2016 再開祭 | 夢見路・参

 

 

「作りたいものはだいたい決まったし、材料は典医寺の薬材室で手に入るものばっかりだし。
ありがとう、チャンせ」
「涼茶というのもあります」

そうだ、茶葉を使わぬ茶なら今でもいくつかある。
昨日思い立った、この時節に合う茶の名を告げる。
「涼茶?」
案の定ご存知ないのか、医仙が不思議そうに問い返す。

「はい。金銀花、野菊花、蒲公英、紫花地丁、龍葵。これを併せて煎じます。
清熱や解毒に良いものです。元は五味消毒飲という、疔瘡に塗る外瘍剤です」
「外傷剤?塗り薬?それ、飲んじゃって大丈夫なの?」
「紫背天葵子という薬草を、龍葵に代えて涼茶と致します」

説明するとようやくご納得されたか、医仙は深く頷いた。
「良いじゃない、医食同源!!それも作りたいな」
「効能は高いのですが、ただ」
話を振っておきながらの不手際。申し訳なさに口を閉じる。
「ただ?」
「龍葵は頻繁に用いる草ではなく、他に同じ薬効の薬草がある為、今は切らしております。
薬園には生えておりますが、乾かすまでに少々時間がかかります」
「・・・え・・・」

途端に落胆した声に心が痛む。
ここまで熱心に茶会を開きたいと頑張っていらっしゃるのに。
今、典医寺で用意できないとしても。
「外の薬房か薬問屋であれば、比較的簡単に手に入るかと」

私の声に、途端に明るくなる顔。それ程までに茶会を開きたいのだろうか。
「隊長にお許しを頂いて、外へ出てみますか」
「良いの?!」
私が尋ねると、医仙は嬉しそうに目を見開いた。

 

*****

 

「・・・薬草」

窓の外の梅雨空はぼんやりと曇り、重い雲が流れて行く。
そろそろ雨が来そうな湿った風の吹き込む診察部屋の中。

窓際の卓に向かい合う隊長は、苦虫を噛み潰したような顔で短く言った。
「はい」
「薬草なら此処に腐るほどあるだろう」

低い声で顎をしゃくる隊長に、取り成すように声を重ねる。
「肝心の薬草を切らしております。それが無いと効能が落ちます」
「・・・そんなに重要か」
「重要よ、もちろん!」

私が何か言う前に盆の上に茶碗を乗せた医仙が、声高に部屋の扉を抜けていらした。
盆の茶碗の一つを隊長の前に、もう一つを私の前に置くと、大きな音で椅子を引き腰掛ける。
卓上の茶碗の中は赤く透き通る飲み物。
「医仙」

私が茶碗を目で示すと、医仙は頷いて
「五味子茶。飲んでみて?」
そう言いながら、ご自身の茶碗を手に取ると一口含む。
そして次の瞬間眉を顰めて
「・・・んーーー」

その百面相に微かに笑い、続いて私も紅い茶を含む。
同じく隊長もゆっくりと、茶碗の中身を一口呷る。
先程までの気まずい空気を切り替えるよう、明るい声で問うてみる。
「医仙」
「うん?」
「どんな味がしますか」
「苦くて、しょっぱいかな」
「隊長は」
「・・・酸い」

突然の質問に、お二人はそう答える。
「御存知ですか」
「何が?」
横の医仙は首を傾げ、向かいの隊長は訝し気に私を見遣った。

「五味子は名の通り五つの味があります。酸甘塩辛苦。その時々で味が違うと申します。
苦味は心が弱り、血が不足しています。塩は腹より下が冷えております。総じて医仙は血虚かと。
隊長、酸は気憂で、気の巡りが滞る気滞や気逆が起きております」
「五味子茶1つで、そんなのも分かるの?」
「ええ」
「じゃあなおさらやりたいわ。体にいいし、体調管理にもなるし」
「何をですか」

勢い込む医仙の声に呆れるように、隊長は大きく息を継ぐ。
隊長に応え、医仙は朗々とおっしゃった。
「茶会を開きたいのよ」
「茶会」
「そう。今お茶を飲めるのは、お金持ちの上流階級の人がほとんどなんでしょ?
みんながもっと手軽に飲めるようなお茶を紹介したいの」
「皇宮に出入りして、そんな事を憂う者はおりません」

不愛想に首を振る隊長に、医仙が懸命に訴える。
「そりゃあ、王様とか媽媽とか大臣とかは別よ。心配ないでしょうね。
でも兵の皆とか尚宮オンニとか、一日中立ち仕事で体力使う人にこそリラックスする時間が必要なのよ。
これからどんどん暑くなるし」
「水で」
「絶対言うと思った!」

