2016 再開祭 | 嘉禎・25

 

 

眠るあなたを胸に抱き、壁一面の窓外を見る。
藍空から瑠璃、次に群青、白藍への流れを眸に焼き付けつつ。

東雲の間、真直ぐ射す天界の初陽に息を止める。
高麗で最も高い山頂から眺めても、これ程見事な朝陽は拝めん。

光の中、眼下に広がる箱の列。
天界では失われた山並の代わりに、あの家々を建てるのだろうか。
遮られ見えなくなった川の流れの代わりに、あの何処までも続く光の川を作ったのだろうか。
広大な緑の野を駆ける馬が見えなくなった代わりに、あの黒鉄の馬を走らせているのだろうか。

では、空を行く鳥が見えなくなった代わりには。
聞こえなくなった囀りの代わりには、何がある。

知りたい。何処が高麗と違うのか。
どうすれば高麗に戻ったこの方がより暮らし易くなるか。
飯や布団だけではない。知りたい。
この方が心から笑って暮らすには、俺に何が出来るのか。

笑顔の下で無理をする方。
俺さえいれば他の事はどうでも良いと、胸を張り言い切る方。
だからこそ心から笑わせたい。無理に笑みを浮かべさせるので無く。

見つかるだろうか。この方が必要な医術を確かめている間に。
見つかるか見つからんか。考えても始まらん。試すしかない。
それよりも、今憂うべきは。

飽かずに眺めた窓に背を向け、掌を翳して影を作り、あなたの目許を陽射しから隠す。
高麗の何処よりも眩しく透き通る朝陽。それがあなたを揺り起こすのが厭わしい。
例え目を離せぬ程美しかろうと、あなたより大切なものなど無い。
天界だろうと高麗だろうと、この世の涯まで探そうと。

 

*****

 

ピ、と鳴りかけた電子音。
その瞬間に体が小さく揺れる。同時に何かを叩きつける大きな音。

バン!!

のどが乾いた。頭が重い。もうちょっとだけ寝かせて。
どこにいても変わらない、温かい広い胸にすり寄る。
大きな手を髪に感じて、もう一度ゆっくり息をする。

ピ、と鳴りかけた電子音。
体が小さく揺れる。そしてさっきと同じ、大きな音が聞こえる。

バン!!

何度目だろう。もう何が理由で目が覚めたのかもわからない。
ゆっくり目を開けると、部屋の中は真っ白。
天井も、壁も、じゅうたんの床も、朝日を浴びて光ってる。

ああ、きっとすごく良いお天気なんだ。
でも二日酔いにはきつい朝の太陽は見えなくて。
その代りに困り果てたみたいな、あなたの黒い瞳が見えた。
「・・・おはよう、ヨンア」
「・・・おはようございます」

声が嗄れてるのはいつものこと。寝起きが悪いのは学生時代から。
頭の重さと体の怠さは、昨日調子に乗り過ぎたせい。
だけどこの人の申し訳なさそうな声の理由は何だろう。
「どうしたの・・・?」

すり寄ってた胸からその顔を見上げる。
頬にふれて確かめて、額の熱を測って、頸動脈へ指を移す。
その瞬間にもう一度、静かな部屋に響く電子音。

ピ、と鳴りかけた瞬間に、私の体越しに長く伸ばされるその腕。
大きな手のひらが、ベッドサイドの目覚まし時計を思いっきり引っぱたく。

バン!!

そしてあなたは唇を噛んで、そのまま私の脈診をしっかりした手首で受け止めながら頭を振った。
「先程から喧しく」
ああ、時計のスヌーズ機能だったのね。ようやく分かった。
「これ、しばらくは鳴るわよ」
「そうなのですか」
「うん。そういう仕組みなの」

半分寝ぼけた指先で脈を確かめながら、あなたに笑いかける。
「だいじょうぶ。飲み過ぎとも寝不足とも思えないくらい、しっかりした脈」
「・・・はい」

頷くあなたの腕の中、体を反転させてベッドサイドの時計をどうにか取り上げる。
「ここを押しただけだと、また何分か後には鳴るの」
そう言って、その時計を裏返す。
「しっかり止めたいときは、この小さなボタンを下げるのよ」

カチンと音を立ててアラームのスイッチをオフにする。
この人は私の指先をじっと見ながら頷いた。
「判りました」
「でも起きられて良かった。うっかり寝過ごすとこだった」
「何より」
「じゃあ」

シーツの下で伸びをすると、少しすっきりした頭であなたに笑う。
「シャワー浴びて、顔洗って、ご飯に行こう!」

勢い良くベッドからはね起きると、明るい部屋の中でむきだしになる裸の肩。
あなたがあわててその素肌を、シーツでぐるっと包み込む。

 

 

 

 

7 件のコメント

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    高麗に居ても、天界に居ても
    思うことはウンスの事❤
    素敵な旦那様ですね(^^)
    時計の説明を聞くヨン。
    「判りました」
    こう言う言の葉に、さらんさんちのヨンに心を奪われる私です❤

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    さらんさん、二度目のおはヨンございますw
    スヌーズ機能、短気なヨンには嘸かしイライラしたことでしょうw
    胸に抱いてゆっくり寝かせてあげたいもんね❤️
    二日酔いにはきつい晴天の様ですが、ソウルに来た意味、色々やらなきゃいけない事もあるしずっとベッドで過ごす訳にもいきませんよね~( ´艸`)
    妻の剥き出しになる肩に慌てるほどヨンは純情か(灬º Д º灬)照…♡
    惚れた弱みですね(*´罒`*)ニヒヒ♡

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    もうなんだか ウンスのお世話係りのような…
    ウンスの言うとおり 仰せのままに(๑´ლ`๑)フフ♡
    後ろにぴったり あれこれ 世話を焼きつつ
    お守りしなければ。
    これだけでもしあわせよ ウンスは
    うらやまー ( *´艸`*)

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    確かヨンは、酔ったウンスに、「高麗式の返礼」をしたはずですよね。
    ヨンが、素肌が出てしまったウンスの肩を、シーツで包み・・!?・・の、朝・・
    これですね♪♪
    さらんさんのヨン。夫であっても、いつも純情で礼儀正しい。
    勝手に妄想している私がいます(*^^*)

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    何処にいても 世話のかかるウンスね
    ヨンは専属の付き人みたい( ´艸`)
    そんなヨンも ウンスの事しか頭にないし…
    結局 互いのことしか見えてない?
    さぁ~二日目の朝
    目的忘れずに 頑張ってね~

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    朝の、ヨンさんの4343(笑)で、幸せ♪うきうき♪の休日をはじめさせて頂きました
    お昼にもだなんて、ありがとうございます!
    すでに刷り込み...
    夜の、ヨンさんの2355(?)を。。。と呟いてしまいました☆
    幸せなふたりで真昼の天界デート、楽しみです

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    さらんさん♥
    ピピピピ…ではなく、
    ピ…と鳴りかけたとたんに
    バシッと止めるなんぞ
    さすが、反射神経のいいヨンです♥
    何度も煩く鳴る時計、
    いっそのこと壊してしまいたかったでしょうね。
    ( *´艸`)
    便利で快適なホテルライフも
    ヨンにとっては意味不明で
    迷惑なことばかり…。
    一刻も早く高麗に戻りたいところだと
    思いますが、それぞれの場面を
    垣間見させていただいている私たちは、
    ヨンの驚く顔をもう少し堪能したく…♥
    ああ~無垢なヨン…素敵♥♥♥

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