【 徳目之一・温 】
夏至間近、最も昼の長い時節。
それに加えて空梅雨で、慈雨の少ない事は例年の比ではない。
傾いた陽は落ちる事も忘れたように西空に留まったまま、容赦なく斜めから鍛錬場を照らす。
「・・・止め!」
その一声に鍛錬場の全員が構えた棍を下ろし姿勢を正す。
鹿角解の空の下、鍛錬着の袖を叩けばこびり付いた土埃が舞い落ちる。
その埃を避けるように目を閉じて大きく息をつく。
「各自、武具の手入れをしておけ」
「はい!」
「必ず水を飲めよ」
「はい!」
いつになればこの役目から解放されるのだろう。棍は性に合わん。
しかしトルベが戻って来てくれる訳もなく、かと言ってトクマン一人ではまだ不安で任せられん。
思わず恨みがましい眼で、埃立つ鍛錬場を悠々と水場へと向かう背を追い駆ける。
背を向けているのに足を止めたその人が、涼しい視線で振り返る。
「何だ」
「いえ、あの」
「何だよ」
「・・・いえ、何でもありません」
並ぶのを待つように腕を組んだ大護軍の横に進むと、珍しく薄い笑みを浮かべた横顔の歩調が少しだけ遅くなる。
「不満そうだな」
「不満という訳では」
「棍か」
「・・・俺には、トルベのような才はなく」
思わず口を突いた懐かしい名に、鍛錬場を並んで歩く互いの声が止まる。
何方からともなく西空を見上げ、大護軍が低く問うた。
「トクマンは」
「奴自信が修練中です。迂達赤に鍛錬をつけるには早いかと」
「教えて教わる事もある」
「それはそうですが・・・」
確かに今の迂達赤で誰より槍に秀でているのはトクマンだ。それは間違いない。
手裏房の若衆に鍛錬を受けながら、見違えるように上達してはいる。
但し教えるとなれば話は別だ。己が操るだけなのとは訳が違う。
天下無双の遣い手が、必ずしも万邦無比の名師範になれるとは限らん。
横を歩くこの人のような伎倆や才腕を、誰もが持っている訳ではない。
迂達赤に鍛錬をつけて巧く行かずに怖気づき、折角積み上げた奴の槍自体に迷いが出ぬとも限らん。
ああまただ。こうして考え過ぎるのだ。始まってもいない事を彼是と。
上手く行くかどうかも判らんのに、最悪の帰趨をまず考える。
考えているうちにさぞ難しい顔をしていたのだろう。
大護軍がこちらを見て、呆れたような息を吐く。
「考えるのはお前の役目だ」
「大護軍」
まるで深刻さを感じん声に困り果て横顔を見ても、大護軍は意に関さぬ様子でさらりと言い放つ。
「賽を投げねば博打は打てん」
「しかし、大護軍」
博打ではない。
大護軍がどれ程時間を割いて各軍に鍛錬をつけているのか、俺達は誰よりよく知っている。
ここでしくじれば大護軍に余計な手間が掛かるのだ。そんな徒労をさせるわけにはいかん。
「奴に確かめろ」
「・・・判りました。聞いてみます」
ようやく頷いた俺に軽く手を上げ、大護軍はそのまま井戸端へと歩く。
この人の半分でも度胸があれば。半分でも人を動かす力があれば。
半分でも人を見抜く目とそれを活かす手腕があれば、この人にこれ程負担を掛けずに済むものを。
しかし俺はこうしてまだ、前を歩む背を見ているしかない。
情けなさに息を吐き、俺はますます遠ざりそうな西陽の中の背を追った。

髭女房… ぽっぽ
チュンソクの話しを一つ
お願いします。(くるくるしなもんさま)
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頑張れぽっぽ~♥
悩める 中間管理職…
なにせ 部下のことより
上官の仕事のことから プライベートまで
気を回さないと イケないから
ほんと大変 髭女房ほんと 大変
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ヨンはもちろん大好きですが、じつはチュンソク好きのわたしです(#^.^#)
間が悪い彼や、何度も言う『イェ』も好きです。
楽しみです~、ありがとうございます