信義【三乃巻】~壱~ 迫られた選択・5

 

 

いつの間に寝入ってたんだろう。
ふと気が付くと、私は患者のベッドに半分体を倒していた。

慌てて起きて、患者の様子を見る。呼吸には特に変わった様子はなし。

ふと見ればチェ・ヨンさんが壁にもたれて目を閉じていた。
でも寝息は聞こえない。寝てないはず。

「ねえ」

患者を起こさないようにうんと小声で声を掛けると、案の定。
彼は即座に目を開け、鋭い目で私を見た。

「昨日の夜は、少しは眠れた?」
そう訊くと彼は私の視線を、顔だけじゃなく、体全体を逸らして避けた。
診られたくないのね、それはつまり
「意識が戻ってから、ろくに寝てないの?なのに戦って、馬を走らせて私たちを守って・・・」

駄目。このままじゃこの世界の私の初めての患者が、私を連れ帰るって約束してくれた人が、先に体が参っちゃう。
私はベッドから立ち上がると、彼に向かってまっすぐに歩いた。

ねえ。意地っ張りで頑固で、口数は少なすぎて、乱暴で不愛想で、何考えてるか分からないけど。
昨日突き飛ばしちゃった御詫びも兼ねてるのよ。
あなたがいなくなったり動けなくなったら、私、本当に困るの。だから。

 

急に横に移った気配に驚いて眸を開け、身を避けた。
それでも肩と肩が触れ合う距離で、医仙が笑いかける。

急に何だ。俺は無言で立ち上がり、対角に移動する。

柱に凭れ、ようやく息をついた。
しかしその息は、追ってきた医仙に再び横に腰掛けられ、思わず止まる。
ぎょっとして横を見つめれば、涼しい顔で向こうを向いたままの横顔。

「・・・何をなさっている」

その声に医仙が自分の肩を叩き
「ここで寝れば?」
と平気な顔で言う。無言でいれば
「ん!」
と、医仙がこちらににじり寄る。

この薄く細く、小さい肩の上で、何をしろだと。
思わぬ提案の真意を汲もうと、その横顔を凝視する。

「今度は私が守るから、少し眠って」
天界の御人とはいえ、ふざけた方だ。
「男が女の肩で眠れますか」
「弱ってる人に肩を貸すだけ。男女は関係ないわ。さあ、もたれて。守ってあげる」

何なんだ。弱ってる。守ってあげる。
弱ってなどいない。守ってほしくもない。

俺が体を避けても気にする風もなく、医仙は話し続ける。
「チェ・ヨンさん寝るのが趣味なんでしょ?部下の人に聞いた。
“放って置くと、三泊四日寝ます。起きたら三泊四日分の飯を喰らって、寝直します。
それが、俺達の隊長の凄いところです”
ねえねえ、寝太郎は強がらず、凭れて眠りなさい。
睡眠の乱れは食欲の乱れ、集中力も落ちて、鬱や 肥満にもなる!
だから眠って。物音がしたら・・・」

そうだ。

記憶のどこかで微笑み、同じことを言ってくれた遠い誰か。
それを一瞬思い出しただけだ。

だから瞼の力も肩の力も抜けただけだ。

冷たい雨を抜けてきた冷えた体。
小さな肩が暖かそうに見えただけだ。

 

私の肩の先にそっと落ちてきたチェ・ヨンさんの頭を感じる。
私はなるべく肩を動かさないように静かに手を伸ばして、その手首の脈を取った。

そのまま額に手をやって熱を見る。どっちにも特別な異常は感じない。

ただ気になる。やっぱりする。
「・・・血の匂い」

いつでも戦っている彼の、守ってくれる彼の、衣服どころか細胞にまで、それはしみついているのかもしれない。

 

医仙の声がしなくなった。
いつでも余計なことを言う方だ。

武士である俺から血の匂いがするなど、漁師から魚の匂いがするくらい当然だろう。

それでも肩に凭れ、少しこのままで。
瞼にも肩にも、力が戻るまで。
弱っているなどと思わなくなるまで。

 

