紅蓮 | 序・2

 

 

大護軍はそのまま王様に、緊急の軍議を申し入れた。

迂達赤、禁軍衛隊長達、そして開京に居る他の兵営隊長、副長級の上層部。
計八十名ほどを、臨時に招集した。

康安殿の中、普段であれば官服の重臣だらけの殿舎の椅子に、鎧姿の兵だけが座る。
それだけでもかなり異様な光景だ。

「往時の白蓮教の残党が処刑された元教祖の息子を擁し、蜂起するようだ。
根回しは既に相当進んでいる」

大護軍はそこで眸を上げ、軍議に列席の各軍隊長、副長を見渡し、最後に王様にひたと当てた。

「近いうちその残党、紅巾族が、高麗の国境を超えるやも知れませぬ」

玉座に腰掛ける王様は、大護軍の眸を正面より受けた。
「白蓮教とな」
「は」
「寡人が元に囚われておった当時は、かなり過激な王朝打倒派の仏教集団であったが。
今まで幾度か小規模な反乱を起こし、その度に元の官軍に鎮圧されておるはずだ」
「おっしゃる通りです」
大護軍が頷いて言った。

「しかし何故今になり、国境を超えて高麗にまで攻め込もうなどと」
王様が額に焦りの色を濃くし、大護軍に問う。大護軍は王様に静かに返した。
「元の弱体化が、諸刃の剣でした」
「反態勢であればトゴン・テムルに弓引くべきであろう。何故高麗なのだ」
王様の御言葉に大護軍はふと口を閉ざす。

 

元にはもう既に、国としての体制は残っていない。
政は崩壊し、権臣が己に有利な王を擁立し、別の権臣がその権臣と王を殺害し。
まさしく一夜にしてその首を挿げ替えるような状況が続いている。
そして長く続いた凶作飢饉、疫病の蔓延が拍車を掛けた。

その荒れ様に目を付けた白蓮教。
勝手に理想郷と称し宋国を興し、民の不安につけ入った。
そして元朝討伐を旗印に、国内で着々と勢力を伸ばし続けている。

この混乱に乗じ一気に王朝自体を瓦解させ、己で中央権力を握る算段だろう。
しかしその動きを支持する民の糊口を凌ぐ事ができねば、集めた人心もすぐに離れる。
民の不安は国自体でなく、国の揺らぎで自身の暮らしが脅かされることだ。

だからこそ紅巾族は高麗に攻め入り領土を広げ、民に還元する必要に迫られている。
紅巾族こそが、元の怒れる民の象徴でもある。

所詮は戦の何たるかも知らぬ者ども。しかし問題は数。

現在高麗を護る全ての兵。
禁軍官軍二軍六衛、地方各衛を含み、機能するのはおよそ四万。
南ではこ煩い倭寇の襲撃が散発している。
そちらの兵を割くわけにはいかぬ。

対して紅巾族は一度挙兵すれば、最大でその数およそ十万。
何しろ相手は国のでかさが桁違いなのだ。
十万の烏合の衆か、四万に欠ける官軍か。
一度もまみえたことの無い奴ら相手に、何処まで此方の予想通り戦が動くか。

元の弱体化。
高麗にとって悲願であった元の支配からの脱却、その実現を容易にする。
しかし元の弱体化により紅巾族が台頭して来れば、掃討への労力と犠牲は未知数。

 

「・・・某にも、測りかねます」
大護軍はそう結んだ。
軍議に参列する俺達全ての口から、重い息が漏れる。
御前は異様な雰囲気に包まれた。

「大護軍の報告、あい分かった。 して今後の策は」

王様が空気を変えようと僅かに声を張られた。
「宋国内、紅巾族に密偵を放っております。
それらの報告を待ち、相手の肚を探ります」
「善し」
「その上で高麗への国境を超える心算、真に在りや無しや、判ずるが先決と」
「分かった」
「在りと判ずれば、国境にて戦となりましょう。
まずは国境隊の兵の強化。次に関所の再編。
進軍された際に国境で食い止められねば他の進路を取られぬ為にも、街道以外の道を全閉鎖。
その上で兵力を街道の関所に集中させます」
「承知した。大護軍」
「は」

王様はそこで大護軍の、静かな黒い双眸をじっと見た。
大護軍はその視線を決して外さず、真直ぐ顔を上げて王様を見返した。

「某を信じて頂けますか、王様」

大護軍の問い掛けに、王様は小さくしっかりと頷き返された。

その遣り取りを残る俺達は全員、息を呑んだままで見つめた。

 

 

 

 

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12 件のコメント

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    初めて人を斬ったことを、その後のことも忘れられないチェ・ヨン。自分の心も傷だらけになりながら、戦になれば、また斬らなければならない。敵の動きを察知し、早めに仕掛ければ、犠牲も少なくなる。王様に信頼され、軍をまとめ、闘い続け、過酷な人生ですね。鎧姿の男達の頂点にたつチェ・ヨンをミノ氏が演じてくれてよかったなと改めて思います。

