紅蓮 | 序・11

 

 

程なくアン・ジェを始め国境隊、そして虎、蛇、鳥と左右龍の長らが俺の許に馬を着けた。

「・・・退いたか」
アン・ジェが屍の浮かぶ鴨緑江を眼前に、ほとんど人の残らぬ対岸を見遣ると呟いた。

「大護軍、あの屍は・・・」
続いて国境隊長が、鴨緑江を見つめて訊いた。
「これから水温が上がる。あのままなら疫病のもとになる。
流さねばならん。二日に一度。見廻りとは別に人を回せ」
「・・・はい」

さすがに歴戦で肝の据わったこの二人は、どうにか口にした。
残りの奴らは口さえ開かぬ。
俺は馬の首を回し、背後の無言の長らに顔を向ける。

「隊に帰れば兵らに伝えろ。序盤に過ぎぬとな。
この後奴らは、より多勢で来る。
明日か、次の春か、その次か。今は判らん。
鍛錬を続けろ。備えを崩すな。
毎回雷功をぶっ放すわけにもいかん。
此度通用したのは、ただの運」
「・・・は!」

返る声を聞き、
「隊に戻り陣を解け。基地に戻れば、明日は祝勝の宴会だ」

そう言って俺はチュホンの脇腹を蹴った。

 

******

 

鴨緑江岸に立たせた見張りから、紅巾族が川岸より完全に撤退したと既に数度、報告が寄越されている。
まずは暫く息が継げる。

そう判じ、昼過ぎに完全に武装を解く。
それぞれの兵は今、兵舎で体を休めるか鍛錬しているか何方かだ。

王様へ戦況全ての報告を纏めた早馬を出して息を吐く。

執務室の窓の外、北方の春の陽が躍る。
その眩しさに眸を眇め考える。

どうする。あの毒使いからの護り。
毒から完全に護る、離れたままで。
そんな事が出来るのか。傍ですら難しいものを。

次にあなたに何か起これば、今度こそ俺は正気を失う。
だが戦場に連れて来て、人を斬る己の姿を見せるのか。

今更生き方は変えられぬ。俺もあなたも。

椅子に凭れて眸を閉じる。
「・・・大護軍」
傍に控えたテマンが小声で呼ぶ。
「何だ」
「俺が護ります。ヒドの時みたいに」

あの時のことを思い出したか。
気を整えておけと言いたいのだろう。
「必要なら呼ぶ。お前も少し休め」

テマンにも出来ぬ事があったな。俺は僅かに笑う。
内功遣いにしか成せぬこともある。
少なくともチャン侍医ほどに内功に精通せねば、却って危うい。
「・・・はい」
テマンも気付いたか、それ以上言わず静かに部屋を出ていった。

内攻遣いを用意するか。
ヒドか、もしくは師叔に声を掛け探させるか。

やらねばならんことが山積みだ、またしても。

 

******

 

「チェ・ヨン」
夕刻の歩哨が立つ刻。扉から呼ぶ声に顔を上げた。
「何だ」
「今、良いか」
アン・ジェが言いながら踏み込んでくる。
「ああ」
声に向き直る俺に、隠す気はないのだろう。奴は正面より俺を見据え、衒いなく聞いた。

「あれが雷功か」
「そうだ」
俺は頷いた。アン・ジェも此方を見たまま頷き返す。
「兵たちが大騒ぎだ」
「だろうな」
「それが狙いか」
「士気を高めておく必要がある」
「何故先に、俺に言わん」
「何と言う」
アン・ジェの言葉に薄く笑う。

「明日は雷功を撃つ。お前らの出番はないから、後ろでおとなしくしておけとでも言って欲しかったか。
万一しくじればどうする。それが元で七千のあいつらを失えばどうする」
俺の問いにアン・ジェは更に問う。

「それが、迂達赤流か」
「迂達赤流」
「無言のお前を信じ、解し、黙し従う。それが迂達赤流か」
「そんなものは知らん」
「俺達には考えられん」
「兵の数が違うだろう」
「頭数の問題なのか?」
「何なんだ」

延々と続くアン・ジェの問いに辟易し、此方もそろそろ限界だ。
「何が言いたいんだ」
「この年になってこんなことを言うとは、俺も夢にも思わなかったが」
アン・ジェもそれを汲み取ったか、苦く笑うと席を立った。

「俺にも追いたい背が見つかった。それを言いたかっただけだ」

ゆっくり休め、明日は祝勝の宴だ。
最後にそう言い、奴は部屋を出た。

 

 

 

 

そしてまた一人、ヨンのサポーターが。
男にばかり好かれていますが、さて次は。

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20 件のコメント

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    はあ~~い!
    私もチェヨンの背中を追います~~(*^o^)/
    男たちに好かれるヨンが好き\(^-^*)
    おなごは要りません!
    ウンス一人で十分なのです♪チェヨン、ウンスのこと、解決策見つかるといいね。

