「タウンさんも、コムさんも」
この方は居間で向き合う二人を前に、意気揚々と声を続ける。
居間に燈す気の早い蝋燭より、厨で燃える竈より明るい声で。
その声が溢れるだけで、居間の灯は幾倍も眩しく明るくなる。
「1週間、おうちに帰ってタウンさんのお母さんをお手伝いしてあげてくれない?」
「ウンスさま」
タウンが慌てて止めに入るのも意に関さず、この方は声を続ける。
「親孝行は出来る時にしなきゃ。だから今回は、お母さんのお手伝いと里帰りを兼ねて1週間。
それならコムさんもタウンさんもきっと、もっと安心できるでしょ?」
そう言って一人得心したように、深く何度も頷いている。
肝心のコムもタウンも話について行けぬという顔をしているのは、目に入っておらんらしい。
「お母さんも今日言ってたじゃない。久し振りだって。全然帰って来なかったって」
「・・・武閣氏の頃は、皇宮の役目が多かったですから」
「だからって、皇宮からも歩いて帰れる距離なのに」
ああ、そうだったかと腑に落ちる。
兵なら判る。急の役目に備え、新兵は兵舎に詰める事になる。
役目熱心な奴ほどそうだ。
鍛錬をこなし、役目に備え、そして帰宅が遅くなり。
やがて寝に帰るだけになった住いから荷を運び込み、結局兵舎に住まうようになる。
己が減れば、家の食い扶持がその分少なくて済む。そう考えて兵舎に移る奴も多い。
外に住まうのは所帯持ちか、ゆとりのある家柄か、さもなくば役目などどうでも良いと思う奴が多い。
貴族出身の奴の多い迂達赤でもその有様だ。他軍なら尚更だろう。
そんな兵の態を知らぬこの方は、無邪気に言葉を続けている。
俺はそれを遮るように、タウンに向けて声を掛けた。
「里帰りして来い」
「大護軍」
「母堂の許に」
「ですがそれでは、昼の間の御邸の衛が」
「手裏房もテマンも居る。七日ならどうとでもなる」
「ヨンさん、ですが」
「コム」
俺が卓前で姿勢を正すと、コムはでかい背を小さく丸める。
「無理を頼む事もある」
「それは構わんです。その為に俺達は」
「帰れる時は帰れ」
「ヨンさん」
「孝行して来い」
元気な時にしか出来ん。離れてしまえば想うしかない。
「明日の朝」
俺はそう言って卓前から立ち上がる。
「俺と顔を合せるようなら、覚悟しろ」
片頬で笑って最後に残し居間を出る。
「今ならまだ明るいから。梅雨の晴れ間なんだし、すぐ行って!早く出かけて、ね?
あの人に明日の朝見つかったら、コムさんもタウンさんもお仕置きされちゃうから!
2人が用意してる間に、お母さん用に持って行って欲しい薬をまとめておくから」
あの方の明るい声を背で聞きつつ笑みをこらえて廊下を歩く。
あの場で押し問答を続けるよりも、あの方に任せた方が良い。
きっと小さな両手を躍らせて、コムとタウンを説得しているに違いない。
寝屋へ戻ると油灯は点けぬまま、寝台にごろりと横たわる。
程無く小さな足音を立て、廊下を足音が近づいて来る。
そして開いた扉の向こうから、部屋の暗さに驚くように
「ヨンア、起きてる?」
囁くように言いながら、あの方の影がそっと寝台へ近づく。
寝台脇から横たわったままの俺の眸を覗き込むと
「やだ、起きてた。どうして暗いままなの?」
そう言って安堵したような息が笑う。
「灯が点いておれば、奴らがまた行かぬと言い出すでしょう。狸寝入りが一番かと」
「変なとこまで頭が回るんだから。起きてるならちょっと来て」
横たわる俺の手を引き、寝台から起こそうとするその掌を軽く引き返す。
小さな叫び声と共に倒れ込む体を胸で受け止める。
「ヨンア!」
「十だけ、数えて下さい」
狸寝入りの振りをして、十の間だけ抱き締めたい。
その我儘に胸の中で呆れたような息を吐き、小さく息を吸うと
「12345、678910!」
腕に抱かれたこの方が、恐ろしい速さで十を数える。
「早過ぎる」
「だって、まだやる事がたくさんあるんだもの!」
「・・・判りました」
此処で拗ねても仕方無い。
息を吐いてこの方を抱いたまま、寝台で半身を跳ね起こす。
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PASS:
ほんとに 優しい奥方で。
ヨンも うれしいでしょ 二人がいない間が
心配だけどね。
帰れるときに帰っておかないと…
出きるときに やらないとね
ヨンも ウンスに触れられる時は
離さない!
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コムとタウンも
ヨンとウンスの人間味ある心に触れて、ヨンとウンスが、ますます大切な存在になりますね(^^)
ヨンの
“此処で拗ねても仕方ない"(笑)
そうですよ~コムとタウンが出掛けた後は、二人だけの甘~い逢瀬が待ってますよね?さらんさん❤
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PASS:
さらんさん、こんにちは!
ウンスには誰でも勝てませんね~!
押し切られちゃう!
ゆっくり親孝行してね!
腕の中に閉じ込めておきたいなんて❤️
甘々ヨン❤️
逆にこの一週間二人っきりの生活どーなるかしら( ´艸`)