2014 Xmas | 野辺送り・1

 

空の上。高い、高い処に、 猫の爪のような三日月が上がっていた。

その魂が、上がる道を迷わぬための道標か。
その魄を、遺す者たちが刻むための墓標か。

 

*****

 

ムン・チフ殿の悲報は、余りにも早く伝わった。
どれほど早いと例えるならば、私が宣任殿に駆け込んだ時にはまだ床にあの方の血痕が残っていたほど早かった。

私は無人の宣任殿の床に膝をつき、その赤い血溜まりを、懐より取り出した己の手拭いで拭った。
拭えるだけ拭った後その手拭いを丁寧に畳み、別の手拭いで包んで、袖へと忍ばせた。

何故そんな事をしたのか、己にも分からぬ。
誰かに、証したかったのか。
ムン・チフ殿は、確かに生きていらしたと。
それとも隠したかったのか。
ムン・チフ殿が、現世にいらっしゃらぬと。

ムン・チフ殿の野辺送りの宵。
既にヨンが秘密裡に皇宮の牢より脱獄させていた赤月隊の隊士を含め、かなりの数の者たちが、符牒で遣り取りしたその場所に集まった。

空の上。高い、高い処に、 猫の爪のような三日月が上がっていた。

目立つとの理由で、誰も赤月隊のあの目を射るような赤と黒の隊服は着るなと、ヨンは予め伝えていた。

その宵ヨンの横には、メヒと言うあの女子が、奴の影のように佇んでいた。

二人はまるで松葉のように 頭と頭を寄せ合い、支え合うようにして 静かに其処に立っていた。

ヨンの手が強く、メヒと言う女子のその肩に回っていた。
そして肩を包むその掌は、止めようがない程ゆらゆらと震えていた。

ヨンの掌が震えていたのか、 メヒの肩が震えていたのか。
今となってはもう分からぬ。

それほどの人数が集まっても、それは余りに寂しい野辺送りであった。

足音を殺す事に日頃から熟れた者たちは、担がれた棺の後をまるで影のように付き従った。
どこまでも続くその影の列だけが、心より慕い、父とも兄とも呼んだ、ムン・チフ殿の収まった棺に付き従って行った。

 

*****

 

「なんだろうねえ」

野辺送りが終わりその後集った手裏房の酒楼で、マンボは私の目の前に腰掛けそう言って溜息を吐いた。
「何だって、あんなに良い方が」
そこまで言って押し黙り、マンボは目の前の酒瓶から手酌で注いだ酒を思い切り煽った。
「うちの馬鹿兄者を兄弟子として面倒を見て、手裏房を作らせてくれたのもムン・チフ様だ」

そう言ってまた酒を煽ろうとする手を私は抑えた。
「飲み過ぎだ」
「ほっときな」
マンボはそう言って私の手を払い酒を煽った。

「何て怖いとこだろうね、皇宮ってとこは」
マンボの言葉に私は黙って頷いた。
「あそこほど恐ろしい処を、私は他に知らん」

その言葉にマンボは笑う。
「そこで今まで生きて来たあんたも、それじゃあ相当、怖い奴なんだろうね」
「そうではない」
私は頭を振った。
「息を殺し、死んだふりをするのだ。皆余りにも忙しく、死んだ奴には構っておれん」
「死んだふりなら良いけどさ」

マンボはそう言いながら、次の酒を注いだ。
「ほんとに死んじゃ、笑えないじゃないか」
そう言って酒を煽り、こちらを見る目はもう既に、据わりかけていた。

「ヨンアには十分気をつけておやりよ。
なんだかんだ言ったって、あの男にはもうあんたしか身内は残っちゃいないんだ」
「心得ている」
マンボの声に、私は小さく、強く、顎を引いた。

 

 

 

 

14. マイナー?!な所では…
マンボ姉さん達(スリバン)とヨンが、今までどう付き合ってきたか?
さらんさんバージョンストーリーが読みた~い(^O^) (にしぶーさま)

始まりました、第二弾です。
手裏房は結構書き尽くしている感があるので
ちょっぴり短めのお話になりそうな・・・
にしぶーさまや皆さまに楽しんで頂けると嬉しいです❤

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22 件のコメント

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    さらんさんおはようございます(*^^*)
    いつ寝てるのでしょう?
    体はいとうてくだされ(*^^*)
    昨夜の憑依ヨンのコメ返で鼻血だしながら
    倒れました(///∇///)
    ←輸血が必要かも♥ありがとうございます!
    今回のリク話しも悲しい情景ですがヨンが
    ウンスに会う前にどの様に過ごしていったか
    扉が開かれる感覚でドキドキしてます。
    悲しすぎるお話展開に(半分解ってるから)
    余計に辛い!(。>д<)
    お話ありがとうございました。

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    きゃ!さらんさん、男前!あっ、女前!
    次々と、キリ番企画をUPして下さりありがとうございます。
    とっても楽しみです。(^^)
    チェ尚宮さんとマンボさん、一緒にお酒呑む仲なんですね。(そりゃそうか。でなきゃ合図の手札?ノリゲ?飾り?なんて、持ってませんものね。
    ムンチフの葬式のチェヨンくん。
    メヒと寄り添って耐えていたんですね。

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    次回のアメンバー申請を楽しみにしています。
    それまでに、皆さんと一緒に楽しめる様に
    今までのを、読ませてください(^人^)
    よろしくお願いします( ^ω^ )

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    無念の死、ムン・チフ隊長…太王では不死身だったのに、今回は早かった。
    もう寝不足で頭がまわらず、先を読まないとわからない(笑)。
    さらんさんは大丈夫ですか(?_?)

