偽嫁御 | 17

 

 

美しく晴れた、婚約日和とでもいおうか。

我が屋敷の大きな庭に人が溢れている。
そぞろ歩く多くの賓客、その賓客を守る兵の姿、そしてこの屋敷を守る己の私兵。

「大監、この度は誠におめでとう御座います」
「その言葉、何度聞いても良いものだ」

かかった言葉に頷いて、鷹揚に返す。
ようやく念願が叶う。あのチェ・ヨンが娘婿になる日も近い。
どう綺麗事で飾り立てようと、やはり男たる者。
ましてあれだけ力があれば、より強大な権力の誘惑には勝てなかったという訳だ。

ヘジョンが一人チェ・ヨンに会いに行ったと聞いた時には、馬鹿な事をと思うたが。
結局のところ、うまく転んだならばそれで良い。

もしくはあの宅を見て、少しは心が動いたか。
もとはといえば元の皇子の為に建てた屋敷も、思わぬ処で功を奏したものだ。
チェ・ヨンの心を動かしたとあれば、散財した金も惜しくはない。

選りによって枢密院使宰枢の娘、忠粛王の血縁、曹国公主様の血を引く娘。
側妃に欲しいと申し込まれた時には、そのような安い手に使う駒として育てた覚えはないと頭に血が上ったが。

愛しております、どうかあの方と共に、妾でも良いから一緒にいさせて下さい。
そんな下らぬ泣き言を喚く娘を、部屋に閉じ込めた甲斐もあった。

求心力を失い迷走中の、問題ばかり起きる落日の憂き目の元の皇子。
今や高麗だけではなく元でも名を挙げ、上る日の勢いのチェ・ヨン。
比べるまでもない。チェ・ヨンを我が味方につける方が、いかばかりの得策か。
これで後は娘婿となったチェ・ヨンを王様より引き離し、反元政策が遅れれば正しく完璧だ。

落日とはいえ強大な元。まだ利用価値は十分にある。
懐が潤ううちに、次の一手を考えねば。

 

一度だけ訪れた、あの枢密院使宰枢の屋敷前。
それぞれに外套を着込む俺達は、前三重の方円陣でその門へ進む。
陣の中央に護る方々を置いて。

進んで行く迂達赤の姿を認め、枢密院使宰枢の門を守る私兵が門前を固める。
しかしその陣の先頭に俺の姿を見ると、私兵たちは頭を下げ門の両脇に戻る。
「チェ・ヨン様」
「某の部下と賓客だ。婚約式に参加する」
「畏まりました」

拍子抜けするほど呆気なく、門は大きく開かれる。

肩越しに視線を流し、半歩下がって控えるチュンソクを見遣る。
奴がそれに応えて頷く。
逆に半歩下がったトクマンに眸を遣れば、奴も歯を見せ頷いた。

俺の真後ろにいるテマン。
そしてその後ろ、陣の中央で俺を待つ、誰よりも大切な方。
この名と命を懸けると誓った方々。
守る事の痛みと重さを知らぬ者を、俺は敬わぬ。

陣はそのまま無言で庭へ歩を進める。

 

「大監、本日はまことお目出度い」
「チョ総管」

庭で出迎えた双城総管府チョ総管の挨拶に、頭を垂れ、深く礼を返す。
元の先方出向機関、双城総管府の代表、元に双城総管府を売った裏切り者の末裔。
王様の御覚えは、決してめでたくはないこの男。

しかし官位は同等とはいえ、相手は双城総管府という一城の主。
周囲に引き連れる供の数も守る兵の数も、他の客とは比較にならぬ。
全て元から派遣されている、双城総管府とチョ総管の警護の者たち。

ここでチェ・ヨンを披露目しておく。
そして今後この枢密院使宰枢の後釜として文官としての道を歩ませてゆく。
それこそ高麗が反元政策を緩めるという、何よりの意思表示にもなろう。
己もチョ総管も互いに元に縁有る身の上。
此度のチェ・ヨンの婚儀に異論があるわけもない。

その時外門よりの方向がざわめき、総管と共にそちらを見遣る。

 

おかしい。
瑠璃色の唐衣に白貂の毛皮の肩掛けを纏い、扉を開け放った居間の中、物思いに耽る。

開けた扉の向こう、回廊越しに賓客の居並ぶ表庭。
その賓客の間を回り、挨拶を受ける父上様の姿が見えた。
欲しいものを手に入れ、ようやく穏やかに微笑むその横顔。

チェ・ヨン様が何故急に心変わりを。
あれほど頑なに私を拒んだあの方が、何故急に掌返しで婚書など送っていらっしゃる。

父上様がチェ・ヨン様よりの婚書を手に訪れた時以来、ずっとそれが気に掛かる。

愛する女人はこの世に一人と、愚かしい程声高に叫んだあの方が。
それとも、やはり結局はそんなものなのか。
より強大な力を鼻先にぶら下げられれば喰らいついてしまう、それが力ある者の性か。

あの人のように。
皇子としての立場を確固たるものにする為、平気で見知らぬ公主と縁組をしたように。
約束だから側妃として迎えると言い放ったように。

全て道具なのかもしれない。思った通り。

チェ・ヨン様に嫁す喜びなどない。
あの人ではないなら、どの男に嫁すのも同じ事。
父上様にとって私は駒。
如何に有利に事を運ぶかの一手に過ぎない。
どの男に嫁しても同じなら、父上様が機嫌を損ねず、穏やかに進めばそれで良い。

そう思い深い息を吐いたその時。

聞こえた庭のざわめき、そして足音に、私は顔を上げた。

 

 

 

 

