「郷領奪還、平定後とはいえ、北方の元、南方の倭寇も騒がしい。
元はすでに大きな力なしと見るが、その国内は紅巾の荒れ方唯ならず、乱の飛び火が考えられる。
倭寇は今は小競り合いの頻発だが、今後大きな争いの可能性は高い。
俺は現状報告のため一旦帰京するが、この地域の護りの兵力は可能な限り維持する。
よって今回の帰京については、最低限の人数で行う。
俺の離脱が士気に関わり、敵方に隙を見せぬとも限らん。全て内密に遂行する」
着席した長たちは、その声にそれぞれ頷く。
「迂達赤各隊より騎馬兵一名。
国境軍四衛より歩兵一名。それぞれ選抜しろ」
大護軍は卓に着く全員を見渡した。
「今回の帰京は俺とテマン、各選抜兵のみとする。
王様には既に奏上の早馬を出している。勅旨賜り次第の出立。
以上、準備にかかれ。迂達赤隊長は俺と共に来い」
会議を終えて退室する大護軍に従い、俺も執務室に戻る。
回廊を一歩控えて歩きながら、俺は大護軍に声をかける。
「大護軍」
「何だ」
「開京までの道中、十人だけで護られるのですか」
医仙、の言葉を敢えて避けて尋ねる。
「手裏房にも手配はかけた」
「迂達赤の組長にだけは、帰還を告げますか」
「ならん」
「馬車の用意は」
「目立つ」
「馬にお乗り頂くのですか」
「仕方なし」
大護軍は前を向いたまま、歩を緩めずに呟いた。
一刻も早く医仙を安全な場所にお連れしたいと、気が急いておられるようだ。
「いくら早馬とは言え、勅旨の下賜を待てば往復に五日はかかりましょう」
「ああ」
「その後、開京まで少なくとも三日は」
「そうだろう」
「俺が同行するのは、不可能ですか」
大護軍はその言葉で初めて、一歩後ろに従く俺に肩越しの視線を投げた。
「迂達赤隊長のお前が抜けてどうする」
「我ら迂達赤、大護軍補佐の王命を受けております。
大護軍の帰京後は、遅かれ早かれ 開京に戻されます。
道中の護りのお役には立てましょう。開京に到着次第、早馬で取って返します」
「そう出来れば、どれほど気が楽か」
大護軍はそう言いながら、また視線を前に戻した。
「それは許されん。案ずるな。此処にいる間は、頼む」
この地にいらっしゃるうちは命にかけてお護りするが、帰路の医仙に万一の事あらば、大護軍の暴走が心配です。
とは、口が曲がっても、言えん。
チュンソクは思わず深く、頭を垂れるのだった。

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髭女房殿は、考える事が違う!
大護軍の常日頃を見ているから、万が一も考え動こうとする。
無くてはならない人物が、今回は同行できないのですね。
何が起こってもおかしくない時代。
こんなに待ち侘びた人に何かあれば、戦場の鬼神ならず真の鬼と化すでしょう。
そうならない為の進言でしたが、状況が許しませんでしたね。
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>mayuさん
髭女房!!
頂きましたよ、素晴らしき修飾詞ヽ(*'0'*)ツ
まさにチュンソクのことではないですか!
まあこの方は大護軍の頼もしさも恐ろしさも
誰より分かっておりますゆえ・・・(爆
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>さらんさん
あっ!ごめんなさい。
髭女房は、他の方が言っていた言葉です。
他では、皆様チュンソクの代名詞みたいに使ってます。
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>mayuさん
おおっ、素晴らしいですヾ(@°▽°@)ノ
皆様の中には、そんな隠語まであるのですね?
んー勉強不足。