信義【三乃巻】~弐~ 篝火花・7

 

 

ここは、土蔵なのかしら。

淀んだ空気、棚に並んだ、得体の知れない陳列物。
高い窓から辛うじて薄明かりが入って来る、埃っぽくて黴臭い空間。

その中でテーブルの真ん中に、あの箱が開いたまま乗っている。

「それで、これは華侘の形見って 、そう言ったわよね?数百年前の」

私は明らかに現代の医療器具であるそれを1つずつ確認しながら、キチョルに聞く。
そんなはずないのに。

「他に二つ御座います」
「見せて」
私は即座にそう言った。目の前のキチョルは何も答えない。

「何よ、見せたかったんでしょ」
「実は、医仙を巡り、王様と賭けを致しました」

賭、け?何よそれ。室内をうろつくキチョルを、私は目で追った。

「七日で医仙の御心を手に入れられるか、それを賭けたのです」

私は溜息をついた。ふざけるんじゃないわよ。
人の心を、賭けに使ったですって?
呆れ果てた私は、椅子に座って キチョルを睨み付けた。

「それで、勝ったらどうするって」
「医仙は、この私の物に」

は?物?私が物だって言うわけ?
チェ・ヨンさんに最初に荷物みたいに肩に担がれた時も、腹が立ったけど。
今回はそれどころの話じゃないわ。

私が物ですって?馬鹿にするんじゃないわよ。

「負ければ今まで通り、王のものです」

あのね、物、物ってさっきから聞いてれば。

「今、御心はどちらにお在りですか」

ああもう、馬鹿じゃないの、下らない。

「私の心は誰のものでもない。私の物」
「私の物に」
「嫌」
「・・・嫌と」

キチョルは溜息をつきながら、テーブルの 向かいの席にやっと腰を下ろした。

「徳成府院君の私に向かって、嫌とおっしゃる」

いいわ、物でもいい。
これでディールが私にとって 有利に進むなら、どうにか我慢しようじゃない。
私はテーブルの上で、キチョルに向かって、 体を乗り出した。

「これの正体と、あと2つっていうのが 何か、知りたいのね?」
それに喰いついたキチョルも身を乗り出す。
「教えて下さいますか」
来たわね。

「2つというのがこれとセットの物なら、私の世界にあるもののはず。知りたい?」
「条件は」

来た。私はテーブルから身を引く。
「迂達赤隊長、チェ・ヨンを助けて」
その言葉に、キチョルは笑う。
まるでネズミをいたぶる猫のように、楽しそうに目を細めて。

「順番が違います。医仙を手に入れて、華侘の形見の事を聞けば良い。故に取り引きします。
医仙、その御心を、私に下さいますか。さすれば迂達赤チェ・ヨン、助けましょう」

私は黙って、目の前のキチョルを睨み付けた。
キチョルは不敵な笑みを浮かべ、私を見つめ返した。

 

 

 

 

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10 件のコメント

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    心って 何なんでしょう・・・
    本人の意思にかかわらず 
    動くもの?
    あげると言っても あげられない
    もらうと言ってももらえない
    何を言ってるか おバカの頭じゃ もう限界。
    φ(.. )  ネズミ・・・
    あっ 間違えた。 消しゴム・・・ ない
    ごめん

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    ソウルで女一人で生きてきた、気の強い性格のウンス。キ・チョルに取引を仕掛けるのは、ヨンを助ける為。ソウルに戻る為にそうするのではなく、ヨンに対する感情があるからなのでしょうね。更新多いのは負担にはなりません。読む前にドラマを視聴して、全部読んだ後にもう一度見るのを楽しみにしています。年末の慌ただしい一日を忘れる幸せなひとときです。

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    キッチョルが、医仙を天人と信じて、心をくれと言ってました。
    シラー
    キッチョルって、何でも手に入れてきたから、拒絶されるなんて、久しぶりだったんじゃありませんか。
    私のもの。ねぇ~。
    まぁ、好きな人に言われるなら、きゃ、独占欲かわいい、っとなるかも、ですが。
    本性が蛇の男に言われても、嬉しくなーい

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    さらん様、こんにちは❤
    MADE IN KOREA は、衝撃でした。
    本編が、益々興味深くなって来た頃です。
    ヨンもそうですが、さらん様解釈だと、離れている時、お互いがお互いを常に気にしていますよね。
    多分、そうなんだろう、いや、そうあって欲しいと願っても、描かれない時間が多すぎて...。
    私の不完全燃焼も徐々に解決しています。
    有難うございます。
    扉絵のクリスマスバージョン綺麗ですね(*^_^*)
    ヨンは、この頃の髪型が好きです❤
    ウンスは、迂達赤入隊の頃でしょうか?
    それと、今更ですが、私はブログの読者になったのは、さらん様が初めてです。
    当然、分からない事だらけ。
    読ませていただいた後、「いいね!」をすれば良いのだとずっと思い込んでいました。
    ある時期から、さらん様が、画像のポチをお願いしますと書かれていたので、ここもタップしないといけなかったんだと知る始末。
    今までごめんなさいって感じです(p_-)

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    ヨンを間に挟んでウンスとキチョルの駆け引きですね。
    ウンスは本当にこの時点でヨンの事が気が狩りというのが分かりますね。
    でなければこんな取引する必要が無いですもの。
    ヨンを助けるためウンスも真剣ですね。

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    あそこは書いてて、ああ、奇轍にとっては
    心もやり取りできると思ってるんだなーと。
    上げたりもらったり。やはり病んでいますね。
    ただここを踏まえ、奇轍の変化もまたあり。
    はぁぅ!φ(.. ) だ、だから鼠さんは…合掌。

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    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ああ、良かったです。
    負担になっておらぬならば、何より安堵・・・
    しかしこの後、またこの師走の多忙な皆様を、
    恐怖の底に叩き込む、悪魔の企画が待っております。
    でも、それに乗って下さらなかったら・・・寂しいやも・・・
    面倒くさい、かまちょな私です(^_^;)
    うわー、観⇒読⇒観、そんな風にお楽しみ頂けていたら
    最高に光栄です(●´ω`●)ゞ
    あの殺人的男前のヨンのイメージを崩さず、
    ここでのお話が伝わっていたら良いなあ・・・と願いつつ❤

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    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですねー本当に、好きな人に言われればまだしもですが、
    ウンスの場合、ヨンに心をくれと言われても
    「私の心は私の物」と言うかと(笑
    奇轍、しかしここから最終話までの変化を
    描くのも、また楽しですw

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ウンス、ぶれないですね。
    私の中ではもう、ひたすら帰りたい時期は過ぎています。
    ただ、迷っている。そしてその迷いが何なのか混乱している。
    そんな感じです。でもこうやって奇轍邸でも
    ヨンの姿を追っている。それが事実だなーとw

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    実はここでは敢えて書かなかったのですが、
    奇轍と、食卓を挟んでの対話が始まり、
    ウンスが手を机の下で、ぎゅーっと握る場面があります。
    書かなかったのは、この後にさらん解釈を書くためなのですが
    本当にこの時点で、すごく焦っている。
    でもうまく取り引きするために、ゆとりのある態度を見せようとして
    それも奇轍に読まれている。
    医仙でなければ、殺されていたのかなと
    (奇轍の心を弄んだと、奇轍本人は思っていますから・・・)
    いろいろ、考えてしまいます。禿げたらどうしよう。

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