そして今までの二年弱。
国境隊と関所の強化、街道以外の道の閉鎖は、既にほぼ完了していた。
「好機でもあります」
王様の御前、王様に従う俺の前。
大護軍が再度口を開いたのは医仙と再会され、再び共にいるようになった初めての春半ばの頃だった。
大護軍は明朝禁軍鷹揚隊二千を率い、北方へ向け出立する手筈となっている。
「好機とな」
王様が大護軍の言葉に怪訝な顔で問い返された。
「は」
「何ゆえに」
「弱体化した元の国内。此度の紅巾族の乱で更に混乱すれば、高麗への干渉などと悠長な場合ではなく。
放って置いてもいずれ元は内部より荒れ果て、瓦解いたします」
「それ故我らは元への対応策に力を分散せず、侵入してきた紅巾族のみ集中して叩けという事だな」
「仰るとおりです」
「好機、成程な」
王様はこのような時でも、口の端で余裕のある笑みを浮かべて頷かれた。
チュンソクは俺達の話に合点がいかぬのか。
王様の横で静かに黙して、耳を傾けている。
王様は勁くなられた。
そのご様子を見ながら、俺は肚裡で呟いた。
以前であれば周囲の力関係に迷い、元への対抗心が先走った。
こうした好機には、元を叩けとおっしゃりそうなものだったが。
最早そうした心配はないようだ。
「紅巾族が国境を超えるのは、いつ頃だ」
「今のところは、元の官軍も最後の意地でどうにか対抗しております。あと数日かと。この後手裏房に連絡があると思われます」
「そうだな、元自体はどれ程持つと踏む」
「皇太子への朝敵の抵抗、加えてトゴン・テムルの影響力の失墜。
その年齢を考えれば、某の読みでは十年持てば上々かと」
「そうだろうな」
「叩きますか、待ちましょうか」
「今は待とう。いずれにせよトゴン・テムルは未だ皇帝。奇皇后はどこまで行こうと高麗の人間。皇太子も半分は高麗人である」
王様の言い分に、俺は薄く笑う。
どの水を飲み育ったかなど関係ない。
「肚の中は、全くの漢人かもしれませぬ」
「何方にしても、恩を売ってあることに変わりはない」
王様が苦笑する。その恩を忘れぬ者らだと良いが。
「畏れながら、王様。王妃媽媽は此度の元の状況、何かご心配はされておられませぬか。かの国内にお救いしたい方などは」
懸案だった問いに、王様は首を振る。
「王妃は強い人だ。何も言わぬ。次に元に戻る時は高麗王妃として、寡人と共にかの国を訪問されるそうだ。帰国ではなく」
それを聞き微かに頷くと、王様が此方に向かい再び苦笑した。
「あの二方は、まことに」
「・・・王様」
俺は静かに御名を呼ぶ。
「それでしたら、尚更に」
王様が此方をご覧になると、気付かれたように頷く。
「ああ。心しておこう」
******
「鳩は来たか」
宅への帰途。
手裏房の酒楼に踏み入り訊ねると、出てきた師叔がこの手に小さい筒を渡す。
「ほれ、開けてないぞ」
「その方が良い。何かあれば報せる。頼むぞ、師叔」
「ただ働きじゃねえだろうな。今回は国絡みで、こっちも危険な橋を渡ってる。
おめぇのことならいざ知らず、こっちゃあ国に恩なんかねえぞ」
師叔が言って俺を眺める。
「金子ならあとで王様から賜る。今は手裏房の情報が頼りだ。出し惜しみはせん。
俺がいない間は、チュンソクと連絡を取ってくれ」
「あの髭の兄さんか、分かった」
「頼んだ」
それだけ言い残し、酒楼を出る。
******
帰宅の途、頭の中で考えを巡らせる。
畏れ多くもあの方と王妃媽媽が似ていると、王様御自らおっしゃるのであれば。
王妃媽媽の御心は今、千々に乱れておいでのはずだ。
二度と戻れぬ場所への想い。会えぬ方々への想い。
それを忍ても護りたいという、王様へのお気持ち。
ましてあの方のような市井の民ではない。
国の父であり母を担う、あの若い御二人だ。
背負うものが、その重さが、大きさが違う。
一刻も早く、御二人を心より安心させて差し上げねばならぬ。
さもなくばあなたが俺の代わりに心を砕き、また出来そうもない程抱え込み無理をする。
戻った宅の門の入り口の影。
師叔より受け取った、小さな筒の中の文を抜く。
二つの知りたかった情報。
読み終えて懐深く、一通目の文をしまう。
宅の裏の、風呂焚きの釜。
其処に回り、二通目の文を火に燃べる。
薄紙はあっという間に小さな焔の塊になり、次の瞬間燃え尽き真白な灰になる。
どれだけ文を燃やそうと、胸裡の焔は燃え尽きぬ。
俺は玄関に回り、中に入った。

そろそろ動き出します。
序だけでも長くなりそうなため、途中、一服処など入ると思いますが・・・
楽しんで頂けた時はポチっと頂けたら嬉しいです。
今日のクリック ありがとうございます。
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冬の夜は寒くて長いです。
長いお話、大歓迎です(^ー^)♪
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長くても良いです、と言うよりも長いほうがより楽しめると云う物♡
嬉しい~ですよ♪
何て言ってもさらんさんのヨン達ですので、えぇ、お待ち申しあげておりますよ♡
頭が少し足りないので少しづつ理解しつつ読んで行きます♡
また覗きにまいります~(●´ω`●)ゞ
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こんばんは!さらん様。
言づての紙を燃やしたヨンは
玄関から入って、どのような
気持ちでウンスに
「ただいま戻りました」と言う
のでしょうか?
