2014-15 リクエスト | 名前のない花・2

 

 

「ト、トギ」

典医寺の薬園で、草摘みをしている私にそう言って、小さいあの子が駆けてくる。

何してるの?あたしがそう訊くと
「隊長が、典医寺の先生に用」
そうなんだ。あんたの隊長が来てるんだね。
あたしがふざけて、今度はそう訊くと、この子は嬉しそうにこくこく頷いた。

あんたは本当に隊長が好きだね。
「うん」
でもあの隊長は、少し怖そうに見えるよ。
「隊長はこ、怖くない」
あたしがそう言うと怒ったみたいに、 この子があたしを睨む。

別に怖そうなのは悪いことじゃないよ。だって武士なんだし。
先生だっていつもあんたの隊長のことを褒めてるよ。
「怖くなんてない」
だからあんたが、みんなにいい人だってそうやって言って回るの?
「そんな事しない」

この子は、本当に気を悪くした顔を、あたしからぷいと背けると、 ぱっと駆け出していった。

変な子。
あたしは一人でまた薬園に残されて、はあ、と息を吐いて、草を摘み始めた。

ねえ、変な子だね、テマンは。
そう言うと草は笑うように、手の中で揺れた。

 

トギが、隊長は怖そうだと言った。
そんなことあるわけないだろ。
みてれば分かるはずなのに。

ただ無口なだけだ。
よぶんな事、べらべら話さないだけだ。
心の中に、なんだか重いもんがあるけど、それを俺にも、他の誰にも言わないけど。
そんなもん、誰だってあるはずだろ。
何にも知らないのに勝手に言うな。

だけど俺はそれを、誰にもうまく伝えられずにいつだって、悔しい気持ちになるだけだ。

怖いんじゃなくて、どっかが重いだけだ。
それをトギには分かってほしかったのに。

隊長を待とうと、俺は典医寺の庭を見渡す。

この玄関が、一番見えるとこ。
そう考えて、庭の一番高い木に登る。

空しか見えなくなって、安心するんだ。
嫌なことは全部、置いて来た気がする。

そう思って、空の遠いところを見ると、鳥が山に飛んでくのが見える。

青い空に小さい翼が羽搏くのが見える。

俺、帰りたいのかな。
あの鳥みたいに、山に帰りたいのかな。
虎が生きてるとこなら俺もと思ったけど、やっぱり、いろんな声が聞こえて疲れる。

 

******

 

部屋の中、窓の外には典医寺の緑の木々が見える。
穏やかな風が渡り、その葉を揺らす。
他に動くものはない。

差し向かいに腰掛けた男が、俺に茶を差し出す。

「テマナの様子は、いかがですか」

部屋の中。
向かい合って座る侍医の言葉に、俺は目だけで問い返す。
いかがとは、どういう意味だ。

「また気鬱を溜め、変調を来たすのではないかと、勝手に余計な心配をしております」

侍医はそう言って、溜息をついた。
その事か。
どうしてやりようもない。
あいつが乗り越えるしかない。

他の奴らとて、奴を案じている。
笑えるくらい、心を砕いている。
チュンソク、チュソク、トルベとて、他の迂達赤たちとて同じだ。
若い叔父か、年の離れた兄のよう
不器用にぶっきらぼうに、見守っている。
俺だけが案じているなど、決してそんな事はない。

言葉を尽くそうと、伝わるものではない。
ただあいつのことだ、時間が掛かろうとそれさえ伝われば。

「案ずるな」
それだけ言う俺に、侍医は苦く笑うと
「医者は、取り越し苦労が多いのですよ」
首を振ってぽつりと、言葉を落とした。

侍医の部屋を出ると、テマンが駆け寄って来た。
「戻るか」
俺が歩きだすと、テマンは弾むように付き従う。

その時出て行こうとした薬園の向こう。
手に籠を持つ、小さな影が歩いて来た。

「・・・トギ」
テマンが呼ぶ抑えた声に、ああと頷く。
こいつはあの小さな影を見つけるのがいつでも抜群に早く、外すことがない。

呼ばれた小さな影はそこで足を止め、此方に向かってじっと目をやる。
声を失った子に、こいつを呼ぶ手立てはない。

「行って来い」
俺が小さく言うと、奴は首を振った。
「行って来い」
もう一度言っても奴は真っ直ぐ唇を結び、頑固に首を振り続けた。
そこに漂う小さな諍いの気配に、口許が綻びる。
「行って来い、テマナ」
「い、いやです」
「謝って来い」

言える時にすぐに言っておけ、後で悔いる前に。
あの時言葉が足りなかったと、悪夢を見る前に。

俺は息を吐き、テマンを振り返る。
「テマナ」
「隊長がこ、怖そうって」
何だ己が原因かと、この喉の奥に息が漏れる。
「怖くないのに、言った」
「それで怒ったか」
頷くテマンに、俺は頭を掻く。