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    納得です!
    あの時代を牽引したチェヨン!
    男が惚れる男の中の男!
    私たちがメロメロになるわけですよね。
    闘いにも愛にもぶれない男!
    さらんさん、快調ですね(*^^*)♪♪

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    こんばんは!さらん様。
    男が惚れる男、
    それが誠の「男!」ヨン!!
    …と任侠はいってしまいましたが
    「お前も剣が重くなったか‥」
    ヨンの心中を察していたアン・ジェ
    迷いを捨て、ウンスを守るという確固たる目的ができたヨンの強さ‥
    あの頃よりも大きく、強さを増したその背中を追いたくなったのですね。
    その背中、私もアン・ジェと共に
    追いかけさせて頂きます★

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    >みきみきさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    男は強くなければ生きられぬ時代。
    ましてや背負うものの大きさにもがいてきたヨン、
    ここに来ていろいろ結実してきたようです。
    男前度は右肩上がり、天井知らずです。
    この後は、もっと男前になる予定(〃∇〃)
    惚れ直してくださいませ❤❤

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    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    もう、なんでしょう。
    今までの長いトンネルを抜けたせいか、
    最近のヨン、吹っ切れております。
    若い、あの頃には少々足りなかった忍耐力も
    ウンスオンニを待つ4年の間に、少しは身について
    多少人の話も聞けるように≧(´▽`)≦
    ヒドヒョン、今は開京にて手裏房滞在中のはずですが、
    この後、いろいろと暴れてもらう機会も・・・
    いえ、ヒドの本意ではないのですが。
    そして、今まで出てきたキャラ勢揃いの日も遠からず・・・(除:ソンジン・劉先生)
    それくらい、切羽詰るはずです。
    ヨンがどれほど切れ者でも、雷功ぶっ放しても
    それでも責められる日。
    楽しみでもあり辛くもあり・・・
    しかしそれを超えてこそ婚儀!
    1356年、熱いです!!

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    >kumiさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    男にばかり好かれるヨンも、どうなのかとは思いますが
    これから敵だらけになるこの先、まずは地盤固め。
    女子は、いらない、ですよね。ですよね・・・ええ。
    解決策も模索中です。話すでしょう、きっと二人で(*v.v)。

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    >my starさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうなのです、もう天下の大将軍、
    その死に民たちが門を閉ざして嘆いたという漢の前夜、
    ここで書いておかねば、この後の戦全てに悪影響が・・・(゚ー゚;
    ますは、この序を完結して、その後は懐かしの世界にしばし、の予定です。
    本当にご心配をおかけしました・・・
    この辺りは、書き溜めて練ってあったお話なので
    もう全く問題なく♡
    己自身もこの後が、いろいろと楽しみだったり致します(*v.v)。

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    >わいやーさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    恐らくアン・ジェとしては、若いころから見知っていて
    同年代、そしてそれぞれに家族ともいうべき部下を持ち
    親近感とか、シンパシーに近いものを感じていたかもです。
    しかし雷功、そして迂達赤の絆を見せつけられて
    あれ、俺負けちゃってない?的な気持ち、
    ちょっと見習おうと思ったのかもですね(笑
    背中、追いかけてやって下さいませ(●´ω`●)ゞ

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    テホグンの心の中は、ウンスのことやこれからの戦いなどなど、考え事が山ほどでしょうが。
    周りの戦う男たちにとって、先頭に立って、ひとりで一万五千の敵兵を一撃で屠ったのを目の当たりにしたら、そりゃー大騒ぎでしょう。
    テホグンになっても、テホグンの直属の軍はなくて、ウダルチ達と一緒にこの4年を乗りきってきたのでしょうか?
    アンジェもホグンですもん、たくさんの部下を持つ身分。言葉少ないテホグンと黙って従うウダルチ達、見直した⁈惚れちゃった⁈
    うー分かる分かる。男が惚れる男だーテホグン 私のばあいは、背中を追うではなく、どこまでもついていきます、です。はい!

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    テマンがしょぼん、なんだか私もしょぼん。だけど、闘い終わってそこに気がつくのは、やっぱりテマンだけ。ヨンが認めた私兵。そして、寡黙なヨンについていくウダルチ。禁軍からすれば、わからんことだらけですよね。アン・ジェが、目覚めたのが、これからの戦にプラスになりますよね。そして、ヨン。先の先をみつめ、どこまで頭いいんですか。感心するとともに、頂点にたつ男の闘いは、戦場だけではないんだなあと思いました。祝勝会で、更に鎧姿の男達を、惹きつけるんだろうな。くうう、堪らん。