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16 件のコメント

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    ええっ、またしてもコード出現ですか(?_?) どなたかのブログでも同じ事を言ってました。保存してた分にコードがついて、滅茶苦茶だと。何故なのかな? お嬢様は少し怪しんでますが、もう遅かりし。これから始まる一世一代の大博打の芝居を、楽しみにしています。ウダルチたちが、戦以外でどう暴れるか、ワクワクしてます。

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    枢密院使宰枢の 息女さん、あなたの思う通りにはならないわよ~~( ̄ー ̄#)!
    自分こそが悲劇のヒロインといつまでも浸っていればいい。今どきのヒロインは、諦めないで自分のいく道は自分で切り拓くものよ。親のせい、男のせいにした時点で、自分の人生諦めたんだから、せめて他人の幸せの邪魔はしませぬよう( ̄ー ̄)!そしてチェヨン……!ファイティン~♪

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    チェ・ヨンは枢密院使宰枢と・・・
    さらんさんは変なhtmlコードと戦う・・・
    ううう お疲れ様でございます。
    枢密院使宰枢はチェ・ヨンを見縊ったわけでしょ
    賢いの知らなかった? ((o(-゛-;)
    相手が悪かったね・・・ 損得計算したつもりが
    百倍返し的な・・・
    娘・・・やっぱり 妾でもよかったのね
    気の毒にね~ どのみち皇子と一緒になってもね しあわせにはなれなかったかな?
    さ~ ヨン 護ってね~!!( ´艸`)
    たのしみよ~

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    ウンスを一緒に連れてきてる??んですか??
    いやあ~それにしても目立つ軍団でしょうね、
    またDVD見たくなりました。皆格好いいです、惚れぼれします、ところで、私もウンス目線でお願いします、是非読みたいです。あ~~早く朝が来ないかな?寝るどころじゃないですよ。待ってます

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    ウダルチも一杯♡
    謀も一杯♪
    さ~て、次はどうなるのかな?
    楽しみ、楽しみ。
    どんな言葉が出るのかな?
    また覗きに参りますよ~♪(*^ ・^)ノ⌒☆

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    動き出した婚約式。
    家の主は喜びながらも次の一手を画策してるし、娘は結婚自体に興味なし。こんなふたりに邪魔されてると思うとヨンと同様怒りがこみ上げます。
    これから始まる成敗がどんなものになるのかが楽しみです。
    >陣の中央で俺を待つ、誰よりも大切な方。
    これは外套に身を包んだウンスですか?最後の隠し玉でしょうか。

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    いよいよ婚約式ですか?
    上機嫌の枢密院の偉い人。娘は、疑いながらも、諦めモード。
    チェヨンくん、ウダルチの精鋭を従えて登場。かっこいい!
    こんなに、たくさんの高麗の貴族たちの前で、本当に大丈夫ですか?
    ちょっぴり心配になってきました。(._.)

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    さらん様、こんにちは❤︎
    後ろの最も安全な場所にあの方を配し、今まさに敵陣へ…。
    ヨンのウンスと高麗を護る為の、万全の策も知らず、自分の思惑通りにチェ・ヨンを手に入れる事が出来たと、そう思っているのでしょうが。
    金や、様々な欲に目が眩む、そこらのくだらない男と、私たちのヨンを一緒にしないでいただきたい。
    其れに比べ、ヘジョンはヨンの急な申し出を訝しんでいますね。
    何か考えが有るのか?それだけの男で有ったのか?
    ヨンは基本、優し過ぎるくらい優しい男です。
    それが、ウンスが絡むと、この方を護れるなら、他の誰を傷付けようと一向に構わぬなどと言うほど冷徹になる。
    今更ながら、魅力的な男ですヨンは❤︎

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    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうなのです。理由は不明なのですが、
    本当にお話書くときは、それ以外のストレスは
    一切不要だと思うので、
    真剣に新居募集中、物件探しに行かねば!な感じです(;´▽`A“

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    >kumiさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ふふふ、何しろもう迂達赤は外套を脱ぎ捨てたので、
    あとはヨンと王様の手腕にかかっているかと。
    今宵、最終回予定です(*v.v)。
    宜しければ、お読みくださいませ・・・

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    もうこれは、TEAM ヨンの頭脳勝ちなのかもしれません。
    倖せについては、人それぞれの物差しなので
    何とも言えませんが…
    何しろウンスの事は命がけな男、確りと護ると思います❤
    今宵最終回予定、宜しければこの後
    また覗いてみて下さいませ❤

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    >nonさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    今日のUP分にもう書かれていますが、
    はい、連れて来ています。
    御留守番では可哀想( ´艸`)
    連れてきたことにも、確り落とし前がつくと良いのですが。
    そして今宵最終回、よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    >ののさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    18話は、台詞は少なかったです( ´艸`)
    今回はヨン、しゃべりっぱなしだったので
    小休止です(爆
    残り2話、今宵最終話までUPのつもりです。
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    これ、実は誰を連れて行くか、裏で悩みました。
    悩んだ結果が、18話の感じです(;´▽`A“
    今宵、最終話までUP予定です。
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    大丈夫、だったと思いますw
    その結果が18話、そして続く19話に( ´艸`)
    今宵最終回まで、一気呵成に参ります。
    よろしければ また覗いてみて下さい♪

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    私たちのヨン、うりよんあ、いいですね♪
    素敵な響きに きゅん死です❤❤(●´ω`●)ゞ
    現代であれば、これは完全に情報戦かなーと
    思いながら書きました。
    でもそんな便利なもの、携帯どころか郵便もない、
    頼りは伝書鳩、の時代。
    だからこそシビアに読み、愛する方の為万全の備えをせねばと
    そう考えるヨンと、傲慢にも己の力に溺れた大監。
    そこに一番の違いが出たやもです・・・

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