヨンと、鉄檻越しのキチョルとの遣り取り、大好きです❤︎

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    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    この辺りから視線のすれ違い、ジレジレな感じが
    始まっているなーと、改めて思いました。
    ヨンの眸が本格的に語りだしました・・・くぅ❤
    こうやって繰り返してみると、如何に見逃しが多いか
    しみじみ分かります・・・反省!(´Д`;)
    更新ペースがきつければ、どうか教えて下さいませm(_ _ )m

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    >mayuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ああ、増えて下さると嬉しいな~~っっと、
    心ウキウキです。
    あの素敵なヨンが、もっともっと知って頂けたらと、
    願わずにはいられません。
    でも吹き替えは、断固反対ですがw
    どうなのでしょうね、吹き替えの方が気楽に見られるのかな・・・
    でもあの声が聴こえぬ【信義】では魅力半減ではとも・・・

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    >かよさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうなのですよね、これはもうヨンV.S.タンの
    そんな様相を呈しているかと・・・
    どうせならいっぺんにやらずに、媽媽を取って頂きたい・・・
    何方のお話も書く身としては、そんな風に思うのでしたw

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    >ユッチさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    いえいえ、此方こそ逆に、私のハイペースで
    ユッチさまや皆さまの負担ではないかと心配です。
    実はこの後どうしてもUPしたいお話がありまして、
    いつも通りの一日2話では追いつかぬ!と、
    もう皆さまがドラマ筋はご存じ、という前提で
    バンバンUPしてしまっております。
    ペースきつければ、どうか教えて下さいませ・・・m(_ _ )m

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    淡いものや、特別なものを感じてはいても
    まだ具体的なものは何も生じていない、そんな感じでしょうか・・・
    しかしそれにしても、この更新ペースが
    大変申し訳なく・°・(ノД`)・°・
    わがままばかりで、本当にすみませぬ

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    いやあ、もう今回は、何しろのヨンの眸語り。
    あの目にやられた信義乙女は山ほどいらっしゃるかと。
    切ないですね。しかしある意味、この後最も切ないのは
    江華郡守・・・書かれたばかりに・・・φ(- – )

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    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    あの片脚出しのクールな表情といったら
    は~、と、溜息しか吐けず。
    もう今回も、溜息だらけのお話書きです。
    傷、本当に心配です。おまけに内功使ったし。
    無茶は禁物では、と思いつつ、
    其れがヨンなのだなあと思ったり。
    書き手はいろいろ、複雑でございます・・・

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    もうあの牢での柵越し対決は、いろいろと
    考えましたし、書きました・・・
    ヨンにとって、奇轍にとっての大きな転機になります。
    あのセリフも。韓国語が完璧に理解できれば
    もっと違うニュアンスで書けたのかなと
    今後韓国語習得を、心に誓う私です。

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