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    さらん様、おはようございます❤︎
    この戦に立ち会った、おそらく全ての男が、ヨンに憧れ、恐れ、心底惚れてしまいましたね。
    もう、すっかり信者です\(//∇//)\
    そして、ヨンの口から、懐かしいあの方の名前。
    ヨンが、信頼していた、チャン侍医。
    本編冒頭、ヨンの雷攻を利用しながら、媽媽の治療にあたっていた場面にワクワクしたものです。
    ヨンのサポートメンバー、徐々に増えそうですね。
    何時も、片時も離れず側に控え、真のヨンを解す事の出来る、ただひとりの男。
    テマナを筆頭に❤︎
    喪えば、正気を喪うほどにウンスを愛しているヨン……。
    毒使いの件も有り、気の休まる暇も無い。

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    益々男っぷりが増して素敵になっていきますね。同胞のアン・ジェも惚れなおすほど、かつて見知っていた彼より、ずっと大きく更に頼れる男になったのかな。
    戦の喧騒から解放されると思うのはやはりウンスの事ですね。こちらも盤石な対策を打ちたいところ。誰を傍に据えるのか、それとも共に・・・。思案のしどころかな。そして、最後は話し合いね。

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    >ポチッとなさん
    こんにちは❤コメありがとうございます。
    もう、どこまでもついて行ってやって下さいませ(*v.v)。
    大護軍というのは、軍の統括部での官職名で
    ヨンの場合は、籍は迂達赤。官職は大護軍。
    大護軍ゆえ、どの軍に対しても、中央官職として
    ある程度は指示を出す権利があるようです。
    アン・ジェは、籍は禁軍鷹揚隊。官職は護軍。
    チュンソクは、迂達赤、役職は隊長、官職は中郎将。
    曖昧模糊~ですが。
    当時の(高麗~李氏朝鮮初期)官位表を調べると
    五衛(オウィ)の最高位から五衛将>上護軍>大護軍>護軍・・・
    それとは別に、内禁衛(王の近衛隊)があるので
    ヨンの迂達赤は、この前身にあたりますね、きっと。
    つまり今の高麗軍編成上、実質ヨンは現場の最高権力者。
    そのうちストレス溜まって、爆発しそうですがw
    王様が「済まぬ、また官位を与えた」と
    言っているシーンがありましたが・・・
    あの性格じゃ、ストレスも溜まるかと(;^_^A

  • SECRET: 0
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    >チェヨン1さん
    こんにちは❤コメありがとうございます。
    これからのお話に備え、一旦過去話に戻ることに。
    まずは、ここから出てくる者共を思い出して頂きたく・・・
    これからなのに!と思ったりもするのですが・・・
    アン・ジェが腹を括ったのが、かなり大きいと思います。
    祝勝会は、ただの大騒ぎでした。
    一発かますのは、帰路の直前のようです。
    今は皆を寛がせたいのでしょうか。
    そして、テマンも何やら、心を決めたようで。
    ムカつく男に、頭を下げても教えを乞う気配です。
    この先、高麗にも大きな岐路が。
    しかしそこに至るまでに、まずはしばしあの愛すべき時代を
    さらん解釈で、思い出して頂ければ・・・
    さあチェヨンさま、DVDのご用意を!

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    PASS:
    >夢夢さん
    こんにちは❤コメありがとうございます。
    ここからヨン、気の毒なほどいろいろと。
    しかしその前にしばし立ち止り、あの頃を思い出すご準備を。
    さらん解釈、炸裂致します。
    小説三巻が出ないなら、思い出して頂きます、皆様に(*v.v)。
    今後、此方に出てくるキーパーソンたちとの関わりを・・・。

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    >ままちゃんさん
    こんにちは❤コメありがとうございます。
    そうなのです、もう今までも書きましたが
    どこまででかくなる、と
    あの12年共にしたチュンソクが呟くほど、
    現在のヨン、でかくなっております
    何も知らなかったことを悟った今となっては。
    話し合いです。そして、此処からの激動。
    しかしその前に一歩立ち止り、ここから動き出す
    その事柄の下敷きをもう一度。
    小説3巻が出ないなら、思い出して頂きます。
    @さらん解釈にて(*v.v)。

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    >さらんさん
    そうですね~
    これから 大変なのでしょうね・・・
    ‘切羽詰まる‘ で もう 私 ドキドキモードです。 そして 涙目・・・
    でも、しっかり | 壁 |д・) 読ませていただきます。
    婚儀!! 一番のご褒美ですよね・・・
    逸る気持ちを 抑えて
    がんばれ ヨン!
    楽しみにしております。 
    あまり 根を詰め過ぎないように
    のんびり してくださいね。
    そんな時の ぽっぽ~ ですよ。( ̄ー☆

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    PASS:
    >くるくるしなもんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます。
    一先ず序、終わりましたが。
    これでまだ1/3どころか、多分15%くらいです。
    大河と言うか、もうなんだか紅蓮だけで信義外伝、的な
    一つの別ドラマになりそうな勢いです・・・
    そして一先ず、あの当時に戻って
    何故こんなにあれこれ絡まっているのかの謎解き
    &さらん解釈、ぶちかまして参ります。
    そう、興奮しすぎたら ぽっぽ~ ですね(o^-')b
    了解で御座います❤

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