心の準備は出来ております!
どんなに長いお話になっても
大丈夫です。途中でお話が分からなくなってバカな質問をするかも…ですがよろしくお願い致します(*^-^*)
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序は静かに 重~く 話が進むので
ジワジワと こちらまで緊張してきました。
二通目の文が気になるな~。
鳩・・・髭の兄さん ときたら
コメントしないと!!
大活躍を期待します。
続きが楽しみです。
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理解しにくい事をできるだけ解かりやすく、ヨン、王様、王妃様…それぞれの心情も踏まえて書いてくださるんだから。長くなるのは当たり前。全然OKです。やはり、王妃様が気になります。強い方、王様の為とはいえ、元におられる方々を心配されているでしょう。そしてその気持ちをわかるのは、ウンスだと思います。戦に勝つ過程だけではなく、複雑な背景、心情、絆、等読み取っていきたいです。 風邪もよくなられて一安心。やっぱり若さね。
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王様も肝の据わった方に成長されたんですね。それだけの月日と経験を積んだということかな。
王妃とウンスは置かれた立場が良く似てる。また志す心根も一緒とは、本当にそうですね。だからこそ、ヨンは王妃の気持ちが手に取るように分かるし、王にも進言出来るんですね。
情報が書かれた文を燃やす火も、尽きる事が無いほどにもたらされる。それが、ヨンのち密な戦略の源になるんですね。
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春になった時期ですね、ではあと半年待てばいいと思いますがこの半年間がヨンの大護軍としての責任と命が試される大変な時期となるのですね。
心してお待ちしております。
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さらんさんこんばんは♪
話し長くとも…で体調は大丈夫かな?ですわ。
チェヨンのバトルシーン( 〃▽〃)
それはそれは楽しみです。
ウンスの決断も気になるし( ̄ー ̄)
読み手としては進み具合は抜群ですが…
疲れてハイ終了(途中)が悲しい。
ウンスとヨンの濃厚ラブシーンは
成人になったらかしら?とか
余計なこと考えてしまいましたわ(///∇///)
長い長いお話はうれしいし
感謝ですがご自愛も忘れずに(*^^*)
←好い人なのか悪い人なのか?
わたくしは両方な人です。Ψ( ̄∇ ̄)Ψ
人、時間、環境、現実と真実
その間でわたしの心は揺れてます(._.)
いつもいつまでも
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バトルヨン期待しています。
やはり鎧を着けた大護軍の戦闘シーンは
魅力的ですから。
さらんさんのお話は大好きです。
起承転結でなく、動と静、短編、長編、しかも
史実が盛り込まれていて本当に飽きません。
これからもがんばって下さい。
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>kumiさん
こんばんは❤コメありがとうございます
そう言えば、最近いろいろと季節に逆行するお話ばかり・・・
うう、旬を大切にする日本文化を尊重する私ですが
今書いているこの話は、春半ば・・・(;^_^A 不覚です!