 

 

 

名場面連続。
ポチして頂けると、とても励みになります。
宜しければ、お願いします。


にほんブログ村
今日もクリックありがとうございます。

にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村

16 件のコメント

  • SECRET: 0
    PASS:
    ねえ、意地っ張りで頑固で、口数は少なすぎて、…… ウンスって自分が辛い状況でも相手を観察して思い遣る。ふざけた雰囲気からは、真意がわかりにくいけど、既にこの時にヨンの事を理解しています。わかろうとし、話をし、それが後々、ヨンに関わると迷惑をかけ、自分ができる事は自分で頑張るに繋がっていくわけですが。過去を振り返ると、先の話に繋がる事がいっぱいありますね。ウンスが年上で女医の設定、ヒソンさんが演じた魅力が、すごく伝わってきた頃です。

  • SECRET: 0
    PASS:
    ‘弱ってる‘ ‘守ってあげる‘なんて
    どういうつもりで言ってるの?
    無意識です?
    医者として? 守ってくれてる御礼?
    それとも 母性か?
    まだまだ ヨンの心はカチカチ
    まだまだ素直じゃないね~。
    ウンスの肩に
    磁石のようにくっ付いて
    癒されていく 
    そうそう 休まなきゃ・・・!
    心も 体もね
    ウンスさんの物まね すき・・・
    ヨンの心のつぶやき「医仙・・・に、似てない」
    ( ̄Д ̄;;
    失礼しました。

  • SECRET: 0
    PASS:
    とても、とても素敵な場面。
    ヨンの心の中をふっとよぎった気持ちが伝わってきました。二人は、二人の出会いがどういう意味を持っているのかまだ気づいていない。けれど生まれた二人ごよりそう場面。素敵ですね。。さらんさんが語らせたヨンの気持ちが、これからの二人へとつながっていくのですね。。

  • SECRET: 0
    PASS:
    まだ恋なんて感じじゃない。でも確かに何かが芽生えたような気がする時ですね。
    「武士には血の匂い」
    「漁師には魚の匂い」
    確かに。ヨンとっては当たり前で、何を気にする事なのかも分からないのかな。

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらん様、こんばんは❤︎
    嬉しい嬉しい❤︎
    そうです‼︎
    この場面、女の肩を借りるなど出来ぬと言いながら、その肩に凭れて眠ってしまったヨン……。
    こんな風に、ヨンの心の変化と声が聞きたかったのです(*^_^*)
    ウンスも、少し冷たい態度を取り過ぎたと、そう思っていて欲しいと、ずっと願っていました。
    ウンスが隣に座って来た時の、驚いたヨンの顔、キュンとしました。
    「何をなさる?」
    この先、何度も耳にする、韓国語の、あのボソッとした台詞……。
    完全にツボでございます\(//∇//)\
    そして、ヨンの元にやって来た、チュソクへの言葉。
    ヨンの表情が穏やかに美しい笑みを讃えていながら、「ミアナダ」と…。
    チュソクの心の葛藤は?
    あー気になります❤︎

