ヘジョン、ヘジョン。
あの人の声で呼ばれる時にだけ、私の心は生き返る。
「私の庭に咲く牡丹よりも、そなたは美しい」
双城総管府でお逢いするたび。
あの人は総管府の庭園の木蓮の木の下で、睡蓮の咲く池の畔で、そう言って私を抱き締める。
私の赤い唐衣の裾も、髪も、あの人の孔雀紋の円領袍の袖も、庭を渡る風に吹かれて揺れている。
「皇子と言っても傍流の身。トゴン・テムル殿が皇帝である限り王位には関わらぬ。
いつかそなたを迎えに来る。一緒に元へ行こう」
その約束はいつ出来ていたのか。
二人の心はあの池を滑る鴛鴦のように、いつまでも共にあるとすっかり信じていた。
「必ず迎えに参る。いや、我が身の安全の為、私が高麗に住まっても良いだろう。
ヘジョンも慣れ親しんだ地の方が良い。どう思う、オン・ミョンウ」
そう言われ父上様は即座に、この屋敷を竣工した。
竣工中の人足が出入りする騒ぎの中、共に庭を散策しながらあの人は仰った。
「双城総管府の庭を思い出せるよう、あそこに赤い半月橋を掛けた池を作ろう」
その言葉に笑いながら、私は頷いた。
「そなたのように美しき薔薇をここへ植えよう。あちらには私の庭に咲くような牡丹を」
その指差す方を眺めて、二人の未来を思い浮かべ。
壁に描いた鴛鴦の絵に、二人の姿を重ね合わせて。
「ヘジョン」
元が乱れるまでは。
奇皇后と皇太子が朝敵に翻弄され、果て無き争いに足を踏み入れるまでは。
「私が、皇太子候補に挙がっている」
あの人は冷静に仰った。
「傍流の身ゆえ後ろ盾が必要だ。現在、結託できる別の家系を探している。
公主を持つ家系を。意味は分かるだろう」
私は黙っていた。分かるからこそ口にして、真実にするのは恐ろしかった。
「しかし約束した以上、 そなたを側妃として迎えいれる」
父上様は烈火の如く怒られた。そしてあの人の使者を追い出して言った。
「高麗の貴族の中では最高位でも、元の王室に入れば見向きもされぬ。何を好き好んで見下される必要がある。
そこまで身を窶す必要はない。子を産んでも後継ぎにはなれぬ。正妃が産めばそれで終わりだ。
そのような惨めな暮らしを送る必要はない」
あの人の側にいたいと泣き喚く私を、暗い私室へ閉じ込めて。
引掛かる。何かが心に。御息女を見つめ己に問う。
見逃すな。何が変わった。
何がこれほど目の前の女人を、突然の烈しい怒りに駆り立てている。
そこに勝機が、少なくとも状況打破の鍵がある。
居間の中、壁の鴛鴦、吉祥雲。
小さな皇宮のような豪華な調度。怒る女人。
俺のあの方への暴言。
その言葉の裏、真にそれだけか。
**********
「大護軍!!」
皇宮へ戻るなりテマンが雪の中、そう叫んで馬に駆け寄ってきた。
「手裏房から急ぎの連絡で、すぐ来てほしいと。どこにいるか分からず、伝えられずに」
俺は無言で馬の首を返す。
「ヨンア」
酒楼へ駆け込むと呼ぶ前に出てきた師叔が寄って来る。
「何か分かったか」
その声に師叔がこの腕を強引に引きながら離れへと連れ込み、俺に向かって告げた。
「おめえ、とんでもないぞ、あの別嬪。元の皇子と言い交してたそうだ」
唐風の調度、鴛鴦と吉祥文様。
まるで小さな皇宮のような豪奢さ。
一朝一夕に建つはずのないあの豪邸。
そうか、そういう意味だったのか。
「トゴン・テムルの皇子か」
「いや、傍流だ。だが皇子には違いない。それも言い交したその皇子は、去年になって別の傍流の公主と婚儀を挙げてる。
いくら大貴族で蒙古王室の血を引く姫様とはいえ相手は皇子。おまけにそれが公主と婚儀じゃ、そりゃあ勝目はないわな」
御子を成して許されるのは、より優れた立場の者のみ。
そうだったか。
その婚儀が整ってから、此方に目星をつけたのか。
それでは俺の事など碌に知らぬのも当然。
皇宮で行き違おうと話しかける訳もない。
あの方の事は、恐らくあの方が奇轍から逃げて天門を潜る前の情報を知るのみだろう。
「おまけに驚くぞ。その皇子はあの別嬪が諦めきれずに、オン・ミョンウに向かって妾に欲しいと打診したそうだ。
勿論あのオン・ミョンウが言下に断ったとさ。
その代わりに元への口利きを頼んで、元の朝公地の民から何重にも税金を搾り取っては利鞘を懐へ入れてるらしい。
娘の手切れ金替わりってとこだろうが、今は親元派のお偉い方を引き入れて搾りまくってるってよ」
これで全てが繋がった。俺は師叔に頷いた。
「師叔」
「何だよ」
「これで勝てる、感謝する」
「何だそりゃ」
「マンボに伝えてくれ。次はあの方とクッパを喰いに来るとな」
それだけ残し、離れを飛び出す。
反撃の狼煙を上げろ。

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悲しい恋の悲しい女人だったんですね。
親父の方は娘可愛さもあるかも知れないけれど、娘を道具のように扱うのはやっぱりどうかと…
ここはやっぱりヨンに一言言っていただかないといけませんねぇ
また覗きに来ます( ´∀`)/~~
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ヨン、ファイティン!!!
