2016再開祭 | 竹秋・陸

 

 

「じゃじゃーん!」

女人のふざけた声に眉を顰め、どれ程振りかに空を見る。
地から仰ぎ見れば目の届く限り、何処までも高く伸びる竹。
天を覆うように重なる葉の隙間から、ようやく覗く霞空。

こんな早朝からひと働きかと、誰より己が己に呆れ返る。
しかし竹林が相手では、此方の都合で斬るわけにもいかん。

「ここです。この竹を切って欲しいの」
一先ず高さを確かめた後、俺は地に目を戻し痛む首を擦る。
今日は得意の弓でも槍でもなく、腰に柄鎌と鉈、手に鋤を下げた姿で
「・・・天女、旦那・・・」
「これ・・・どうするんだ。全部切るのか」

頭上の葉影から降る朝陽の中、チホとシウルの情けない面にヨンが深い息を吐く。
「確かめず口約束をするからだ」
「そりゃそうだけど・・・まさか皇宮の中に、こんなだだっ広い竹林があるなんて思わなかったんだよ」

シウルは頭を搔き、そしてチホが突然目を輝かせた。
「そうだ、旦那!」
「何だ」
「トクマン呼べよ。あいつは俺の槍の弟子だぞ。師兄が呼んだら来るべきだろ。手伝わせようぜ」

その刹那。ヨンの鋭い睨みに、チホが声を呑む。
「なん、だよ旦那、怖い顔して」
「奴は役目中だ」
「だって俺たちだけじゃ無理だろ!」

ああ、煩い。
常にヨンにのみ従うテマンは、今も困ったように奴の横でその顔をじっと見ている。
そしてあの夜訪れたトギは女人の横で首を振り、何やら懸命に指で語り掛けている。さて。
「トギ」

俺が呼ぶと仰天したように、トギが此方を振り向いた。
そして女人と共に傍へ寄って来ると、俺に向けて指を動かした。
指は読めん。その動きを黙殺し
「何処まで斬れば良い」

尋ねた声に首を傾げ、トギは女人と共に広大な竹林を見渡した。

このさきに、あきちがある。

あの夜で懲りたのだろう。トギが懸命に指と口を動かす。
その指の先、並び立つ竹林の勾配の先が微かに明るく拓けている。

ここから そのあきちまで できるかぎり。
「斬った竹は如何する。相当あるぞ」
はこぶだけなら ちょにしのみんなで できる。
「・・・ふむ」

笑いとも嘆息ともつかぬこの息に、トギが女人と顔を見合わせる。
「女人」
「はい、ヒドさん」
「筍が喰いたいのだな」
「え」
「喰いたいのだろう」
「ええと・・・ええ、はい、でも」
「ヨンア、テマナ」

珍しく女人の横を護らずに一歩離れ此方を見ていたヨンと、その脇に従いたテマンが寄って来る。
「何だ」
「さっさと斬って、ついでに筍だ」
「・・・・・・」

正直な弟は黒々とした眉を寄せ、物言いたげな眸で俺を見る。
「ヒド」
黒鋼手甲を外しながら歩き出した俺の横、奴は添いながら共に歩く。
「ヨンア」

呼び掛けると奴はもう俺を呼ばず、先を促すようにただ無言で並ぶ。
「この先に広場があるようだ。奥から行くぞ。最後に出し易い」
「・・・まさか俺もか」

並んで奥へ進む俺達の後、半歩下ってテマン達三人が従いて来る。
「何だ。斬らん気か」
「いや・・・」
胡乱な顔で眸を眇め、奴は短く此方に問うた。
「ヒョン」
「何だ」

足許には積年の竹葉が柔らかな床のように積もっている。
その葉に覆い隠された竹林の勾配に足を取られぬよう、足許を確かめ進む俺に
「何故、急に気が変わった」

奴は心底不思議なのだろう。俺に確かめるように問うた。
その声に俺も正直に首を振る。
「変わってなどおらん」

変わってなどおらん。俺もお前も。
忘れてはいたかもしれんが、何一つ変わってはおらん。
「思い出しただけだ。お前、昔拵えたろう」
「・・・何を」

忘れもせん。低く笑う俺の声に、思い当たる処があるのだろう。
奴は拗ねたよう此方から目を逸らす。女人の前では決して見せぬ顔で。

 

 

 

 

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