2014-15 リクエスト ｜ 名前のない花・1

【 名前のない花 】

俺を山で見つけてくれたのが隊長。
俺にこの気持ちを教えたのはトギだ。

こいつになら、何でも言える。
こいつなら、思ってることが分かる。
話し声は聞こえなくても話してる。

それは雨が降る前の匂いや、雪が降る前の風を嗅ぐのに似てる。
目の前のうさぎに石礫を当てる前や、山の中で熊の前に飛び出した時に似てる。

わかるんだ。どうなるか、何を考えてるか。
そしてどうすればいいか。

初めてトギに会ったのは、典医寺だった。

トギは無言でこっちをじっと見てた。
何も言わない俺に、文句も言わずに。

俺はいつもみんなに話せ話せって言われるのに。
こいつは俺の目の前で、じっとこっちを見てた。

林の木の上でじっとしてる時に、栗鼠が枝を伝って来た時みたいだった。

栗鼠は俺を見つけると、動きを止めてこっちをただ見る、黒い丸い目で。
お前ここで何してるんだ、そう言って。

こいつの、初めて俺を見た目はその栗鼠の目にそっくりだった。

典医寺の背の高い、髪の長い先生がトギはしゃべれない、と言った。

嘘つけ、しゃべれるじゃないか。
こいつは目でも、手でもしゃべってる。
こんなに聞こえてるじゃないか、声が。

俺には先生のその話の方が、訳が分からない。
皆の大声の方が、耳にわんわん響いて分からない。

******

あの男の子と初めて会った時、あの子はあたしをまっすぐ見て、不思議そうに首を傾げてた。

お前の声、聞こえてるぞ？
その目で言って、あたしの手の動きを何でもない事みたいに全部読んでた。
あたしの目の動きを、なんでもないように追いかけて来た。

あの子を見てると、薬園の草を見てる気持ちになる。

草は風に揺れながら、雨に打たれながら、光に照らされながら、頭を上げている。
ただ根を張り、伸びていく。
気が付けば丈が伸びて、そして話しかける。あたしにだけ聞こえる声で。

こんな風に使って。
こんな事に効くよ。
こんな薬になるよ。

分からないときは自分で試す。草に話かけながら。

あんた、何に使って欲しいの。
あんた、何に効き目があるの。
あんた、どんな薬になれるの。

最初のうちは分からなかった。声を聞き間違うこともあった。
気が付けば自分の声が出なくなっていた。

だけど草を恨んだことはない。
あたしの体は、その毒草のおかげで毒はきかなくなっていた。

草が悪いわけじゃない。
草の声をちゃんと聞かなかった自分が悪い。

でもみんなは言う、しゃべれなくて可哀想。
そんな事思ってないくせに、嘘ばかり言う。

可哀想なんて思わない。
あたしの声は、草に届いてる。
草の声も、あたしに届いてる。

あたしは嘘の声の方が鬱陶しい。
草は、嘘をついたりしないのに。

新リク話、開始です❤
74. 無題
ちょっと気になる
あの子とあの子・・・
テマンとトギ
友達以上？　恋人未満?
何回目？
ごめんなさい。 （くるくしなもんさま）

すごくいろいろ考えて、タイトルを決めました（え）
これしかない、と。
楽しんで頂けたら、嬉しいです。

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