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    こんにちは!さらん様。
    「紅巾の乱」‥なんとなく知ってるけど~
    程度でしたが、こちらでお勉強させて頂け
    ますね?楽しみです。
    「倭冠」は高麗から見た野蛮な日本人です。
    私達はヨンから見たら「倭冠」…
    でも私達はヨンを応援しているので「倭冠」
    も「紅巾軍」と共にに倒してもらいたい!
    ポチ画像またまた良いですね★
    もったいないけどヨンの顔を「ポチ」っと
    押させて頂きましたよ(*^-^*)

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    倍以上の数で戦法も分からない、幾ら鍛えた兵でも勢いだけで来られたら抑えるのが大変ですよね。
    流石に抜かりないヨン、どの様に迎え撃つのか?
    一筋縄ではいかない相手、苦労するんだろうな(゚_゚i)
    テンポ良くて、気持ちが良い(o^-')b

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    >チェヨン1さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    もうこの頃は、ウンスの帰還を挟み、王様との信頼関係、
    そして周囲との絆が、どんどん深まっていく頃です。
    それが、戦うヨンを後押しするのですね。
    そしてウンスとのあの時期を通過して、覚醒した
    人間最終兵器チェ・ヨンという漢に、どう作用していくか。
    傷ついても戦う、護ると決めた故、もう止められませぬ(゚ー゚;

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    >わいやーさん
    こんにちは♡コメありがとうございます
    歴史上の崔瑩将軍は、敵を捕虜や奴隷として残すことはせず
    殲滅することをモットーとしていた節があります。
    おお、倭寇。そうですね、そう考えれば倭民の私たちは
    確かに、そうかもしれません・・・
    はっ!∑(゚Д゚) だからでしょうか?
    倭寇が出て来なかったから、日本でこんなに人気?
    大人の事情でしょうか・・・(ないない(゚ー゚;

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    戦闘モードのヨンはすっかり大護軍の顔ですね。今回の相手は戦を生業としない烏合の衆。いつもの戦略なんかお構いなしの相手をヨンがどうさい配していくのかが見ものです。
    今は静かなる虎のヨンが動き出すのはもうすぐですね。

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    きゃ、かっこいい!
    ウンスちゃんとのラブラブも好きですが。テホグン、御前会議での状況説明から今後の予測まで。あの、チェヨンくんとの最初の出会いの、雨の中、馬に揺られながらかったるそうに、わかっている、にときめいて今に至る私にとって、もうドキドキモード全開です。

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    >mayuさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    今回は、苦労はしないのです、実は・・・
    この後です、えらい苦労が待っているのは。
    後半に行けば行くほど、大変そうです。
    まさに人海戦術に振り回されそうです。
    が、そこまでの布石はばっちり。頑張らせます( ´艸`)

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    >ままちゃんさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    そうですね、ヨンもびっくりの杜撰さで、
    ただ数だけで攻め込まれ、あっちゃーな感じでw
    しかし大護軍、いろいろ先を見越し肚を読み、
    それなりに考えつつ、動くようでございます。
    そして髭アシスタントのナイスアシストも入りつつ、
    物語が進んで行くかと・・・( ´艸`)
    お楽しみ頂ければ嬉しいです❤

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    >ポチッとなさん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    ああ・・・っ懐かしいです!「あらぁ・・・」
    もうあんな無気力さはありませんが、それでも
    あのシーンをDVDで見るだけで、はぁぁ、と
    目は♡になってしまいます・・・о(ж>▽<)y ☆

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    さらん様、こんにちは❤
    出かけていたので、ちょっと見るのが遅れてしまいました。
    見てみれば、なんとも凄い事に...。
    前章とは全く雰囲気が変わり、歴史大作を見ている様です。
    今更ながら、さらん様の知識と文章力に脱帽でございます。
    ヨンとチョナ、カッコいい❤
    ホントにハッキリと映像で見えてしまう自分が怖い...。
    それに声までしっかりと。
    すっごく上がります(*^_^*)

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    >夢夢さん
    こんばんは❤コメありがとうございます
    今回は、歴史もの、かつ戦もので、
    久々に信義DVD1話から、じっくり見直し中です。
    最近DVDで見るのは、タンの顔ばかりでしたが
    やはりヨン・・・素敵すぎます・・・
    近頃UPしたお話の中では、本編に一番近いヨンになりそうです。
    あの頃よりは、成長が見えると良いのですが。
    無口さやら、あの視線やら、そこはかとなく
    本編を受け継いでおります。
    そのあたりもお楽しみ頂ければ、嬉しいです❤

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