この後、息抜きのお話を書くときは、季節たっぷりに書きます・・・(*v.v)。
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>ののさん
こんばんは❤コメありがとうございます
いえいえ、頭が足りない私が書くお話ですから
ののさまなら決して問題御座いません(`・ω・´)
今回は、合間に出てくるウンスオンニが
それはそれはもう可愛らしく(当社比)
漢臭さの中和剤の役目を、しっかり担ってくれています❤
それにしても・・・長い・・・A=´、`=)ゞ
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>わいやーさん
こんばんは❤コメありがとうございます
燃やしたのは、ウンスオンニに万一にも見られぬように、です
秘密にしたいというより、傷つけたり怖がらせたり
嫌な思いにさせたくないという・・・
そして、腹の底から怒っているからですね(((( ;°Д°))))
怒りの人間兵器です。それが一番ウンスオンニが
心配するのでは、という気もしなくもないですが・・・
もういつでも♡質問頂けると嬉しいです。
勝手にどんどん進んで行くのは嫌なので、
分からない何これが出てくることが、多々あると思うので・・・
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>くるくるしなもんさん
こんばんは❤コメありがとうございます
やはりそこですね!
私も、鳩、髭と書いたところで
キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!なAA顔になりました(爆
実は、今回髭鳩さんは御留守番です。
しかしこの続きの章では、さすが迂達赤隊長、な
えらくかっこいい働きをしてくれるはずで御座います❤
ぜひお楽しみ頂けると嬉しいです。
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>チェヨン1さん
こんばんは❤コメありがとうございます
今回は、信義・漢祭バージョン戦篇の為、
ウンスや媽媽が添え者扱いになってしまうのが
ちょっぴり残念だったり致します。
その分、ヨンと王様が頑張ります。
そして、頑張らなくても良い者共も、頑張る予定だったり・・・
はい、風邪はもうすっかり♡ありがとうございます。
でも若さではなく、きっと馬鹿さです・・・(゚ー゚;
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>ままちゃんさん
おはようございます♡コメありがとうございます。
王様は今回、これよりもっと冴えわたったことを
やってのけて下さいますが、
今はまだまだ発展途上。伸びしろ、多そうです。
ヨンが燃やしたあの手紙。後々出てくる、一連のこの流れに
どう関わるか・・・うーん。
いろいろ考えつつ、いろいろ攻撃するようです。
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>あみいさん
おはようございます♡コメありがとうございます
はい、そうなのです。
半年なんだから、待てばいいのに。
ああ、言っちゃった。やっちゃった!的な
そんな展開も、待ちつつ(;^_^A
ここで試されるというよりは、ここから、試されます。
暫くの間、大変です・・・
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>愛知のひとみさん
おはようございます♡コメありがとうございます
おお…
>疲れてハイ終了(途中)が悲しい。
は、恐らく不慮の事故があるか、大病があるか
そんなとき以外は起こらないかと。
いざとなれば、書き溜めてカテ内に入っている下書きを
誰かにUP頼むかもですが・・・いやさすがにそれは
ちょっと恥ずかしいですね。
うう、そうならぬよう気をつけます(;^_^A
今回の小手調べ、そしてこの後の一連の流れ。
今回、実は紅巾族は、川を超える訳に行かぬのです
(史実がないから)
いろいろ、考えつつ・・・。
よろしければ また覗いてみて下さい♪
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>じゅりママさん
おはようございます♡コメありがとうございます
ありがとうございます。
ここまで長くなって来ると思わず、
自分の中で流れはできていても、いろいろ書きたいことが上がり
視点がぼけるのだけは嫌だなーと思っています。
飽きられてしまうのが、というのは自分の力不足ですが、
自分が飽きる日が来るのが怖いなーとも・・・
出来る限り、頑張ります(●´ω`●)ゞ
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さらん様、こんばんは❤︎
素敵ですねぇ。
ここまで強く、賢い男達を並べられたらたまりません(≧∇≦)
ヨンとチョナは、語らずとも、お互いの視線で、僅かな頷きで全てを理解し合うのですね。
チョナのお決まりのあの笑い方。
今回もいただきました❤︎
そして、それぞれが、何物にも代え難い愛しいひとを側においている。
共に、稀有な才能を持ち、時に男以上に頼もしい、そんな得難い宝を高麗最高の男ふたりが護ろうと必死です。
羨ましい限り\(//∇//)\
甘~いヨンも大好きですが、本編さなからに凛として厳しいヨンにメロメロです❤︎
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>夢夢さん
こんばんは❤コメありがとうございます
そうなのです。
今回は、本当に、結構気合を入れ、歴史を調べ
かつDVDも1話より見直し・・・
最近PCのDVDには、ほとんどタンが入っていたので
ヨンを見たのは久しぶり、と思いつつ・・・
やはり最強帝王です。素晴らしすぎて目が離せませぬ。
惚れ直しました。そして書きたいと、心から思いました。
はぁ。素敵すぎます・・・(*v.v)。