ウンスの為にも・・・・応援してるよ。
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ヨンを婿に選んだ時点で、アウトなのに、引き下がらないから… 豪邸どころか、お役目も何もかも失いそうですね。権力、金、身分って、人が人でなくなってしまう。ヨンは父上の教え通り、欲を持たずに生きるから、反撃は徹底的にやってしまうかな?お手並み拝見楽しみ。 クリスマス企画とか色々お考えのようで、読者としては嬉しいかぎりです。仕事と信義だけのさらんさんにも、いいことありますように。
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あぁ~~、やっと安心してコメ送れますぅ~~!
ヨン~~!反撃開始ヨン~~(*^o^)/勝\(^-^*)
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わかりました。(≧∀≦)みなまでいうなー
すごーく納得。
さて、反撃のいろいろが気になる~
楽しみ~
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楽しみに読ませていただいています。
どう反撃に出るのか。
待ち遠しいです。
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やっぱり、お姫様、言い交した人がいたんですね~!それにしても、自分の得になる人と婚姻して、恋人を側室にしようとする酷い男とヨンを一緒にしないでほしい。我らがチェヨンは、ウンス一筋の決してぶれない男なんですから!さ~、これからの反撃が楽しみです!
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スリバンからの情報きたる。
なるほど、元の皇子と好い仲でしたか。
あの屋敷もその時に建てたと。
そんな所によく違う人と結婚して住もうと思いますね。
さて、チェヨンくん、反撃開始かな。
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ああ~~やっぱり嫌なタイプの女だあ(`×´)
少しは同情しようと思ったけど、庭に植える薔薇やら牡丹やら、、、なんなの、捨てた男が言ったセリフじゃん、ヨンを馬鹿にしてる高飛車な女だ。でも真相がわかってホッとしました。もしかして安心するのは早い???
それともしていい???
ああ~~気になるう~~~~~*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
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こんにちは!さらん様。
美しいがただそれだけだ!の姫さん。
そのような過去をお持ちだったのですね。
皇子を忘れられずずっと赤い唐衣を身に纏っておられたのですね。
しかし、同情などいたしません!
自分が傷ついたからといって、ヨンとウンスを自分と同じ目にあわせようだなんて…
いやなオンナです。
さらん様、とことんやっちゃって下さい(笑)
今日「或日、ウダルチ」のUPってありました?
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やっとわかりました。
ヨンはヘジョンが急に怒り出したこと、鋭くどうしてか考える当たり、さすがですね。
たとえ側妃でもそばにいたかった。
でも諦めざるをえなかった。
正妻と妾を強調するのは、自分におこったことだからですね。
さあヨンの反撃。
ヘジョンには同情の余地はありますが、ヨンとウンスの間に入り込む余地なしと、わからせなければ。
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>ののさん
こんばんは❤コメありがとうございます
まあ高麗の時代、子を持つ=自分の手駒が増える。
その考え方は、現代でも国によっては
厳然と生き続けていますから、何とも、ですね・・・
悲しい事ですし、21世紀の現代では
勿論明確な人権無視、性差別でもありますが、
ヨンが言葉を挟んで、どうにかなるのか・・・
そこも踏まえ、今しばしお付き合いくださいませ❤
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>ko_sayuさん
こんばんは❤コメありがとうございます
応援頂きました❤
わーい、ありがとうございますヾ(@°▽°@)ノ
あじゃあじゃ!