  • SECRET: 0
    PASS:
    >わいやーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ああ、やっぱりここは名場面なのだーと
    皆さまのコメを拝読し、しみじみと再確認です。
    もうDVDが誤作動するくらい、流して止めて流して止めて
    書いて直してまた聴いて。
    その後画像やポチ画を作り、既に廃人を通り越し、変態かとやや不安です。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうなのです。今回これを書こうと思い、
    改めてDVDを隅々までじっくり見ているのですが
    この頃から、ウンスオンニが、徐々に変わってきたなあと。
    こうやって振り返ると、本当に繋がっています。
    好き過ぎて愛しすぎて、この後ヨンの悲しみの場面では
    あまりの辛さにうぃんぱち君操作しながら
    号泣し・・・そして目前のPC画面には
    21インチ目一杯、悲しみのヨンの顔・・・
    こんな気持ちが、この後の自分の二次話にも
    生きてくると良いな、と思いつつ、ポチポチします❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    さらん解釈では、もうこの時点で
    ヨンもウンスも、お互いにはっきりとしないまでも
    明らかに気持ちは感謝・責任感の域を超えている感じです。
    でないと、まず8話でウンスが奇轍に言う
    「チェ・ヨンさんを助けて」が不自然な感じが。
    ヨンに関してはもう、雷シーンでああ。という感じです・・・
    ここから萌え萌えジリジリが始まると思うと、もう!です❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    >my starさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうなのです。多分ヨンの中に聞こえた声は、此処が最後だと思います。
    8話では、湖に落ち、氷は解け、全ての感覚が
    完全に戻るヨンが描かれているので・・・
    それまでメヒ>>>ウンスだったのが、これからは
    ウンス>>>・・・>>>その他、になっていく
    その瞬間を拾いたかったのです。
    それでも、まだまだ険しき二人の道。
    気持ちが、心が、通じ合うまで、またじれったさが募ります・・・

  • SECRET: 0
    PASS:
    やっと見つけた二人の無事な姿にホッとしたのもつかの間、返り血を拭えと向こうへ追いやられ。おもえば再手術してから一度も休んでいないチェヨンくん。ウンスちゃんの肩に寄りかかる。まだお互い気持ちが芽生え始めか、という大切なところですよね。言葉に書きおこしてくれて感謝です。二人のことがより深く理解できます。これからせつない投獄まで、目が離せません。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    恋って、いつ「あれ、恋?」と思うのでしょう。
    書き手が分からないようでは、どうしようもないですが(;^_^A
    本当に、何だかわからないけど、この人は他の人と違う。
    そしてこの人の前だと自分もいつもと違う。
    これは何?と思っている、そんな頃だと思っています。
    そうなのです。ヨンにはまだ分からない事が、たくさんたくさんある頃。
    でも、これから知っていく頃。
    ああ、書くのが楽しみすぎてワクワクです・・・

  • SECRET: 0
    PASS:
    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    書きました、みあなだ。チュソクオッパ、葛藤しております。
    もう、でも今回は、ミアナダ以上に
    その後が悲しすぎて、うぃんぱち君の21インチ画面に
    悲しいヨンが全画面表示で、涙ボロボロ・・・
    ああ、全話も考え物です。感情移入が激しくなりすぎ
    (DVDが誤作動するほど見ていれば当然ですが・・・)
    もう、はぁぁ、です。

  • SECRET: 0
    PASS:
    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね、まだ明確でない、あやふやで
    曖昧だけど、何かが芽生えている@さらん解釈です。
    でないと8話でウンスが「チェ・ヨンさんを助けて」と言う、
    あれが、意味が分からなくなります。
    だって、単に天門までの送りというなら奇轍でも良い。
    寧ろ高麗全土に広がる権力と、金に物を言わすあの財力、
    より都合良い旅の道連れは奇轍の方なわけで。
    等々、いろいろ考えつつ、幸せにお話書き中です❤

  • SECRET: 0
    PASS:
    >さらんさん
    此処の時点で ヨンのハートに
    キューピッドの恋の矢は 1本どころじゃなく
    ドキッとするたびに 刺さっているでしょうね~
    慶昌君のところでの ウンスの様子と
    ステキな歌声・・・ 止めの 「いってらしゃい~
    早く帰って~」 で もう グラグラかと。
    ウンスも嫌だと言いながら 環境への順応性たかそうだから。 切り替えてるかな~
    (イヤイヤ イケメン ほっとけない (///∇//)
    私の心の声)
    ハート貯金の始まり・・・ジレジレの始まり
    ( ´艸`)

  • SECRET: 0
    PASS:
    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    今回じっくり振り返り書いてみると
    意外なほど早く、キーワードがぽろぽろ。
    次の8話で出てくるのは「色」です。
    確かにジレジレなのですが。
    ウンスオンニについても、あれ?と。
    いやあん、書いてみるものです。
    面白すぎて、久々に徹夜の日々が続きそうです( ´艸`)

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です