隊長の声を遮るよう医仙は大きな声で言うと、音高く引いた椅子から立ち上がる。
「ただの水じゃ味気ないじゃない。楽しんで飲むのは精神的にも良いはずよ。
チェ・ヨンさんが気逆って、つまりはストレスでしょ?
そういうのを解消するにも、ゆっくりお茶を飲むのは良いことなのよ?」
「俺は」

隊長はそこで言葉を切ると、続く言葉を呑むように唇を結ぶ。
「チャン先生がいるし、無茶したりしないわ。だから行かせてよ」
「・・・侍医と二人ですか」

隊長の眉が寄り、その眸が向かいの私へ戻る。
私が懐から鉄扇を取り出して示すと、諦めたような吐息が聞こえる。
「何処へ行く」
「確実に入手するなら、碧瀾渡の薬問屋です」
「碧瀾渡・・・馬か」
「歩いては行けませぬ故」

引かぬ私に気分を害したように、隊長は眉を寄せたまま無言で席を立った。
「勝手にしろ」
吐き捨てて大股で部屋を出て行く後姿が、最後の扉前で首から上だけ、部屋内の私に振り返った。

「早く行け、雨が来る」

 

 

 

 

❤❤ HAPPY 29th BIRTHDAY to Minho❤❤

 

 

6 件のコメント

  • SECRET: 0
    PASS:
    ちょっと 拗ねちゃいましたねヨン。
    2人で お出かけなんて
    モヤモヤでしょう。
    侍医は… ふふふ 
    ウンスは とにかく 薬草が欲しい~
    出かけられるなら 誰とでも~かもね
    さ~ お出かけお出かけ~

  • SECRET: 0
    PASS:
    ヨン~拗ねちゃいましたね(^-^;
    本当は自分が、ウンスを連れて
    行きたいのにね~
    二人が帰って来るまで、イライラするヨンが想像できます(^^;
    五味子茶。
    私が初めて飲んだ時は
    甘酸っぱく感じました~(^^)

  • SECRET: 0
    PASS:
    チャン・ビン侍医と、ウンスのお話、楽しく読ませていただいています。チャン先生も、ウンスに対しては、心に秘めた想いがあったと思います。それが、お話になっているので、これからの展開が楽しみです。
    今日は、イ・ミンホssiのお誕生日でしたが、今年のさらんさんは、昨年のような画像をお描きにならなかったので、ちょっと心配しました。さらんさんのご体調が、まだ、良くないのだろうか・・と。この部屋の中で、お祝いがしてあったので安心しました。お話を届けてくださるだけでも十分嬉しいので、早く完全復活できるように願っています。
    心は、チェヨンに残してくださっていると思っています。それとも・・
    さらんさんのヨン、私(たち)に、いつまでも想いを寄せさせてくださいね。

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらんさま、今夜もお話ありがとうございます♪
    チャン先生と呼び、医仙と呼ぶ
    二人の世界があったから、チャン先生は耐えられた?
    古代では名前で呼び合うのは特別の仲ですよね...
    ヨンは、一足飛びにイムジャ呼びになりますが(笑)
    ・侍医と医仙・が出かけるのであっても
    ヨンの本能が、やっぱり・否・と言ってますね
    でも、チャン先生に幸せな道行を!お願いいたします
    バースディなんですね!
    ヨンの歳にミノ氏が追いついた~♪

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらんさん、おはヨンございます❤️
    五味茶?
    飲む人によって味が変わるんですね~!
    それだけで体の状態が分かるなんて!
    ヨンの「水で」って言葉にこちらも吹き出しましたw
    その様子が目に浮かびますよ!面倒さそうに言いそうでw
    なんとか薬草の買い物と言う名の別名デートのお許しを得てチャン先生心なしか嬉しそう~!
    ヨンはイライラしてるみたいだけどね?o(*´ヮ`*)o
    いってらっしゃーい!

  • SECRET: 0
    PASS:
    さらん様
    もしかしたら、他にもいるかも知れませんが、
    このお話を読みながら感じる既視感。ナゼ?と思いつつ、ア!と辿り着いたのが、某Jさんという二次作家さんが書かれていたお話でした。
    五味子茶って高麗時代ポピュラーだったのかしら?狭い世界だから、ネタが被っても仕方がないなぁと思いつつ、さらん樣の違う茶葉でのネタも読みたかったような。
    我が儘ばかり言ってごめんなさい(´Д`)

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です