「お前らの諍いの尻拭いはせん。
男なら行って、謝って来い」
「隊長は、こ怖くない」

首を振り続けるこの頑固さは誰に似た。
俺は思わず顎を上げ、頭の上の青い天を仰いだ。

 

 

 

 

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12 件のコメント

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    二人のやり取りが 可愛らしいと言うか
    「怖そう」 「怖くない」 
    なぜ俺のことで…な隊長w川・o・川w
    でも、隊長カッコいい
    男たるもの 女に優しくしないとね
    誰に似た? そりゃ~ ( ´艸`)

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    まだチェヨンくんに連れて来られたばかりの、幼いテマン。
    トギもまだ子どもなんですね。
    女の子は男の子より、少し早く心が育つ。
    トギには、あの子。ちょっと年下の男の子って感じなのかな。

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    トギのことは気になるけど、ヨンが一番のテマン。
    ヨンとしては、テマンが自分以外の人に、心を開けるよう願っているのでしょう。
    でも子ガモのように自分について、ヨンに似てしまってるテマン。
    仕方ないけど、親ガモさんが見本を見せないとねえ、あっそれも面倒でできないかな。

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    ヨンアとテマナの関係大好きです。テマナにとって兄であり、父であり、時には母親の役目も?(笑)
    だからテマナはトギにだけは一緒の思いでいてほしい?
    口下手大好き!いいなぁ~~~~
    ちなみに我が息子は3歳までまったく話さず何か障害でも?と心配したのは遠い昔。
    今は「はい!もう、いいです!」というぐらいのお喋りです(爆笑)
    ご心配かけましたが母の手術は大成功で一安心です。
    さらんちゃん!ご褒美に(なんのや)アメンバー募集1日で良いからしてくださいなぁ~~~~
    隅から隅まで読ませて頂いて残すはアメンバーの文章です。
    信義の放送記念とかなんとかで・・・・お願いします!!
    「さらん殿なんとかならぬのか?」とヨンアも言ってますけど(笑)

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    さらん様、こんにちは❤
    ヨンのテマナに対する態度にグッと来ます。
    この上無く優しい。
    誰よりもヨンを理解するテマナですが、ヨンも誰よりテマナを知っています。
    そしてもう一人、テマナを想ってくれる人が...。
    虎と猿の間に、栗鼠がいつのまにか入り込んでしまいました❤

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    まだここの暮らしに馴染め切れていないテマンにとって、トギは自分の大好きな自然を感じられる子だったのかしら。
    トギもきっと似たようなものを感じていそうですよね。

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    本当ですよね。
    誰に似た、ってそりゃぁ…(爆
    まあ。自覚症状なしというのも迷惑千万ということで(;´▽`A“
    なのにカッコいいとか言われるヨン、正に役得ですね❤

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    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    どこかに「トギは本編中10代にも30代にも見える」
    と書かれていて、成程なーと思った記憶が(爆
    私の中では、テマンとトクマンの中間くらい?と
    勝手に設定していますw
    この頃は二人とも、まだまだお子様ですね・・・

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    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね…この頃はいずれテマンとも別れると
    ヨンが思っているころなので、
    早く慣れ、周囲とうまくやることを教えたいかもしれません。
    ヨンの場合、見本は見せないでしょうねw
    テマンが賢くて良かった良かったー❤

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    >victoryさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    まずはお母様の手術の御成功、おめでとうございます!!
    嬉しい、良かったです。ほっとしました❤
    いやん、あの素敵なヨン子息さま、昔は無口だったなんて、
    益々ヨン風味ではありませんか!良いです良いです(〃∇〃)
    あはははは、良いですね「信義再放送記念・限定アメンバー様募集」
    本当に、受け入れができれば始終開けておきたいのですが…
    申し訳ないばかりです。クスン(ノ_-。)
    でも限定ムック(このフレーズお気に入り)の
    花男公開もアメンバー限定でやりたいですし、
    本当に、再放送以来アクセスもメッセージもたくさんいただくので
    申請受付たい気持ちは山々なのです…!
    くうう…考えます!どうにか…

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ふふふ、そうですね❤
    虎と猿の間に栗鼠wこのフレーズ可愛いです(〃∇〃)
    私の場合、ヨンは虎と勝手に決めていますが
    小説では奇轍が、ムン・チフ隊長をとrと呼んでいました。
    隊長はやはり代々虎…??

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね、トギもテマンも互いにとても近しいものを感じているようです❤
    この頃は頑張っても親友同士の枠を出ていませんが・・・
    おとなになったら、変わるのかなあ。楽しみです❤

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