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    こんにちは!さらんさま。
    さっそく第2弾をスタートいただきありがとうございます。
    この企画、リクエスト確定からUPまでほとんど時間がありませんよね?
    それなのに何故?できるのですか?
    カッコいいタイトルから 中身の詰まったお話から コメ返…お仕事、クリパ参加、さらにはインドカレーまで(@_@)
    さらんさまはもう人間という域を超してしまわれたのでは\(^o^)/
    ランキングクイズの結果が気になります(*^^*)

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    一転シリアスでもすごく素晴らしいリクエストですね。
    マンボさんとヨンの過去のさらんさんバージョン楽しみにしております。
    さらんさん、クリパリレー締めいかがですか?
    すばらしいお笑い路線猛ダッシュしていますよん。

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    >愛知のひとみさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    今夜は最終日、あちらで最後まで❤
    そうですね、もう過ごしていた時期は
    【或日、迂達赤】やら、こないだの
    【槍水仙】やらでかなり書いているので
    こちらが若干薄くなりそうで、悲しや・・・o(TωT )
    ヨン&手裏房でなくコモ&マンボな気配濃厚です・・・
    ではでは最終日、最後まであちらにて❤

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    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうなのですよ、あの号牌も謎だったのです。
    ヨンならともかく、何で尚宮様が?とw
    耐えてた、と思います。思いますが、この後も・・・ですし
    これをXmasに上げるのも、実はかなり胸が痛みました。
    暗くなってごめんなさいです・・・(ノ◇≦。)

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    >ルカさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ヨンの暗黒時期のお話です・・・
    クリスマスはにっこりほっこり切なく行くはずの我が家
    いきなり黒いし・・・昏いし・・・すみませぬぅぅm(_ _ )m

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    >ちゃーなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    いえいえ、此方こそです❤
    しかし、年末年始は期間限定頑張る所存!
    決まり次第、UP致しますねヾ(@°▽°@)ノ❤

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    >にしブ~さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    うわあん、そう言って頂けると嬉しいです❤
    一お題3話を目指しつつ(除:キリ番44)やはりばらつきが、どうしても・・・
    ほんとにほんとに申し訳ないですm(_ _ )m

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    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    あははは、そうですね、長老の時は不死身でしたねー!ファチョン会!
    私は絶好調です❤
    今日も仮眠1時間半で、お仕事して帰って来ました。
    正に、信義Highです! σ(^_^;)コワ!

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    >わいやーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    >さらにはインドカレーまで(@_@)
    わいやーさまの、愛を確り頂きました❤
    あんな隅っこまで、うわぁん、ありがとうございます❤
    現在脳内ホルモン計測したら、絶対変な物質出てると思います。
    これぞまさに【信義】highです。自分が怖いです(爆
    最終時間まで、またあちらにて・・・❤❤

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    >あみいさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    あみいさまー!
    今帰って来て※返中に、ちらりと拝見したら
    何と新章突入ではないですか!!
    乗り遅れ申した・・・不覚・・・っっっ!
    早速正面突破、参ります。まずは読まねば、読まねば(;´Д`)ノ

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    さらん様、こんばんは❤︎
    尚宮の叔母様の語り口、好きです。
    静かだけれど、胸に染みます。
    叔母様は、ムンチフ隊長を知らずに慕っていたのでは?
    たったひとりの身内であるヨンが、父とも兄とも思って身を寄せた信頼出来る数少ない男でしたもの。
    続きが気になります❤︎

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    ヨンが、世捨て人の様な生き方をする事になった切欠。
    ドラマでは、飛ばされていましたが、此処で詳細が明かされそうですね。
    ヨンの痛みが再度(_ _。)・・・と思いましたが、そこにどんな出来事や人との関わりがあって、あんな風になってしまったのか?
    今は、有耶無耶よりハッキリと知りたくなりました。
    何処までを書かれるのか分かりませんが、きっとドラマにピッタリ繋がっていくでしょう。
    それが一連の流れで把握出来ると、シンイがより楽しくなりそうです。
    さらんさんの想像力と表現力に脱帽です。
    クリパに二次に・・・お疲れの出ませんように。

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    >夢夢さん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    あのヨン激走の雪の日のあと
    一気にこれなので、ギャップが・・・
    叔母様の心情はああいう方なので、私にも、なかなか声が。
    ただ、床の血を吹く姿は痛々しいです。
    (創作なのに)
    無表情だったとは思いますが。
    今はどのお話も3話程度で行かないと、
    また1リク20話とか、やってしまいそうで。
    逆に我慢してます・・・寸止めか!

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    >mayuさん
    おはようございます❤コメありがとうございます
    やりたいんです、でもやるとまた1リク20話の恐怖ループ。
    ただここで生まれた芽が、この後花咲く日が来るやも、です❤

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    >さらんさんへ
    嬉しい限りです^^
    何時か何処かでさ、らんさんの気持ちが其処に向う事を期待しています。
    お疲れ様でした。

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    >mayuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    もう本当に、この後のお話も練って格納中ですが
    まずいです。ここで終わるわけに行かぬ、
    しかし一旦は終えねば、と言うお話ばかり・・・
    どうしてやろうか、で御座います(;´Д`)

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