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>チェヨン1さん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうですね、もう徹底的にやると思います。
密談で、許しがあれば・・・(爆
もう、脳内夢想状態で今後の流れを練りつつ
今日このタイミングで届いてしまった相続者たちの
日本語版DVDを手に、震えています・・・
週末、遊ぶ予定がたくさんでしたが
また引き篭もったらどうしようです・・・
一気呵成にタン&ヨンの本編を書きまくりそう。
そしていろいろなイメぽち画像を作りそう。
挙句に、ブログデザインの変更(Xmas版)やら
新作お話練りやら。
ネタだだ溢れ状態を通り過ぎ、一話毎にじっくり練りたいと
ようやく思えた頃合いだったものを・・・
また、ゆっくりと【皆様へ】で伺ってみたいと思います❤
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>kumiさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ヨン、断言です。
「反撃の、狼煙を上げろ」
上げるそうです・・・どんな手で来るか、これがまた(((( ;°Д°))))
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>くるくるしなもんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
反撃、これがまた。
それは、反撃なのか・・・むしろ新たな餌では・・・
そう考えたりもしますがΣ(・ω・ノ)ノ!
今しばし、お付き合い頂ければ嬉しいです❤
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>ななこさん
こんばんは❤コメありがとうございます
反撃、この後すぐに判明いたします❤
また覗いて頂けると嬉しいです♪( ´艸`)
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>かよさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ヨン、反撃の狼煙を上げますが、上げますが・・・
え!!な形です∑(-x-;)
しかしそれもすべてこの後の国の為、ウンスの為。
どこまでも自己犠牲の男です・・・(ノ_・。)
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>ポチッとなさん
こんばんは❤コメありがとうございます
屈折しているのでしょう。
そして、一人では寂しいのかもしれません。
いろいろな心理があるのだとは思います。
難しいですね・・・
しかし単純明快、黙して語らぬヨンも、
此度は、暗躍するそうですw
その反撃の狼煙、ドン引きです( ̄□ ̄;)
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>nonさん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうです、正に前の男が言ったそのままにw
こういう女、いました。私のすぐそばに
・・・あ、( ゚ ▽ ゚ ;)いや、いたような、いなかったような
うん、もしかしていた、かも、知れませぬ。
安心して頂いて問題はないです。
ヨンは全くぶれませぬ。
ぶれぬまま、虎穴へ入ろうとするだけです(爆
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>わいやーさん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうなんですね、自分がそうだったから
二人も苦しめばいいじゃない!という
正に代謝行為。何も生み出さぬというのに・・・
あ、迂達赤のUPはありませんでしたが、
迂達赤の旧ポチ画を、新バージョンに変更しました。
画像が貯まりすぎたので、いったん整理です❤
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>みわちゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
もうヨンにとって、ウンスを妾と罵るこの親子、
敵としての認識しか御座いません。
敵が泣こうが、喚こうが、一切関与せず。
その冷徹さ、赤月隊&迂達赤仕込で御座います。
困ったものです(゜д゜;)
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やはり訳ありお嬢様でしたか。でもウンスとヨンに対する対応は、まさに逆恨み状態ですよね。不毛だ・・・。
あの親の態度からしてひねくれるのも致し方が無いですが、ヨンのウンスを踏みにじられた怒りは容赦ないかも。
疑問は全て解決のヨンはそろそろ反撃ですか?
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さらん様、こんばんは❤︎
あれ程、愛を誓ったひとが、自分意外の女を娶った。
永遠と思われたのに、保身の為、愛を捨てた。
もう誰も本気で愛したりはしない。
もう、永遠の愛なんて信じない。
たったひとりの女の為に、全てを捨てると胸を張り答える目の前の男のなんと愚かな事か…。
ヘジョンは、こんな気持ちなのでしょうか?
ヨンは、手裏房の助けも有り、勝利を確信している様子。
ヨンの攻撃が楽しみです❤︎
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>ままちゃんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
ええ、容赦ないです。
ヨンは自身でも、執念深いと公言しております故
本編ベースのさらん解釈では、そのまま参りますw
反撃、既に開始中。あと残り4話です。
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>夢夢さん
こんばんは❤コメありがとうございます
ヘジョンの心中は、もう夢夢さまが書いて頂いた通りです。
それに憧憬もあり、かつ嫌悪もしているヘジョン。
そんな風に想われたかった、そしてそんな綺麗ごとを許すかと
屈折しているのでしょう。かなり。
最終話まで、それは変わらず。
今夜も夜遊び前に、話を上げると、清州会議もそっちのけで
ぽちぽちしている私です(〃∇〃)